7ー4 ランクが全てではない
第一ゲームでは向こうが先手だったため、今度はこちらが先手だ。
陽菜が二人に提案した作戦とは至ってシンプルだった。
それは作戦というにはあまりにもシンプル過ぎるのだが、ある意味陽菜の提案はこの状況を簡単に解決する可能性があった。
その作戦とは、
「『土操っーー』」
「『火速脚』っ!!」
先手必勝。
「おーっと、第二ゲーム開始早々、【F•G】Bチーム、先制点だぁっ!」
幻操術の使用が許可されているのは試合が始まった後、桜の得意幻操は、本来女よりも、男が好む術である『身体強化』、そして、火を噴射することによって、ジェットのように加速する術『火速』の二つだ。
桜はこの二つの術が、得意中の得意であり、その発動スピードは【F•G】の中でも一、二を争う。
これだけに限るのだが、Sランクである会長よりも、その術と発動スピードは早い。
そのため、相手が試合が開始して、すぐに土壁を作ろうとしたとしても、桜のシュートはそれよりも圧倒的に早い。
しかも、桜の場合は、普通、『身体強化』を使う時は、一旦立ち止まり術を掛けてから動き出すものなのだが、桜は動きながら術を発動する。そのため、初動の差も軽減され、結果的にそのシュートは容易に相手ゴールへと突き刺さっていた。
火曜の性質を持ち、火の属性を得意とする桜は、結が拳銃から火を噴射することでしか、火速が出来ないのに対し、自分の意思でどこからでも火を噴射させることが出来、そこから火速へと繋げることが出来る。
踵の少し上ぐらいの場所から、蹴りを加速させるように火を噴射させ、蹴りの威力とスピードを増大させる火速の同系術『火速脚』によって早速得点を挙げた桜は、両手を上げて嬉しそうに、はしゃいでいた。
「へぇー。考えたな」
「開始後は互いに防御力が上の勝負。それなら開始とほぼ同時に奇襲する。今の状況の脱出案としては、シンプルだけど、最適かもな」
「だがよー、ゴール後は失点側が中央から蹴り始めるだろ?
ゴールした後、球を中央に奥までの時間は幻操術の使用が禁止されてる。相手側も術中断されてるとはいえ、こっちも防壁はない。
それじゃ相手も同じことしてくるんじゃねえか?」
「まあ、確かに普通なら鏡の言う通りなんだがな」
余裕顏をしている結や楓、会長や六花など、鏡を除いた全員がその心配をしていないのを見て、鏡は疑問符を浮かべていた。
そんな鏡に結は、「まっ、見てろよ」っとだけ言うと、試合へと注意を戻していた。
「まあ、結がそういうなら仕方ねえな」
結に言われ、鏡は渋々疑問をひとまず置いて、試合を見ることにしていた。
「くぅー。舐めたことをしてくれましたねっ!」
試合が再開されると、失点を許してしまった相手チームのリーダーは、悔しそうな表情を浮かべ、中央にただ一人立っていた。
「ほらよっ!やっぱりあいつら同じことするつもりじゃねえかっ」
「まあ、静かに見てろよ」
「でもよっ」
「鏡、あの子達を信じてあげなさい」
中央に一人だけで立っているということは、パスはせずにそのままドリブルかシュートをすること、ドリブルをするのであれば、残りの二人が後ろ下がる理由はないし、そもそも蹴る度に幻力を消費させられてしまうという、【キックファントム】で使用しているボールの特性上、ドリブルはよろしくない。
つまり、相手がしようとしていることは十中八九、シュート。つまり、先ほど桜がやったことをそのまま返そうとしているのだ。
自分の言った通りになり、結が言っても落ち着かない鏡に、会長は鋭い視線を向けた。
会長の鋭い視線というよりも、その言葉にハッとした鏡は、静かに試合の成り行きを見守ることにしたのであった。
「雪乃っ来るよっ!」
試合が再開され、相手チームのリーダーがすかさずシュートの体制に入った瞬間、桜は叫んでいた。
「わかってるってっ!」
雪乃は答えるように叫びながら、パシンと指を鳴らした。
「おーっとっ!先ほどとは逆の展開っ!【H•G】の強烈なシュートだぁっ!」
雪乃が指を鳴らすのと、相手のリーダーがシュートをするのは、ほぼ同時だった。
「嘘……でしょう?」
相手の蹴り出したシュートとは、まるで弾丸のように飛んだ。しかし、その先にあったのは、ゴールではなく、巨大な氷の壁だった。
「ちっちっちぃー。あんたのスピードじゃあたしの速度を越えられないよっと」
