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7ー3 それを人は死亡フラグと言う



 食事を終えた後、変わらずに俯いて固まっている楓に声をかける結だったのだが、全く反応を示さないために、最後に、


「えーと、一人にした方がいいか?」


 っと、縋る思いで声を掛けると、反応を見せないと思っていたところ、小さく首を縦に振ったため、あとでなっと残し、結はその場から立ち去った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 現時刻、十二時半。

 カフェテリアを後にした結は、もう少しで【キックファントム】の本戦が始まるため、本戦会場へと向かっていた。


「こんにちわ、ご主人様」

「こんにちわ、美雪」


 会場へ向かっている最中、偶然美雪たち六花衆と遭遇した。

 彼女たちの手にはいくつかの袋が持たれており、今彼女たちが来た方向からしても、土産屋に寄っていたのだろう。


「なに買って来たんだ?」

「流石はご主人様ですね。なんでもお見通しなのですね」

「その袋を見りゃ誰だってわかるだろ」


 美雪は「そうですね」っと手を口元に当ててクスクスと笑っていた。


「ところで、ご主人様はこれからどちらに?」

「そろそろ本戦だろ?桜に陽菜、それに雪乃だって出るからな、応援に行こうと思ってな」

「えっ!あたしの応援?嬉しいねぇー」


 雪乃の方を向きながら言うと、雪乃は嬉しそうに、はにかんでいた。


「雪乃たちのチームはどうだ?勝てそうか?」

「もちのろんだね。このあたしがいるんだよっ勝てるに決まってるさ」

「クスッ。雪乃ったらずっとこの調子なんですよ?」

「おいおい。あまり油断すんなよ?」

「わかってるってっ!」


 雪乃は安心してよって言わんばかり最近成長してきたっぽい胸を叩いた。


「四人とも明日は試合だろ?そっちら大丈夫なのか?」


 雪乃の場合は明日()なんだが、【シュート&リベンジ】は四人とも参加する。小雪は別チームだが、他の三人は同じチームだ。


「明日は主様も出番であろう?主様はどうなのだ?」

「俺か?俺はまあ、ぼちぼちだな」

「主様にゃら勝ちは確実だにゃっ!」


 雪羽の問い掛けに、曖昧に返す結の代わりに、小雪が自信満々に言うため、思わず笑みがこぼれる一同だった。


「それで、雪乃は本当に大丈夫なのか?」

「主様ー?やけに疑うけど、あたしって信頼ない?」


 雪乃は調子に乗る癖があるからな。だから強がっているだけかもと思い、結が再度確認すると、雪乃は拗ねるように口を尖らせていた。


「雪乃は強がる癖があるのだよ。主様はそれを見越して言っているのだよ。つまり雪乃のためなのだよ」

「うっ、雪羽ぁー。マジレスしなくていいじゃーん」

「雪乃は主様に構って欲しいだけだにゃっ」

「こ、小雪っ!」


 楽しそうに言う小雪に、雪乃は頬を薄っすら紅に染めて叫んでいた。


「にゃははっ。雪乃かっこ悪いにゃっ」


 小雪は恥ずかしそうにしている雪乃を見つめて、楽しそうにその場をピョンピョンと飛び跳ねていた。


「小雪、あんまりいじめてやるなよ」


 からかわられ過ぎて、ちょっと雪乃がかわいそうになって来たため、結が止めに入ると、小雪は素直に「わかったにゃー」っと引いていた。


「雪乃、俺の代わりにも勝てよ」

「うん。わかった」


 その時の雪乃の顔は、学校のクラス対抗リレーなどで、最後にバトンを託された、アンカーのようだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 【キックファントム】開始まで既に五分を切っていた。


「さて、桜たちは勝ってくれるかしら?」


 【キックファントム】に出ない生十会メンバーは、怪我をしている剛木や、朝、桜に蹴り飛ばされて気絶していた鏡を含めて、全員が揃っていた。


 まだ選手も出てきていないというのに、会長の表情は緊張で固くなっていた。


「会長?会長が緊張する必要はないと思うのですが?」

「そうは言っても、これは仕方がないじゃない」


 緊張のあまりに少々汗を流している様子の会長に、六花が若干呆れた口調で言うと、会長はさらに緊張感を増して、拳を固くギュッと握っていた。


 【キックファントム】の第一試合は桜、陽菜、雪乃の三人が出場する。

 予選では桜たちのチームも、もう一つのチームの圧勝と言ってもいい結果だったのだが、その時の対戦相手は【S•G(セカンド・ガーデン)】と【S•G(サード・ガーデン)】。

 【S•G(セカンド・ガーデン)】はエリート校でもある【F•G(ファースト・ガーデン)】のスピードについてこられない生徒のためのガーデンであったり、【S•G(サード・ガーデン)】も【幻操師】ではなく、【幻工師】に重点を置いているガーデンだ。

