7ー29 なんで?
「おそらくだが、新真理はこの一年間、何もしてこなかったわけじゃないんだろうな」
「その可能性が高いですね」
「活動がこんな急に活発化したのは失われた光が接触し、力を与えたからってことだな」
「まあ、そういうことなんだろうな」
新真理だってこの一年間、何かの準備をしていたはずだ。それが一体なんなのか、それはわからない。だけど、その何かはきっと結たちにとって良くないことであることに変わりはないだろう。
(阻止してみせる。もう、失うのは見たくない)
「そうそう、それと、さっきアヤメと戦ったぞ」
「そうか……って、はっ!? 痛っ」
「結!? 急に動いてはダメじゃないですかっ」
「いやっ、だってっ」
「何を取り乱してんだ? 結」
お前のせいだよ! っという言葉は声にならなかった。
驚きのあまり急に動いたせいで、全身に走る痛みがそれを許してくれない。
「……はぁー。結、触りますよ」
「おいっ! 六花っどこに手を入れていやがる!」
六花は結の言葉を全無視すると、あまりの痛みで横になってしまった結の服の中に、手をスルリと滑り込ませた。
「おいっ、りっ……くく、やめ、くすぐった……くっ、あははっ」
「結、おとなしくしてください」
「おとなしくもなにもっ、俺は動けないんだよっ」
ベットの上で少年の上に覆い被さる一人の美少女。
第三者が見ればそれはなんとも妖しい雰囲気を醸し出す現場なのだが、それを見ている楓の目に映るのは。
(痛みで泣き叫ぶ結を責める六花って感じだな)
普通男女逆じゃないか? っと密かに思いながら、楓は面白そうだからという理由で何もせずに、ただ眺めていた。
「六花っ、退けって!」
「おとなしくしてください。もう少しで終わりますから」
「何が!? 何が終わるんだ!?」
「むう。うるさいですね。楓、結を気絶させてくれませんか?」
「ん、オッケー」
「楓!? 気軽に了解するなよっ」
「ていっ!」
六花に体を無理やり起こされた直後、首に強い衝撃を受け、結は気を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結が目を覚ましたのはまだまだ外が暗い時間帯だった。目覚めた結はとりあえずベットから起き上がると今の時刻を知ろうと時計を探した。
時計を見る限り、結構な時間を気絶していたらしい。
(楓と奴め。まだ首が痛い……)
結は楓に手刀を落とされた首を片手で摩りながら、ソファへと腰掛けた。もう一度眠るには足りないし、だからといって起きているには長い微妙な時間。
結はこの時間を潰そうと、両手首に着けた法具を起動し、『始まりのトンファー』を具現化した。
『始まりのトンファー』は超を何個つけてもいいぐらいの精密機器だ。
具現化中は『記憶』と『再生』を常時展開しなければならならほどなのだが、『再生』だって精度は一○○%ではない。そのため時にはオーバーホールが必要だ。
一度のオーバーホールには約二時間ほど掛かる。
戦場では致命的な時間なのだが、そもそも『始まりのトンファー』はオーバーホールの必要性がないくらいなのだ。
だけどこうして時間が余った時の時間つぶしにはいい。
(ついでだし、強化しとくかな)
中の仕込みを弄るにはオーバーホールした状態でないといけないため、絶好のチャンスだ。
オーバーホールのために必要な道具も具現化し、さあこれから始めようとした時、結は外からする妙な気配に気付いた。
(はぁー、またか。起きてから体の調子もいいし、行ってみるか)
六花に体を弄られてからというもの、どうも体の調子がいい。
六花の属性は氷。氷属性の特性は『凍結』それを駆使すれば痛みを凍結させることもできるかもしれないが、それはあくまで痛みを感じさせないようにする麻酔の効果があるに過ぎない。
(無理は禁物だな)
結は夜道を走っていた。部屋で感じた妙な気配はまだ移動していない。
(あそこだ)
ホテルの近くにある茂みの中から気配は感じる。あそこには前も怪しげな連中がいたし、おそらく戦いになるかもしれない。
(一応、しとくか)
結は一旦立ち止まると、体内で幻力をたぎらせ、合掌した。
『フルジャンクション=結花』
少年の姿から美少女へと変化した結は、結花専用の刀を具現化すると、気配を殺し、茂みの中に入った。
(……あいつは……)
結は茂みの中にいる人物を見つけた。暗くてまだ良く見えないが、黒いコートを着た怪しげな人物。
(……奇襲するか? いや、まだ何かをやったっていう証拠もないし、他校の生徒だったら色々厄介だしなー)
焦れったく思うが、他校のそれも選手だった場合こっちの方が捕まる可能性だってある。
相手が動き、その顔され見えれば行動を起こせるのだが、
(動いたっ)
どうやら何かを探しているらしく、キョロキョロとしてそいつは、とうとう後ろを向き、その顔が結の目に映った。
(……え? なんで?)
結は思考が停止した。
純白に染まった面、三日月模様のような三つの穴。
そこにいた人物を、結は知っている。
(……ノースタル?)




