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7ー40 覚悟の映る瞳


 本戦三日目。

 【リターンフェアリー】の試合が行われている中、会長、六花、楓の三人は他に誰もいない会議室へと集まっていた。


「それで? 結局は結はどうするつもりだ?」


 今【F•G(ファースト・ガーデン)南方幻城院なんとうげんじょういん】にいる中で結がいなくなった本当の理由を理解できるのはアヤメのことを覚えているこの三人だけだ。


「あたしは正直六芒戦なんてどうでもいい。結を最優先にするべきだと思う」

「……そうね。それももっともな意見よ。でも、そういうわけにはいかないわね」


 会長の言葉に楓の目が冷たく光った。


「それ。どういうこと。結の命よりもガーデンの名誉が大事ってことか?」

「そういうわけじゃないわよ。今まで優勢だった【F•G(ファースト・ガーデン)】が突然劣勢になったら他のガーデンは当然なにかあったと思うわ」

「結を助けにいくのであれば私たち三人でいかなければ戦力的に意味がないです」

「あたしたち三人は既に試合で目立ってるわ。その三人ともいなくなれば絶対に気付く」

「アヤメのことは私たち以外は知りません。今更話したとしても危険を放置していたとみなされる可能性が高いです。そうなれば【F•G(ファースト・ガーデン)】の信頼は落ちてしまいます」

「……雑な説明だな」

「今は時間がありません。詳しく尚且つわかりやすく説明する余裕がありません」

「……つまりあれだ? 結を助けるにはあたしたち三人でいかないと戦力的に意味がない。

 だからと言って三人でいくと何かあったことが他のガーデンにバレる。そうなれば当然その何かを調べられるだろうな。

 そして行き着くのはアヤメという奇襲者のことだ。

 アヤメについての記憶があるのはあたしたちだけ、他のガーデンから見ればあたしたちがなにか悪巧みをしてるように見える。

 だから三人でここから離れることは出来ない。…………これでいいか?」

「……そうですね。大方その通りです」


 肯定する六花に楓はため息をついた。


「なら解決案は簡単だ」

「……なんですって?」


 呆れるようにつぶやく楓に会長は驚いたような、疑うような視線を送った。


「あたしが一人で行けばいいだろ?」

「!」


 当然のことのように言う楓に会長は叫んだ。


「あんたは何を言ってるのかわかってるの!?」

「わかってる。三人でいくのがだめなら一人で行く。簡単だろ?」

「だっかっらっ! 言ってるでしょ!? 一人じゃだめなのよ!」

「戦力的に意味がないってか?」


 楓は深いため息をついたあと、再度冷たい目を会長へと向けた。


「会長はあたしの戦力を知らないだろ?」

「うっ……で、でも……」

「大丈夫大丈夫。問題ないって」

「……でも、一人なんて許可できないわ……」


 会長は意地悪で言っているわけではない。

 それは楓も痛いくらいわかっている。会長の表情は今にも泣き出してしまいそうなぐらい不安に満ちている。

 正直、会長にこんな顔をさせたくはない。だけど、いかなければ結が消滅してしまうかもしれない。

 それは絶対に嫌だ。


「それなら会長。こういうのはどうでしょうか?」


 話が詰まってしまった二人に救いの手を差し伸べたのは六花だった。


「なによ六花。言ってみなさい」

「三人でいなくなるのはダメ。一人で行くのもダメとなれば、答えは一つしかありませんよ?」

「……まさか、あなた……」

「その通りです。私も行きます」

「六花!? だ、だめよ!」


 会長と六花は親友だ。その親友が戦地へ赴くときいて平静を保てるほど会長は大人じゃなかった。

 焦り、取り乱す会長に六花はうっすらと、しかし確かに微笑みかけるその頭に優しく手を置いた。


「会長は私の力をお疑いですか?」

「そ、そんなわけないわよっ。……で、でも、それでも……」

「……会長は結がいなくなってしまってもいいんですか?」

「そ、そんなの良い訳ないじゃない!」

「……そうですか。これは少し意地悪な質問でしたね。ですが、それが会長の気持ちですよ?」

「……で、でも……」


 不安に満たされ。歩みを止めてしまう会長に六花は再び微笑みかけた。


「大丈夫です。私と楓の二人なら無事結を助け出してみせます」

「六花……」


 生十会の会長はその学年で最高の力を持った人物がやる役職だ。

 しかし、会長は二人の力が本当は自分よりもはるかに上だということを知っている。

 二人がどうして力を隠しているのかはわからない。だけど、それでも、二人は会長にとって既に仲間なのだ。

 詮索なんてしたくないし、二人の力を疑うことだってない。

 でも、心配なものは心配だ。

 三人で行ってもどうにかなるかわからないような相手、それを二人で……。

 会長の心は過去で最も心配に埋め尽くされていた。


「楓の出番は明日。私と会長は五日目の【ショットバット】まで出番がありません。そもそも、【ショットバット】では結もチームなんですよ? それまでに結を取り戻さなければじゃないですか」

「…………そうよ…………楓。あなたは明日出番なのよ。一日で遂行できる任務じゃないわ」

「……会長……まさか……」


 行くななんて言わないよな?

 セリフだけを見ればそうとしか思えない。だけど、今の会長の表情はそんなことを言う前のものではなかった。

 覚悟を決めたような。

 最善策ではなく、大きなリスクを負った上で、最高の成果を出そうという覚悟の表れにも見えた。


「楓。あなたはここに残りなさい」

「会長!?」


 予想外のセリフに驚く楓を置いて、会長はさらに続けた。


「その代わり。あたしと六花の二人で行くわ」

「会長!! それは……」

「なによ。六花も言ったでしょ? 【ショットバット】では結もあたしたちのチームよ。それに、あたしだってそれまでは出番がないわ。明日出番のある楓よりも良いはずよ」

「ですが……いえ。私も覚悟を決めることにします」


 これで全てが終わってしまうかもしれないという覚悟を。

 それを口に出すことはなかった。


「……わかった。結のことは二人に任せる……お願い」

「……ええ。当然よ」

「時間もあまりないことですし、早く申請をしてここを発ちます」

「そうね……申請にもそれなりに時間がかかるわね……。あたしは六花の分含めて今から申請に行ってくるわ」

「わかりました。お願いします」

「ええ!」


 そう言い残して会長は部屋から出て行った。


「……楓」


 会長を見送った後、六花は視線を楓へと向けた。

 普段と変わらないように見える楓だったが、その体は、


(……震えてる)


 理由は本人すらわかっていないが、楓は結に執着している節がある。

 結が自分の知らないところで消滅してしまうかもしれない。

 これは想像を超えるほどの恐怖だろう。


「……かな……」

「六花」


 顔を伏せており、前髪のせいで表情がわからず、何を言っていいかわからなかったが、わからなくとも何かを伝えようとした瞬間、楓は顔をあげた。


「結のこと、頼む」

「……はい。当然です」


 二人は瞳には確固たる覚悟が映っていた。

 

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