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7ー48 四人の……

「お前様や。もう、終わりかのぉ?」

「うっ……うぅ……」


 零の問い掛けに結は返さない。いや、返せない。なにより今の結を支配しているのは、


(なにが……あった……?)


 困惑だった。


 零は結の心の声が読める。そのため、今の心のつぶやきも拾っていたた。そして、呆れたかのようにため息をついた。


「はぁー。飛んでおったとはのぉ」

「れ…………い……?」


 結はそのまま気を失った。

 結が気を失ったことでずっと隠れていた二人の少女が姿を現していた。


「リーダー。お疲れ」

「零様。お疲れ様でした」

「む? 髑六に九姫……じゃったか?」


 九姫の名前がやや疑問口調になっていたため髑六は小さく首をかしげた。


「リーダーとナイン。初対面?」

「そうなりますね。私は資料から零様のことは良く存じておりますが、零様はなんせここ暫く本邸に戻っておられないほど結様に熱を上げておりますので」

「コレっ! 妙な言い方をするでないわっ!」

「あらあら。ここまで必死に否定するということは、もしかして……」

「違うと言いておるじゃろ! 我らが主様(あるじさま)は我らの主様というだけでそれ以上の感情を持ち合わせておらぬわ!」

「あらあらー? 動揺のあまり日本語としておかしいですよー?」

「むむっ!!」

「……あっ。みんなは戻っていいよ」


 結が気絶した後、零とナインが口喧嘩? を始めたためどうすればいいのかわからずに、とりあえず『天輪月界(てんりんげっかい)』を解除した後、その場で待機していた一二人の少女たちに髑六はそう言った。

 少女たちはその場で敬礼をするとそそくさと散っていった。


「二人ともやめる。奪うよ?」

「むっ……。それは困るの」

「髑六の能力は零様にも通用しちゃいますからねー」


 両手をそれぞれ二人に向けて髑六がそうつぶやくと二人は若干の焦りを顔に浮かべ、大人しくなっていた。


「そこまですごくない。今の零様全力とは言えない。せいぜい一割。だから通用する。それだけのこと。全力の零様には通じない」

「それでも凄まじい能力であることに変わりはないじゃろう?」

「……零様の能力が一番チート」

「まあまあ。お二人ともそのような無駄な論議は良いではありませんか。それよりも結様をお運びしたほうがよろしいのでは?」

「むっ。それもそうじゃな。……お前たち。我らが主様をお運びするのじゃっ! …………早よせいっ! ………………む?」


 応答がないことを疑問に思い、零が周りに視線を向けるとそこにはいるはずだった一二人がいなくなっていた。


「あっ。みんな二人が喧嘩してたから返しちゃった」

「むっ。そ、そうじゃったか。ならば仕方ないのぉ」

「ふふ、零様? ……あら? なんですか?」

「それ以上だめ」


 いない人物たちに命令したということで一人勝手に羞恥にまみれ、頬を赤らめている零を九姫がここぞとばかりにからかおうとしていると、髑六が九姫の肩に手を置き、首を横に振った。


