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7ー47 シングルナンバー


 結の突然の変異に結界の外にいる一二人の少女たちが慌てふためいていた。


「な、なにあれ……」

「こわいよぉ」

「うわぁー。キレェー」


 少女たちは突如この世界を覆った黒い雲に様々な感想を漏らしていていた。


(零様)

(む。なんじゃ)


 瞳を漆黒で輝かせ、どこまでも冷たい目で己を睨む結を見下ろしている零の頭の中に直接声が聞こえた。

 零は相手がやっているように、相手に念話を発した。


(零様。これが……)

(そうじゃ。ところで、お主名はなんというのじゃ? 知っているということは少なくともシングルナンバーの者じゃな?)

(はい。(わたし)No9(ナンバーナイン)九姫(くき)と申します)

(……ほう。お主がナインか)


 零は視界の端に物陰からコクリと会釈をする少女をとらえていた。


(はい。ところで零様。どうしてわざわざ結様にショックを?)

(簡単な話じゃよ。今の我らが主様の力がみたいのじゃよ)

(……なるほど。納得しました。やはり零様はツンデレなのですね)

(なぬ!? な、なぜそうなるのじゃ!?)

(六花衆の精神凍結では結様の感情を完全に封じるには到底足りません。つまり、結様の欲求不満の捌け口になるおつもりなのでしょう?)

(……むっ。お主。友達おらんじゃろ?)

(いいえ? 他のシングルナンバーの皆様やダブルナンバーの皆様とも仲良くさせていただいていますよ?)

(……ワシはお主を初めて知ったのじゃが?)

(それは当然ですよ? 零様はずっと本邸に戻っていないではありませんか。私たちシングルナンバーは本邸が拠点ですよ? それなのにずっと第二邸に入り浸っているとか?)

(むっ……。べ、別によかろうっ)

(そんなに結様が心配ですか?)

(うぐっ……)

(……はぁー。これ以上苛めるのは可哀想になってきましたね)

(……お主、やはり友達おらんじゃろ?)

(私。上司には正直でいようと決めたんです)

(……普通は逆じゃと思うのじゃか……)

(……あっ。零様? そろそろ結様が動きそうですよ? ちゃんと捌け口になってあげて下さいね?)

(くっ……わかっておる。自ら蒔いたタネじゃ。責任は取る)


 零は念話を一旦終えると瞳から発せられる漆黒の光をより強くしている結を見据えた。

 直後、再びその場から消える。


「!」


 零の姿が消滅したのとほぼ同時に、零の姿が別の場所から現れた。その場所とは結の背後。

 突然背後に人の気配が生まれたことで結は反射的に振り返った。


「ふんっ!」

「ぐっ!!」


 零は現れると同時に幻力を十二分に込め、威力を増大させた裏拳を放つ。しかし結は振り返ると同時に反射的にあげていた両腕によってガードをすると、耐えずにわざと後ろへと飛ばされ、距離を置こうとした。


「ふっ。甘いの」


 零の小さなつぶやきが結の耳に届いたと同時に、再び零の姿が消えた。

 そして、先ほどと同様に消えてからタイム差ほぼゼロで零が結の後ろに現れる。


「はっ!」


 結もバカではない。零が消えた瞬間に再び後ろに現れるであろうことを推測していた結は振り返るよりも早く腕を振るった。

 その腕は黒い靄のようなものが纏わせており、どこか不気味だった。


「!」


 零への不意打ちへのカウンター。

 零は一瞬目を見開いたかと思うとすぐにニヤリと笑った。

 黒い靄の纏った結の腕が零にあたる瞬間、三度その姿を消した。


「くっ!」


 結は再び後ろに腕を振るうがそれは虚しく空を切った。


「上じゃ」


 振るった腕はもう間に合わない。

 結は片手だけを上にあげて、上空から迫る零のかかと落としを受け止めた。


「ほう。不完全体のくせになかなか丈夫じゃの」


 零はかかと落としを止められた時の反発力に身を任せ、すぐに足を引くと今度は空中で縦回転し、下部から結の顎目掛けて足を振り上げた。

 結は無理やり腕を動かし、どうにか肘で蹴りを受け止めるが、零は足を結の腕に絡みつかせると、もう片方の足を側面に振るう。


「ちっ!!」


 攻撃へと回していた腕によってジャストガードを決めた結はお返しとばかりに受け止めたばかりの左足を掴む。

 零の右足がからみついているせいで動かせなくなっている左手から黒い靄を噴出させたと思ったら、不思議なことに結の腕が零の足からするりと抜けた。……いや、抜けたというよりも、すり抜けたが正しいかもしれない。そう思ってしまうほどに不自然な抜け方をした。


「おらっ!」

「ぬっ!?」


 結は解放された腕をも使い、両手で零の足を掴むと、その場で数回転した後、それを全力で投げた。


「ちっ」


 零は舌打ちわしながらも翼をはためかせ、空中でくるりと回るものの、屋敷に突っ込むところで見えない壁に足をつける。


(ふむ。流石はこやつらの『天輪月界(てんりんげっかい)』じゃな。壁となんら変わりないのじゃっ)


 一二人の少女によって張られている結界に足をつけた零は、重力によって下に落ちる前に見えない結界の壁を強く蹴った。

 まっすぐに向かってくる零に結がカウンターを仕掛けようと構えるものの、絶好のタイミングで腕を振るい、それが当たると思った瞬間。再び零が消えた。

 どこから零が現れるのかわからず、主に背後と上に注意を払っていた結だが、残念なことに零は別の場所から現れた。


「そのままという選択肢を忘れてはいかんぞ?」

「!」


 背後でも上でもない。再び真正面から飛んできた零に結は動揺した。結果、反応が遅れあまりにも簡単に零の飛び蹴りによって吹き飛ばされた。


「ぐはっ!!」


 零と違い、翼を持たぬ結は空中で体制を整えることも出来ずに、見えない結界と言う名の壁に叩きつけられていた。


「……やはり。零様は凄いですね」

「流石はリーダー」

「あら? 髑六(ドクロ)も来ていたんですか?」


 零が頭上から目視した時と同じ場所でこっそりと二人の戦いを見ていた九姫のつぶやきに、いつの間にか背後にいたドクロマークのついた眼帯を着けている少女が反応していた。


「うん。マスターは滅多にこっちにこないから」

「……そうですね。次は一体いつになるのでしょうか」

「……多分そう遠くないと思うよ?」

「髑六もそう思いますか?」

「九姫も?」

「はい。……なんとなくですが」

「……でも……」

「……そうですね。その時は。私たちとも会うことになりますね」

「……大丈夫?」

「……さあ。わかりませんね。出来る限りのことは零様がしてくれるとは思うのですが……」

「……心配?」

「……はい。零様は性格に難がありますからね」

「それは仕方ない。過去が過去」

「……そうですね。責めるわけにはいきませんね」

「むしろ感謝」

「……ですね」


 九姫と髑六はそこで会話を止めると、壁に叩きつけられてぐったりとしている結にゆっくりと近付く零へと視線を向けた。

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