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7ー9 試合終了


 その後の展開はわざわざ言葉にする必要はないだろうが、そう言ってもいられない。

 【F•G(ファースト・ガーデン)】の守りの要である雪乃最大出力の氷壁が突破されてしまい、同点となった後、試合終了のホイッスルが鳴った。

 同点なのでサドンデスマッチが行われた。

 しかし【F•G(ファースト・ガーデン)】の最大威力のシュートはアリスによって簡単に止められてしまい、逆に【R•G(ロイヤル・ガーデン)】によって防御を突破されてしまっているのだ。

 桜たちが再び二重の幻(ユニゾンファントム)シュートを放つものの、一回目と同様にアリスに止められてしまい、再現するかのようにアリスたちの二重の幻(ユニゾンファントム)シュートが炸裂した。

 桜や陽菜も守りに加わることが出来ればよかったのだが、あいにく二人の主属性は火と雷。攻撃、防御、補助、全てに向いており、バランス型、さらに言えば万能の力を有する氷と違って、この二属性は攻撃にステータスを全振りしたかのような、攻撃特化型と言える。

 それならば雪乃の氷に自分の術を混ぜて二重の幻(ユニゾンファントム)とすれば、例え火や雷属性だとしても氷壁の硬度をあげることが出来るが、陽菜はともかくとして、出会ってさほど時間が経っていない桜では雪乃と術をシンクロ、二重の幻(ユニゾンファントム)を発動することなんて無理だ。

 そもそも、二重の幻(ユニゾンファントム)だなんてものは、滅多に見られない超が付くほどの高等技術だ。

 天才ならば皆できるかと問われればそれは違う、むしろ天才ほど難しく感じるかもしれない。

 二重の幻(ユニゾンファントム)を発動するには二人の幻力の波長をほぼ完全に一致することが必要になる。

 しかし、天才たち、つまり潜在幻力が高いもの達にはそういう細かい調整が難しいのだ。

 例えるならば小さい五○CC程度の計量カップでならば細かい調整が出来るかもしれないが、大きな二ℓ程度のものとなると、難しいだろう。そんな感じだ。

 もちろん技術は必要だが、二重の幻(ユニゾンファントム)はそれ以上に使用者たちの信頼関係が重要なのだ。


(高飛車だったアリスがユニゾン出来るまで人を信頼するなんてな)


 結が初めてアリスに出会った時の印象は高飛車な美少女と言うべきだろう。

 慕われてはいるようだったけど、アリス自身は他の子だなんてなんとも思っていないようだった。

 ……いや、それは違うな。なんとも思っていないわけじゃなくて、家来とか、部下とか、従者とか、そういう自分よりも下で、使われる人間、都合の良い人間、信頼からは程遠いもの。

 少なくとも部下って考え方は会社とかではいいかもしれない。むしろそういう場所ではそれなりに上下関係はハッキリさせるべきだ。

 しかし、同年代、それは友達が相手になれば話は別だ。

 ーー当時は友達とも考えていなかっただろうが。

 今のアリスがクラスメイトと上手くやっていることはすぐに分かった。

 だけど、ユニゾンする程の友好関係を築いていることをこうもハッキリと見せられて、嬉しくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 第一競技、【キックファントム】はこれで三チームとも敗退となってしまった。