氷の壁に弾かれ、外へ出ようとしているボールを、雪乃は飛び上がると、ボールが外に出る前に、それを桜へとパスしていた。
「あっ」
自分たちで最もスピードが早かったリーダーのシュートが止められて、唖然としていた相手チームの三人は、桜が雪乃からボールを受け取り、シュートの体制に入ったと同時に、我に返っていた。
「しまったっ『土操ーー』」
「遅いよっ!『身体強化』からの『火速脚』っ」
最初の一点目と同様に、桜のシュートは相手の防御よりも早く決まり、二点目を獲得した。
既に雪乃の出した氷の壁があるため、開始直後の奇襲を今度はしてくなかった【H•G】側は、今度はすぐにシュートに移さずに、先に自分たちの土壁を作り出していた。
その後、再び攻撃へと向かった【H•G】だったが、互いに防御壁を作ってからは第一ゲームと同じ展開になっていた。
第三ゲームは最後に得点を挙げたのが、【F•G】側だったため、【H•G】からのスタートとなった。
相手は第二ゲームで桜がやったように、開始早々にシュートをするが、雪乃の防壁がしっかりと受け止めていた。
その後は再び桜の速攻シュートによって、さらに得点を挙げ、その後は第二ゲームと同じ展開となり、最終的には三対○という結果に終わった。
「なあ結。なんで桜のシュートは決まって、相手のシュートは決まらなかったんだ?」
桜たちが勝ち、【F•G】の生徒たちが自分たちの仲間の勝利で、喜びに満ちている中、鏡は疑問符を浮かべているようだった。
「なんだ?鏡はわからないのか?」
「ん?楓はわかるのか?」
「いや、幻操師ならあれくらいわかるだろ?」
【キックファントム】が始まる前、カフェテリアで一緒に食事をしていた時に、突然固まってしまっていた楓なのだが、試合が開始する前に現れ、その時から何事も無かったように普通にしていた。
楓は呆れた様子で言っていた。
「単純な話だ。桜のシュートが決まったのは純粋に桜のシュートが早いから。
見てる限りだが、桜の『身体強化』と『火速』の発動スピードは、幻操師全体で見ても上位の下くらいのレベルはあるだろうな」
「速えとは思ってたが、そんなにか?」
「だな」
「それなら、相手のシュートが入らなかったのは、相手のシュートが遅かったからってことか」
「それは違うぞ?」
一人、納得顔になっている鏡に、結は否定の言葉を掛けた。
結の否定に、鏡は目を見開き、分かりやすく、わざとではないかと思うくらいに驚いていた。
そんな鏡に、結は説明を始めた。
「確かに、相手のシュートが桜ほど早くなかったのは事実だが、それでも相手も決して遅くなかったぞ?」
「【H•G】ってセブン&ナイツの一つに数えられるほどだしな、一人一人の実力は高いぞ?」
「じゃあ、理由はなんだよ」
結と楓がここまで話したにもかかわらず、鏡は疑問符を浮かべ続けていた。
そんな鏡に、呆れて言葉も出なくなっている結の代わりに、楓は呆れながらも説明をした。
「互いの攻撃力はほぼ互角。だけど片方だけが大きなダメージを受ける。その心は?」
「んあ?そんなの、片方の防御力が低かったからだろ?それとこれになんの関係が……って、あっ!」
鏡は基本的にどっかの誰かさんと同様にアホの子だが、これまたどっかの誰かさんと同様に、戦闘に関してはそこまでアホではない。
楓はそれを知ってか知らずか、戦闘に喩えた質問をすると、鏡はハッとした表情を浮かべた。
「やっとわかったのか?」
「ああ。防御力の差、つまり、壁役の差ってことだろ?」
普通の幻操師ならば、桜のシュートを止められなかったのと同様に、相手のシュートも止められなかった筈だが、相手にとっては不幸なことに、雪乃は並の幻操師などでは決してない。
伝説とまで言われているほどのガーデンである、【A•G】のメンバー、それも六人いる幹部の中の一人だ。
(……ん?六人?)
「結、どうかしましたか?」
何か、引っかかりを感じた結が、それについて思考の渦に飲み込まれそうになった時、六花の声で現実に引き戻されていた。
「いや、なんでもない」
「それなら桜たちのところに行きますよ」
「ああ。そうだな」
鏡に説明していて遅れたが、結は楓や六花、そして遅くなった原因である鏡たちと共に、桜たちの元に向かった。
何か大切な事を忘れている。そんな不安をその胸に抱きながら。




