7ー28 つねらないでよ
『月烈光』と『斬月=爆』。
二重の爆発が巻き起こり、一帯は再び粉塵に覆われていた。
「ごほっごほっ。楓……」
粉塵にむせながら、どうにか楓の姿を目視しようと、見回す六花の視界に、ゆらりと動く影が映った。
「六花」
「楓……よかったです……」
「あはは。ごめん、怪我ないか?」
「私は大丈夫です。楓は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だぞ。そもそも、自分の起こした爆発で怪我しちゃダサすぎだろ?」
「それもそうですね」
(よかった。どうやらいつもの楓に戻ったみたいですね)
口調も初期のどこか気の抜けたような、怠そうにしているようなものに戻り、纏う雰囲気も刺々しいものから、眠気を誘うようなものに戻っている。
(やっぱり、楓はこっちの方が似合いますね)
六花は嬉しそうに目を細めると、手を口元に当てて、クスクスと小さく笑った。
「……六花? なに笑ってんだ?」
「いえ、なんでもありません。それで、アヤメはどうなったんですか?」
六花の問いに楓はどこか気まずそうに視線を逸らし、頬をかいていた。
「……楓?」
楓の様子に首を傾げつつも、追求するように詰め寄った六花に、楓はやや仰け反りながら、降参をした。
「ごめん。逃げられたっぽい……」
「あぁ。なるほど。……微かにですが、ここから急速に離れる気配がありますね」
「追えるか?」
「……いえ、気配だけではもう無理ですね」
「……そっか」
目を瞑り、あの粉塵に紛れて逃げたのであろうアヤメの気配を捉えた六花に、楓は申し訳そうに顔を伏せた?
「……そろそろ会場に戻りませんか?」
「……ああ。ここにいても仕方ないしな」
「結と美雪の試合はどうなったでしょうか?」
「結が勝っただろ? ……って、言いたいところだが、美雪も相当強いっぽいからなー」
初対面の時美雪の術を無理やり壊した楓だが、あれは不意打ちだったこともあって容易にできただけであり、実際に戦うとなればそう簡単にはいかない。
実戦ではなく、ゲームではあるがむしろルールのあるゲームだからこそ純粋に幻操師としての素質が問われると言っていい。
「この目で見るしかないですね」
「試合、間に合うか?」
「……まあ、無理でしょうね」
「……はぁー。まぁいいや。行くぞ」
「了解です。楓」
直後、二人の姿は消えるようしてなくなった。
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【F•G・南方幻城院】、F•G一行の集まる会議室には、既に六花と楓の姿もあった。
結局楓たちが着いた時には既に試合は終わっており、これから夜の会議を始めようと集まっているところだったらしく、偶然会った陽菜に案内され、会議に来ていた。
楓たちが【F•G・南方幻城院】から離れてから既に時間単位で過ぎていたのだが、どうやら試合はちょうど終わったところだったらしく、疲労のためか二人の姿は見えなかった。
試合結果としては第三ゲームの中盤で美雪がシュートを決め、その後同点のまま時間を迎えたらしい。
始たちが棄権したことで時間に余裕があったことや本人たちが希望したことと、何より観客たちからも決着を見たいという声が多くあがり、延長戦が行われたのだが、五分の延長戦を何度しても互いに得点を挙げることが出来ずに、結局つい先ほどまで戦い、両者共に試合を続けられる状態ではなくなったため、引き分けということになった。
元々どちらが優勝してもガーデン対抗戦として獲得点数は変わらないために認められた引き分けとも言える。
決着を見ることは叶わなかったが、観客たちは二人の試合に大いに興奮し満足したようで、引き分けとして終わった際には仲間の肩を借りて退場する二人に、大きな拍手が送られた。
「さて、まずは今日の試合お疲れ様」
「会長? 一番それを言ってあげるべき二人がいないけど?」
「桜、うるさいわよ? 頑張ったのは結と美雪だけじゃないでしょ? 二人には後で労いの言葉くらいいくらでもあげるわよ」
「……へぇー。それは本当に言葉だけなのかなー?」
「……桜? それはどういう意味かしら?」
「またまたー、わかってるくせにー」
会長に睨まれ、うっ、という呻き声と共に口を閉じた桜だったが、すぐにニマニマとした笑みを浮かべ、会長をからかい始めていた。
「……はぁー」
「……大変だな、六花」
