8ー7 手掛り
「つまり、一度結の幻力を感知したのね?」
「……はい」
明らかに落ち込んだ様子でボソボソと説明をした六花の話をきき、会長は疑問符を浮かべていた。
「それって、単に結の幻力を見失っただけじゃないの?」
「…………ふえ?」
目をまん丸にしている六花に、会長はかまわず続けた。
「だーかーらー。結の幻力が消えちゃったんじゃなくて、ただ結の幻力が小さくなっちゃったから感知出来なくなっただけじゃないの?」
「…………」
「感知タイプでも、遠くの幻力、それも小さい幻力だと感知出来なくなると思うんだけど?」
「…………そうですね」
六花が結の幻力を捉えた時、その距離はここから遠い場所だった。
六花も馬鹿ではない。そういう事態も予測した。しかし、
「ですが、一瞬で完全に幻力を感じられなくなるほど力を失ってしまうのは、やはり……」
消滅しかありえせん。っと続けようとした六花だったが、その言葉を会長は遮った。
「気絶は?」
「えっ?」
「だから、気絶したのなら一瞬で幻力が消えるでしょ?」
「それは、考えました。ですが、結の幻力は二段階で無くなったんです」
「二段階?」
「はい……。一度目で一気に小さくなり、その数分後、完全に消えました」
「ふーん。それは、やばいわね」
幻操師は消滅する際、正確には二段階によって幻力を宙に拡散させてしまう。
一段階目で纏っている幻力、そして顕在幻力の全てを失ってします。
通常の感知タイプならこの地点で幻力が無くなったと感知する。
そして、二段階目でその内に秘める力、潜在幻力が拡散する。
感知タイプだとしても、この潜在幻力まで感知できる者は稀だ。
六花はこの潜在幻力まで感知出来た。
つまり、二度の連続的な幻力の消滅は、十中八九、その者の消滅を示す。
「……でも、それって普通の幻操師ならでしょ?」
「……と、いいますと?」
「結の場合にはジャンクションがあるじゃない」
会長たちは結の能力を全て知っているわけではない。しかし、結が合掌し、ジャンクションを発動するとその顕在幻力が大幅に上昇することは知っているし、逆に解除すると発動前よりも幻力が少なくなることを知っている。
しかも、ただ幻力が少なくなるのではなく、その後の全身疲労が凄まじいことも知っている。
「……なるほど。つまり……」
「そうよ。一度目はジャンクション解除による幻力の低下。そして、二度目は」
「気絶によるもの」
会長に視線を向けると頷いて応えられた。
「ですが、私は潜在幻力をも感知することが出来ます。ですがその時はそれも感じ取ることが出来ませんでした」
「幻力を封印する道具があるわ」
「……前に双花様が麒麟様につけられたというアレですね?」
「そっ」
「ならば、相手はそれを使ったということなのでしょうか?」
「恐らくはそうね」
「ですが、アレはそう簡単に入手出来る品物ではありませんよ?」
「敵の背後にいるのはなんだったかしら?」
「……そうですね」
新真理と失われた光が組んでいるのであれば、それくらい入手するのも造作もないだろう。
「確かに、私が感じた結の幻力の消え方は私の知る消滅の時とは違いましたね」
「でしょ? なら、行くわよ」
「……はい。行きましょう」
手を顎につけ考え込んでいた六花は顔を上げ、会長の視線を交わすと互いに頷き合い、その場から消えた。
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「くそっ。なんで俺がこんなガキを運ばなきゃいけねんだ」
赤いロングヘアーと八重歯が特徴的な青年、不知火は背中に包帯のようなものでグルグル巻きにした何かを背負いながら、前を歩く二人に愚痴を漏らしていた。
「文句言わずにせっせと運ぶざます」
「このクソババアっ!」
「不知火。運べ」
「っ! ……ちっ」
宝石を全身にこれでもかというくらいふんだんに使った衣服に身を包む年配の女性、風祭の言葉に熱くなった不知火は、細身な不知火とは違い、ガタイが良く身長も高くまるで歩く壁のような巨漢、林原に言われ、舌打ちをしながらも渋々従っていた。
「おいっ! 林原っ! なんでこんなクソガキの力を呪帯を使って縛ってまでアジトに連れてくんだ!?」
「不知火。それは後で説明する。急ぐぞ」
「ああん!?」
「流石はガキざます。気付かないざますか?」
「ああん!?」
「そこまで近いわけではないざますが、遠くもない場所に中々の強者が二人もいるざます。その者たちに邪魔されたらアジトまで面倒ざます」
「……ちっ。確かになんかいやがるな」
風祭に言われ、不知火は意識を外に向けると確かに二人、強い気配を感じた。
「……おい。こいつらってこのクソガキを取っ捕まえる前にクソガキの発動したトラップに巻き込まれてたガキどもじゃねえか?」
「そでざます。あのイーターの数を全て倒すとは、なかなかの強者ざますね」
「はっ! イーターなんて所詮はイーターだろうがよ! ゴミはどれだけ群れようがゴミに変わりはねえよっ!」
「ホホッ。これだからガキは嫌ざます」
イーターを嘲笑っている不知火に、風祭は軽蔑の眼差しを向けながら、そっと、右手を自分の左腕へと当てた。
「風祭。不知火はあの大戦時には産まれていなかったのだ。仕方あるまい」
「はっ! 大戦ってあれだろ? 大量のイーターが突然襲来してきたとかいうよっ! たくっ、イーターみえてな下等生物にやられるなんざ、昔は林原さんも弱かったんだなっ!!」
「不知火っ!! 無礼が過ぎるざます!!」
「風祭。良い。あの時、力が不足していたのは事実だ」
そう言って、林原は右手で自分の左手をそっと撫でた。
「けっ。どっちにせよ、今は面倒事は嫌だね」
「それなら早くアジトに向かうざます」
「ちっ。嫌だが同感だな」
不知火が最後に舌打ちを残すと三人の姿はそこから一瞬で消えた。
「!」
結がまだ生きているかもしれないことがわかり、会長と六花の二人は、とりあえず最後に結の幻力が感じられた場所に向かっていた。
「どうしたのよ六花」
突然立ち止まった六花に、会長は少し先で止まると疑問を投げ掛けた。
「いえ、今何者かの気配を感じました」
「気配? 感知したってこと?」
「いいえ。幻力を感知したのではなく、そのまま気配という意味です」
「つまり、なんとなくってこと?」
「……間違いではないのかもしれませんが、その例えは嫌ですね……」
不服そうな顔をする六花に、会長は苦笑いを浮かべて、頬をポリポリと指先で掻いた。
「六花でただの幻力感知だけじゃなくて、そういう探索能力も高いのかしら?」
「人の気配に敏感なだけですよ」
そう言って、六花は一瞬悲しげな表情を浮かべるが、それは一瞬で、すぐにいつもの無表情に戻っていた。
「その気配、今もわかる?」
「……はい、さっきと比べれば感じ辛いですが、一度感知すれば二度目は楽です」
「そういうもんなの?」
「他の人は知りませんが、私はそうですね」
一度目は相手が強い動きを見せ、気配をそれなりに濃くしなければならないが、二度目は目を瞑って気配を探すと、一度目よりも楽に同じ気配を追うことが出来る。
目を瞑り、さっきの気配を探すと高速で動いている気配を発見した。
「高速で動いてますね」
「……それ、怪しいんじゃない?」
「……そうですね」
「六花。その気配、追うわよ」
「……了解です」
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