「ふふ。わかりました。それでは結様は私が部屋に運んでおきますね」


 九姫がそう言いながら結に近づくと、後ろから九姫の肩に手が置かれた。


「……なんですか? 髑六?」

「私が運ぶ」

「髑六は一番小柄なのですし、大変でしょう? 私が運びます」

「問題ない。体格と力は関係ない」

「いえいえ。そんなことありませんよ? 私たちの力とは膂力と強化力の掛け算のようなものなのですから、膂力も大切ですよ?」

「……つまり、九姫は私よりも膂力のあるゴリラってこと?」

「…………」

「…………」

「「……零様?」」

「ギクッ」


 誰が結を運ぶのか髑六と九姫が静かに火花を散らしている隙に零が結を担ごうとしていると、同時に二人の鋭い視線が突き刺さった。


「そ、その。ワシが気絶させてしまったのじゃし、ワシが責任を取るべきじゃと思おての!」


 二人の鋭い視線の前に零は両手を胸の前で違う違うとヒラヒラとさせて、完全に動揺しているようだった。


「いえいえ。あれは仕方がなかったことですので気にする必要はありませんよ? それよりも零様は先の戦いでお疲れでしょう? 結様はどうぞ私にお任せください」

「い、いや。我らが主様の半身たるワシが責任をとるべきじゃと思おての!」


 三人の間に火花が散っていると、突如空から四つの影が現れた。


「主は僕たちに任せてよー」

「……やる」

「俺らが運んでやるよ!」

「任せて」


 空から降って来たのはそれぞれ水色、赤色、緑色、茶色の和服着た四人の少女だった。


「むっ……。何故お主たちがこっちにおるのじゃ」

「まーまー。固いこと言いっこなしでさー」

「……揉めてた。時間かかると主様の体に良くない」

「私たちに任せれば早い」

「まっ。つうことだな」


 不満げな表情でつぶやく零に、水色、赤色、茶色、緑色の順番で答えた。


「むぅ。不満は残るが、確かにお主たちに任せるのが賢明じゃな」

「おっ、さっすがこっちのリーダー。話がわっかるぅー」

「……お主もお主で大変そうじゃな」


 無駄と言っていいほどにテンションが高い水色を見て、零は同情の眼差しを茶色の少女へと向けた。


「零も大変でしょ? 私たちは大丈夫」

「ふむ。我らが主様のことを頼むのじゃ。外ではなにも手伝えんからのぉ」

「ん。外は私たち。中は零たちが守る。約束ね」

「そうじゃな」

「ねー、早く主様運ぼーっ」


 話し込んでいる零と茶色の少女に耐えられずに、水色の少女が騒ぎ始めていた。


「少しくらい待って」

「おそいよー」

「それじゃ。行く」

「ああ。そうじゃった。二人に話があるのじゃ」


 緑色の少女が結を俗に言うお姫様だっこして、行く準備をしている中、零は赤色と水色の少女を呼び止めた。


「ん? なにー?

「…………」

「お主らに伝えとくことがあってのぉ」

「んー? なになにー?」

「命令がない限り外に出るのは禁止じゃぞ?」

「…………わかった」

「ええー。やだー」

「ふむ。なるほどのぉ。嫌じゃというのかや?」

「うんっ!」


 怒筋を浮かべている零に向かって水色の少女は満面の笑みで元気よう答えた。


「ちと良いか?」

「なに?」


 零は茶色の少女に声をかけた。


「こやつを牢獄送りにしてよいかの?」


 零はそう言って水色の少女を指差した。そんなことを言われた水色の少女は焦った表情を浮かべると、ブルブルと首を横に降って、茶色の少女に向かって行きたくないという意思アピールをしていた。


「……んー。わかった」

「ええっ!?」

「ほう。話がわかるのぉ」

「でも条件がある」

「……ふむ。聞こう」

「牢獄行きは今日から二日間だけ」

「……そうじゃな。ワシは元からそのつもりじゃよ」

「そう。ならご自由に」

「ちょっとボス!?」

「往生際が悪いの! こっちに来るのじゃ!」

「えっ!? 今から!?」

「そうに決まっておるじゃろ!」


 零は逃げようとする水色の少女を捉えると、頭の上に手を重ねた。


「ちょっ! まっ……」


 少女が何かを言おうとするが、それよりも早く少女の姿がその場から消えた。


「さすが零。凄い」

「むかつくが俺たちとは能力のレベルが違うな……。それ、空間接続だろ?」


 空間と空間を繋げることによって瞬間移動を可能とする。

 今のは水色の少女がいる座標と牢獄の座標を繋げることによって少女を強制的に牢獄送りにしたのだ。

 先の結との戦いの際にも、ただの高速移動というレベルではなかったあの移動も、空間接続による瞬間移動だったのだ。

 つまり、零は何度もテレポートをしていたのだ。点から点に移動する際、点を点を結ぶ直線を通るよりも、点と点をくっ付けたほうが移動速度が速いのは至極当然ののことだ。


「ま、まあの」


 褒められるという経験が少ないため、頬を赤く染め上げる零だった。


「それじゃ。行く」

「うむ。我らが主様のことを頼むぞ」

「わかってる」

「……姿を見られるでないぞ? お主らの姿はさすがに言い訳がきかんからの」

「わかってる」

「……最悪はあの者と取り引きができるとはいえ、力を借りたくはないからの」

「……うん。わかってる」

「それじゃあの」

「ん」


 最後の挨拶を終えると、三人の背中がキラキラと輝き始めた。

 すると、バサリと音を立ててはえたのは、零の背中にあるものと同じ形状をした翼だった。

 水色の少女はいなくなったものの、他の三人は翼をはためかせ、空へと飛んで行った。


「……ふむ。……あっ」


 順調に高度を増していく三人に向かって、零は思い出したかのように追い掛けた。

 追い掛けたという表現は正しくない。空間接続によって先回りした。


「零? どうした?」

「ふむ。一つ言い忘れたことがあったの」


 突然目の前に零が現れたことで零を含めて四人は翼大きく広げ、うまいことその場にとどまっていた。


「そろそろ我らが主様に六月法(りげつほう)だけでなく、次を教えるからの」

「……六月法(りげつほう)の次? ……あっ」

「そうじゃ。六天法(りてんほう)をの」

「…………わかった」

「それだけじゃ。じゃあの」

「ん。連絡ありがと」

「……バイバイ」

「じゃあな幼女」

「幼女ちゃうわっ! むう。ワシをからかいおってからに……」

「……下。騒いでる」

「む?」


 赤色の少女がつぶやきを聞き、視線を下に向けると、どうやら髑六と九姫がないやら口論をしているようだった。


「まったく。仕方がない奴らじゃのぉ」

「零。早く行ってあげて」

「わかっておる」


 零はそう言い残し空中から姿を消した。


「…………」


 茶色の少女はさっきまで零がいたところをしばらくの間見つめていた。

 そして、やがて動きだし、他の二人と共に空に消えた。


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