「そう思うなら代わりに進行役してくれませんか?」
「断る」
会長が桜と喧嘩を始めたことで六花がため息をつきながら進行役を代わろうとしていると、ふと労いの言葉をくれた楓に代わりを頼もうとするが、即答で断られたため、憂鬱そうに再びため息をついた。
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会議も無事に終わり、楓と六花は結が休んでいる部屋へと向かっていた。
「まったく、幻力の使い過ぎで倒れるなんて、バカなのでしょうか?」
「バカなんだろ?」
急激に幻力を使い過ぎると、幻力が減ったことで自動的に発揮する身体強化が無くなり、その急激な変化に対応出来ずに倒れることがある。
元々ジャンクションによって能力の底上げをしていた結にとって、その変化は致命所レベルだったらしく、ルームメイトだった鏡のいない部屋で一人寝ているらしい。
コンコン
「空いてるぞー」
「……失礼します」
「失礼するぞー」
ノックをすると間をまったくおかずに、即座に返事が返ってきたことに内心少々驚きながらも、二人は部屋の中に入った。
「……あれ?」
「致命所と聞いたのですが……」
楓たちが見たのはベッドに座り、いつもとなんら変わらない姿でいる結だった。
「致命所って言っても体が壊れたとか、そんなんじゃないからな。近い表現だとあれだな、極度の全身筋肉痛」
「……それって結構痛くないか?」
「あぁ……めっちゃ痛い」
「ドンマイとだけ言っておきましょう」
「おい六花、それは心配してるのか? それとも茶化してるだけか?」
「さあ? 半々ですね」
平気そうにしているが、今だって全身鋭い痛みが走り続けている。
どうにか自幻術を駆使することで擬似的な麻酔効果を生み、痛みを和らげているのだが、それでも痛いものは痛い。
「結、あたしは心配してるぞ?」
「……楓だけだな。優しいのは」
「……む。それはどういう意味ですか?」
「痛っ! 六花っなぜつねる!?」
「結には教えません」
ただ座るだけなら問題ないのだが、動くのはまだ辛いため、結は不機嫌そうにしている六花から理不尽に頬をつねられていた。
あくまで、結からしたら理不尽というだけだが……。
「六花ってクールキャラだと思ってたが、意外とツンデレなのか?」
「楓? 冷凍しますよ?」
六花の妙な気迫に楓は両手を挙げて降参の意思表示をしていた。
「……はぁー。もういいです」
「たくっ、人が動けないのをいいことに散々つねりやがって……」
「なんですか? まだつねられ足りないと?」
「いえいえっそんなことないですよ!?」
引いた手を再び頬に向けてきたことで、体が痛いことも忘れ、今度は結が両手を挙げていた。
「そろそろ本題にしましょうか」
「話を思いっきり変な方向に向けたのは六花だけどな」
「結。何か?」
「…………いや? なにも?」
……六花……怖い。
「六花、それくらいにしとけって。それで本題だが」
「結が美雪と試合をしている間、何者かが見てました」
「……そうだな」
「気付いてたんですか?」
「あぁ。お前ら二人がいなくなったからまた大丈夫だとは思ってたんだが……当たりか?」
「はい。どうやら今回の一件。アヤメの背後にいるのは新真理のようですね」
「新真理か……」
組織の名前を聞き、結は深刻そうにつぶやいた。
「結は知ってるのか?」
「ああ。反幻兵団寄りの思考を持った連中だな」
結が知っているのも当然だ、結が【神夜】に入った時、自由と交換条件に提示された殲滅するべき一○○の組織の中にその名前があった。
手を下したのは結ではなく、奏たちなのだが、本部は壊滅し、支部も大方潰したのだが全てを潰すことは出来ずに残党がいたようだ。
今の新真理はその時の残党が名を引き継いでいるのだろう。
しかし、ここ一年ちょっと前までは動きがまったく無かったのだが、一応裏でとは言え、それでも突然こんな大々的に動くものなのだろうか。
結の頭には疑問が浮かんでいた。
「おそらくバックにいるのは新真理だけじゃないかもな」
「……といいますと?」
「新真理はずっとまともな活動をしてなかった。それなのにこんな急に動く理由があったはずだ。例えば他の組織から戦力を提供されたとか」
「……心当たりがあるのか?」
「失われた光」
「…………」
六花は何も言わない。いや、言えない。知られるわけにはいかないから。
……違う。なにもり六花の胸にあったのは、驚愕。
どうして、あなたが知ってるの?
