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7ー21 予想外の雨


 結が具現化したのは対象者に合わせ、多くのギミックを使い分けることが出来る、結完全オリジナルの法具。トンファー型汎用式法具。『始まりのトンファー(アルファー)』。


「行くぞ」


 結は小さく呟くと直後、その場から消えた。


(火速!?)


 結が消える瞬間に聞こえた爆発音から、火速による高速移動だと見抜いた美雪は、焦点の合う一点ではなく、その視界全てに映る光景全体に注意を払っていた。


(いや、違います!今重要なのはボールの行方っ)


 結が『始まりのトンファー(アルファー)』を取り出したことで、昔の記憶が蘇り、本当の戦いと思っていた美雪は、これが【シュート&リベンジ】というゲームであることを思い出すと、最も大切なものと言えるボールへと視線を向けた。


(ご主人様っ!?)


 火速の勢いで空へと飛んでいた結は、既に先ほど弾き飛ばしたボールのすぐ側にいた。

 左腕を標準のように前に構えると、後ろに引いて力を込めていた右腕を一気に突き出す。それと同時にトンファーから拳の勢いをブーストさせるように火速を発動させる。


火速撃(かそくげき)


「その程度、止められないと思いましたかっ!」


 どれだけ強力な一撃だとしても、所詮飛んでくるボールは直線上に進むだけ。

 美雪の氷壁ならば、それを止めることは容易だ。

 美雪は既に展開している氷壁でシュートを防いだ直後、結が空中へと飛んでいる隙にカウンターを仕掛けるべく、二つの操作弾(コントロールブレット)を自分の側に戻していた。

 結は美雪がカウンター狙いだと見抜くと、ニヤリと笑った。

 『始まりのトンファー(アルファー)』に内蔵されているギミックの数はおびただしい量だ。

 そしてそのギミックの中には、ある意味当然とも言えるように、銃のメカニズムも搭載されている。

 つまり、


(跳躍弾装填。連射開始)


 『カナ』が使っている二丁拳銃は、オートマチックとリボルバー、二つの形態が融合されている。

 基本的構造はオートマチック型、つまり、握る部分に弾を装填しているのだが、オートマチックの構造を用いて発射される弾丸は、銃口の途中にある回転弾倉(リボルバー)部分で式をエンチャントされる。

 回転弾倉(リボルバー)部分には弾が入っているわけではなく、弾丸に機能をアップデートさせるためのものなのだ。

 それと同じ構造がこのトンファーにも組み込まれている。

 今回エンチャントしたのは『跳躍』。

 結が撃った弾は先に撃った弾と地面を使い、何度も跳躍し続けていた。

 結が弾を次々と撃ち込むことで、跳躍することで空中でキープされている弾丸の数はこれまたおびただしい量となっている。

 その領域内ではいたるところから火花が散っており、指一本でも踏み込んでしまえば、即座に蜂の巣になってしまうであろうほどの弾丸全てを、結は計算し、制御していた。

 先に向かったボールが最初に氷壁へとぶつかった。

 氷壁を貫くことは出来ずに、ボールは力を失って空中へと放られた。


(ここですっ!)


 美雪はそのタイミングを狙って二つの操作弾(コントロールブレット)を動かすと、二つの玉の間でドリブルをするかのように、ボールをキャッチし、そのままの状態でゴールへと走らせた。

 その直後、跳躍を続けていた弾丸たちに変化が訪れる。


「なんだ、あれ」

「結、凄いことするわね」

「あはは、ゆっちってばそれはダメでしょ?」


 コート全体に雨が降っていた。

 もちろん、ただの雨ではない。

 『雨銃撃(レインショット)』弾丸の雨だった。

 それはほぼコート全体に降っているのだが、反則にはならない。

 禁止されているのは対戦相手への幻操術の使用、それと攻撃だ。

 この雨はコート全体に降っているように見えて、その雨の中で結と美雪は平然としている。

 つまり、その地点だけ雨が降っていなかった。

 雨が降っていない様なのは二人がいる地点だけのようで、ボールは何十何百の弾丸に撃たれ、勢いを失って転がっていた。

 美雪の氷壁や操作弾(コントロールブレット)もまた、数の暴力によって撃ち抜かれ、細かく砕かれていた。


「これで状況はまた五分になったわね」

「……本当にそうか?」

「楓? どういうこと?」

「んー、あたしもあのゆっちがただカウンターを防ぐためだけにやったとは思えないんだよねー」

「……それもそうね」

「結はシュートを止められる前から雨の準備をしてたからな。その両方が何かの布石と考えるべきだろうな」


 楓たちが結の行動の意図について、考察している中、結の作戦は次の段階へと移行した。

 既に相手が撃った後に自分が移動し当たったものは反則にはならない。

 これらの雨は既に結が撃ち尽くし、空中で跳躍を続けた後に降ってきたものだ。

 この場を移動して弾に当たった場合、それは結の反則行為にはならず、こちらが不要なダメージを受けるだけだ。

 数も多いため、氷で盾を作ったとしてもすぐに撃ち砕かれてしまうだろう。


(動けませんね)


 美雪は立ち止まる他術がなかった。

 一見ハメ技とようにも見え、反則のようにも思うかもしれないが、そもそもこれだけ高威力で雨のように攻撃する術を持つ術師なんてそうそういない。

 つまり、想定外なのだ。

 そんな抜け穴を見つけ、躊躇いなく進む結は、流石は規格外の巣窟とも呼ばれたこともある、【A•G(エンジェル・ガーデン)】の出身だ。


(ですが、これなら結も動けないはず)


 結も同様に足止めされていると思い、結を探す美雪だったが、さっきまでいたはずの場所から結の姿が消えていた。


(どこにっ!?)


 結側のコート全域を見回す美雪だが、結の姿を発見することは出来なかった。


(もしかしてっ!)


 結側にいないのであれば、美雪が後ろを振り向くとコートギリギリを走っている結を見つけた。

 その手には途中で回収したボールが持たれており、ドリブルをしながら結は走っている。


(この弾幕の中どうやって!?)


 美雪はすぐに答えにたどり着いた。


(っ! ご主人様のいる地点だけ雨が降っていない?)


 この雨を作り出す前に結は既にこの状況を想定していた。

 美雪がそこから動くことはないと考え、今美雪のいる地点、そして後に自分が通るための道を移動する点として置いた。全てに最初の連射の時点で設定されたことだった。


「くっ、させませんっ!」


 シュートをしようとする結を見て、美雪は急いで氷壁を作り出すのだが、


(一瞬で壊れてしまうなんて!?)


 雨は止んでいない。

 今も弾丸の雨は降っており、美雪の作り出した氷壁は一秒もしない内に風穴だらけになり、そのまま崩れ落ちた。

 強度に優れる氷壁でもこの有様なのだ、操作弾(コントロールブレット)を作ったところで無意味だろう。

 美雪に術は残されていなかった。

 そして、結の放ったボールが、ゴールへと深々と突き刺さった。

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