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7ー14 戦法


 今日の競技はバスケットボールが元になっている【シュート&リベンジ】だ。

 【F•G(ファースト・ガーデン)】選抜メンバーの一同は、朝礼会議を終わらせた後、出場選手はチームメイトたちとの連携について確認し、出場しない者たちは明日、明後日にあるであろう出番に備え、体を休めるなり、特訓するなり、と各自それぞれだった。


「今日こそ勝つよーっ!!」

「雪乃、やる気いつもの三割増しだにゃぁー」


 選手の練習のために貸し出されている個室の一つ、雪乃が両手を大きくあげて、気合いを入れていた。

 その隣で猫耳系女子こと小指がパチパチと手を叩いていた。


「わかっているとは思いますが、雪乃?一人で先走らないで下さいね?」


 【キックファントム】で負けてしまったためか、いつも以上にやる気に満ちている雪乃に、美雪は少し呆れるようにして言った。


「わかってるってーっ。あたしたちは個じゃなくて、連携を重んじる天使だからねっ」

「あまり外でその呼び名を出すのではないのだよ。

 二つの意味で聞かれると不味いのだよ」


 天使とは【A•G(エンジェル・ガーデン)】の生徒たちを示す言葉だ。

 彼女たちが【A•G(エンジェル・ガーデン)】の生徒、つまり天使であるということは生十会メンバーは知っているものの、基本的には秘密なのだ。

 そういう意味で、誰かに聞かれるのは不味いし、それだけでなく、少し冷静に考えてみよう、自分で自分のことを天使と言っている女子……ある意味ナルシストより酷い。


「まーまー。そんな固いこと言わないでよー」

「雪乃はいつも適当過ぎるのだよ。速やかに直すべきなのだよ」

「でも、雪羽は固すぎると思うのにゃぁ」

「あっ、それ言えてる。プークスクス」

「雪乃?」

「なにさー」

「……はぁー。どうしていつも喧嘩に発展してしまうのでしょうか」


 全力ではないものの、取っ組み合いに喧嘩に発展している雪乃と雪羽、それを側で見て、やれやれだにゃー、っと楽しそうにしている小雪を見て、美雪は呆れ顔でため息をついていた。


「おーお前ら。ここにいたのか」

「こんにちはです。ご主人様」

「あいつらは……変わらないな」

「……はい。大変です」


 いつもあんな()たちをまとめている美雪の苦労を考え、苦笑すると、美雪もつられるように苦笑した。

 美雪はいつもの冷静沈着で、知的な笑みを浮かべると、喧嘩をしている三人の元に向かった。


「あなたたちっ!ご主人様の前ですよ!」

「「「……え?」」」

「よう」

「「主様!?」」「ご主人様!?」


 どうやら結が来ていることに気付いていなかったらしい三人は、美雪の声でそれに気付くと、驚きのあまり、大声で叫んでいた。


「……ま、まあ。あれだ、早く直せよ?」

「主様?」


 突然後ろを向いてそんなことを言う結に、いつの間にか小雪も乱闘に参戦していたらしく、絡み合った状態の雪乃たちは首を傾げるものの、目が良いため、結が後ろを向く瞬間、その顔が赤くなっていたのを見ているため、視線を下に、自分たちへと向けると、


 【F•G(ファースト・ガーデン)】指定の女子制服、そのブレザータイプ。このところ暑くなって来たため、彼女たちはブレザーを脱ぎ、ワイシャツにスカート、ついでにネクタイなのだが、暴れたせいでワイシャツはボタンがいくつもとれ、スカートはめくり上がり、つまりどういうことかというと、三人が天使時代に来ていた和装と同じ色、雪乃は黄色、小雪は白色、雪羽は赤色の下着がチラリと姿をチラつかせていた。

 ただし、それは下半身の方だけであり、


(なんでこいつら上は着けてないんだよっ!)


 上の下着、まぁつまり、三人はブラジャーを着けておらず、まさに名前の通り、雪のように綺麗で真っ白な素肌がこんにちはしていた。

 三人ともブラを着けていないのは、別に必要がないからではない、残念ながら小雪は必要ないかもしれないがーーいや、逆の意味で必要かもしれないがーー、他の二人、雪乃と雪羽に至っては、随分と大きく実っており、雪乃は平均よりもやや大きい程度だが、雪羽のそれはまるで二つの山。特盛りだ。

