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追憶のプロローグ


 それが起きたのは突然だった。


「うーん。これはあれだね」


 薄暗く、狭い部屋の中、七実は一人で困り顔を浮かべていた。


「拉致られたか」


 七実の両手両足にはそれぞれ巨大な鉄球が付けられており、それだけでなく手と手、足と足でそれぞれ鎖につなげられていた。


 鉄球で動き辛くされているだけでなく、手と足をそれぞれ繋いでいる鎖は、T字に分岐しており、その先は壁に繋がれていた。


「んー。困ったかな?」


 七実は見張りもなく、窓もさえもない部屋の中心に座って、ここまでの経緯を思い出していた。


「確か、パーティに出席して、それで……あっそうだ。なんか変な女に声を掛けられてんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 九実に操術師について話した後、一○分程経ってから、七実と九実の元に一人の女性が訪れていた。


「あら?可愛いお嬢ちゃんたちね。あなたたち、お名前はなんと仰るのかしら?」


 その女性は紫色のドレスに身を包んだ、長身の女性だった。顔は細く、その瞳からは冷たい印象を受けた。


「七実だよ」

「……九実」


 七実と九実はその瞳を見て、一瞬でこの人物を要注意人物リストに加えた。


(明らかに数十人はやってるだろうなー)


 この女性の瞳の冷たさは、他者の命をその手で摘んだ者特有の冷たさを含んでいた。


 上手く隠そうとしているようだが、瞳の輝くを完全に隠すことなんて出来ない。そこらへんの奴を騙すことができても、この二人を騙すことは叶わない。


 しかし、名前くらいは教えてもいいだろうと思い、七実が本名を教えると、七実が本名を言ったことで九実を本名を名乗っていた。


「そう。七実ちゃんに九実ちゃんね。二人ともいい名前ね」


 そう言う女性はギラリと目を光らせていた。


「で?」

「で、とは何かしら?」

「あたしたちは名乗ったよ?お前の名前は?」

「……あらあら。失礼したわね。私はアルセーヌ・モランよ」


 七実のお前発言に一瞬顰めるアルセーヌだが、すぐにそれを隠すと笑顔で答えていた。


(モラン。確かEU連合国の大貴族の一つだったっけ)


 【物理世界】と【幻理世界】は国として繋がりはないのだが、世界規模で大地の形が同じなのだが、この刀和国は日本列島に位置しているのだ、【物理世界】のヨーロッパ大陸にあたる部分は【幻理世界】ではEU連合国という巨大な大国になっている。


 幻操術という技術が発展した【幻理世界】では、幻操術で上位に値する大国が次々と小国を取り込んでいき、今では一大陸に一国で、刀和国という例外を含め、合計八国しかない。


 何故刀和国が例外なのかというと、この刀和国は八国の中で最も幻操術が発展している国であり、その国土は他の国と比べ、明らかに小さいのだが、それでも世界的発言力はとても高い。


 EU連合国と刀和国は良き友好関係を築いており、刀和国の代表とも言える始神家(ししんけ)の一家、【神夜】のパーティーに、EU連合国の大貴族が出席するのは当然と言える。


 七実は昔そういった知識を頭に詰め込んでいたこともあり、それを思い出すとアルセーヌへの警戒を人知れずあげていた。


(噂で今EU連合国では革命が起こるかもって話しだったからね)


 革命を起こすには大きな力がいる。


 そういう時は例え他国の組織だとしても戦力を欲するものだ、つまり七実は革命の協力者として【ジュピター】が浮かんでいた。


(革命軍の仲間が国側の上層部なんてよくある話しだしね)


 アルセーヌと【ジュピター】には何か関わりがあるかもしれないと直感した七実は、それを表情に出さないようにしていた。


「モランって言えば、EU連合国の大貴族だよね?」


「七実?そうなら敬語の方がいいと思う」


「あら。よく知ってるわね。それと言葉遣いは気にしないわよ」


 相手が他国の大貴族だとわかっているにもかかわらず、敬語を使おうとしない七実に九実はぼそりと言うが、アルセーヌは七実がモランが大貴族の一員であることを知っていることを知り、驚くと同時に、優しい表情を浮かべ、二人に敬語は不必要だと伝えていた。


「まだまだ若いのに、勉強して偉いわね」


「……そりゃどうも」


 七実はアルセーヌの褒め言葉にモヤモヤするような、複雑な思いを抱いていた。


「……はぁー」


 世間は知らない九実だが、どうやら常識はあるらしく、相手がタメ口を許したとは言え、一切敬語を使おうとしない七実に、九実はため息をついていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そうそう。思い出した。そのあと九実と別れてお手洗いに行った後、急に後ろからなんか嗅がされたんだった」


 七実は捕まるまでのことを思い出すと、首を傾げていた。


「あたし誰に捕まったんだ?」


 今のところ怪しいのはあのアルセーヌとやらなのだが、仮にアルセーヌが【ジュピター】と繋がっていたとしても、狙いは結菜のはずだ。


 例えアルセーヌ、つまり【ジュピター】関係じゃないとしても、自分をさらう理由がさっぱりだ。


(あたしが結菜の護衛だってことはバレてない筈だし、本格的にわからん)


 攫われる身に覚えがなく、悩む七実は、頭から蒸気機関のように、煙を吹き出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 捕らえられた七実が煙を吹き出していた頃、九実は異変に気が付き、行動を開始していた。


