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8ー10 だって、規格外だもん


「これは!!」

「……どうしたの」


 楓が探知を初めて間もなく、楓の驚くような、叫びにも似た声に、陽菜は無表情を変えないまま声を掛けた。


「結の幻力を感知した」

「……何かあった?」


 結の幻力を発見したのなら朗報だ。しかし、浮かない表情を浮かべているであろうことが簡単に予測出来てしまうほどに、テンションが低くなっている楓の声色に陽菜は僅かに表情を強張らせた。


「結の幻力が、消えた」

「……そう」


 驚きはさほど無かった。

 それは何故か。根拠は二人それぞれ違うものの、共通する想いが一つ。


 結がそう簡単に消滅するわけがない。


「……どうするの?」

「そうだなー。あっ」

「……何か見つけた?」

「ああ。これは会長と六花の幻力だな。……ん?」

「……どうしたの?」


 高速で走りながらも、手を顎につけて、首を傾げる楓に、陽菜は疑問符を浮かべていた。


「どうやら二人、なんか尾行してるっぽいな」

「……尾行?」

「そうだ。……三人……いや、四人か?」


 会長たちが尾行しているっぽい幻力を感じるのだが、その幻力は三人分。しかし、気配は四人分するのだ。幻力は心あるものなら誰でも持っている力だ。

 一般人と幻操師の違いは、これを一時的に活性化させ、尚且つそれをコントロールできるか否かだ。

 幻力を体内に持たない人間なんて滅多にいるものではないのだが、事実、これでは幻力を持たない人間がいるということになってしまう。


「……ああ。なるほどな」


 暫し思考を巡らせた後、楓は納得したように頷いた。


「……何かわかった?」

「ああ。なんで結の幻力を感じなくなったか、それとなんで会長たちが尾行をしてるのかだな。まず、結の幻力を感じなくなった理由は簡単だ。結の幻力を呪帯(じゅたい)で封じてるんだろうな」

「……呪帯(じゅたい)?」

「ああ、そっか。普通知らないか。裏アイテムの一種だよ。帯状の布なんだが、布の内部で特殊な陣が作られれて、巻きつけた対象の幻力を封じる。幻力を外に出せなくするんだ」

「……物知り」

「昔色々あったからな」


 そう言って少し寂しげな表情を浮かべた楓は、ほんの一瞬、アレ? とでもいいだけな困惑顏になるが、首を振るとすぐにいつもの表情に戻っていた。


「……尾行理由は?」

「え? あ、そうだな。会長たちが尾行している奴らから感じる幻力は三つ。つまり三人なんだが、どうも気配が四つするんだ」

「……四つ? あっ、そういうこと」

「そっ。一人幻力を感知できない奴がいる。状況的に考えて、力を封じた結を運んでいるんだろうな」

「……だから尾行」

「そういうことだな」

「……この後は? 合流する?」

「……いや、しない」


 このまま会長たちと合流するのかと問う陽菜に、楓は首を横に振った。


「……どうして?」

「勘だ」

「…………勘?」


 楓は背中に凄く感じる陽菜のジト目という無言の攻撃にも負けずに、自分の考えを説明した。


「あたしは昔一人で旅をしてた。その時に悟ったことがあってな。あたしの勘は本当に、ほんっとーに良く当たるんだ」

「……それが根拠?」

「まあ、そうだな」


 楓自身。他者を納得させるには到底無理だろうと自覚しているのか、気まずそうに頬を掻いた。


「……わかった。信じる」

「信じるのか!?」


 陽菜の想定外の信じる発言に楓は叫んだ。

 確実に信じられないと思っていたのだ、当然の反応だ。


「あたしが言うのもなんだか、今のを信じるのか!?」

「……信じる。楓は仲間。仲間がそうだというのなら、それはきっとそう」


 つまり、仲間が信じているものは信じるということなのだろうか。


「ありがとな」

「……礼はいらない」


 後ろに振り向き、笑顔で礼を言う楓に、陽菜はマフラーに深く顔を埋め答えた。


(あはっ。顔は隠せても、赤い耳は隠せてないぞ?)


 楓は言葉にはせずに、心の中に留めると、優しげな微笑みを見せ、前に振り返った。





 会長たちと合流しないことになった後、二人は走りながらもこの後のことを話していた。

 話し合いというよりも、楓の考えを共有したというのが近いかもしれない。

 楓の考えでは、このまま会長たちに気付かれないように会長を尾行した方がいいだろうとのことだった。

 楓の勘では、会長たちとすれ違いで何かがこっちに来る。そう、思ったのだ。


 そして、その考えは正しかった。




 楓たちは会長たちに気付かれないように、結構な距離を空けて追っていた。


「どうやら相手さんは目的地についたらしいな。はむ」

「……そう。はむはむ」


 はむはむと口を動かしながら話す二人だが、その手にあるのは森の中で取った果実だった。

 楓の感知可能距離があまりにも広く、動かなくても余裕で移動する二組の動きが感知可能圏内だったため、移動することをやめ、体を休めていた。


「……はむはむ……移動する?」

「はむ? いや、まだいいよ」

「……そう。はむはむ」


 口いっぱいに果実を頬張り、まるでリスのようになっている陽菜は、両手で持った次の果実をはむはむと食べながらも、疑問の視線を楓に送っていた。

 結のことが心配で、あれほど慌てていたにもかかわらず、今の楓はとても落ち着いている。

 結を見つけたというのに、急いで向かおうともしないのだ。

 楓の急変っぷりに、陽菜は内心困惑していた。


 一方。楓本人の心はとても落ち着いていた。陽菜が困惑していることには気付いている。だけど、話すわけにはいかない。話してはいけない。だって……


(結が無事だってわかったから緊張がとけて眠いなんて言えないっ!)


 いつも眠たそうにしている楓がずっと真剣モードでいられたのは、結の安否が心配で仕方がなかったからだ。

 ガーデンにいた時は、ガーデンに張られているイーター除けの結界のせいで感知が出来なかったのだが、今は結の居場所が良くわかる。

 そして、感知さえしてしまえば、感知した対象以外のことを考慮しなければ、ここからでも術を発動することが出来る。

 そう。最悪、今楓が感知している結、会長、六花の三人以外の生死を問わなければ、一瞬で周囲の敵の全てを消滅させることが出来る。

 つまり、結の安全は既に絶対的なものとなっているのだ。

 だから、安心した。

 結果、緊張がとけてしまい、今まで真剣モードでいたぶん、眠たくて仕方がないのだ。


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