2ー15 魅惑の誘い?
結と火燐の戦いが始まってどれだけの時間が過ぎただろうか。
実際に戦っている時間はまだ十分も経っていないだろう。しかしその戦いは見ている者の心を高鳴らさせ永遠にも思える長い時間のように錯覚させていた。
「ふふふ、なかなかいい奴ではないか。体中が火照ってきたぞ」
火燐は肉食動物を思わせるような笑顔になると結との距離をとり手に持つ剣を天高く翳し始めていた。
火燐の全身からアリスも使った幻力に似ているが似て異なるものを剣に纏わせ始めていた。
『心装攻式』
「これが私の心装、名は火輪刃。私と同じ呼び名を背負っているのは少し恥ずかしいが仕方があるまい。これは私の心が与えた私だけの一振りなのだからな」
火燐が天に掲げた剣を中段の構えに戻すとその剣は今までの綺麗だが無駄のない実用的で他に特徴のないただの名剣だったが心装の発動と同時に纏わりつく火がさらに燃え上がり火が消えていくとそこに残ったのは真紅の刀身を持った美しい諸刃の剣となっていた。
火輪刃。漢字が違うとは言え読みだけで言えば同じカリン、その名の通り美しい真紅の刀身は火燐の美しい髪を表しているようにも見えた。
「ゆくぞっ!!」
『心操、火纏刃』
火燐は結に向かって走りながら心操を発動し真紅の刀身に再び燃え盛る火を纏わせると目前まで迫っている結に向かってその剣を全力で振り下ろした。
「……ちっ!!」
一瞬受け止めようとする結だったがその刀身から燃え盛る火から予測される温度よりも高いと思った結は即座に防御から回避に行動を移すと地面に転がるようにしてその剣を避けていた。
「よく気が付いたっ!!この剣はさっきまで纏わせていた火を凝縮して宿らせている。新たに纏わせた火ではおまえにダメージを与えることは出来ないだろうがこの刀身に当たれば無事ではあるまいっ!!」
転がって体制が崩れている結に向かって火燐は容赦無くその剣を振るうと結は糸を操り無理やり体制を整えると連続で繰り出される必殺の太刀筋をギリギリのところでかわし続けていた。
「どうしたっ!!かわしているだけでは勝てんぞっ!!」
(くそっやばい、元々俺は火燐に対して殺意を抱いていなかった。日頃のストレスだけで発動したサキじゃそろそろ時間切れだ。しゃーないっ!!)
火燐の攻撃を交わしながら考えている結だったがいいアイデアが思い付かず結局最後の一撃に任せることにしていた。
「次で終わりにしようぜ。火燐?」
「……いいだろう。これ以上生徒達に迷惑をかける訳にはいかないからな」
バックステップをして火燐から距離をとった結は火燐にそう提案すると自分のせいで生徒達に迷惑をかけていることを自覚していた火燐はそれを承諾し次の一撃で全てを決めることにした。
「ふぅー」
「はぁーっ!!」
結は相変わらずの脱力した状態で今回は自然体ではなく腰をおとし右足を後ろに引いて左手を相手に向け右手を腰に付けながらその拳に全身の力を集中していた。
対して火燐は腰を下ろしながら両手で握った剣を後ろに引き体重を少し前に偏らせながらその剣に多量の力を集中させ始めていた。
「はぁっ!!」「たぁっ!!」
少しの静寂の後、準備の終わった二人は同時に走りだすと互いに必殺の術を発動した。
『衝月』『心操、火輪斬』
まるで月が激突するかのような凄まじい衝撃力をもつ結の右ストレートと使用者と同じ名を持つ業火を纏った上段斬りがぶつかり合うとその衝撃により大きな土埃が発生し二人の姿を包み隠してしまっていた。
ごくり
訓練所にいる皆が静かに見守るなか土埃の中から姿を現したのは火燐の顔面の目の前で拳を止めている結の姿と結の首筋に剣を当てている火燐の姿があった。
「ぷっ……あはははははは」
二人は同時に噴き出し大きく笑い合うと互いに構えていた拳と剣を引くと同時にニカッと笑い合っていた。
「引き分けだな結」
「そうだな火燐」
時間切れとやらになってしまったのか結は髪と瞳の色が何時もの黒色に戻ると途端によろけて倒れ込んでしまっていた。
「おっと、大丈夫か?」
「うーんダメかも」
倒れる前に火燐がすかさず抱きとめていると結は苦笑いしつつ弱音を吐いていた。
「その術は反動が強いらしいな天使」
「っ!?知ってたのか?」
「まあな」
結は火燐の言葉をきくと「そっか、なら後はよろしく」と弱々しくつぶやくとそのまま気絶してしまっていた。
「ふん、話通り隙があるのかないのかよくわからん奴だな」
火燐は優しい目で小さくつぶやくと抱き留めている結の足に手をやって抱き上げる所謂お姫様抱っこをするとそのまま二年一組の皆がいる場所へと戻っていった。
