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7ー18 決勝直前


「えっ? それどういうこと?」


 突然の知らせに雪乃は思わず聞き返していた。


「だから、先ほど委員会から連絡があり、【S•G(サード・ガーデン)】、つまり始のチームから棄権の申し出があったそうです」

「じゃあ、あたしたちの試合は?」

「もちろん、不戦勝ということになりますね」

「そんなぁー」


 試合を楽しみにしていた雪乃は、六花からの知らせにひどく落ち込んでいるようだった。


「始たち、なんかあったのか?」

「結が思っているような理由ではないと思いますよ?」


 自分たちの負けたから落ち込んでいるとか、とりあえず自分たちのせいだと思った結の言葉を、即座に六花が否定した。


「じゃあなんだよ」

「どうやら、始のチームメイン二名からの要望のようですよ? それと、三人に言伝を頼まれました」


 六花はそう言って順に結、桜、会長に視線を向けた。


「へぇー。興味あるわね」

「なんだってー?」

「はい。えーとですね。今回は負けたが来年は俺たちが勝つ。……だそうです」

「へぇー。言ってくれるわね」

「え……、結局棄権の理由わからないじゃんっ!」


 棄権の理由が聞けると思い、耳を傾けていた雪乃が騒ぎ始めたのだが、美雪と雪羽の二人によって、押さえつけられ、会議室から退場となった。


「あはは。なんか、あの三人はいつもあんな感じだね」

「……そうかもな。雪乃が騒いでそれを美雪と雪羽が押さえ込む。昔からそうだな」


 昔から変わらない雪乃たちに、結は若干の懐かしさを含みつつ、桜と共に苦笑していた。


「ねえ六花? 【S•G(サード・ガーデン)】が棄権ってことは、残る試合って」

「はい。あとは【F•G(ファースト・ガーデン)】同士の試合になりますね。ですので、試合を行わないという手もありますがどうしますか?」

「あっそか。どっちが一位になっても、【F•G(ファースト・ガーデン)】って枠で見たら獲得点数変わらないもんねー」

「明日も競技があると思うと、できるだけ消費を少なくした方がいいわね」

「なら、試合は行わないと委員会に伝えてきますね?」

「ちょっと待ってくれませんか?」


 六花に静止を掛けたのは、たった今戻ってきた美雪だった。

 美雪は真剣な表情を浮かべ、部屋の中に入ると、結の前に立った。


「ご主人様。決勝の【シュート&リベンジ】。(わたくし)とご主人様で一対一の勝負がしたいです」

「美雪ぃー? 何を言ってるのにゃぁー?」


 美雪の発言に一番驚いているのは唯一この場にいる六花衆、小雪だった。


「私はずっと思っていました。ご主人様と私。どちらが強いのか」

「美雪……」


 美雪の真剣な表情に、結は固まっていた。


「ご主人様? お願いします。今のご主人様を私に見せて下さりませんか?」

「…………」

「美雪、本気なの?」


 何も言わない結に代わり、質問する会長に美雪は静かに頷いた。


「結。あなたはどうする?」

「……わかった。美雪がそれを望むなら、俺はそれに全力で応えるさ」

「ご主人様。ありがとうございます。私は先に待っていますね」


 美雪は結に頭を下げると、そう言って部屋から立ち去った。


「会長、いいの?」

「ええ。いいのよ」

「でもさー」

「桜。これは二人にとって大事なことなのかもしれません。ですので私たちは静かに見守っていませんか?」

「……うん。わかった」


 無駄な消費は避けた方が良いと言っていたにもかかわらず、二人戦いを許可した会長に疑問符を浮かべる桜だったが、六花に言われ、小さく頷いた。


「結、どうするんだ?」

「俺はただ全力で美雪に応えるさ」

「……そうか」


 楓はそれ以上言わなかった。いや、言えなかったのだ。

 結の真剣な目を前に、言葉なんて不要だとわかったから。


「じゃあ会長、行ってくる」

「えぇ。二人とも悔いのなにように思いっきりやりなさい」

「ありがとう」


 結は小さく頭を下げると美雪が向かった控え室とは逆の場所にあるもう一つの選手控え室に向かった。




「さーて、これで今日の試合は終了となりますが、最後に残った二チームはなんと、どちらも同じガーデンだっ! 奇策を用い数々の強敵を倒してきた【S•G(サード・ガーデン)】Aチームと激しい戦いを繰り広げここまで勝ち進んだ、【F•G(ファースト・ガーデン)】Bチームだ!」


 実況に合わせて結たち三人はステージオンした。

 結たちの登場で元々盛り上がっていた観客たちはさらに大きな盛り上がりを見せていた。

 耳を澄ませば個人の名前を叫んだ応援も聞こえ、気持ちはまるでライブを行うバンドのようだった。


「そして、この決勝リーグでは不戦勝ながらも、ここまでの試合全て圧倒的な大差によって勝ち進んだ、【F•G(ファースト・ガーデン)】Cチームだ!」


 反対側の入り口から現れる美雪たち、美雪の表情は真剣そのものであり、他の二人は美雪と結が遊びとは言え、初めて戦うことになることを知ってか、表情が固い。


「美雪、本気でやるの?」

「当然です。今の私と今のご主人様。あの頃と比べれば私もご主人様も劣っているかもしれません。ですが、それでも、例え互いに本来の力を発揮することが出来ないにしても、それもまた条件は同じ。……なにより」


 美雪は一旦言葉を切ると、言い出しづらそうに溜めを作っていた。


「……今のご主人様を知りたいんです」


 あれからもう一年が経っている。

 性格面ではさほど変わらないように見えるが、それも実際のところどうなのかまだわからない。

 使う能力だってそう。【F•G(ファースト・ガーデン)】で行った予選の時にその一端を見たとは言え、その力はまだまだ測ることが出来ない。


(ご主人様の実力を正確に知ること。それが今の私にとって最優先事項)


 美雪は決意を新たにすると、他の二人を中心のステージの目の前で置いて、一人、ステージへと上がった。

 一人だけがステージの階段を上がっているのを見て、観客たちは不思議そうにする中、結また一人、ステージへと上がった。


「観客の皆様にお知らせです。この試合は本来であればどちらも【F•G(ファースト・ガーデン)】のチームのため、結果によって各校の獲得ポイントが変動することはありません。ですので中止することも出来るのですが、たった今ステージに立っている二名の提案により、この試合は変則的ながら、一対一の個人戦を行いますっ!」


 進行係の言葉によって観覧席はいろいろな意味で騒いでいた。

 団体戦を見に来たのにふざけるなという否定的な声、個人戦も面白いそうだなという肯定的な声、っと様々だが、当の本人たちはそんな声なんて一切気にしている様子はない。いや、聞こえてすらいなかった。

 片や友の覚悟に全力で応えるため。

 片や友の願いを全力で助けるため。

 それぞれの思いが心のうちで湧き上がる中、試合開始のホイッスルが響く。

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