 ただ、彼女たちはいままでずっと和服を着ていたのだ。

 通常、和服では下着は着かないものらしい。

 幼い頃から和服を好んで着ていたため、彼女たちには下着を着るという習慣がなかったのだ。

 余談になるが、下を着ているのは【F•G(ファースト・ガーデン)】に入るにいたって、制服がスカートであるため、四人の中でも常識を知っている美雪が説得したらしい。

 どうせなら上もちゃんと説得して欲しかったが……うん。


 結が今後ろを向いているのは、何かを見て(・・)後ろを向かざるおえない状況だと、目視で認識したからだ。

 その後、三人は自分たちのあられもない格好に気付き、赤面、後の、


「「「きゃ(にゃ)ぁぁぁぁぁぁあっ!!」」」


 絶叫である。

 三人の絶叫に、結と美雪は両手で耳を塞ぐものの、その程度で防げるような音量ではなく、二人とも不快そうに顔を顰めていた。


「う、うぅー」


 待つこと数分、叫び終わった三人は、急いで前を手で覆うと、恥ずかしそうに声を漏らしていた。


「はぁー。ご主人様を睨むのはやめなさい。悪いのは一○割あなたたちですよ?」


 結は当然の無罪である。


「ですが、レディの半裸を見てしまったわけですし、それなりの対価が必要かもしれませんね」


 しかし、裁判官の手によって、結には残酷な有罪が言い渡されていた。


「ということですので、ご主人様?」

「な、なんだ?」

「……クスッ」


 怖いっ。その笑みが逆に怖いっ。

 結はあえて何も言わずに、意味深な笑みだけを残した美雪に、ブルリと体を震わせた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 第二競技、【シュート&リベンジ】本戦はつつがなく進んでいった。

 Aチーム、六花、春樹、小雪は無事に一回戦を華々しい勝利で飾り、Bチームの結、桜、会長も大差をつけて勝利を飾った。

 そして、六花衆の三人によって構成されているCチームもまた、当然と言うべきなのか勝利をした。

 しかし、第二試合に番狂わせが起きてしまったのだ。

 それは、Aチームの敗北だった。

 対戦校はなんと、【R•G(ロイヤル・ガーデン)】でも【H•G(ハッピー・ガーデン)】でも、こういったスポーツなら得意としている【F•G(フォース・ガーデン)】でもない。

 その相手は、【S•G(サード・ガーデン)】だった。

 幻操師ではなく、幻操師が使う道具、特に法具の研究、及び開発を生業にしている幻工師を育成するためのガーデン、それが【S•G(サード・ガーデン)】だ。

 【S•G(サード・ガーデン)】は基本的に戦士ではなく、技術者なのだが、Aチームのとある一人によって六花たちは敗北を許してしまったのだ。


「び、びっくりですぅー」


 Aチームが負けてしまった試合を観覧席から見ていた生十会メンバーたちは、皆が真冬と同じ心境だった。

 しかし、同時にあいつならありえるとも思っていた。


「まさか、始が出てくるなんてね」


 桜は現在ステージの上に立っている相手校の一人を見ながら言った。

 相川(あいかわ)(はじめ)

 元【F•G(ファースト・ガーデン)】生十会メンバーの一人だ。

 六芒戦が開催される少し前、【S•G(サード・ガーデン)】に転校した彼だが、その彼によって、Aチームは敗北を許した。




「あぁーっ!悔しいのにゃぁーっ!


 結たちが選手控え室へと向かうと、最初に聞こえてきたのは悔しさをこれでもかというくらいに込めた、小雪の叫び声だった。


「三人ともお疲れ様」

「会長、申し訳ありません。負けてしまいました」

「頭下げること無いわよ。それにしても、(はじめ)ったら厄介ね」

「はい。まともに動くことさえ出来ませんでした」


 六花は無表情ながらも、微かに悔しそうに顔を歪めた。

 始の戦法は実にシンプルだった。

 【シュート&リベンジ】のルールとしては、【キックファントム】に近い。

 しかし、使用するボールは幻吸玉ではなく、普通のバスケットボールだ。

 他の相違点と言えば、【キックファントム】が足でボールのやりとりをするのに対し、【シュート&リベンジ】は手でボールのやり取りをするのだが、【キックファントム】で手を使った場合ハンド、つまり反則になるようち、【シュート&リベンジ】では足でボールに触れるとアウトになる。

 始たちは一見普通にバスケをしているのだが、ボールを取られると思った瞬間に、相手の足にボールを投げるのだ。

 それも、わざとらしく投げるのではなく、うまく相手の動きを利用して、相手から触れるようにしているのだ。

 そうすることで絶対に相手にボールがいかないようにする。

 そして、試合が終了する直前までボールをキープし、終了とほぼ同時に始にボールゼロ距離でパスして、他のメンバーがそうやって時間を稼いでいる間、貯めに貯めた幻力を一気に解放して、怒涛(どとう)の水流を放ち、得点を得る。

 始が使っている水属性は、水を薄く束ねることでウォーターカッターのような、鋭い切れ味をほこるのだが、なにより強力なのは、滅多にないタンクシリーズと呼ばれる術があることだ。

 このタンクシリーズの術は、本来注ぐ幻力は一定に決まっており、それ以上を込めても効果が上がるわけではないのだが、このタンクシリーズに至っては例外で、幻力を込めれば込めるだけ強い力を発揮する。

 ただ、弱点として幻力の込める際に一瞬でも幻力の供給を止めてしまうとその場で幻力が拡散してしまうことだ。

 つまり、一度幻力を込める作業に入ったらそれを中断することが出来なくなってしまうのだ。

 そのため、実戦では使い物にならないと判断されているのだな、これは実戦ではなく、ボールを持っていない選手はルールに守られているのだ。

 一ゲームが一○分で、三ゲーム制だが、一○分もあれば込められる幻力の量は始の実力も相俟って、凄まじいことになる。

 なんせ、通常相性が良いはずの、小雪や六花の氷でも凍らせることができなかったほどだ。

 つまり、確実に得点を取ることのできる始の一撃と、他の二人による時間稼ぎ。聞こえは悪いかもしれないが、それも立派な戦法だ。



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