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7ー37 本当の機能


 化け物が蠢く森の中を水色の髪を靡かせて一人の少女が舞っていた。

 両手にはそれぞれ白銀に輝く刀剣を持ち、踊るかのように化け物を一体、また一体と真っ二つにしていく。

 化け物たちの姿は様々だ。しかし、全てに共通することはどこか見覚えのある姿をだということ。

 たとえば、蟷螂(カマキリ)だったり、蜥蜴(トカゲ)だったり、蝙蝠(コウモリ)だったりと【物理世界】で実際にいる生き物に近い姿をしているものの、それはやはりどこか歪で、化け物であると実感させられる。

 足を軸として回転するかのように化け物、イーターたちを切断していく少女の表情はとても楽しそうで、まるで無邪気な子供そのものだ。


「んー。数全然減らないなー。さすがに疲れてきたんだけどなー」


 一旦その場から飛び、再び屋根の上に降り立った少女は、うっすらと疲労を顔に映していた。

 現在少女、ルナが見えている範囲だけでもまだまだ五○○は残っているだろう。つまり、まだ半分程度なのだ。


「あーあ。いやになっちゃうなー。僕、あんまし雑魚には興味ないのにさー」


 口では文句を言っているのだな、言葉に反してその表情は楽しそうに笑っている。


「んー。やっぱり僕じゃ一対多は非合理的だねー。お久な出番だったから気が引けるけど、まー、しゃーなしだね」


 ルナは残念そうにため息をつくと、手に持つ双剣を足元の屋根に突き刺し両の手を合わせた。


「バイバイッ!」


『フルジャンクション=カナ』


「……行くよ」


 『ルナ』を解除した途端、屋根に突き刺していた双剣は光となって拡散し、拡散した光は『カナ』となった結の手集まっていくと、今度は『カナの二丁拳銃』として具現化されていた。

 火速によってその場から消えるように移動した先は空中だった。


(……ひー、ふー、みー…………キリがない。今なら使えるし、使お)


 天高く飛んだカナは地面で蠢くイーターたちの数を一体一体数えおうとするが、その多過ぎる数を見て即座に諦めるとナイスアイデアとばかりに手首の法具を起動した。

 いつもより多く体から溢れる幻力を法具へと注ぎ、その法具本来の機能を起動させる。

 過去、春樹はこれをボックスリングと勘違いした。

 しかし、これはボックスではない。『記憶』と『再生』二つの式を組み合わせることによって千の形状を記憶し、使用者の実力に応じて相応の武器を具現化させる進化するボックスリング。

 名を、


「……『未知への鍵(イクスリング)』起動。固有幻装及び自由幻装の使用許可を申請」


【固有幻装及び自由幻装の使用許可申請を確認しました。……申請許可します。何をご利用ですか?】


「……第三世代幻装。マルチロック」


【了解しました。第三世代幻装。マルチロックの使用申請を許可します。充幻をお願いします】


「……ん」


 カナは全身から目視できるほどの幻力を放出し始めていた。全身から月の属性の色。純白の光を放出する姿はまるで純白の太陽のようだ。

 幻想的な光景はすぐに終わりを迎える。

 放出された幻力が一定量を超えた瞬間、まるで停電が起きたかのように突然消えた。

 実際には光の全てが一瞬で『未知への鍵(イクスリング)』へと吸収されているのだが、それを目視することは到底不可能だ。

 『未知への鍵(イクスリング)』が輝き始めることで吸収を見ることができなくとも理解できる。

 たった今、『未知への鍵(イクスリング)』に幻力が注がれたのだと。

 『未知への鍵(イクスリング)』に付けられた機能はあまりにも多い。通常の法具のようにスイッチだけでどうにかなるレベルではないのだ。

 普通の法具が拳銃、つまり引き金を引けばその役割を実際するのに対し、『未知への鍵(イクスリング)』は膨大な引き金の中からその時望むものを選択し、それを引くという面倒さなのだ。

 それでは○、一秒でも惜しい実戦では到底使い物にならない。

 そのため、それらの面倒なことを全て省略するための機能をつけた。

 自分でやるのが面倒ならば他の奴にやらせればいい。

 つまり、人工知能を搭載したのだ。

 その時望むものを曖昧にでもいいから音声、またはキーボードで入力する。すると人工知能『BAG(ビーエージー)』、通称『ロゼ』が自分で判断し、それを膨大なデータの中から探しだし、提供してくれる。

