7ー10 違和感の欠片
「それじゃ。約一名来てないけど、夜の会議を始めるわ」
会長の宣言によって夜の会議は始まった。
内容としてはやはり予想通り、今日頑張った生徒たちへの労いや、反省、明日の競技、【シュート&リベンジ】についての話だった。
最初の労いの言葉では雪乃はいなかったものの、他の生徒たちを会長が一人一人優しく肩を叩き、女子生徒限定だったがハグをしつつ、労っていた。
本戦一回戦で敗退してしまった風魔、服部、藤林の三人は会長の言葉で泣き出してしまい、こんなこというのは良くないが、その時の会長はアワアワとしていて見ていて面白かった。
「……ごほん。明日の参加メンバーを確認するわね」
「会長?顔が赤いですよ?風邪ですか?」
「うるさい六花。明日の参加メンバーを確認するわよっ!」
結局忍び三人組は会長が頭を撫でてあげることで泣き止んだのだが、人の頭を撫でるなんて慣れていないのか、撫でている会長の方が恥ずかしそうにしており、顔を赤くしていた。
それを六花に指摘され、会長は誤魔化すように音量をやや上げて言った。
「まずはAチーム。六花」
「はい」
「春樹」
「はいっ!」
「小雪」
「はいなのにゃっ!」
「次にBチーム。桜」
「ほいっ」
「結」
「おう」
「次にーー」
「美花っ!」
「え?はいっ!」
Aチームから順々に名前を呼んで行く会長だったが、Cチームの名前を呼ぼうとして瞬間、結に名前を呼ばれたことで反射的に返事をしていた。
会長は突然のことにややはずかしそうにしながらも、結をジト目気味で睨み付けていた。
「結。いきなり何よ」
「会長もBチームだろ?」
「そうだけど……なんで今は名前で呼んでくれないのよ」
「ん?なんだ?」
「なんでもないわよっばかっ!」
「会長に言われたくねえよ!」
「なによそれっ!どういう意味!」
「バカにバカって言われたくないってことだよバカっ!察せよバカ!」
「なっ!」
結の言葉がよほど頭にきたのか、会長は顔を真っ赤にすると、表情を般若のようにして、湯気が出るほどに怒り狂っていた。
「なにが察せよっ!それはあたしのセリフよっ!もう、結のバカっ!」
「おいっ会長!?」
会長はそう言い残すとどこかへ走り去って行った。
「……は?」
「……うわぁー」
「え、俺のせいか!?」
突然走り去った会長の後ろ姿を、呆然として見ていた結に、突如周囲から痛いくらいの視線が突き刺さった。
生十会メンバーも、そうじゃないメンバーたちも全員、こいつないわー、みたいな事を言いたげな表情をしており、結は今すぐこの場から逃げ出したい気持ちになっていた。
「遅れてごめんなさーいっ!……って、何この状況……」
「……雪乃?」
「あれ?主様どしたの?」
「ヘルプミー」
「……え?」
今やって来た雪乃は、結が全員から白い目で見られているという状況が理解できずに、首を傾げていた。
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そんなこともあったが、その後割とすぐに会長が戻ってきたため、会議は再開となった。
ちなみに、会長が戻ってくるまでの時間、結は皆に白い目で見られ続けていた。
ついでに雪乃もよくわかっていなかったようだが、周りにつられたのか結に白い目を向けていた。
「さっきはごめんなさいね。日頃のイライラが爆発しちゃったわ」
戻ってきた会長が少し恥ずかしそうに謝ると、周りからは「仕方ないよー」「あれはあたしも怒るよー」「リア充爆発しろっ!」「会長かわいーっ!」「音無死ねっ!」などと、多くの声が聞こえた。
ちょくちょく内容が明らかにおかしいのだが、気にしても仕方ない。
「よくわからないが、俺が怒らせたみたいだな。悪い」
「プンだ。意味もわかってない人に謝られても嬉しくないわよ」
「まあ、正論だな。それじゃあなんで怒ったんだよ。教えてくれよ」
「え?それは……」
会長は両手で自分の頬を挟み、頬を赤らめていた。
(いやいや、なんでだよっ)
それらの行動の意味がわからない結は、ただただ疑問符を浮かべるだけだった。
「会長?そろそろ話を戻してくれませんか?」
「へ?あっそうね。えーと、次はCチームの確認ね。Cチームは美雪、雪羽、雪乃の三人ね。……って、雪乃はまだ来てなかったわね」
「あっ、あたしここにいるよー。遅れてごめんなさーい」
