7ー35 キメラ? いいえ、ただのハーフ&ハーフだよ?
「……ねえ、楓。どういうこと?」
役員たちを解散させた後、会長は立ち去ろうとする楓を引き止めていた。
神妙な表情を浮かべている会長の言葉からは、素直な焦りと、疑問、いや疑惑と言うべきであろう感情が読み取れた。
会長の表情から覚悟さえも感じ取った楓はため息を一つ零すと、会長へと振り返った。
「楓。どうして結はわざわざあんなことを書いたの。あなた、誤魔化そうとしたわよね? 何を知っているの?」
結からの手紙には他にも書かれていた。
それはたった一言。
止めてくる。
何を止めるかなんてことは書いていなかった。ただそうとだけ書かれていた。
だけど、全文を読んでいる会長ならば簡単に推測することが出来た。
止めてくるという言葉と三日の間に戻らなかった場合、俺は消滅したと思ってくれという言葉。
この二つから推測できること、
「……何か、良からぬことを企んでる奴らがいるってこと?」
「……さすがは会長だな。それに答える前に一つ聞いていいか?」
「……何をよ」
「会長はどこまで覚えてる?」
「覚えている? それってどういうこ……と…………えっ?」
何かに気付いたように、会長は目を大きく見開いた。
「楓。話があります……会長?」
会長が軽く放心していると、開けっ放しにしていた扉から六花が顔を出した。
会長が楓のことを引き止めていたことは知っている、だから二人で何かを話しているであろうことはわかったが、会長が放心しているのを見て驚いていた。
「……なるほど。そういうことですか」
「六花、時間があまりない。ちょっと気付けしてくれないか?」
「……わかりました」
六花の手の平に氷の粒子を含んだ光が溢れ出すと、六花はそれを会長の額にピトッとくっ付けた。
「ひやぁっ!! な、なにするのよっ冷たいわね!!」
「放心している会長が悪いんです」
「もっかい聞くぞ? 会長はどこまで覚えてる?」
真剣な表情を浮かべる楓に会長は小さくため息をこぼし、一瞬目を伏せた後、すぐに顔をあげた。
「……全部よ。今思い出したわ」
「今思い出した? どういうことだ?」
「まぁまぁ、それはいいではありませんか。それよりも、さっきの手紙、どこか省略しましたね?」
「ああ、結の奴、どうやら止めに行ってくるらしい」
「! ……そうですか。無事ならいいのですが……」
「無事に……ね。本当に出来るのかしら」
会長のぼそりと漏らした言葉に楓はムッと顰めた。
「会長は結の力を信じていないのか?」
「いいえ。信じてるわよ。……でも、相手が巨大過ぎるわ」
「会長はアヤメ、ああ、鏡たちを奇襲した奴のことな? でだ、アヤメについてどこまで知ってる?」
「へえ。敵の名前はアヤメっていうの、そのアヤメについての情報は皆無よ。でも、代わりにアヤメの背後にいる人物に心当たりがあるわ」
「それならこちらも心当たりがありますよ?」
「あら。それは残念ね。それでどこかしら?や
「一つはほぼ一○○%正しいですが、もう片方は推測でしかありませんよ?」
「それでいいわ。どこ?」
「確実なのは新真理。これは潜んでいたメンバーと戦い、その者がつけていた腕章によってわかりました」
「……へぇ。新真理ね。確かに奴らならやりそうね」
「もう一つは失われた光」
「っ!!」
楓と言葉に会長は音無く絶叫した。
(どうして? どうして失われた光のことを知っているの!? あれは、あたしたち始神家だけしか知らないはずなのに!!)