 カナからマルチロックの具現化を頼まれたロゼは即座にそれを具現化するための条件を探し出す。

 そしてそれが現在の状況でクリアなら申請を許可し、幻力の注入を願う。

 幻力注入が終わればすぐに『未知への鍵(イクスリング)』に内蔵されている小さな粒子たちを幻力を使い増殖させ、外に放出。オーダー通りのものを具現化させる。


「……ん。ありがとロゼ」


【お礼など必要ありません。王……いえ、ガーディアン殿】


「……それでも」


【……ありがとうございます。それでは】


 『未知への鍵(イクスリング)』から流れているわけではなく、直接頭に響く声はぷつりと消えた。

 ただロゼと話していただけではもちろんないのだ。

 カナの姿は一見でわかるほどの違いがあった。

 無口キャラのカナにとある属性が追加されているのだ。

 カナの両耳から伸びる細い線。それは前へと伸びており、途中で直角に曲がっている。上から見ると『コ』の字をしているそれ。

 カナのちょうど目前でただの直線から曲線となり、円を作り出しいる。

 所謂(いわゆる)、眼鏡だ。


 眼鏡型スコープ。マルチロック。

 その機能は正直言って単純だ。本来ならば目視によって一つ一つ確認し標準を合わせるのだが、これをつけることによって視界に映る任意のターゲット全てを同時にロックオンすることが出来る。

 マルチロックの操作は全て幻力によって行う、幻力とはつまり心の力なのだ。強く願いながら注げは意味を持ってくれる。

 幻力で操作するとはつまり念力操作に近いかもしれない。


(……ターゲット数、五七二……自分で数えるのは無理だと思う)


 レンズに映るマルチロックによって自動的に数えられたターゲットの数を見てカナは小さくため息をついた。


(……位置も記憶した。あとは余裕)


 左右の拳銃から定期的に炎を撃ち、ずっと空中に滞在し続けていたカナはターゲット全ての座標を記憶したことで行動に移った。


 通常、拳銃とは照星(フロントサイト)照門(リアサイト)を合わせることによって標準を定める。

 しかし、今カナが持っているのはただの拳銃ではない。あくまで拳銃としての機能も付けられているだけであり、本来は拳銃型法具なのだ。

 幻操術の発動する際、その標準はどう決めるのだろうか。

 法具の多くが拳銃型だ。それは幻操術というある意味遠距離武器であるそれの標準を定めるのに最もイメーヒがしやすいものだからだ。

 弾系の術であれば法具の先から真っ直ぐ撃たれるのだが、壁系だとそうはいかない。

 幻操術の標準とは空間を三次元的に把握し、自分の地点をx座標y座標z座標を○と仮定し、発動させたい場所の座標を幻力を通して入力するのだ。

 いろいろと難しい話になってしまったが、つまるところ、

 幻操術の標準とは五感の内どれかでターゲットを正確に把握すればいいのだ。


 ターゲットの位置さえ把握してしまえばそれで標準は定まったことになる。後は引き金を引くだけ。カナは再度全身から多量の幻力を溢れさせる。

 そしてそれを今度は目視出来るスピードで二丁拳銃へと注ぐ。

 弾の発射地点はこの銃口の先。着弾地点は今ロックしたイーター共。


弾月(だんげつ)=マルチショット』


 弾は発動時に注いだデータ通りに進む。そのため、撃った時点でターゲットが動いてしまうと当たらない。

 しかし、マルチロックを使っている場合はその心配はない。

 ただ五感のどれかで把握していればいいだけなのであれば、目視するだけでターゲットは定まる。しかし、カナはわざわざ眼鏡型スコープマルチロックを具現化した。

 それは何故か。

 単純だ。五○○を超える敵なのだ、その全ての動きを読むことなんてできない。

 動くターゲットを撃つ際、相手の動きを多少読んだ上で撃つものだ。

 しかし人間にそれを同時に五○○以上もすることはできない。

 ただの人間にはできないが、マルチロックにはそれが出来る。

 つまり、今放たれた全ての弾月(だんげつ)はプロが敵一人に神経を注ぎ、正確無比の技術を持って撃ち抜くのと同等の正確さを誇り、結果、五○○を超えるイーターたちはその姿を消滅させた。


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