 今回、桜たちの相手は【H•G(ハッピー・ガーデン)】。

 そう、麒麟率いるガーデンだ。


 初日の交流会では、マスターである麒麟以外は誰一人として姿を現さなかったのだが、それは【R•G(ロイヤル・ガーデン)】との衝突を避けるためであり、【H•G(ハッピー・ガーデン)】の生徒たちも競技には参加している。


「あっ、桜さんたちですぅ」


 真冬が指を指す先には、意外なことに緊張感溢れる表情を浮かべている桜と、いつも通りクールな陽菜、緊張感はないようだが、むしろ早くやりたくて仕方がないという気持ちが、多少交流のある者になら伝わってくるほどに、ソワソワしている雪乃の姿があった。


「本日は第一回、交闘戦技大会こうとうせんぎたいかい、通称六芒戦にお越し頂き、誠にありがとうございます。堅苦しい挨拶は抜きとしまして、早速ですがこれから互いの力を競い合う、二チームの紹介をさせて頂きます」


 本会場であるこのコロシアムは、結構な広さをしているのだが、今日から選手ではない他の一般生徒も来ているため、観覧席はほぼ満席のようだった。

 こういう大会を開催する時は、学校の運動会や体育祭しかり、長々としたスピーチが定番だ。

 この六芒戦を提案した生徒が所属する【F•G(ファースト・ガーデン)】の生徒が一人、代表して司会を務めているのだが、観客も、選手も、そのほぼ全員が同い年ということもあってか、そういう堅苦しい挨拶は全て省略するようだ。


 それでいいのか?っと思ってしまうが、正直選手としても、観客としてもありがたい。


「まずは、我らが【F•G(ファースト・ガーデン)】代表、Bチームの皆様からご紹介させて頂きます。

 まずは、【F•G(ファースト・ガーデン)】中等部二年生十会の一人であり、この年でAランク、そして2nd(セカンド)のクラスを持っている天才っ雨宮桜っ!」


 司会の紹介に合わせて、桜は一歩前に出ると正面、左右、そして最後に後ろを向き、それぞれに頭を下げていた。


「続きまして、雨宮と同じ生十会メンバーの一人、無口で無表情、だけど本当は結構お喋りが大好きな美少女、その外見からは思えない程の強さをその身に秘めている宝院陽菜っ!」


 司会が次の紹介を始めると、桜は一歩下がり、代わりに陽菜が一歩前に出ていた。

 先ほど桜がやっていたように、東西南北、全ての席にいる観客たちに挨拶をした陽菜は最後にチラリと結たち生十会メンバーがいる方に視線をやった後、静かに一歩下がっていた。


「そして、Bチーム最後に紹介するのは、この六芒戦が決定する数日前に突如として転校してきた謎の美少女転校生っ。こうして同じチームとして出場してる点からわかるように、生十会と深い関わりがあるようであり、独自に生十会メンバーの一人にお聞きしたところ、生十会メンバーにも劣らない、凄まじい実力を秘めている雪乃だっ!」

「生十会メンバーに聞いたって、誰が答えたんだ?」

「ん?あたしだけど?」

「会長かよっ!」


 まさか会長直々とは思っておらず、驚いている結に、会長は続ける。


「朝突然委員会から人が来て、これに書いてある質問に答えてくれませんかって用紙渡されたのよ」

「……ん?もしかして朝の会議でずっとなんかやってたのって」

「えぇ。その質問の答えを書いてたのよ」


 珍しく張り切ってると思ったら、そんなことやってたのか。

 しかし、今の内容だけならあんなに時間はかからないだろう。

 ……まさか、


「なあ。もしかしてその質問って」


 嫌な予感がする結に、会長はとびっきりの笑顔を浮かべていた。


「ええ。全員分よ。もちろん、結、あなたもね」


 会長はそう言うとウインクをした。

 会長の性格からして、下手すれば質問に答えただけじゃなくて、紹介文まで書いているような気がする。

 だって、普通こういう紹介で堂々と美少女とか言わないだろう。


「それにしても、委員会もやるじゃない。あたしの考えた紹介文をそのまま使うなんて」


 うわーっ思いっきり会長が考えたっぽいっ。


 【F•G(ファースト・ガーデン)】から出場する三名の選手たちの紹介が終わった後は、対戦校である【R•G(ロイヤル・ガーデン)】の選手たちの紹介が始まったのだが、どうやら向こうも向こうで、紹介文を提供していたらしく、なんか、痛々しかった。


 例えば、


「次は、先ほど紹介した三名の選手たちと競い合う、【R•G(ロイヤル・ガーデン)】の選手たちを紹介しますっ!」


 ここまではいい。ここまでは良かったんだ。


「まずは、【R•G(ロイヤル・ガーデン)】Bチームのリーダーであり、【R•G(ロイヤル・ガーデン)】マスターである麒麟様を心から愛し、その身も心も全てを麒麟様にお捧げすると、神である麒麟様に誓った、麒麟様の忠実なる奴隷、高橋百合っ!」


 いや、駄目だろっ!


