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追憶のエピローグ


「さーてと。あの女。どうしてくれようか」


 お客様たちを丁重に夢の世界へとご案内した七実は腕を組みながら思考顔で暗い道を歩いていた。

 光はところどころについているのだが、どうやらここは地下牢とかそういう感じの場所らしく、とても暗い。えぇ、すごく暗い。


「なんかあれだね。肝試しみたいでちょっとドキドキしてみたりして?」


 そう言って小さく微笑む七実はとても楽しそうだった。……少なくとも、拉致られた少女には見えない。


「にしても、そろそろ次のお客様が来てもいいと思うんだけどなー」


 第一陣をご招待してからすでに一○分は経っているだろうか。

 一人一人はあれだったとはいえ、あれだけの団体さんの相手はそれなりに面白みがあった。

 そのため次を楽しみにしていたのだが、次の団体さんがなかなか現れないため七実の機嫌を少しずつ、しかし着実と悪くなっていっていた。


「まさかこのまま放置プレイとか? それは本気で勘弁なんだけど……」


 七実の表情が悲しみに染まりつつあった瞬間、七実の耳に幾つかの音が届いた。


(足音? 数は……結構多いね。こりゃ次の団体さんの到着かな?)


 足音から素人ではなく戦いを生業にしている連中が団体でこちらに向かっていることに気付いた七実は、その表情を嬉しそうに歪めた。


「さて、何分楽しませてくれるかな?」


 七実が好戦的な笑みを浮かべた瞬間。背後から爆発が起こった。


「ちょっ!?」


 どうやらサイドから道を壊されたようで、トンネルのように続いていた薄暗い道の一箇所に大きな穴がぽっかりと空いていた。

 爆発する一瞬前、壁が軋むような音を先に拾っていた七実は爆発よりも早く正面に体を投げ出し、空中で半回転、爆発が起こる頃には爆発地点から十分な距離を取ってそちらに体を向けていた。


「んー、そこにいるの誰かな?」


 今の爆発は老朽化などによる偶発的なものでは断じてない。明らかに何者かによる自発的なものだ。そもそも、ただの老朽化であんな激しい爆発音が轟く訳がない。

 冷静に真剣な表情でぽっかりあいた穴の先にいるでなろう何かに向けて言葉を掛けるな七実だったが、その実、内心は酷く乱れていた。


(人の気配なんて全くなかった。どういうこと? あたしが人の気配に気付かないなんてありえない。……まさか……ゆ、幽霊とか……?)


 七実には弱点があった。それが幽霊の存在だ。

 操術師が開発され、幻力という存在がわかり始めたことによって、それを放出する心という目に見えない何かが正式に非視物質、つまり目に見えないけどそこに存在しているものとして認められた。

 心の存在が正式に認められたことでそれと同時に魂の存在もまた正式に認めれるようになり、幽霊とは肉体を失った後に欠けた心によって幻力によって見える者と見えない者が出てしまう肉体を仮の宿として作り出し、そこに魂を定着させている存在としてされている。

 しかし、これはあくまでこじ付けのようなものであり、この問題についてよく議論されているらしいが、とりあえず確定していることがある。それは、


(とにかくよくわかんないっ!)


 戦うことは大好きだ。別にバラバラになったそれを見たとしても怖くはない。そんなまだまだ幼い、幼な過ぎる少女、ぶっちゃけ幼女である七実だが、幽霊だけはどうしても克服できないでいた。

