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7ー11 波乱の予感


 会議室の前に到着した結は、覚悟を決めるように深呼吸をすると、真剣な様子でガチャリと音を立てて扉を開いた。


「やはり来ましたか。結」


 さっきまで選抜メンバーが揃っていた会議室には、現在は二人しかいなかった。

 それは結と六花ではない。

 結はまだ室内には入っていないため数には数えられない。

 ならば、あと一人は誰なのだろうか。

 その人物は机の上に突っ伏しており、顔は見えないものの、その姿から容易に特定出来る。


「楓か」

「ん?あっ、やっと来たのか。ふぁー、眠い」


 結が扉を閉める音で起きたのか、楓は目尻に涙を浮かべながらも、手を伸ばして頭を起こすと、視界に結を入れ、遅かったなと言わんばかりに言った。


「……一体何があったんだ?」

「……それは……」


 二人に問う結の表情は真剣そのものであり、ことの深刻さが伺える。

 そして、それに対峙する二人の表情も、どこか暗い影を落としており、彼女たちにとっても深刻であることは火を見るよりも明らかだった。


「単刀直入に言うと、現在わかってる地点でだが、あたし、六花、そして結、あたしたち三人を除いた全生徒の記憶が改竄されている」


 とんでもないことを言っている楓だが、その答えを聞いた結の表情は疑いの色が一切見えず、それどこかそう言われ納得しているように見えた。

 事実、結は楓の言葉をそのまま受け取り、そしてそのまま、その言葉が指し示す通りの状況であると、即座に判断を下した。

 根拠はもちろんある。

 根拠があったからこそ、結はここへ来たのだ。

 おそらく自分と同じ状況におかれ、混乱しているであろう六花の元に。

 六花の様子は朝からおかしかった。

 それに、今思えば朝の桜の謝罪、正直あれはあまりにも大袈裟だったし、さっきの桜の言葉。


 剛木の腕は一年前の戦いでやられてしまった。


 桜は確かにそう言った。そしてその時の桜には嘘をついているような気配は一切なかった。

 何かを誤魔化しているような雰囲気も皆無だったのだ。

 それはつまり、桜が心の底からそれが事実だと思っている、思い込んでいるということになる。

 しかし、実際に剛木の腕がやられた原因は予選の時に現れたアヤメとかいう少女の仕業だ。

 鏡が【キックファントム】に出場出来なかったのも、その前に桜が気絶させてしまったからなどではなく、アヤメにやられたからだ。

 朝の謝罪の時は、間接的にだな自分のせいでそうなってしまっていると、責任感を感じているからの言葉だと思ったが、あの時の桜にとってあれは比喩などではなく、本当に自分が気絶させたことが間接的ではなく、直接的な要因となって出場出来なかったと思っているのだ。

 本来あるべきではないことを真実と思い込んでいる。

 これは記憶を弄られたことに他ならない。

 しかし、その範囲が自分たち三人意外と聞いた時には少々驚いた結だったが、それもすぐに納得する。

 生徒の一部の記憶が変えられているだけなら、どこかで歪みがうまれ、何か問題が起きているはすだ。

 それがないということは、ほぼ全員が対象にされたということ。

 つまりは消去法でそうであると判断したのだ。


「記憶と改竄か。そんなこと出来るのか?」


 状況的にそうであることは確実なのだが、だからと言ってはいそうですかと、すぐに納得出来るものではない。

 結は思わず二人に問い掛けていた。


「結論から言いますと可能です。七曜の光の一つ、月曜の光。月の光は特殊な効力を持っていることが多いですし、その中に記憶を改竄する能力があっても不思議ではありません」

「それに、二大強属性である氷属性を極めたものなら物質的な凍結じゃなくて、精神の凍結もできるしな。

 それを応用すれば記憶の凍結は出来ると思うぞ?」


 実際に結は奏や六花衆のその力を使って、自分で抑えきれない激情を封印して貰っているのだ。

 感情を封印することが出来るのであれば、同じく精神的な要素であり、尚且つ脳の中にある電気信号によって保存されているデータと考えれば、それを封印することは容易だろう。


「だが、改竄はレベルが違うだろ?」

「そういう心操を所有している、そういうことではないでしょうか?」

「そうか。心操か」


 幻操術とは、元々生き物が強く願ったことによって発動する現象であり、個人個人専用である心操術を解析し、それをコアに封じ込めることによって幻力を扱えるものであれば、誰もが使えるようにしたものだ。