 なんだよ麒麟様を愛してるとかっ、身も心も捧げているとか、忠実なる奴隷とかっ!

 思いっきりだめなやつだろっ!


 実際問題、おそらく向こうからこれを言うように出された文をそのまま読み上げたであろう実況の女子生徒は顔を赤くしてるし、他の観客たちも皆唖然としてる。

 ただこの場でとある一帯だけが普通にしていた。


(え?なに?【H•G(ハッピー・ガーデン)】じゃこれが普通なのか!?)


 その一帯とは何を隠そう、【H•G(ハッピー・ガーデン)】の生徒たちがいるところだ。


 ちなみに、【H•G(ハッピー・ガーデン)】の生徒たちが表に出て来なかったのは初日の交流会だけで、その後は割と普通に表に出ていたし、プールで泳いだりもしていた。


「おい、結。もしかして【H•G(ハッピー・ガーデン)】ってガチレズの巣窟なのか?」

「……知らん。俺は知らん」


 麒麟を中心に絡み合う少女たち……うん、こりゃ想像しちゃ駄目だな。


 もしかして【H•G(ハッピー・ガーデン)】のハッピーってそう言う意味なのか?だなんて結が密かに思っていると、司会は顔を赤くしたまま、司会者根性というやつなのか、何事もなかったかのように次の紹介をしていた。


 【R•G(ロイヤル・ガーデン)】残りの二人の紹介がどんな風だったのかは想像に任せよう。ただ一つ言うのであれば、一人目、百合とあまりに変わらなかったとだけ言おう。


 ああ。それと、肝心の麒麟の反応なのだが、各校六人のマスターたちがいる特別観覧席に座っている麒麟は、三人の紹介を聞いて、普通に照れていた。

 ……というか、呆れているようだった。


(つまり、麒麟にそのつもりは無いと)


 成就することのない恋心、……まあ、人それぞれだよね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 選手の紹介が終わり、とうとう本戦第一試合が始まろうとしていた。


 【キックファントム】のルールは一チーム三人ということと、強く蹴れば蹴るほど幻力を吸われてしまうということ以外は、普通のサッカーとほぼ一緒だ。


 試合時間は十分間一ゲームの三ゲームマッチだ。

 同点の場合は先に得点を入れた方の勝ちというルールで、時間無制限の延長戦がある。


 予選では九対○という、圧倒的力の差を見せつけた桜たちだったのだが、流石は本戦、というより【H•G(ハッピー・ガーデン)】というべきだろう。


 試合が始まって既に一ゲーム、つまり十分が経過していた。

 現在のスコアは○対○。

 つまりは同点、それも互いに相手の防御を突破出来ずにいた。


「くそぉー。あの防壁が突破出来ないよー」


 ゲームの間には、五分の休憩が入る。各サイドに別れ、そこにあるこじんまりとした、体育祭の時に使うような仮の本部のようなスペースで、備え付けられているベンチに腰を下ろし、桜は悔しそうに唸っていた。


 【キックファントム】は相手選手に直結幻操術を使うことは反則になるのだが、フィールドへの発動は禁止されていない。

 予選で桜たちも雪乃の氷によってやったことなのだが、相手チームはゴールの前に土の壁を幻操術で作っており、桜たちのチームも氷の壁でゴールを覆っているため、互いにゴールが出来ずに、何度もボールの奪い合いをしては、シュートが壁に弾かれるというのを、さっきから繰り返している。

 互いに球の突破力よりも、防御力の方が勝っている状態のため、このままではジリ貧だ。


「どうするー?なんか提案ないぃー?」

「桜も考えてよっ」

「あたしの頭じゃ思いつかないよー」

「あたしだってこういう作戦練るのとか苦手なんだけど」

「……提案ある」


 似た者同士である桜と雪乃が、一緒になって頭を悩ませていると、唯一この中でアホの子じゃない陽菜が、とあることを提案していた。


「よしっそれに決定っ!」

「……いいの?」

「だってそれしか案ないしねぇー。ねっ桜」

「だねっ雪乃」

「……セリフだけ聞いてるとどっちがどっちだかわからない。……死亡フラグ?」

「「変なこと言うなっ!」」


 よく物語とかでは、似たキャラが出てくると、そのどちらかが死ぬことが多いらしいが、確かにそう考えると死亡フラグが立っているのかもしれない。


 三人がそんな漫才をやっていると、五分なんてすぐに経ってしまい、第二ゲームがスタートした。

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