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7ー13 追憶の夢


 大切なガーデンの仲間を疑うことになってしまった結、楓、六花の三人は、真冬が怪しいのはすべての仮定があっていた場合であり、尚且つさらに真冬が犯人の可能性はそれほど高いわけでもないため、とりあえずは心に留めておくだけで、ひとまず先にアヤメの対策を練ることにした。


 そして、いきなりなのだが、結の前には般若がいた。……いや、まぁ、六花なのだが、六花の表情は憤怒に染まっており、いつもの無表情はどこに行ったって感じの激おこだった。

 どうして六花がこんな怒っているのかというと、それは数分前に遡る。


「さて、それでは結と楓?アヤメについて他にわかってることはないですか?」


 記憶操作については、そういう可能性があるという話をしただけで終わり、その可能性が一番高いわけなのだが、犯人かもしれない相手への自信が無いに等しいため。結局この話は先送りとなり、六花による、結と楓へと事情聴取が行われていた。

 ちなみに場所は変わらず会議室だ。

 もともとどこかの会社でよくありそうな、口の時にテーブルを合わせ、その周りにぐるりと椅子を置いていのだが、それをちょいちょいと動かし、会社の会議室から、まるでこれから三者面談を行う教室のようになっていた。

 ちなみに、教師側が六花で、結と楓は保護者と生徒のようだ。

 ……どっちがどっちのように見えるかは、正直両方微妙だ。


「とは言ってもな、相手は攻撃らしい攻撃は一切しなかったからな」

「あたしと結で一方的にフルボッコにしてたからな」

「まぁ。結局それは分身だったけど」

「そうですか。つまりアレですか?二人の戦い方だけ向こうにバレて、向こうの戦い方は一切わからないと?」


 アヤメと遭遇した時のことを淡々と話す二人だったが、六花の様子がおかしいことに気付き、二人はなんだか嫌な汗をかいていた。


「えーと、六花さん?怒ってますか?」

「結?何を言っているんですか?私は怒ってなんていませんよ?」


 嘘だっ!っと思わず叫びたくなる結だったが、そこはグッと抑えた。

 六花の表情はいつもの感情の読めないポーカーフェイスなのだが、若干だかおデコのところに筋があるように見える。


(あれって、怒筋じゃね?)


 結がそんなくだらないことを考えている間も、話は進む。


「はぁー、ですがまあ。相手が分身を使うことがわかっただけで良しとしますか」


 六花は諦めたかのように、ため息をついていた。


「分身使い、つまり忍び関係の奴ってことになるよな?」

「そうですね。結の言う通り『分身』は『忍』シリーズとも呼ばれ、忍びに関係する家系の者が好んで使う術ですね」

「それならあいつらに話聞いてみないか?えーと名前は」

「風魔、服部、藤林の三人か?」


 忍び関係の者だということは覚えていたようだが、肝心の名前を忘れているようの楓に、結は若干呆れを含ませながら言った。


「そうそう。それそれ。どうする?」


 判断を仰ぐようにして結と楓は六花を見た。


「そうですね。運が良ければ彼らの知り合いにアヤメという名前があるかもしれません」

「……あっ」


 一つの話題がとりあえずちょうど良いところになると、思い出したのように結が短く声をあげた。


「どうしたんですか?結」


 突然の声に、多少の驚きは感じたようだが、相変わらずのポーカーフェイスにはそんな感情一切反映させずに、無表情のまま六花は首を傾げた。


「そういえばアヤメが言ってたんだ。俺のことを気に掛けてるようなこと」

「そういえば言ってたな」


 結の言葉に楓も今思い出したようで、両方をポンっと叩いていた。


「……結を気にしていると言ったのですか?」

「ああ。俺の能力がなんだかんだとかで……六花?」


 結が言葉を言い終わる前に、六花は軽く顔を伏せると、前髪によって結からはその目を見ることが出来なくなっていた。

 その様子は正直不気味であり、相手が六花だとわかっているにもかかわらず、結は思わず一歩引いてしまっていた。


「結?」

「は、はいっ!」


 思わず敬語になってしまうほど、今の六花からはよくわからない圧力のようなものが発せられていた。

 この雰囲気にやられてなのか、楓も嫌な汗を流しているようだ。


「アヤメには触れられましたか?」

「そ、それがなんのーー」

「触れられましたか?」

「触れられていませんっ!」


 余計な言葉はいらないとばかりの、殺気混じりの言葉に、結ば全身を震わせていた。

 結がそう答えると、六花は小さく、そうですか、っとつぶやくと、六花から発せられていた妙な圧力が消えていった。


「……えーと、六花?」

「なんですか?結」

「……さっきのは……」

「なんですか?結」

「なんでもないです」


 怖い。すごく六花が怖いですっ!