雪乃が来ていなかったことを思い出し、どうしようかと会長が人差し指を頬につけ、首を傾げていると、会長がいない間に来ていた雪乃が、精一杯背伸びをしながら、これまたピーンっと手をまっすぐに上げていた。
「あら、いつの間に?」
「会長が羞恥心で泣いてる間にね」
前に出てきた雪乃は手を口元に当てて、ニッシシと嫌な笑みを浮かべていた。
「泣いてはないわよっ!」
「あれれぇー?ほんとうにぃー?」
「雪乃、怒るわよ?」
「やーい、会長のオコリンボー」
会長と雪乃が追いかけっこを始めてしまい、また会議が中断してしまった、っと六花はため息と共に、手を額に当てて、やれやれと首を横に振っていた。
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「えーと、皆さん。会長があの通り使い物になりませんので、私が引き継ぎますね」
やけに肌がツヤツヤしている六花の後ろには、屍のように倒れている会長と雪乃の姿があるが、まあ、気にしないでおこう。
「さて、各自明日の参加メンバーは確認出来ましたし、正直な話もう会議の必要もありませんので、各自体調管理は怠らないようにすることだけを徹底してくだされば、この後各自、三人以上で集まるのであれば自主練するもいいですし、このまま眠るのも良しです。
それでは、解ーー」
「どうして三人以上じゃないといけないんですかぁー?」
六花が会議を終わらせようとすると、怪訝な顔をした女子生徒が手を上げていた。
「それは……」
その問いに、六花は驚くように目を見開くと、何かに困っている、分かりづらいけど、そんな表情をしていた。
「まぁまぁ。六花にも考えがあるんだろ?例えばほら、チームの三人で一緒にいることでチームワークを向上させるとか」
楓がそう言って六花にウインクをすると、六花はそれに乗っかって、そうです、っと微笑んだ。
楓は「だそうだ。言うこときけよー」っと最後に言い残し、一足早く部屋から出て行った。
他の生徒たちも、心から納得したかは別だが、とりあえず納得したかのように様子で、各自部屋を出て行った。
「ねえゆっち?なんか六花と楓おかしくない?」
会議が終わると早々に、桜が疑問符がついているような表情で、部屋へと帰ろうとしている結を後ろから追いかけると、唐突に質問をした。
「そうだな。楓はいつからかわからないけど、六花は朝から様子がおかしい」
「朝からなの?あたし気付かなかった」
「まあ、六花の表情ってわかりづらいしな」
途中までは一緒なので、結と桜は一緒に歩いていた。
結が苦笑いを浮かべながら言うと、桜は不満そうに口を膨らませていた。
「それって、ゆっちは六花のこと良くわかってるってことー?」
「まぁ、そうとも言えるのか?」
「へー、へー。そうだんだぁー」
口調はいつも通りだが、明らかに機嫌が悪そうにしている桜に、結は心の内で首を傾げていた。
「そ、それで桜は二人のどこかおかしいと思うんだ?」
「えっ?んーそれはー」
このままは良くないと思い、何かを誤魔化すように、結が桜へ話を振ると、上手くいったらしく、桜は自分の考えをまとめていた。
「うん。さっきの会議だって、三人組で行動しなさいって、楓はああ言ってたけど、絶対理由違うよね」
「ん?そんなことか?それゃ理由は違うだろ?」
結の返事が意外だったのか、桜は大きな目をさらに大きくしていた。
「えっ?どういうこと?」
「いや、それは剛木たちの一件があったからだろ?」
「へ?どういうこと?」
桜は本当に意味がわからないような、そんな顔をしていた。
「……一つ聞いていいか?」
結は嫌な予感がして桜にそれを聞こうとした。
結は心がザワザワするのを感じていた。
そして、それは確定することになる。
「剛木の腕はどうして片方無いんだ?」
結の質問に桜は暗い顔をして答えた。
「覚えてる?一年前の事件?」
一年前に大きな事件があった。
それは事実だ。
だけど、それとこれになんの関係があるんだ?
俺が求めている答えはそれじゃないんだよっ。
「剛木、その時の戦いで片腕を……」
結は桜の答えを聞くと同時に後ろに振り返ると走り出した。
「ちょっとゆっち!?どこいくの!?」
桜の声には答えない。
結はただただ、まだ残っているはずの、六花の元に急いだ。
全力で走る結に、通りすがるものたちは皆驚くが、そんなのは関係ない。
朝からあった六花の違和感。
いや、逆だっ!
六花は違和感に気付いていたんだ。
だからーー。




