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2ー10 心を纏う者

 アリスは構え方を足を肩幅程度に開き、両手を体の前に並べて構えるボクシングの基本的な構えを取るとその両手にさらなるその異質な幻力を込めた。


 両手に発現されたグローブは幻力を込められることにより手の甲に刻まれた幻操式が発動しその両手を包むようにして火炎が生まれた。


「行きますわよ?」


「来いよ」


 アリスは結に向かって挑発的に笑いかけるとその挑発に対して結は左手を上げてこちらに引き寄せるかのような、かかってこいよっとでも言いたげな仕草で返していた。


 アリスは結の挑発に対してその笑みをより一層深くすると腰を落とし両手を地面に付けてクラウチングスタートの体制になった。


 アリスはクラウチングスタートの状態のまま両手の火を強くするとまるでロケットのように両手から火の放出開始した。


心操(しんそう)火速拳(かそくけん)


 そして術を発動すると火速の要領で結の頭上に一瞬で移動するとそのまま上から火に包まれたその手を振り下ろした。


「っ!!」


(こいつ、やはり速くなっていやがる)


 その速度は当初見せていたスピードよりも遥かに速いものでありスピードの上昇を予測していた結は予測よりもスピードを上げていたアリスの拳を少しかすりながらも横に逸れることで回避すると地面に拳を突き刺している状態のアリスに向かって蹴りを仕掛けようとするがアリスはそのまま地面に突き刺した腕を支点にして逆立ちをすると逆立ちのまま開店を始めるとその両足に火を纏い蹴りを仕掛けようと右足を上げていた結の左足を引っ掛けるようにして蹴り抜いた。


「うおっ!?」


 結はよけることも出来ずにそのまま唯一自分の体重を支えていた足を払われたことによってその場で転けそうになるがどこぞの体操選手のように両手を地面に付けてアリスから距離を取るようにバク転を繰り返した。


 距離を取ろうとする結がアリスのいるはずの方向に視線を向けるとそこにアリスの姿はなかった。


(どこだ?)


 相手がどこにいるのかわからない状況ではどっちに移動すれば距離を取ることになるのかわからずその場に警戒しつつ立ち止まった。


「後ろですわよっ!!」


 アリスは両の手のグローブから火を放出した高速移動術によって結の背後に移動すると


『心操、火光拳(ひこうけん)

『心操、|火速拳』


 新たな術を発動させると後ろに引いたアリスの右拳が光り輝く光球のような火を纏い右手の肘付近からも火を噴射することによって強化した拳を結の背中に向けて振り抜いた。


「ちっ……」


 結はよけることが出来ずにガードもなしにモロに当たってしまうと最初とは比べものにならないほどの距離を吹き飛ばされていた。


「……手応えあり……ですわね」


 アリスは急激な運動とさっきの異質な幻力にはリスクがあるのか肩で息をして辛そうな表情をしていた。


 アリスは自分の拳から伝わる硬いなにかを殴った時のような感覚に手応えを覚えると吹き飛ばされた結にへと視線を向けた。


「ふぅ、危なかったぜ?」


「……痩せ我慢……には見えませんわね」


 視線の先にいたのは背中に丸い小さい盾のような物を浮かべている無傷の結の姿があった。


「なぜ手応えがあったのにウチが無傷なのか不思議か?」


 結の言葉にまさにその通りだと言う事も出来ずに黙って佇んでいるアリスを一目見ると結はニンマリとした笑顔になり「なら教えてやるよ」と答えながら説明を始めた。


「ウチらの術、ジャンクションは己の力を一つに収縮してその分野に対して高い能力と実力を得るものだ。そしてウチの特化特性は体術、肉弾戦を得意とした超近距離主体の状況だ」


 そこまで言うと結は唐突に右手を上げるとチッチッチッと下を鳴らしながら人差し指を左右に振った。


 人差し指の動きを止めると結の背中に浮いていた盾のようなものがまるで編み物をほどいているかのように細い何かとなってあげている人差し指に吸収されていた。


「他にもそれぞれに対応した法具があってな、これがウチの法具だぜ」


「……それは……糸?」


 アリスは掲げた結の手を注意深く見るとその手に目視の難しい細い糸があるのを見つけた。


「そっ、剣とか火とかと素手でやるなんて無理だろ?あんただってどうやら体術が主体に見えるがその足には靴、そして手にはグローブを付けて自分の体を保護している、ウチも同じでなこの糸を全身に鎧の如く巻き付けることによって防御能力とそしてっ!!」