 桜たちに勝ったアリスたちのチームはその後も勝利を重ね、最初に考えていた通り、一位の座にはアリスたち三人が座ることになった。


「元気なさそうだな。雪乃」

「……バカ主……」


 試合に負けてしまった後、会長がそっとしてあげなさいと言ったため、誰も控え室に行かなかったのだが、その後に結は雪乃に会いに行っていた。

 既に雪乃は控え室ではなく、会場の外にあるカフェで静かに紅茶を飲んでいた。

 一人でぽつんとカウンターに座る雪乃は、明らかに沈んでおり、いつもは明るいイメージを湧かせてくれるのだが、今の雪乃は見ていると暗いイメージが湧いてくる。

 今日の試合は既に終わっており、時間的にはもう夜だ。そのため他のお客はほとんどいないようだった。

 結は雪乃の隣に座るとマスターに飲み物を頼んだ。

 結と雪乃は互いに言葉を発せずに飲み物に口を付けるだけで、沈黙が続いていた。


「あたし、弱いね」


 沈黙を破ったのは雪乃のそんな言葉だった。

 雪乃の言葉に誘われるようにして結が視線を横に移すと、雪乃の瞳からは一筋の涙が溢れていた。


「……そうだな」

「あはっ……励ましてくれないんだ」

「なんだ?励ましが必要か?」


 落ち込んでいる雪乃に、結はあえていつもの調子で話し続けていた。

 いつもは元気な花が咲くようなイメージを与えてくれる笑顔なのだが、今の雪乃には乾いた笑みが限界だった。


「どうだろ。こんな感じ久しぶりだなー」

「……どんな感じだ?」

「うーん、そうだね。こう、胸がチクチクするような、何かが崩れていくような、何か熱いものが込み上げてくるような感じかな……」

「……そうか。それが敗北だ。それが喪失だ。それが悔しさだ」


 雪乃の瞳からはより一層に涙が溢れていた。


「こんなの姫に負けて以来かな」

「その時もこんなに落ち込んだのか?」

「ううん。違うね。あの時は負けたことに怒った。あの時のあたしたちは驕ってたからね」


 姫、つまり奏が【T•G(トレジャー・ガーデン)】に入る前まで、最強の座は雪乃たち六花衆だったと聞く。

 当時は四人とも自分たちこそが最強だと思い込み、他人を見下していた。

 そして奏が入学すると、即座に喧嘩を売った。

 結果は見事な返り討ち。

 一対四だったにもかかわらず、雪乃たちはあまりにもあっさりとやられた。

 その後四人は何度も奏に挑んだらしい。その度に返り討ちにあって、四人は上には上がいるということを身を以て知った。

 奏に負け、驕りをなくした雪乃たちはその高過ぎる才能のために疎かにしていて修行に熱中した。

 そしてそれからの四人は勝ち続けた。


 それが、今日、負けた。


 所詮これはただの遊びであり、実戦であれば十中八九雪乃が勝つだろう。

 加護を失い、力が前よりもだいぶ低下しているとは言え、今のアリスならその能力はどっこいどっこい。しかし経験の差があまりにもある。

 【A•G(エンジェル・ガーデン)】の幹部として、たくさんの戦いを経験している雪乃が圧倒的に有利だ。

 しかし、例え遊びだとしても負けは負けだ。


「なんか、イライラしちゃうね」

「負けたことにか?」

「違うよ。自分自身に」

「自分自身?」

「姫に負けて、もう驕らないって決めたのに、負けた時、凄く傷付いた。それっていつの間にか驕ってたってことでしょ?

 結局あたしは変われてないんだ。そう思ったらさ、無性に情けなくて、そんな自分が嫌になっちゃうよ」

「それは違うさ」

「えっ?」


 俯いたり、上の方を見たりと、そわそわしていた雪乃は、結の言葉で振り返った。


「それは驕りとは違うだろ?傷付いた時、なんでこんな奴に負けたんだろうって思ったか?」

「思ってない」

「ならそれは驕りじゃない。プライドだ」

「プライド?」

「自分の力がどの程度なのか見極めないで勝手に自分たちが最強だと思っていた昔の雪乃は確かに驕ってたんだろうな。

 だけど今の雪乃は違う。奏にやられて自分を知った。そして努力をした。今の雪乃のその努力の賜物だ。そこには誇り、プライドがある。頑張って手に入れたものにプライドを持つのは普通だ。むしろそれでプライドが無いなんてふざけるなってなるな。

 だから、……んー、なんて言えばいいんだろうな。

 自分を責めるな。

 我慢するな。

 泣きたきゃ泣けばいい。

 雪乃は悪いことなんてしてないだろ?」


 結の言葉で雪乃は声出して泣いた。

 静かに泣くのと、声を出して泣くのは意味が違う。

 前者は我慢していることがあるか、まだ現実を受け止められていないか。

 後者は現実を受け止めて先に進むための儀式だ。

 情けなくて泣いていいんだよ。

 惨めでもいいんだよ。

 それが君の経験値になるんだから。

 だからーー。


 結は雪乃を優しく抱き締めると、泣き止むまで頭を撫で続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結は雪乃が泣き止んだ後、顔を真っ赤にしている雪乃の願いで先に会議室へと向かっていた。

 どうして会議室に向かっているのかといえば、簡単な理由だ。これかれ夜の会議がある。ただそれだけのことだ。

 会議とは言っても、内容は今日頑張った者たちへの労いと、反省、そして明日の競技についてだ。

 会長がメイトではなく、能力的に六花が進行係を務めると思うのだが、結が会議室に到着した時、まだ六花の姿は無かった。


「あら結。遅かったわね」


 朝の会議では早く来たのだが、今は既に開始まで五分をきっている。

 こりゃ雪乃遅刻確定だな、っと結が密かに思っていると、会長から声がかかった。


「いろいろあってな」

「……そう。落ち着いてくれたかしら?」

「……なんでもお見通しってか?」

「そんなんじゃないわよ。ただ、心配だったってだけよ。あたしも昔そうだったから」


 そう言うと会長は珍しいことに表情に哀感を漂らせて、どこか遠い場所を見つめていた。


「となると、雪乃はまだ来そうにないわね。後来てないのは……」

「遅くなってしまい申し訳ありません」


 結と雪乃のやりとりを想像し、しばらく雪乃はこれないだろうと、会長が来ていないメンバーを確認しようとキョロキョロしていると、丁度雪乃を除いてはただ一人来ていなかった六花が現れた。


「あら六花。遅かったじゃない。でも時間には間に合ってるから謝ることなんてないわよ。

 何してたの?」

「……少し急用がありまして」


 会長としては責めるつもりなんてこれっぽっちも、微塵に無いのだな、会長の言い回しは責められいるような印象を六花に与え、そのためか六花の言葉にはどこか勢いがない。

 ……六花の言葉が淡々としているのはむしろいうものことだろうか?


(だけど、やっぱり様子がおかしいな)


 朝の会議の時から思っていたことなのだが、どこか六花はいつもと違う。具体的にどうかとかは言えないが、なんとなく六花がおかしいと結は感じていた。


(まあ。気のせいか)


 六花に限って妙なことはないだろうと思い、その考えを捨てていた。

 それが一体なんだったのかも知らずに。



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