表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/358

8ー12 対象と座標


 意外と泣き虫な会長が泣き止むのを待つこと約二分。その間、六花は目を瞑ってどうにか建物内部を探れないかと、感知に意識を集中させていた。


「やはり、私の感知力が建物内部を探るのは無理でしたか……」


 元々感知タイプとは生き物の中にある幻力を感じ取ることによって、人物を特定、感知する能力を持った者たちのことだ。

 幻力を持たない建物の内部を探るようなことは元々出来ない。


「……ふむ。やはり、あれは幻力感知ではなく、気配感知なのでしょうか?」


 目を開けた六花が、なにやら手を顎につけて考え込んでいるようだが、つい先ほど泣き止んだ会長には六花が何を言っているのかわからなかった。


「うー。六花ー、なんかわかった?」

「……あっ、会長」

「……ねえ六花? もしかして今あたしの存在忘れてた?」

「……そ、そんなことないですよ?」


 そっぽを向いて下手くそな口笛を吹く六花に、会長はジト目という静かな攻撃の視線を送り続けていた。


「はぁー。もういいわよ。それで? 中のことなにかわかった?」

「いえ、それがまったくですね」

「……役に立たないわね」

「泣いてた会長には言われたくありません」

「なによ」

「なんですか?」


 なにやら怪しい空気が流れ始めているのだが、鋭く睨み合っている二人はほぼ同時にぷっと笑い出した。


「あははっ。六花と口論する日が来るなんて思ってなかったわね」

「ふふ。口論というには互いにあまりにもレベルが低かったですよ?」

「そうね。まあでも、あたしたちはまだ中ニなんだし、いいんじゃない?」

「そういえば、そうですね」


 怪しい空気から一変して、仲良さげに笑い合う二人だった。


「それで? 本当は?」

「本当とは、何がですか?」

「感知の結果よ」

「……あれ? ばれてました?」

「当然よ。うちの生十会副会長がなんの成果もあげられないわけがないわ」

「……ふふ。その信頼はちょっと嬉しいですね」

「あら、ちょっとなの?」

「……とても、ですね」


 会長にニッコリと微笑み掛けた後、六花は冗談はここまでと言わんばかりに、真剣な表情を浮かべた。


「まず、あの通気口付近に生き物はいません」

「そう。それなら多少の音は平気そうね」

「はい。ですので、会長の炎で焼き切ればいいと思います」

「それで平気? 音、すごいと思うわよ?」


 通気口にあるプロペラの羽根と羽根の隙間は大きい、人が一人通れる程ということは、それだけプロペラ自体が大きいということだ。

 通気口も中々に大きく、プロペラの先には網のようなものが張られているのが見えた。

 これだけ大きなプロペラを焼き切れば、大きな音が立ってしまうのは避けられないだろう。

 相手にこちらの進入がばれてしまえば結の命が危ない。

 とはいえ、時間はある。

 時間があるからこそ、二人はさっき軽くふざけあって緊張を和らげたのだ。特に会長の緊張を。


 六花は気付いていた。会長は、実戦の経験が少ない。

 大抵の高ランク幻操師は、実力だけではそこまで、Sランクという場所までたどり着けない。

 高い実力と、それを何倍にも引き出すための知恵、経験があってこそSランクの力を発揮出来るのだ。

 しかし、会長は才能があった。あり過ぎた。だから、会長は大した経験も無しに、今の力を、Sランクという力を手に入れ、相応の実力がなければコントロールすることすら出来ず、逆に心を飲み込まれてしまうかもしれない、心装をもマスターしている。


 会長の手は、酷く濡れていた。

 視覚情報からそうだと判断出来るほどだ。それだけ、さっきまでの会長は緊張に満ちていた。


(どうやら、落ち着いたようですね)


 六花は静かに微笑むと、説明を始めた。


「それは心配ありません。私の氷は二種類の凍結方法があります」

「二種類?」

「はい。一つは対象物を選び、その対象物を凍らせる方法。そして、もう一つは、選択した座標を凍らせる方法です」

「……それ、何が違うの?」

「前者の方法だと、凍らせた後は重力や、他の力によって動きます。後者は動きます」

「……ワンモアチャンス?」


 顔を伏せ、指を立ててそういう会長に、六花は苦笑いを浮かべた後、会長の願い通り、説明をもう一度始めた。


「……えーと、そうですね。仮に撃たれた銃弾を対象としたとします。

 前者後者共に銃弾の推進力をゼロにするほどの威力があると仮定した場合、前者では弾丸を凍結し停止させた後、重力に従って下へと落ちます。ですが、後者では重力に逆らい、そのまま空中で静止を続けます」

