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7ー38 失光


 大量に蠢いていたイーター共をマルチロックを使って一掃したカナはマルチロックを具現化終了させながら地面へと降り立った。


「……ふぅ」


 前までどうして二丁拳銃しか使わなかったのか、それは単純にそれが不可能だったのだ。

 各キャラに一つ用意されている固有幻装は他のキャラには具現化不可能という条件がある代わりに具現化に必要な幻力量がスズメの涙で良い。

 しかし、他の法具、自由幻装は専用という条件がないためなのか具現化で消費する幻力量が圧倒的に多いのだ。

 ジャンクションをすれば幻力量が比較的に増すとはいえ、それでも前までの結たちでは不可能だったのだ。

 大量の幻力を一気に消費したことでカナは疲労の色を微かにだが確実にその顔に映していた。


「……解除……くっ、はぁー、はぁー」


 ジャンクションを解除すると同時に全身に疲労が走った。疲労だけじゃない、筋肉痛に近い痛みも全身に回る。

 これは明らかに幻力の使い過ぎた時の症状だ。

 その痛みと疲労により結は膝をついていた。


(何故だ? 今までフルジャンクション一発じゃこんなことにならなかったのに……。マルチロックのせいか?)


 結はすぐに首を振ってそれを否定し。

 ジャンクションを発動すると幻力が増幅されるのは間違いだ。

 ジャンクションとは直訳で接続を表す言葉だが、幻力の場合はそうではない。

 もともとある幻力貯蔵庫も他の貯蔵庫を接続して合計的に幻力を増やすのではなく、自分に接続するのを元々の貯蔵庫から別の貯蔵庫へと変える。

 ジャンクションを発動する瞬間に必要となる幻力は結自身の貯蔵庫から結自身の幻力を使う。

 しかし、一度ジャンクションを発動させてしまえばジャンクション中は結の貯蔵庫から幻力を使っていくのではなく、他の貯蔵庫から幻力を使う。

 『セミ』『ノマル』『フル』『ハーフ』とジャンクションの種類によって増える幻力が違うのは己に接続する貯蔵庫の大きさの差だ。

 今回結はいつも使っている幻力効率の良い固有幻装だけでなく、効力が高く汎用性も高い自由幻装を使った。

 確かにそれによる消費幻力は今までの比ではない。

 しかし、マルチロックを具現化したのはジャンクションした後、つまり結自身の幻力を使ったわけでは決してない。

 結の消費した幻力量は『フル』を発動したのと同じ量のはずなのだ。

 しかし、現在結の身体に起きているのは明らかな幻力の使い過ぎだ。


(俺自身の幻力量が減っているのか?)


 消費が変わっていないのであれば可能性はそれしかない。


(俺はまた……弱くなるのか?)


 結の心にあるのは一つの感情。

 それは、


 恐怖。


 力の消失を既に結は何度も経験している。

 本来平凡的な力しか持たないはずの結が天才たちと同等、あるいはそれ以上の力を使っていることによるリスク、対価なのかは知らないが、幻操師となったあの日から力の消失を本来なら到底ありえない回数経験している。

 ……同時にありえない回数、力を取り戻しているとも言える。


 結にとって力の消失はただ力を失う恐怖だけではない。

 それはある意味、トラウマなのだ。

 【テニント】の時と違い、あの時は突発的な力の消失ではない。

 『再花』によるリスク。

 一時的に失った力を一時的にさらに強大な力として強制的に取り戻すための負った、力の完全消失。

 それは必要だったからしたこと。

 あの時、『再花』をしてことに悔いはない。

 ……だけど、あの日。結に力がなかったばかりにアノ子は……。


(……っ! だめだ! 弱気になるな! 幻操の力は心の力。希望の力なんだっ! 消沈してる場合じゃない。動けっ動けよ!)


「動けって言ってるだろっ!!」


 痛みと疲労のダブルパンチによって動かなくなってしまった自分の身体に結は鞭を打った。


(気合いが本当の力。それが幻操師なんだ! 気合いがあれば動くっ!)


 感情や心から発せられる力を具現化することの難しい【物理世界】でさえ気合いによって身体に力が戻ることがあるのだ。

 ここは【幻理領域】。

 物理ではく、幻理が支配する世界。

 気合いはまさに、不可能を可能にする魔法の力のようなものだ。

 その魔法を使って結は立ち上がった。

 痛む身体を無理やり起こしたのだ、全身には激痛が走っている。

 全身に酷い筋肉痛のようになっていることになんら変わりはないのだ。

 それでも結は立ち上がる。

 手に入れた資料を届けるため。

 もう、仲間を死なせないため。


「ハッ! こいつが生十会とかいうカス共の一人かよっ! まるでゴミ屑みたいじゃねえかっ!」

「ホホホ。なかなか可愛らしいでざます」

「テメェはキメェつってんだろクソババアっ!」

「ホホホ。醜い男の言葉に興味ないざます」

「ああんっ!? ぶっ殺すぞクソババアっ!」

「…………誰だ。お前ら」


 森の奥から現れた二つの影。

 近付くにつれてその姿がはっきりとしていった。

 一人は八重歯をギラつかせ、威嚇するかのように喧嘩口調ではなす男。その隣を歩いているのは全身に大量の宝石類を身につけている年配の女性。


「ハッ! テメェに教える義理はねえんだよ! さっさとテメェはくたばれ屑が!」


 その男は明らかに敵意を持っているようだった。その実力は今の結ではあまり正確に測ることは出来ないが、少なくとも今の結よりも遥かに強い。それだけは痛いほどにわかった。