会長の様子が明らかにおかしいことに気付きながらも、今は気にするべきではないと思い、続きを話した。
「こっちの情報源は結だ。失われた光ってのはどうやら十二の光になれなかった奴らのことで、今の幻操師社会を恨んでいるらしい奴らだ」
「……そ、そう」
会長はどこかほっとしたようにため息をついた。
情報源が結だと聞いた時、それはそれで衝撃が走ったがすぐに落ち着いた。
正確な情報を知っているわけではない。それがわかったからだ。
(正確ではないにしろ、どうして結が失われた光について知っているのかは確かに気になるけど、それよりも今はこっちが重要ね)
本来の強い責任感から問題の追求を心に決める会長だが、同時に優先事項がどちらなのかを見極めていた。
「会長の心当たりはどこなんですか?」
「え?」
「会長も心当たりがあるんだろ? それを聞いた方がいいだろ?」
「え、えぇ。そうね。でも、残念ながらあたしの心当たりも同じで失われた光だったのよ」
「へー。さすが会長。良くそんなこと知ってるな」
会長の知識量が驚き、楓は珍しいことに本心から手を叩いていた、
「意見があったということは、やはり新真理と失われた光。二つともアヤメの背後にあるということでしょうか」
「……その可能性が高いわね。でも、それだとさらに厄介ね」
「……そうですね」
会長の心当たりは元々失われた光だけだった。それでも結一人では戦力不足だと思った。だけどそこにさらに新真理が相手の戦力に加わるとすれば、それは最早絶望だ。
「……結……」
三人は結の名前を静かにつぶやいた。
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「さて、どうするか」
雪乃の懐に手紙を忍ばせた後、結は一人で【F•G・南方幻城院】の外へと繫がる門の前にいた。
(監視員に二人に、戦闘員が一○人ってところだな。外にはイーターはウヨウヨしているとは言っても、建物の周囲には結界で入れないんだし、良いと思うんだがな。……あっ、そっか。こいつらはイーター対策じゃなくて、無許可外出対策か)
映画とかファンタジー物の創作作品ぐらいでしか見る機会なんてないであろう格好をした大男が二人。
身の丈の三倍ほどある長いランス、全身を隠せるほどの大盾。それに全身に纏う甲冑。無理やり通るのはちと難しいかもしれないなっと、結はため息をついた。
(しゃーない)
結は再度ため息をつくと、両手を合わせ目を瞑った。
『ジャンクション=カナ』
カナの二丁拳銃を具現化した結は、体制を低くするとさらに術を起動する。
『ハーフジャンクション=カナ&サキ』
本来であれば一人ずつ、交代でジャンクションするのだが、結は一分野の力だけでは限界を感じた。
確かに四人の女神のおかげでジャンクションから別ジャンクションに移行する時には合掌を必要としなくなったのだが、それでも僅かに時間ロスはある。
ロス、時間の間があるということは同時は無理だということだ。
特化型は確かに優秀だ。しかし先の通り結はそれに限界を感じた。だからこそ発展系ジャンクションを新たに作り出したのだ。
それこそがこの『ハーフジャンクション』だ。
その効力は名前からわかると思うが四人の女神の内、二人を同時にジャンクションする。
そうすることで二つのスタイルを同時に使うことが出来るのだ。
しかし、もちろんこれにもデメリットはある。
一つは『ハーフ』の発動には例え『四人の女神』発動中だとしても合掌を必要とする。
さらには通常のジャンクションが合掌後すぐに効果が現れるのと違い、数秒のためを必要としてしまう。
これだけでも実戦の中で使うことは難しい、しかしこれだけでは止まらず他にもデメリットがある。
それはこの能力の足し算ではないということ。
例えば『カナ』の力と『ルナ』の力を『ハーフジャンクション』した場合、『カナ』と『ルナ』、二人の力を最大まで引き出すことが出来ない。
最高は精々七割程度だ。
しかし、それでも工夫次第で特化型を一時的に超えることだって出来る。
カナの二丁拳銃による火速。それと同時に両足裏から『衝月』を発動したジャンプ。陸上競技の時にあるような突起物を『サキ』の糸で作っておくことでジャンプの方向を上でななく、横にする。
さすればその時の速度は、
『火衝月速』
「……ん? 今何か通ったか?」
「いや? ただの風だろ?」
正に疾風の如く。




