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7ー39 二年ぶりじゃな!


「久しいの。お前様や」

「……またここか……」


 結が目を覚ましたのは見覚えのある空間だった。

 そして、目の前にいるのはこれまた見覚えのある少女。

 一面純白の雪原のような場所。

 銀髪に長い髪。そして黒い和装。この世界に入ると結の服装はいつの間にか【A•G(エンジェル・ガーデン)】時代に着ていたものに近い、白い和装を纏っていた。


「……久しいって……そうか、約二年ぶりになるのか」

「ほう? このワシを恐れぬのか?」


 前回結がここに来た時は、これでもかというくらいに結は怯えていた。恐れていた。目の前にいる少女。零があの零王なのではないかと思い、その力の前に恐怖していたのだ。

 しかし、今の結からはそんな気配が微塵も感じられないことに、零は驚き目を見開いた。


「……そうだな。お前が俺を殺しにくるのなら怖いな。だが、今のお前からはそんな気配が全くしない。……どうせ今回も目的は戦闘じゃないんだろ?」

「ニハッ。さすがはお前様じゃ。その通り、今回はちとわけありでのぉ」

「悪いが後にしてくれないか? 今は少し忙しい」

「ふむ。それはワシも知っておるよ。外のことはワシも把握しておるしの」

「……外?」


 零の何気ない言葉に結は首を傾げた。

 そんな結に零はつられるようにして首を傾げていた。

 そしてすぐに一瞬納得顔になったのち、片手で軽く口を押さえた。


「プフッ。まさかとは思うがお前様や? お前様はここがどこなのかわからんのか?」

「……わかるわけないだろ? 大方あれだろ? お前の作った【幻理領域】が何かか?」

「その答えには否と答えるべきじゃろうな」

「……違うのか?」

「違うの。そもそも根本的に違うのじゃ。この世界の主導権を握っておるのはワシではない」

「……それなら誰だ。そいつをここに呼べ。そして俺をここからだせ」

「ニハッ。そう慌てるではないお前様や。すでにここに来ているではないか」

「……どこだ?」


 そう言ってあたりを見回す結に零は愉快そうに笑みを浮かべた。

 そんな零の態度に結はむっと小さく文句を漏らした。

 二人の視線が合うと零は無造作に腕を上げた。そして、指先を結へと向けた。


「零。人を指で指すのはマナー違反だ。今すぐやめることを要求する」

「ククク。そう怒るでないお前様や。お前様がこの世界を支配する者がどこにいるか教えろと言うものじゃからワシは親切心よりわざわざ非力な腕を上げて指差してやったのじゃ。

 感謝こそされようが怒られる筋合いはないのぉ。

 あぁ、それとじゃ、そんなに慌てて後ろに振り返ってもそこにはだれもいりゃせんよ。今ここにいるのはワシとお前様のただ二人だけじゃ」


 零に言われ、再度振り返る結の顔は羞恥心から微かに赤くなっていた。


「零。お前の性格が悪いのはわかった。結局ここの支配者は誰なんだ。ここには俺とお前しかいないんだろ? お前が違うのであれば一体誰、が…………」


 途中から歯切りの悪くなった結を見て零は楽しそうに笑った。


「やっと気付きおったかお前様や。そもそも、どうしてワシがお前様のことをお前様と呼んでおると思っておるのじゃ」

「……それなら……」

「そうじゃ。ここはお前様の作り出した世界。お前様の無意識領域の一部に点在する幻理の空間。さらにわかりやすく言うのであればそうじゃな、精神世界とでも言っておこうかのぉ」


 結は零の言葉にたっぷりと驚くと、次はむすっとした不機嫌そうな表情へと変わった。


「なんで俺の精神世界にお前がいる?」

「お前様も言ったじゃろう? ワシはお前様らが俗にいう零王じゃ。さらに言えば、ワシの力がお前様の制御出来るレベルを超えて増した時に生まれるのが零王と言うべきなのじゃがな」

「……そうか」


 うん。何言ってるかぶっちゃけわからん。


「ククク。わからなくても仕方あるまい。お前様は本来平凡で普通……はちと違うの。じゃが、凡人であることに変わりはないのじゃよ」

「……俺。今口に出したか?」


 出してないよな?