(……絶体絶命ってやつだな)


 二人を見た瞬間、こいつらの正体はなんとなくわかった。

 細身の身体に長い赤髪。肉食動物を思わせる八重歯に、威圧的なオーラ。

 もう一つはまるで病気なのではないかと疑ってしまうほど全身に宝石を身につけ、宝石を見るうっとりとした視線は宝石への強すぎる執着心を感じさせる。


「……失われた光(ロストブレイズ)。不知火に風祭か……」


「っ! ……ほう。テメェ、どこでそれを知りやがった」

「教えるわけないだろ?」


 二人とも明らかに動揺の色が見えた。どうやらビンゴだったようだ。

 失われた光(ロストブレイズ)の四家がそれぞれどういった人間たちだったのかは情報として知っている。

 あいつからの情報は正直なところ当てにしていなかったのだが、どうやら事実だったらしい。

 ……それなら、あの話もやはり本当なのかもしれない。法具の真実。もしそれが本当なら俺は……。


「ハッ! 敵を前に考え事か? ずいぶんなめた真似してくれるじゃねえかっ! テメェが俺たちのことをどこで知ったかなんてもう糞どうでもいい。ここで死ねやコラッ!」


 不知火は怒りに顔を歪めると無造作に腕を上げた。

 掌から目視出来る量の赤い光が迸り、それが一瞬で中指に着けている指輪型法具へと注がれた。


(しまっ!)


 想像よりも早く、スムーズな動きに結の反応は遅れた。戦闘において、一瞬の判断ミスはそのまま敗北へと直結する。

 指輪が光、不知火の向けた掌に赤い光球が生まれた。それが結へと放たれる瞬間、


「ホホホ。待つざます」


 風祭が不知火の腕を掴んだことで球体はその姿を消した。


「ちっ。なんで邪魔しやがるクソババアっ!」

「ホホホ。殺すのは勿体無いざます。それに情報源を聞き出す必要もあるざます」

「……ちっ。確かに情報源は気になるがそれよりも生かしておく方が厄介だろうがよ!」

「ホホホ。意外ざますね。怖いでざますか?」

「ああんっ!? 喧嘩売ってんのかクソババアっ!」

「事実を言ったまでざます」

 

 風祭の言葉に不知火はイライラは明らかに上がっていた。

 顔中に怒筋が浮かんでいる不知火を眺め、風祭は愉快そうに頬を緩ませた。


「……ちっ。確かにこんなゴミ屑みたいな今のこいつよりも全快のこいつとやりたいからな」

「ホホホ。そでざます」

「テメェが運べよ?」

「断るざます。レディーに持たせるなんてさすがは不知火ざます」

「ハッ! ババアがレディーとかほざいてんじゃねえぞ?」

「ホホホ。口の利き方を知らないでさますね。……ここで潰してもいいざますよ?」


「っ! 上等だクソババアっ! 返り討ちにしてやるぜ!」


 不知火が風祭の腕を振り払った瞬間、二人は攻撃行動へと移った。

 互いを叩きのめすため、嫌いな相手を地面に這い蹲らせるため。


(……同士討ちが一番いいんだが、それは無理か……)


 幻力の使い過ぎによる疲労と痛みによって動けなくなっている結はいつの間にか再び膝をついていた。

 それは力尽きたからではない。少しでも早く身体を回復させるため。そして二人を油断させるためだった。


(……身体の回復はまず無理だな。ジャンクションも出来ないし、こんな身体じゃ『始まりのトンファー(アルファー)』もまともに使えないな……どうにか隙を見て逃げるしか)


 結は冷静に二人を観察していた。

 二人はそれほどバカではないのか互いに武器は使わずに、素手で殴り合っている。

 互いに幻力を込めた攻撃をしていないようだし、殺し合いというよりもただの殴り合い。子供の喧嘩そのものだ。


(友達か? いや、にしては年が離れ過ぎてるか……いや、友と恋に年齢差は関係ないか……)


 あれでは確かに痛いだろうが殺傷能力はさほど高まってはいない。

 多少動きは鈍るだろうがそれでも相手が格上。さらに一対二だ。

 奇襲したところで勝率はないに等しい。

 そもそも殴り合いながらも二人は決して意識から結を外してはいない。奇襲をすることすら出来ないだろう。

 しかし、奇襲を仕掛ける以外助かる可能性は万が一もない。


「お前たち。そこまでだ」


 結が奇襲のタイミングをはかっていると重々しい声が耳に届いた。

 痛む身体を無理やり動かし、音の聞こえた方向に顔を向けるとそこにいたのは剛木と同等。いや、それ以上の筋肉に覆われたごつい男だった。


「……ちっ。林原」

「ホホホ。あなたが動くなんて珍しいざます」

「……なんかあったのかよ」

「そいつをアジトに連れて行く」

「「!」」


 林原の言葉に二人は驚愕の表情を見せた。


「おいっ! どういうことだ!」

「そいつには人質の価値があるということだ」

「ああんっ!? 意味わからねえぞ!」

「……ホホホ。なるほど、わかったざます。そもそもそのつもりだったざます」

「不知火。貴様が運べ」

「ああんっ!? なんで俺が運ばねえといけねんだよ!」

「黙れ。命令だ」

「……ちっ」


 苛立ちを隠せぬまま不知火は渋々承知すると結の前に立った。


「寝とけクソガキ」


 不知火の蹴りを避けることが出来ず、結はまるでサッカーボールのような蹴り飛ばされていた。


(……くそ……)


 そして結の意識は闇へと落ちた。

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