 つまり、幻操術とは万人が使えるように劣化させられた、願いを実現させる能力なのだ。

 それの大元である心操術であれば、術者がそれを強く願いさえすれば、細かいリスクは背負うものの、十分に実現可能になる。


「複雑だな」

「どうした?結?」

「記憶を操作する心操術。それを手に入れるためにはそれを心の底から必要とするほどの絶望があったはずだ。そんな奴が相手となるとな」


 いくら心操術が願いを実現させたものだとしても、ただ強く願うだけで出来るものではない。

 常識を超えるほどに強く願わなければそれは実現しない。

 強い心操を持つものとは、それだけそれを手に入れるためにより深い絶望を味わっていることになるのだ。


「だが結。だからと言って野放しにするわけにはいかないだろ?六花はどう思う?」

「確かに、野放しにするのは危険だと思いますが、まずはどの程度の記憶が改竄されたのかの確認が必要だと思います」

「それならまずは俺たちの情報交換だな」

「情報交換というよは記憶交換じゃないか?」

「まぁ、そうだな」

「くだらないこと言っていないで早くしますよ」


 三人はこの数日間であったことを教えあった。

 その中でわかったことがいくつかある。

 まず、この数日の間で三人の記憶が食い違うことはなかった。

 そして同時に他の生徒たちとの会話から改竄された記憶がある程度判明した。


「改竄された記憶はアヤメについてだな」

「アヤメ?結、それは誰ですか?」


 結が出した名前に聞き覚えがなかった六花はちょこんと首を傾げていた。

 その姿は正直お持ち帰りしたいくらいに可愛らしいのだが、今の結にそんなことを考える余裕などなく、あるのは、やべ、忘れてた、っという気持ちだった。


「そういえば、結局報告出来てなかったな。アヤメっていうのは前にあたしたちを襲撃した奴の名前だ」

「襲撃?されたんですか?」

「ああ。昨日の夜にな」

「……どうして報告しなかったんですか?」


 六花の表情は笑顔だった。いつも無表情の六花にとって、笑顔はレア顔であり、それは男女問わずに見惚れてしまうほどに可愛らしいのだが、今はその笑顔に見惚れる余裕もなく、嫌な汗が流れる二人だった。


「えーと、忘れてしました」

「いろいろあったので仕方がないと思いますっ!」

「そうそう。あたしたちは無実だっ!」


 結と楓が焦った表情で言い訳をするのだが、六花はそんな二人を見て呆れるように深いため息をついた。


「まあ。今はいいです」


 どうやら無罪放免になり、ふぅーっと安堵する二人だが、


「問題終了後に会長と共に罰ゲームを与えます」


 ただの上告判決だった。

 問題終了後、つまりこの六芒戦が終わった後であろうその罰ゲームに、結と楓の二人が憂鬱そうにしている中、六花は話を進めた。

 結と楓は昨日会ったアヤメについてわかることを全て話した。

 楓の探索を抜けるほどの隠密行動、そして何より、


「忍び、ですか……」

「ああ。最後に使われたのは十中八九忍びの十八番(おはこ)、分身だったからな」

「それに、あいつは俺の能力について知ってるようだったしな。それも不可解だ」


 結の能力は正直言って恥ずかしいのだが、結自身も良くわかっていない。

 わかっている能力は、原理はどうであれ結果的に自己強化術である、『ジャンクション』。

 人の無意識行動を企図的に増やし、初動を限りなく速くする、

自分人形(マリオネット)』。

 第六感と一括りにされているが、本来二種類にわかれている野生的な『勘』と無意識的な記憶によって起こる『擬似勘』の内、『擬似勘』を強化しているとも言える、

考理予知(こうりよち)』。

 使用を禁止されているが、全能力を大幅に上昇させる術、

 『強制花輪フォーストゥ・ブルーム』。

 上記のと同じ術だが、『ジャンクション』にも影響が出ている部分で、戦闘をまるでRPGのように行う、

 『戦闘遊戯(バトル&ゲーム)』。

 そして、何よりも使用しているのが、

 『六月法(りげつほう)』だ。

 『六月法(りげつほう)』は、小さな月のような弾丸を放つ、

 『弾月(だんげつ)』。

 月の光にも似た力を纏わせ、圧倒的な斬れ味を武器に与える、

 『斬月(ざんげつ)』。

 強い衝撃を生み出す、

 『衝月(しょうげつ)』。

 『弾月(だんげつ)』を弾丸とするならば、巨大なビームを放つ、

 『狙月(そげつ)』。

 本来ならば、黒いコートを具現化、そしてそれを身に纏い、『身体強化』を超える強化を施す、

 『朧月(おぼろづき)』。

 指先より、弾丸というよりも、細いレーザーを放つ、

 『指月(しげつ)』の六種からなっている。

 他にもそれぞれに派生技があるのだが、それは良いだろう。

 しかし、これらの能力はまだ本来の姿を見せてはいないのだろう。

 自分自身で発現させておきながら、その詳細を得ることが出来なかったこと、それがこれらの術が未だに未完全なものであるということを示している。


 本来その能力を得た時に詳細が頭に流れてくるはずなのだが、それが無かったため結はその全貌を知らない。

 にもかかわらず、相手は何かを知っているようだった。

 アヤメ、その不可解はマックスだ。

 

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