 内心ビクビクしている七実だが、敵地で自分の弱点を晒すことはできない。

 七実にとって、自分の弱点を晒すということは、何よりも避けなくてはならないことだった。

 昔なら気にしなかっただろう。しかし、九実たちと出会ったことでそれは大きく変わった。

 失いたくないものが出来てしまった。だから弱点を知られ、そこをつかれ、アレに戻るわけにはいかない。


「……くっ、こそこそしてないで早く出てきなよ!」


 中々出てこない相手に向かって、七実は恐怖を超えて、軽くイラつきを感じ始めていた。


「あぁー!! もうっ! わかった。わかったよ! つまりそうだね? あたしがそっちに行けばオーライ?」


 七実は不機嫌そうに地団駄を踏んだ後、若干据わった目で穴へと向かった。


「もう容赦してあげないからね『氷結=刀』」


 冷気をその手に集め、氷で出来た一振りの太刀を握り締め、七実は一歩ずつ穴へと向かう。


「なんかもう、面倒だからこの壁ごとやっちゃおっかなっ」


 語尾に音符マークがついていそうなテンションでつぶやく七実は、刀を持った右腕を自身の左側へとつけた。


『月読=三日月』


 七実が刀を左から右へと振るうと同時にその切っ先から純白の斬撃が放たれた。

 それにより、本来であれば届くはずもない場所にあった壁をまるで豆腐かバターを斬るかの如く容易に斬り裂いていた。


「さーてと。せっかく能力まで出してあげたわけだし? そろそろ姿を見せてくれてもいいんじゃないかな?」


 七実の中にあった微かな恐怖は既にその姿を綺麗に無くしていた。

 それは馴れたとか、そういったものではなく、根本的な原因がなくなったからだ。

 先ほどまで一切感じられなかった気配。今の七実はそれをハッキリと感知していた。

 どうして突然感知できるようになったのかは正直気になるところだが、今気にするべきことはそれではない。


(気配からしてあたしの三日月が直撃してる筈なんだけどなー)


 七実はその生まれ持っている感知能力さえも規格外だった。つまり、気配だけで相手の位置がわかるだけでなく、その姿、体制、肉体的状況までも読み取ることが出来る。

 感じ取れる気配から三日月が腹部に直撃するような位置にいることがわかっているのだが、怪我をしているような感覚はない。


(……どうなってんの? ……ちっ、今のあたしじゃ推理出来ないしなー)


 七実は悔しそうに強く歯を噛み締めると感じるようになって気配へと近付いた。


「……さーてと、何がお出ましかな? ……なっ!!」


 穴の中を覗いた七実はそこ目に飛び込んで来た状況に目を大きく見開いた。

 穴の中には人の形をしたものがあった(・・・)

 しかし、それは全長三メートルにも及び、一見するだけでそれが生き物ではないことがわかる。

 そう、それはつまり、


「……人型ロボット?」


 アニメとかSFでしか出てこないような人の形をした機械。


「ちーと、スキャンしようかな」


 七実は片手をつぶるとそこに幻力を集中させた。


 『幻眼』


 閉じた目を開けるとそれは純白の光をまとっていた。


「さてと。えーとなになに?」


 幻眼とは心装の上位能力のようなものだ。心装によって得られる能力が個人によって変わるように、幻眼によって得られる能力もまた個人によって大きく変わる。

 幻操師が主に使う力、幻力。それを全てにおいて上回る力を持っている心力。それを使って発動する術が心操術だ。

 しかし、心力はその扱いが難しく、大まかに操作をすることはできても、意識のままにコントロールしきることは困難だ。

 そのため、意識ではなく、無意識レベルの集中を持ってそれを操作し、道具として認識しやすいものに一旦力を纏わせる。

 そうして出来るのが心装と呼ばれるものだ。

 心力に纏った道具を使うことによって、各自の持つ能力の延長線上にある分野としてだけ発動可能となる。

 心操術とは幻操術にあった自由性、汎用性を失う代わりに、より巨大な想いを発現可能にしたものとも言えるのだ。

 しかし、仮に心装を通さなくとも心力を満足にコントロール出来るとすればどうだろうか。

 無意識とはそのまま字のごとく、意識出来ていないレベルの領域のことだ。認識出来ていないが故に、ここを書き換えることは難しい。

 意識レベルならばただそう思うだけで書き換えることが出来る。意識レベルで発現するのが幻操術。

 容易に書き換えることが出来ないほどに深く、強く刻まれている無意識レベルを使うのが心操術だ。

 無意識レベルではなく、意識レベルからなるコントロール。それが可能ならば失っていた力の自由と汎用性を取り戻すことが出来るようになる。

 そして、それを可能にした者に訪れる変化。いや、ある意味進化とでも言おうか。それこそが、


 幻眼。


 心装無しで心力を操ろうとすると体が無意識に少しでも心力を扱いやすくするために体の一部を心装の代わりにしようとする。

 そうして心力を纏い、物理的な光を宿したもの。それが幻眼。

 そのため、幻眼にはとある別名がある。

 