 雰囲気は元に戻ったのだが、どこかいつもよりもツンツンしている気がする。……気のせいかもしれないが。

 とりあえず確定していることは、さっきのことについては触れてはいけないらしい。

 触らぬ神に祟りなしってことだな。


「これからの方針としては、一応、本当に一応なのですが、真冬の行動を気にかけつつ、いつアヤメが出てきても良いように準備をすること。

 それと、結は常に私か楓と行動を共にしてください」

「なんで?」

「アヤメとやらが言っていたのでしょう?気になるって」

「……そうだったな」


 つまり、結が狙われる可能性が高いってことだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 楓と六花、二人との密会?を終えた結は、部屋に戻るとすぐにベットに突っ伏していた。


(俺が知らないことまであいつは知っているのか?もしそうならあいつは……)


 結は一つの考えに至ると、その考えを消すように頭を大きくふり、そのまま眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(ここは?)


 何も見えない、何も聞こえない。

 全てが闇に閉ざされた世界で結は目を覚ました。

 あたりを見回すものの、自分の体含めて全てが闇に閉ざされているのだ、本当にあたりを見回しているのかさえ怪しい。

 とりあえず視界に変化はなく、どこまで漆黒が広がっていた。

 そこに一筋の光が現れた。

 それはただの光なのではなく、まるでテレビの画面のように何かを映していた。


(これは、俺?)


 その光に映っているのは小さな子供の映像。

 結はそれを見て、本能的にそれが自分だと確信する。


(昔の俺?……過去の……記憶?)


 それが自分の昔の姿だと認識した瞬間、光の画面はその数を増やし、たくさんの画面が平行に連なって結の横を走り過ぎて行く。

 それはまるで一パーツ一パーツが光の画面によって構成されている太い糸のようになって、その糸が何本も凄まじいスピードで結の隣を通り過ぎていく。

 何枚ものの画面が重なり合っているせいで見え辛いが、画面には今も昔の姿だと思われる結の姿が見えた。

 結は画面に映る一点を見て、表情を歪ませた。


(あれは……鎖……?)


 少年の両手両足は鎖によって繋がれており、その瞳には光がない。

 良く見てみれば、来ている服も服というよりかはただ布を着せているだけかのような、そんな不恰好さが目立つ。

 その映像は一見するだけでその少年がまともな扱いを受けていないことがわかる。

 普通、そんな自分の過去らしきものを見れば、何かしら思うことがあるはずなのだが、今結にはそれがただの映像にしか見えなかった。

 ただそういう事実として受け入れるだけ、そこに感情は存在せずに、ただただ、受け入れるだけ。

 結がそんな映像をボーッとして見ていると、ずっと変化が無く、ムービーではなく写真ではないのかと思った頃、変化が現れた。

 画面内に一人の女性が現れたのだ。

 ……いや、女性というには余りにも若過ぎる。むしろ、幼な過ぎる。

 見る限り少年よりも一つか二つ上程度にしか見えない。

 それほどまでに若いその少女は、手にトレーを持っていた。

 肩に少し掛かるほどの長さの黒髪を靡かせて、黒の和装を身に纏うその少女は、少年の前でしゃがむと、トレーに乗せられているスプーンを持って、少年にこれまたトレーの上に乗せられているスープを掬うと、それを少年の口に運んだ。

 一度、二度、三度、少年がスープを飲むのを確認するたびに、次を掬い、口運んでいくと、すぐにスープは無くなった。


「ちゃんと食べて偉い。もう少し待っててね」


 ずっと無音だったこの空間に、突然音が聞こえ始めた。

 幼いが、しかし凛としていてスーっと耳に不快無く入るその声は、一言で言えばそう、綺麗な声だった。

 少女はそう言って少年に微笑みかけると、立ち上がり、画面から消えた。

 すると、少女が消えたことを合図にしたかのように、凄まじいスピードで流れていた画面の全てが停止した。


(……あれ……?)


 突然画面が止まり、結が驚くのも束の間、次の瞬間、全ての画面が綺麗な光の粒子を残して、弾けて消えた。


「……またか」


 最近良く見る妙な夢。

 いや、正確には妙な夢を見たという気持ちだけが残っていた。

 今まではその気持ちだけが残っており、夢の内容は全て消えてしまっていた。

 だけど、


(覚えてる。彼女は一体……)


 六芒戦七日目。

 本戦二日目が始まった。

 

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