 結はその場で思いっきり踏ん張ると術も使わずにその場から姿を消した。アリスは結の姿を探すため辺りを見渡すが結の姿を発見することは出来ずにいた。


「上ですわねっ!!」


 周囲三百六十度にいないのであれば答えは一つに上空だと思い至り顔を上げるとそこには予測通り両手の指を絡ませるように組みハンマーの如く降り下ろそうとしている結の姿があった。


「圧倒的な膂力を手に入れるっ!!」


「くっ!!」


 アリスはすでに回避が間に合わないことを悟るとダメージを最小限にするべく拳だけでなく両腕全てに火を纏わせると頭上でクロスさせるようにガードの姿勢に入った。


 結はアリスのその行動を見るとニヤリと楽しそうに笑うと言葉をほとんど叫びなら言った。


 アリスは顔を歪めながらもどうにか結の拳を防ぎ切り腕だけで自分の上に乗っかっている状態の結に向かって火を纏った拳を振ろうと動かすがハンマーのような結の一撃を受け止めていたアリスの両腕は痺れてまともに動かすことが出来ずにいた。


 アリスは仕方が無いと言わんばかりの顔で腕を払うだけにとどめるとバックステップで結との距離をとった。


「なるほどですわ、糸による外骨格のようなものですわね」


 結は糸を全身に張り巡らしてそれを外付けの筋肉のようなものとして扱っていた。


 外骨格による膂力の強化とジャンクションによって得た体術のセンスと実力そしてそれを発揮しきるための糸の鎧、他にもアリスの一撃を防いだようにガードが間に合わない時などは思念だけで糸を盾のように編むことによって強い防御能力を持っていた。


「とはいえ、あなた自身の体力がその体について行けてないようですわね」


「ちっ、気づいていやがったか」


 気がついてみればアリスだけでなく結もまたその顔を辛そうに歪めぜえぜえと肩で息をしていた。


 外骨格によって急激な力の上昇に対する耐性が上がっていると言っても全てを防ぐことは出来ずに結の体にすでに相当のダメージを蓄積してしまっていた。


「これは模擬戦ですし、すでにお互いそう長い間戦うのは不可能、でしたらどうせなのですし最後はお互い必殺の一撃を交わし合うというのはどうかしら?」


「ほぉ、あんたにしてはいい考えしゃねえか。ついでだ、いい見世物になってくれよなっ」


 お互いダメージが大きくそう長い間戦うことが出来ないことに気が付いていた二人は次で終わりという戦いものではよくあるふうにまとめると己の今できる最高の技を繰り出そうと準備をしていた。


 結は開始時のように深呼吸と共に自然体になって体から余計な力を抜いていた。


 余計な力を抜き終わると今度は構えを取らない自然体ではなく腰を低くして左手を相手に向け右手を腰に引いて全身の幻力をその右手に集中させていた。


 対してアリスもまた結同様脱力して力を抜き終わると右足を後ろに引き左手はボクシングの基本的な構えのような胸の前に片手で構える右手は結と同じように腰に引いてその手に力をため始めていた。


 少しの間結とアリス両名が力をためる時間が過ぎると結とアリスは己を鼓舞するかのように叫びながら同時に動きを見せた。


『衝月』

『心操、火秘心拳(ひひしんけん)


 結とアリスは同時に互い向かって走り出すと結はその右拳に白い光を纏わせながら右ストレートを放ちアリスもまたその右拳に火炎を纏い同じく右ストレートを放った。


 互いの拳がぶつかり合うとその大きな力の衝突によってぶつかり合った拳を中心として大きな爆発が起こっていた。


「……」


 クラスメイト達がアリスのことを心配そうにしている中、桜だけは結のことを心配していた。


(Sランク級の力を持つ人型と戦ったあと結は少しの間だけだったけど入院してた、それはつまり負担が大きいってこと……ゆっち……無茶しないでよ……)


 爆発によって起こった大きな土埃が晴れていくとクラスメイト達はその勝敗へと興味が注がれていた。


 一方はこのクラスメイトで最強とされるSランクの天才。


 もう一方は今日一日しかまだ知り合って経っていないが他園で多くの授業で情けない姿を見せていたFランクの凡人。


 土埃が晴れた先に映ったのは伸ばされたままになっているアリスの右腕とアリスの顔面の目の前で拳を止めている結の姿があった。


 SランクVSFランクの戦いはまたもやFランクの勝利でその幕を閉じた。


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