それこそ、ありえないことのはずだった。
しかし、事実結は知っている。
本来、誰も知るはずのないその名前を、
「失われた光?」
初めて聞く名前に、楓は首を傾げていた。
「ん? あぁ、そっか。楓が知らないのも当然だな。……って、それは六花もか?」
「……はい。なんですか? 失われた光とは」
「俺も詳しいことはわからないけど、とりあえず十二の光になれなかった奴らのことだな」
違う。
思わずそう言いたくなった六花だったが、ギリギリのところで言葉をせき止めていた。
(……ですが、ある意味十二の光になれなかった四の光。的外れという訳でもなさそうですね)
「へぇー。結って意外といろいろ知ってるな」
「意外は余計だ。前に教わったんだよ」
「誰にですかっ!?」
「うおっ。やけに食いつきいいな」
おっと、思わず理性を失ってしまいましたね。っと六花が人知れず反省していたが、六花がそうなったのも仕方がない。
(場合によっては……)
六花が心の中で一つの覚悟を決めたことも知らず、結はその人物について話し出した。
「正直俺もそいつのことよくわかってないんだ。なんせ会ったのはまだ一回だしな」
「一回?」
「そっ。何て言えばいいんだろうな。……うーん。……あっ、そうそう、呼ばれたって言えばいのか」
「呼ばれた?」
「結界みたいなところに呼ばれてな。それでいろいろ教えて貰った。というより、一方的に向うが喋ってた感じだったけどな」
「なるほど。わかりました」
結の答えを聞いて、考え込む素振りを見せた六花は、納得したように頷くと次へと話をすすめさせた。
「ありがとうございました。それで、続きをお願いしていいですか? どうしてその失われた光とやらが関わっていると思うのですか?」
「アヤメの能力だよ」
「アヤメの?」
「アヤメの能力についていくつかわかってな」
「と、いいますと?」
結の言葉に二人は全神経を注いでいた。それほどに結の言う、アヤメの能力とやらが気になるのだ。
「ずっと引っかかってたんだ。『朽木』。どっかて聞いたことがあると思ってな。それで少し調べてみたんだが、面白いことがわかってな」
「面白いこと?」
思わせぶりな口調に、二人はワクワクするのを感じた。
「『朽木家』。【記号持ち】だったんだよ。継承する術は『劣化』」
「『劣化』ですか……」
アヤメの撃ったあの球体、その内部に入ったものを極限まで劣化させ、チリのように崩してしまう。
つまりはそういうことだろう。
結の話を聞いて、六花はアヤメの能力を大方把握した。
「アヤメの素性はわかりましたが、それが失われた光とどう繋がるんですか?」
「……確か、『朽木家』は同じ【記号持ち】の『風祭』『林原』『不知火』『鍵山』の四家と仲が良かったな」
「どうして楓はそんなことに詳しいんですか?」
【記号持ち】の友好関係なんて普通なら知らない。にもかかわらず、良く知っているらしい楓に六花は呆れ半分驚き半分の思いで、苦笑していた。
「昔【A•G】について調べた時にな。ついでにいろいろ調べたんだ。あれほどの戦力、急に消えたろ? だからどっかの【記号持ち】が取り込んだんじゃないのかなーってな」
「……」「……」
【A•G】に所属していた結。それを知っている六花。二人の心境はとても複雑だった。
「それと今思えばその四家が失われた光なんだろうなって思ったんだ」
「楓はどうしてそう思うのですか?」
「……不自然なんだ」
「不自然?」
突然真剣な表情になった楓に、結と六花もつられるようにして真剣さを帯びた。
「約一年前頃からの情報がまったく出てこないんだ。それに、割と最近調べた時にはそれよりも前の情報も無かった」
「……隠蔽、ですね」
「そういうことっぽいな」
過去の情報を消したのは一体誰なのだろう。そんな疑問を、結は感じていた。