「そうじゃの。それと、それを言うのであれば口ではなく声に出したかという表現が正しいと思うのじゃが、そのところどう思う?」


 ……実際に声にしている部分だけを合わせると話が噛み合っていないのだが、仮に零が結の心を読んでいると仮定すると……うん。しっくりくる。


「つまりそういうことじゃな」


 零はなにやら語尾に音符が付属されていそうなぐらい機嫌良さそうに見えるのだが、そんなことは今はどうでもいい。


「零。とりあえず俺をここから出してくれ。俺は今すぐみんなに伝えないといけないんだ」


 裏切り者の名前。早くそれを会長に伝えなければならない。使命感が結を焦られせいた。

 そんな結に零は冷たい眼差しを向けた。


「そう焦るでない。まったく、お前様はやはりお前様じゃな。記憶力皆無じゃな」

「……否定はしないが、突然なんだ。それよりも早く俺をーー」

「うるさいのぉー」


 結の言葉に重ねるようにして零は力の一端を解放した。


「ぐっ……これは……」


 まるで巨大な何かにのしかかれているような。そんな負荷が全身に加わっていた。


「まさか……これは……【重力操作(グラビティ)】!?」

「そうじゃ。とはいえ、これは所詮紛い物じゃがな。【神夜】という外付けの外部記憶装置をどうこうできるのは開発者の一族だけじゃよ。さすがのワシにもそれは不可能じゃ」

「……紛い、物だと……?」

「そうじゃ。ワシ自身が見よう見まねで開発した。今はそういうことで良いじゃろう」


 【継承術】を自分で開発したという零に結は背筋が凍った。しかし、零の口振りはまるで何かを誤魔化しているようにも思えた。そのため結はわりと早く自己を取り戻していた。


「さて。お前様にいくつが質問があるのじゃが良いかの?」

「……ぐっ……」

「むむ? おおっ! いかんいかん忘れておったの。ほれ、これで少しは楽になったかの?」


 零の【重力操作(グラビティ)(仮)】の力によって呼吸すらままならなくなっていく結に、零は若干焦りつつも【重力操作(グラビティ)(仮)】の威力を落とした。

 呼吸がまともに出来るようになったのはいいが、さっきまで低酸素状態だったのだ。はぁはぁっと顔に汗を滲ませながら辛そうに肩で息をしていた。

 そんな結に零はまるで心配するかのような優しい眼差しを向けていた。


「はぁー、はぁー。質問だと? そんなの答えている暇はない。早くここからだせ!」


 気道は確かに確保されているものの、体の自由なんてものはないに等しい。まるで牢獄か何かに繋がれているようだ。


「その通りじゃ」


(……はっ?)


「じゃから、その通りじゃ」

「……何がその通りなんだ?」

「今のお前様の外での状態じゃよ」

「…………」


 理解出来ない。正直意味がわからないのだが、これはスルーしてはいけない気がする。

 確かに早くここからでてみんなの元に行きたいのだが、急がば回れとも言うし、とりあえず零の話を聞くだけ聞いた方がいいかもしれないな。っと勝手に一人納得した結は不機嫌だということを全開にしつつも静かになった。


「ここに来る前のことは覚えておるのか?」

「…………えーと、確か……」


(やべ。覚えてない)


「……はぁー。まったくお前様にはやれやれじゃな。良いか? 残念な頭のお前様でもわかるように順序良く話してやろう。さっきと、二年前にも言っておるがここはお前様の心の中。つまり精神世界じゃ。

 つまり今ここにあるのはお前様の意思だけなのじゃ」

「……それで?」

「つまりじゃ! 今の体はまだ外にあるということなのじゃ!」

「……あっ、そういうこ、と?」


 めちゃくちゃ嫌な予感が結の頭を通り過ぎていった。

 結の思考がそこにいったことに気付いたのか、零はニヤニヤと楽しそうに笑っていた。


「……記憶がだいぶはっきりしてきたな……」

「ニハッ。ここに来る前のことを思い出したのであれば理解したであろう?」

「……ああ」

「そうじゃ。つまりお前様はここから当分逃げることは叶わぬのじゃ」


 ここはある意味【物理世界】と【幻理領域】の関係に似ている。

 【幻理領域】と【物理世界】では同じ姿をした体があるが、それは同一のものではない。

 夢の中にいるとして夢の中の自分の体と本物の体は同じかと問われれば答えは否だ。

 それはどちらもその自分の体であることに違いはないが、しかしそこは=で結びつくことはない。

 共通しているのは意識だけ、体は姿だけは同じだがそれぞれの世界で個別なのだ。

 今の結。精神世界にいる結の体は零の【重力操作(グラビティ)(仮)】によって拘束されている。

 さきほど零は、言った。


 その通りじゃ。


 その時、結はまるで牢獄に繋がれているようだと思っていた。どうやら零は結の思考が読めるらしいし、この言葉は牢獄に繋がれているようだという言葉にかかっているのだろう。

 ここに来る前。結は奴らにやられ、気絶させられた。

 これらは総合的に考えればそれは簡単に導き出せる。


「……俺の体は失われた光(ロストブレイズ)の奴らに捕らわれてるってことか」


 結のつぶやきに零は満面の笑みで頷いていた。


 

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