7ー16 凍える背筋
ホイッスルが鳴った瞬間、結は両手を合わせた。
『ジャンクション=四人の女神=サキ』
「結っ!」
「ナイスパスっ!行くぞっお前らっ!」
「まったく、本当に性格変わるわね」
「あはは、面白いからいいじゃん」
桜がジャンプボールに参加し、先攻になったのは結たちだった。
桜は普通なら弾くなりして自分の仲間がいる方にボールを飛ばす所を、両手でがっしりキャッチするという離れ技を見せると、そのまま空中で、合掌を終え、近接最高戦力状態である、『サキ』をジャンクションした結にボールを投げた。
結はそれを走りながらキャッチすると、サキ特有の荒々しい言葉をあげつつ、着地した桜や、会長と共に駆ける。
「行かせねえぞ!」
「遅えっ!」
途中でボールを奪いにきた生徒を、特にフェイントなどの技術も使わずに、『サキ』の身体能力だけで突破した結は、ボールを空中に飛ばした。
「桜っ!」
「おっけーっ!」
皆の注意がボールへ向かい、上へと向いている間には体制を低くして相手コートへと突っ込むと、ゴールの目の前に到着した瞬間、桜へ合図を出した。
「会長っ、よろしくっ!」
「オッケーよっ!いつでも来なさいっ!」
会長は体制を低くして、まるでバレーのレシーブをするかのような体制になると、会長と向かい合った場所にいる桜が会長に向かって全力疾走した。
「行って来なさいっ!」
「行ってきますっ!」
ジャンプ台となった会長の力を借りて、大ジャンプを披露した桜は、高い位置にあり過ぎて、何もすることが出来ずに、落下を待っていた始たちの驚愕の表情を楽しい思いで見ると、そのまま体を横回転させ、そのままボールに裏拳を繰り出した。
「ちっ!」
始は桜が飛んだ地点で、目論見を看破すると、舌打ちをしつつまるでサッカーのキーパーのようにゴール前に陣取っていた。
(寸前に即席で考えた作戦だが、空中なら手出しできないだろ?)
地上では相手選手によって、反則を取らされるのであれば、それができない程の空中でやれでいいのだ。
始は幻力の供給を中止せざるおえない状態に追い込まれ、供給もまだまだ前半だったこともあり、躊躇いなく供給を中止すると、桜のシュートが届く前に間に合うように速攻で次の幻操陣を組み立てた。
『水操、水壁』
まるで津波のように現れた多量の水は、本来なら倒れてくるはずなのに、そのまま壁のように静止した。
(水の抵抗によって勢いを削げは十分取れるはずだ)
この水壁でボールを止める気は毛頭なく、これはただシュートの勢いを少しでも削ぐためのものだ。
天高くから放たれたシュートは、通常の威力に斜めからとはいえ、重力によって加速する。そのため威力は通常のシュートよりも上だ。
「俺のこと忘れてねえか?」
「結っ!?」
皆の注意が空に向かっている間に移動していた結は、拳を強く握り締めると始の作り出した水壁を殴りつけた。
(突然現れたのは驚いたが、滝を殴っても無駄だ)
滝を殴ったところで、それがどうにかなるわけがない。
始の水壁は、規模は自然の滝よりも小さいとはいえそれでもその姿は滝そのものだ。
水壁を殴る結に、始はふっと余裕を露わにするが、そんな始を見て結はニヤリと笑った。
次の瞬間、水壁が弾けた。
「なんだと!?」
水壁が無くなるとほぼ同時に、桜のシュートが届いた。
「ちっ!」
水壁が無くなり、威力を削ぐことが出来なくなったため舌打ちを打つ始だが、泣き言、言っている場合ではないと、両手を前に突き出し、馬鹿正直に目の前にからやってくるボールを受け止めた。
(なんて威力だっ。だが、これなら止められーー)
「言っただろ?俺を忘れてねえかってよ」
相手に直接攻撃をすることは禁止されている。
しかし、この【シュート&リベンジ】はボールを殴る行為は禁止されていないのだ。
実際に桜が裏拳によってシュートした時も反則を表すホイッスルは鳴っていない。
結はそれを確認した上でボールと始が鍔迫り合いのようになっている場所に再び現れると、ニヤリと笑い、ボールを後ろから殴りつけた。
「なにっ!?」
ボール越しにとは言え、結、サキの一撃をモロに当てられた始は、さっきまでの均衡から一転して、吹き飛ばされるように後ろに大きく飛んだ。
始という支えがなくなったことで、ボールに加わっていた力も開放され、前進を始め、ゴールへと深々と突き刺さった。
「やったねっ!」
「こら桜。まだ試合は終わってないわよっ」
「うぅー。ちょっとくらいいいじゃーん」
「油断はだめよ?」
「わかったよー」
地面に着地した途端、シュートがうまく決まった嬉しさのあまり、ぴょんぴょんと飛び跳ねている桜を会長が叱ると、すぐに真剣な表情へと戻っていた。
「次は守りだ。さっさとボール奪って次行くぞ」
「「了解」」
会長たちの元に戻ってきた結がそう声を掛けると、二人は頷いた。
「まったく、やられたな」
「始さんっどうしますか?」
ボールと一緒にゴールされていた始に、駆け寄ったチームメイトの二人は、焦りの表情を浮かべていた。
「あの二人、確か生十会会長の神崎さんと、役員の雨宮さんですよね?……流石は前に始さんが所属していたチームのメンバーですね」
「そうだな。会長たちには驚くことが多々あったが、何よりも厄介なのは」
始は吹き飛ばされた拍子に、ズレてしまったメガネを直しつつ立ち上がると、結へと視線を向けた。
「……あの人は確か……」
「音無結。今年生十会に新しく入った奴だ」
「……実力はどうなんですか?」
「さっきの一撃を見ただろ? 実力は確かだ。……だが」
言い淀んでいる始に、二人は表情を曇らせていた。
「正直、あいつの実力は未知数だな」
「未知数?」
「ああ。会うたびに戦闘スタイルが変わっている」
「会うたびに?」
二人は始の言葉に驚いていた。
幻操師の戦闘スタイルとは、まだ卵である彼らであれ、数年にも及ぶ経験から形作られるものだ。
それが会うたびに変わるということは、一つ一つのスタイルは通常よりも遥かに短い時間で形作られていることになる。
それであの実力、二人は得体の知れない何か見ている思いだった。
「……二人とも、怖がるな」
「始さん……」
「あいつの実力は確かに底が見えない。だが、俺はまだ一度もあいつよりも劣っていると考えたことなんてない」
「始さん……」
「ふっ、二人して同じことを言うな。安心しろ、俺がついてる」
始は二人の肩にポンっと手を置くと、そばに落ちているボールを取り、ゴール横で構えた。