 『心装、眼式(がんしき)


 武器でもない。防具でもない。その眼を法具へと変える術。

 眼とは人の心を良く写すとされている。法具のコアには宝石が使われている。これが法具が全て高価なものになってしまっている理由でもあるのだが、眼球そのものが本来宝石を使っていた部位の代わりとしてなっていた。

 心装術が元々法具にある能力と固有能力を合わせたものを使うのに対して、この眼式だとそのどちらも固有のもの。

 それはつまり、混じり気のない、純粋な固有術他ならない。


 七実の瞳に宿っている能力は『一見半知(いっけんはんし)』。その能力がまだ完全には開いておらず、能力の底が見えないため、この名前はまだ仮名となっている。

 現段階で七実が自覚するこの力は一見するだけで見たものの特性を分析するという能力だった。

 あまり特別な能力に聞こえないかもしれないが、その分析能力が高さがあまりにも異常であった。

 『一見半知』。

 その分析能力はその名の如く、一度で半分。

 それはつまり、二度見れば全てを理解するということだ。

 この一見という定義は曖昧で、明確にそれが一回だとわかる回数のあるもの。たとえば、技なのであればその技を一回見れば習得する。二度見ればそこに応用を効かせ極める。

 つまり、他人がいくら努力して作り上げた技、技術だとしても、この眼で二度見ればその者以上にそれを扱うことが出来るという、あまりにも無慈悲な能力だった。

 回数あるものであれば二度見れば良い。

 しかし、その他のもの。回数が無いものの場合には、回数の代わりに時間となる。

 回数が無いものとはつまり、今目の前にあるロボットもそうだ。

 このロボットそのものがなんなのか。この眼でそれを分析するには二度見するのではない。この場はただ見続ける。

 その時間、たったの七秒。

 ただ二度見するだけならばもっと早いのだが、それでもたった七秒でそれを看破してしまうのだ。

 七実が『一見半知』を発動してから既に七秒が経過していた。


「……へぇー」


 七実はもたらされた分析結果に興味深そうに声を漏らしていた。

 

「っと、その前に出してあげなけゃだね」


 七実は一旦目を瞑り、宿していた光を消した後、目の前に立っているだけで、一切動かないロボットに近付くと、目の前で軽くジャンプした。


「ほいっ」


 気の抜けた掛け声と共に、七実は刀を振るい、ロボットの胴体を上から下に真っ二つにした。


「よっと」


 七実は地面に無事着地すると、術を解除して刀を消した。胴体の正面部分だけが真っ二つにされ、開くようにしながら崩れていくロボットに七実は冷たい眼差しを向けていた。


「…………」


 七実は崩れ落ちるロボットへと無造作に近付くと、ロボットの正面で両手を開いた。

 慈愛に満ちた表情へとなったそのまま静止した。

 そして、ロボットの上半身が崩れ落ちる瞬間、ロボットの内部から何か七実に向かって落ちた。


「おっと」


 七実はそれを優しく抱きとめると、その場から即座に離れた。

 抱きとめたそれに負荷が掛からないように、ゆっくりと七実は移動すると、少し離れた場所で抱いているそれを寝かせた。


「……まったく。酷いことするね。あの、女」


 再び冷たい眼をしているそうつぶやくと、目の前で横になっている少女(・・)の頭を優しく撫でた。


 事前にご連絡が出来ていませんでしたが、これにて第七章は終了となります。

 次章となります第八章は12月1日からスタートとなります。

 それまでの間は勝手ながら休載とさせていただきます。

 現段階でそれなりの伏線を回収しておりますので、よろしければ読み直しなどで考察してみて下さい。

 また、中には明らかな矛盾点があると思いますが、本当に私の勘違いで間違えてしまっているところもあるかもしれませんが、そのほとんどがそういう仕様ですので、ご理解のほどよろしくお願いします。


 感想やお気に入り登録。評価などが励みとなりますので、よろしければお願いします。

 それでは、12月1日から始まる第八章もどうぞよろしくお願いします。

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