「なるほどね。前者は本当に弾丸を凍らせただけで、氷の玉になるのね。それで後者はある意味結界に近いのかしら?」

「そうですね。前者ならば凍らせた後、自由に動かすことができますが、後者はその空間、その座標に固定です。標的が前者が弾丸の凍結になっているのに対して、後者はその空間を凍結しているだけですので、弾丸を止めるのはただの結果ですね」

「でも、それって何か差はあるの?」

「ありますよ? 前者ならば刃物の刃を強靭で鋭い氷で覆えば武器の強化にもなりますし、後者なら空中の一部を凍らせることで足場に出来ますしね」

「……ねえ六花?」

「はい? どうかしましたか?」

「……氷属性って、汎用性高過ぎないかしら?」

「そうかもしれませんね。純粋な力押しでは炎属性には基本的に勝てませんが、工夫がたくさんできますし」

「火力特化の炎と汎用性特化の氷ってことかしら?」

「そうですね。工夫次第で格上の力である炎にも勝つことが出来ますし、上級者向けですね」

「そうね。とりあえず、氷属性の利便性はわかったわ。結局それでどうするつもりなのかしら?」


 氷属性がどれだけ汎用性があるかの会話になっていたが、元々は音なくプロペラを破壊するための話だったのだ。

 会話の方向性を元に戻した会長に、六花は静かに答えた。


「はい。ですので会長がプロペラを切断した直後に座標指定でプロペラを凍結します」

「……それ、わざわざあたしが斬る必要あるかしら?」


 六花なら高速で回転しているプロペラだろうが、関係なしに凍結させて動きを止めることぐらいできそうだ。


「出来ないこともないとは思うのですが、あの質量であれだけのスピードを止めるのは、さすがに幻力の消費がすごいことになってしまいますので」

「……あー。なるほどね。わかったわ」


 少し困ったような表情の説明に納得した会長は、こくりと頷くと、腰に差している愛剣を抜いた。


「いくわよ」

「はい」


 二人は木々の影から出ると、そのガレージの前に立った。


「六花、少し危ないから下がっててくれる?」

「了解です」


 六花が頷きながら二歩下がったのを確認した会長は、顔を正面に戻すと、軽く腰を落とし、右足を引くと剣を両手で握り直した後に、上に飛んだ。


「たぁっ!」


 通気口の正面に到着すると同時に、炎を纏わせた剣を右下から左上へと振り上げる。

 剣の切断力に、莫大な熱量を持った炎の力が合わさり、強大な切断力を見せるその刃は、まるで柔らかい杏仁豆腐でも斬っているかのように、引っかかるような音も立てずにプロペラを二つに分けた。


「はっ!」


 それと同時に、両手をプロペラへと翳した六花が術を起動する。

 翳した両手の目の前に幾何学的な模様の円が高速で描かれていき、完成すると同時に六花の体から幻力が注がれていく。注がれる幻力の量に比例し、光り輝く陣は己の役割を理解し、その式に刻まれた現象を起こすため、注がれ続ける幻力を消費する。

 会長に斬られ、回転力を失い、支えを失い、後はただ音を立てて落ちるだけだったプロペラは、六花の術によって凍らされ、その座標に固定された。


「ふう。どうにかなったわね」

「はい。音もほとんどありませんでしたし……感知出来ている幻力にも動きはありません」


 目を瞑り、幻力が動いているか否かを確認した六花は、結果を答えつつ、音もなく着地した会長を迎えた。


「奥の網はどうするつもり?」

「動きのない網ならただ燃やすよりも凍らせた後に一気に燃やしてください。そうすれば万が一の音もなくなりますし」

「そうね。わかったわ。それと、あのプロペラはどうするの?」


 会長は六花によって凍らせらたプロペラに視線を向けた。


「座標固定してるんでしょ? ならうごかせないわよ?」

「会長? 何を言っているんですか? あのプロペラで厄介だったのは高速で回転しているという事実だけです。止まってしまえば隙間から簡単に入れますよ?」

「……そ、そうだったわね」


 呆れたように、ジト目を向ける六花に、会長は恥ずかしそうにそっぽを向いていた。

 昨日は突然休載してしまい申し訳ありませんでした。

 どうか、これからも天使達の策略交差点をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