「結菜、来て」

「え?九実さん?どうしたんですか?」

「緊急。ごめんなさい。この子借ります」


 九実はまずは結菜の元に駆け付けていた。


 結菜は【神夜】の分家の人たちや、刀和国の貴族などと話しているようだったが、九実はその会話に割り込むと、話していた貴族たちに軽く頭を下げた後、九実の突然の登場に驚く結菜の手を引いて、その場から立ち去った。


「ど、どうしたんですか九実?」

「七実がいなくなった」

「ええっ!?どういうことですか!?」

「多分攫われた」

「そ、それなら早く助けに行かないとっ」

「その必要はない」


 七実が攫われたと聞いて、慌てて助けに行こうとする結菜に、九実は一旦立ち止まると結菜の目を真っ直ぐに見つめながらそれを否定した。


「ど、どうしてですかっ!?」


 否定されると思っていなかったのか、ひどく驚いている様子の結菜は、思わず強い口調で九実に言い寄っていた。


「七実なら一人でどうにか出来るから」

「で、ですが。捕まったということは、相手はそれだけ手練れということじゃ……」

「七実はいつも周りに無警戒だから。なんでだと思う?」


 再び結菜の手を引いて歩き出した九実は、振り返るとニヤリと笑いながらそう言った。


 九実の質問の意図がわからず、結菜は不安そうな表情で疑問符を浮かべていた。


「七実の強さは規格外。本格的にチートだから、警戒する必要とないから」

「そ、それって」

「だから七実は大丈夫。それよりも今気にするべきことは、相手がとうとう動き出したってこと、七実がいなくなって以上、護衛は私だけ。あなたを必守する」


 七実なら一人でどうにか出来る。それなら私の役割は七実の代わりに結菜を全力で必守することだと考えた九実は、七実同様いつも周囲にまったく張り巡らせていない神経を、全力で張り巡らせていた。


 明らかに雰囲気が変わった九実に、結菜はごくりと喉を鳴らしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 九実が結菜を会場から連れ出した頃、九実が無事を信じて疑わなかった七実はというと、未だに頭から煙を吹き出していた。


「あぁーっ!めんどくさい!直接聞けばいいよね!」


 わからないことが多くて、イライラしていた七実は、イライラを爆発させるように叫ぶと、両腕と両足に力を込めていた。


「おりゃっ!」


 七実は自分の四肢を繋いでいた鎖を無理やり引きちぎると、私不機嫌ですっと書いてあるような表情で、目の前の扉のドアノブに手を掛けた。


「まっ。鍵されてるよね」


 反対側から鍵がされているらしく、開かないことを確認した七実は、ドアノブから手を離すと、後ろを向き、二歩下がった。


 もう一度振り返り、鉄扉のほうに体を向けた七実は、可愛らしいのだが、不思議なことに恐怖を覚える笑顔になると、腰を落とし、瞬間、その場から消えた。


 消えたようにしか見えない速度で鉄扉との距離を縮めた七実は、右拳を氷で覆うと、それを思いっきり鉄扉に叩き込んでいた。


 爆弾が爆発したかのような轟音と共に、鉄製の扉は周囲の壁を含めて、跡形もなく吹き飛んでいた。


「おっ。お客さんかな?」


 今の轟音に誘われるようにして、既に扉の面影を無くしたそこから出ると、左右に伸びる道にはたくさんの男で溢れかえっていた。


(んー。あの服。EU連合国の兵士制服だよなー)


「き、貴様っ!」


「おっばれた」


 ばれるもなにも、隠れることすらしなかった七実を見つけた男たちは、七実を見るなり驚きの表情を浮かべて叫んでいた。


「脱走者だっ!」


「うっさいっ!」


 大声で叫ぶ男の懐に一瞬で入った七実は、男の腹部に氷で覆われた拳を突き出した。


「ぐふぁっ」


 七実の正拳突きによって吹き飛ばされた男は、その後ろにずらずらといる他の男たちも巻き込み、大きく飛ばされていた。


「よしっ。片方終わり」

「奴を捕らえろっ!」


 七実は片側の敵を一瞬で片付けると、敵がいなくなった方へ走るのではなく、あえてまだ敵のいるもう一方へと走り出していた。


「まずは頭から刈るっ」


 団体さんの真ん中くらいにいる、さっき奴を捕らえろとか叫んでいた司令官的な奴の真上に飛んだ七実は、そのまま燕の如く、上から司令官にかかと落としをして、即座に意識を奪うと、着地までの間に足を振るい、周囲の男たちを一掃していた。


「し、司令官殿が一瞬で……」


 瞬きをする暇すらなく、一瞬で司令官がやられたことで動揺する残りの男たちを、七実は次々と拳や足を使った体術、人操術によって薙ぎ倒していた。


「よし。終わり」


 時間にして三分も経っていない。


 しかし、経っている時間から考えればありえない理由の男たちが、七実の周囲には大勢倒れていた。


「うーん。こっちかな?」


 七実は勘を頼りに、道を進んで行った。


(あいつらEU連合国の制服着てたし、あたしを拉致ったのはあのアルセーヌって女か)


 あの男たちが着ていたのは、EU連合国が所有する軍隊に所属する者が着る制服だ。


 つまり、あの者たちはEU連合国に所属するとなる。ならばその実行犯はアルセーヌ以外考えられない。


(あの女、とことんとっちめて何考えたるか洗いざらい吐いてもらうか)


 七実は勘頼りに走りながら、ニヤリと好戦的笑みを浮かべていた。

これより第七章の始まりとなります。

これからもよろしくお願いしますっ!

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