「ゆっちっ!!」「お姉様っ!!」
火燐が皆のところに着くといち早く桜とアリスの二人が駆け寄り結の心配をしていた。
慌てている二人に「大丈夫だ。疲れて寝てしまっただけだ」と優しく声をかけると二人は安心したようでその場にへたり込んでしまっていた。
「桜は結……花のこの状態のことを少しは知っているのではないか?」
「あ……反動か……」
火燐が思わず結のことを結と呼び掛けてしまい内心慌てる二人だったが火燐の言葉を聞いてジャンクションを発動させると反動で動けなくなることを思い出した桜は手をぽんっと叩いて納得していた。
「さて雨宮、ゆ……音無のことを頼んでもいいか?」
「あはは、名前で呼ぶの諦めたんですね」
桜は苦笑いしながら結を受け取る前に流石にそのままでは無理なのかナイフ型法具を取り出し身体強化を発動すると結を受け取りそのままお姫様抱っこのまま火燐から許可を取ると早退ということにして結の部屋へと向かうことにした。
「知ってる天井だ」
いつか言ったテンプレとも言えるセリフを少し変えたセリフを言うと結は今の様子を確認しようと体を起こすが
「痛っ!?」
サキのフルジャンクションは思っていたよりも反動が大きく予想外の痛みによってこれっぽいも体を起こすことができないでいた。
「あっゆっち起きた?無茶しちゃめっだよ?」
どうにか首より上なら動かすことができるようなので声のした方を向くとそこには桜の刺繍がついた白を基調とした和服を着ている桜の姿があった。
「桜か?その服似合ってるな」
「……不意打ち禁止」
元から結になんか言って自分のことを褒めて貰おうとしていた桜はそれよりも前に結が素直に褒め言葉を言ったことによって可愛らしくも顔を赤く染め上げていた。
「ん?そういえばあの後はどうなった?明日は守護者達との模擬戦だろ?」
結の疑問に対して桜は「あぁ、えーとねー」となんだか言いづらそうに目線をキョロキョロとさせると小さく溜め息を付くと結の肩にぽんっと手を置いて先ほどまでとは一転ハキハキとした口調と満面の笑顔で言った。
「模擬戦なら昨日終わったよ」
「へ?」
桜が言うには結は二日間ずっと寝たまんまだったらしい。
昨日、桜はR•G守護者の内一人河嶋春姫と戦ったらしくナイフ二刀流で戦ったのだが春姫が指揮棒のような法具を振るうたびに多量水が生まれて全く近づくことができなかったらしい。
しかしナイフを投げて後春姫の水によって弾かれたそれに『火速』を発動さけることによってダメージはほとんど与えられなかったものの一撃与えることができたらしくそれなりに喜んでいるようだった。
「あれ?それなら俺はどうするんだ?」
「ゆっちはもう戦ってたじゃん」
「そうだけど」
守護者達との模擬戦の目的はR•Gの生徒全員の前で守護者というR•Gのトップ達と戦うことによって他園の者の実力を示す。それが今回の潜入任務の目的だったはずなのだが
「ほらあたしってアイドルだからさ」
まるでキラッとでも擬音がつきそうなウインクをしている桜はほっといてとりあえず問題はないらしい。そもそも今回の任務で最も難しいと思われていたのがアリスの存在だ。そのアリスは今では結のことをお姉様と呼んで慕っている。つまり問題無しということになる。
コンコン
控えめなノック音が鳴り響き桜が「はーい。今出まーす」とトコトコドアの方へ向かい開けるとそこにいたのは
「失礼しますわ。結、体調はどうでしょうか?」
「結?」
突然の来客者はR•Gマスターこと双花だった。双花が結のことを結と呼んだため疑問に思う桜だが双花は何食わぬ顔で「はい」と笑顔で言うと相手が双花と言う事で今更緊張し始めたのかカクカクとした動きのまま双花を中に案内すると双花は結に向かってまたもや厄介な頼み事をしようとしていた。
「突然訪問してしまって申し訳ありません」
「いいっていいってそれで何の用だ?」
双花の訪問でなんとなく嫌な予感がしていた結だが他でもない双花が相手だったため取り敢えず話だけでも聞くことにした。
「結の身体が治ったら……」
「治ったら?」
双花は突然頬を赤らめながらモジモジし出すと結にとんでもないことを言い出した。
「私としてくださりませんか?」
「は?」「え?」
「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」
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