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7ー24  捕獲


 捉えた気配が向かうのは、【F•G(ファースト・ガーデン)南方幻城院なんとうげんじょういん】から外れた場所にある森の中だった。

 元々【F•G(ファースト・ガーデン)南方幻城院なんとうげんじょういん】は広い草原に囲まれ、それを覆うようにして広い森が広がっている。

 この前、バスでここに来た時は森の中に一本だけある、整備されている道を通ったのだが、基本的にはこの森に人の手は入っていない。

 そのため、


「なにこれ、道険しすぎだろ」

「ぐだくだ言わないでください。【幻理領域】なら幻力強化が自動的に適応されるのですし、この程度で根をあげるなんて、物理世界(リアル)ではどうやって生活してるんですか?」

「そんなこと言われてもなー。物理世界(リアル)じゃ普通に生活に学校行ってるよ」

「……本当ですか?」

「……おい。その疑いの目は流石に失礼だぞ」


 怪しい何かを追いかけているという、わりとシリアスな場面だというのに、森の中を高速で駆けながら軽口を叩く二人だった。


「……まあ、いいです。それにしても、それなりに全力を出しているのですが、中々追いつけませんね」

「それなりなのか? 全力なのか? どっちなんだ?」

「そんな事いちいちつっこまないで下さい。日本人だって誤った日本語を良く使うじゃないですかっ」

「まあなー。でも六花? それだと六花は日本人じゃないように聞こえるぞ?」

「……そうですね。言っておきますが、私は正真正銘日本人ですよ?」

「にしては、日本人離れした髪色だよな」


 楓は走りながら視線を隣を並走している六花に送り、過ぎていく風によって靡くその銀髪を撫でた。

 急に触られても一切嫌な顔を見せない六花だが、くすぐったいのか少し頬が緩んでいた。


「……楓? 冗談ですよね?」


 楓が手を退かすと、六花は多少呆れを含ませ、苦笑していた。


「冗談だ。そんな顔するな」

「……本当にわかってますか? 私たち幻操師は物理世界(リアル)幻理世界(こちら)では多少外見に変化が起こります。【幻理領域】はある意味、オンラインのネットゲームのようものですからな。……まぁ、一度ゲームオーバーになってしまえば、記憶を無くすわけですが……」


 六花は一瞬視線を前に戻し、寂しそうな顔を見せるが、すぐにいつもの表情に戻ると、再び楓へと顔を向けた。


「それにしても、不思議ですね」

「なにがだ?」

「どうして多少とはいえ、姿が変わるのでしょうか?」

「それは……あれじゃないか? こっちのあたしたちはある意味アバターってこと……みたいな?」

「みたいなって……いつの時代のギャルですか?」

「言っておくが、年齢詐欺なんてしてないからな? 正真正銘、ピチピチの十二歳だからな」

「わかってますよ。その見た目で大人だなんて言われたら…………あれ? むしろ納得ですね」

「おいっ!」


 六花は楓の体を下から上までさらっと眺めると、納得するようにつぶやいた。

 六花はその後視線を落とした。

 いくら強くても、六花だって年頃の女の子なのだ。

 会長のような絶壁ではないにしろ、桜や、それよりも大きな楓のそれには遠く及ばない高さしかない二つの山を見つめ、悲しそうにため息をついた。


「それにしても……」

「本格的に距離が縮まないなー」


 楓と六花は二人とも全力とまではいかないが、七割以上の力を出して走っている。

 二人ともその実力、内包している幻力量、そのどちらも十二分にSランクの上位以上と言える。

 その二人が七割も力を出せば、その速度は【物理世界】の常人では到底見ること叶わぬスピードだ。

 しかし、逃げるように去っていく気配との距離は全く縮まらない。


(相手もあたしたちぐらいの使い手ってことか? それとも、ただのスピード型か? ……いや、わからないことをぐちぐち考えても意味ないな)


「六花。心装出来るか?」

「……出来ますが、この場でやるつもりですか?」

「相手はあたしたちがわからなくなるぐらい気配を断つ技術に長けてる奴だろ? そんな奴相手にこのまま気配だけ頼りに追うのは愚策だ。早く目視で捉えないと逃げられるぞ」

「……それもそうですね」


 六花は静かに目を伏せてため息をつくと、そのまま続けた。


「私の心装は発動と同時に周囲に冷気を放出してしまうのですが、大丈夫ですか?」

「ん? どれくらいの冷気だ?」

「んー、そうですね。ある程度抑えることは出来るので、冷凍庫くらいでしょうか?」

「……抑えてそれか?」

「はい。それがなにか?」

「……心装のコントロールはちゃんと出来るようにしとけよ?」


 冷凍庫の温度といえば、ある程度差はあるものの、大抵マイナス一八度からニ○度とされている。

 水だって余裕で凍ってしまう。

 人間なんてある意味水風船のようなものなのだ。

 正直洒落にならない。


「……私にもそう思う時代がありました」

「……いや、諦めるなよ」

「……まあまあ。それでは覚悟して下さいね?」

「ちょっ!?」


『心装、守式、氷の天使(アイスエンジェル)


 足を止めぬまま心装を発動させた六花を中心にして、直径二メートル程度の球体が生まれると、まるで卵のようにそれが割れ、中から出てきたのは氷の翼を広げる六花の姿だった。


「おー。いいねその翼。六花もあたしみたいに【A•G(エンジェル・ガーデン)】に憧れてたの?」

「そんなことはどうでもいいじゃないですか。それよりも早く楓も心装して下さい。スピード上げられないじゃないですか」

「おっけー。んじゃ『擬似天使化(エンジェルモード)』っと」

「……それじゃ、行きますよ


 楓が予選の時にも出していた翼を広げたのを確認した六花は、アイコンタクトを取ると互いに頷き合い、走るのではなく、翼をはためかせて飛んだ。


(見つけたっ!)


 翼を出し、前の倍を優に超えるスピードで飛んだ二人は、とうとう逃走する何者かをその視界に入れた。

 楓が内心ガッツポーズを取ると、二人は見合ってどちらともなく頷き合った。


「行きます」


 六花はポケットから取り出した携帯型法具を後ろ姿を見せている逃走者に向けると、術を起動した。


『心操、氷獄牢(アイスロック)


 六花は逃走者を中心に、その周囲を立体的に凍らせ、立方体の氷の塊を作り出すと、ふぅっと小さく息を吐いた。


「流石は副会長だ。あたしいらなかったな」

「そんなことありません。これはただ閉じ込めて逃げられないようにしただけですし、これから中に入って逃走者を気絶させないといけません。そして、私はこの氷を維持するのに集中するため動けません」

「つまり、あたしがやってこいと?」

「……殺ってはダメですからね?」

「わかってるって。大切な器官だけ残して凍らせてくる」

「……さりげなく恐ろしいこと言わないで下さい」

「あはは。なんでだろうな。結もそうだったけど、不思議と初対面な気がしないんだよな」

「さあ? 私と楓は初対面ですよ? ただあなた社交的なだけじゃないですか?」

「んー。そうなのかもな」


 よくよく考えると、楓がまともに人と話したのはF•G(ここ)に来てからが久しぶりだった気がする。


(二人が特別ってわけじゃなくて、全員そうってことか? ……んー、なんかしっくりこないな)


 目を瞑り。腕を組んで悩んでいる楓を尻目に、六花は先に作った立方体と触れ合うようにして、もう一つ氷の立方体を作った。

 一つ目の立方体は一辺約一○メートルぐらいあるが、二つ目はそれよりも半分以下の一辺二メートルくらいしかない。


「んーんー……ん? なんだあれ?」


 目をつぶって唸っていた楓がふと目を開けると、まるでコブのようになっているそれを見て、疑問符を浮かべていた。


「あれは入り口ですよ。一箇所オープンしてしまったらそこから逃げられてしまうかもしれませんので、先にあの小さい方に入ってもらい、ロックしてから中の氷を消します」

「あー。なる。理解した」


 つまり二重扉ってことだな。


「それじゃ行ってくる」

「はい。お願いします」


 翼を静かにはためかせ、空中で静止していた二人はそんなやりとりを交わすと、楓が翼を一瞬激しくはためかせると、一人急降下し、小さな立方体の中に入っていった。

 入る寸前に手を振った楓に手を振り返しながらも、六花は氷を操作して楓が入った穴を塞いだ。

 

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