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追憶のエピローグ


「とりあえず、その森羅万書(しんらばんしょ)ってやつの話はもういいっ!依頼の話に戻ってくれませんか?」


 キンレイは頭を掻き毟ると、座ったまま結宵(ゆうしょう)にそう頼んだ。


「ええ。わかりました。お二人に頼みたいことはつまり結菜の護衛なのですが、それと同時に遊び相手をして欲しいのです」


「遊び相手?」


 七実は疑問符を浮かべていた。


「はい。結菜はこの通り人見知りでして、残念なことに友達と言える人が一人もいないんです」


「ふーん。そっか」


 自分も昔はひとりぼっちだったため、結菜に対して思うことがある七実だった。


 七実は九実と視線を合わせ、アイコンタクトを交わすと、どちらともなく頷きあっていた。


「よし。結菜ちゃんだっけ?あたしたちと友達になろっか?いや、なるよっ!これ決定事項だから」


 七実はそう言いながら立ち上がると、七実の突然の友達になりましょう宣言に、あたふたしている結菜に抱き付いていた。

 というより、結菜を抱き締めていた。


「え、えぇーっ!」


「何この子っ可愛いっ!愛でるっ私この子もっと愛でるっ!」


「ふ、ふぇーーっ!」


 突然抱き締められて、そのまま何度も何度も頬擦りをしてくる七実に、結菜はただただ叫ぶだけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後キンレイに怒られたり、そんな光景を結宵(ゆうしょう)が笑っていて、それについて七実が復讐したりと、まあ、いろいろなことがあったが、七実と九実の両名は、共に結菜の護衛及び友達として、【神夜】にお世話になっていた。


「結菜ちゃーんっ!」


「ふ、ふぇーーっ!」


 七実が結菜に抱き着き、結菜の身体中を弄るのは既にいつもの光景になっており、そんな二人を最初は止めていた九実だったが、何度止めても七実に止める気が見られなかったため、九実は既に二人のこのやり取りをスルーすることにしていた。


「ク、クミさぁーんっ」


 七実が同性だとしても普通に考えて触ってはいけないであろう部分に手を伸ばそうとしているため、涙目で九実に助けを結菜であったが、九実は数秒結菜を見詰めた後、見詰めたことで希望の光が見えたかのように、表情を明るくした結菜から、プイッと視線を逸らした。


「クミさぁぁあんっ!」


 上げて落とすをされ、絶望一色ち染まった結菜の絶叫が、神夜邸に響いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結宵(ゆうしょう)から聞いた話だが、どうやら近々【神夜】に名を連ねる者と、特に交流のある者たちを集めたパーティを開くらしい。


 結菜を攫おうとしていると思われる組織、【ジュピター】が動くのであれば、人の出入りが多くなるこの日になるだろうということで、七実と九実の両名は、パーティへの参加が強制されていた。


「パーティかぁー。楽しみだねぇー」


「……うん」


 強制された二人だったのだが、意外なことにーー七実は予想通りだかーー二人ともパーティ参加には積極的だった。


 二人ともまだ幼い子供とはいえ、始神家(ししんけ)の一角である【神夜】とその【神夜】と特に交流がある家系と言えば、それはこの国でトップなんとかに入るであろう重役だ。


 そんな人達がいるなかで、普通の格好をするわけには行かず、二人もまた綺麗にドレスアップをしていた。


 綺麗というよりかは、二人とも可愛いらしいのだが、まず七実はいつもの着ている和装と同じように、全体的に白でコーディネートされていた。


 綺麗な銀髪も相俟って、その姿は砂漠に咲く一輪の純白の花のようだ。


 見渡す限り砂だけという過酷な世界に生きる者たちに、頑張ろという気力を与えるような、活力に満ちている花。そんな印象を受ける。


 九実もまたいつも着ている和装と同じように、黒でコーディネートされているのだが、元々黒という色は女性の魅力を引き出させるものだが、それは一般的に大人の女性であって少女ではない。


 しかし、いつも冷静で、凛とした表情を浮かべている九実はまさに大人の女性そのもの。


 七実と同じように、九実も綺麗な銀髪を持っているのだが、白い肌も相俟って、白と黒、その二色が絶妙なバランスで散りばめられてその姿は、一度で二度美味しい、そんな売り文句が出てきそうだ。


「あれ?もしかして九実緊張してる?」


「……それなりに」


「まあまあ。硬くならないでさっ」


 珍しいことに、どこか動きがぎこちない九実に気付いた七実は、九実を勇気付けるように、ニカッと花が咲いたかのような抜群のスマイルを見せていた。


「……うん。頑張る」


 小さく気合いを入れる九実に、七実は微笑ましいものを見ているかのような目を向けていた。


「二人とも準備できましたか?」


「あっ結菜ちゃーん」


「あっ七実さんっドレスですのでハグハグはダメですよっ」


 二人と同じように、ドレスアップして来た結菜が二人の様子を見にいくと、早速ドレスアップした結菜に抱き付こうと手をうにゃうにゃさせている七実に蒼ざめていた。


 行動に移す前に言われてしまった七実は、手のうにゃうにゃとした動きは止めないものの、とりあえず口だけはわかってるってーっと諦めたようだった。


 結菜は九実と同様に全体的に黒でコーディネートされているのだが、九実とはまるで違う出来栄えになっており、同じ黒だからつまらないだなんてことは全く無く、それは完全に別の魅力へとなっていた。


「ふぅー。せっかくのドレスが台無しにされなくてよかったぁ」


「……七実もそこまで常識知らずなわけじゃないよ?」


「うぅー。わかってはいますが、ハグハグの恐怖が」


 七実からのハグハグをうまく防ぎ、安堵からホッと一息ついている結菜だったが、九実の言葉で何かトラウマでも思い出したのか、自分で自分を抱いて、プルプルと震えていた。


「結菜。大丈夫?」


「あっ。だ、大丈夫ですっ!それじゃ九実さん、七実さん。行きますよっ」


 そう言って結菜は二人の手を握ると、二人の手を引いながら今いる更衣室から、パーティ会場へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うわー。流石は【神夜】のパーティだね。来てる人のバリエーションが凄いよ」


「……そうなの?」


 結菜に手を引かれ、会場へと入った七実と九実は、早々に結菜が来場者への挨拶回りへと入ったため、ホールの端っこで静かに飲み物を飲んでいた。


 七実はこのパーティに着ている人たちに驚き、世間をほとんど知らないらしい九実は、そんな七実に首を傾げていた。


「うん。あっちにいるのは今、幻操陣学で最先端にいる、実績ナンバーワンの研究者だし、むこうにいるのはこの刀和国で一、二の実力者と言われてること幻操師」


 七実は世間知らずな九実のために、白衣を着ている女性や、片目に縦一筋の生々しい傷跡がある男性など、会場で会話に花咲かせている人たちを順に視線で示してた。


「……幻操師?」


「あれ?もしかしてそこから?」


「うん」


「幻操師はわかるよね?」


 九実は言葉で返事をせずに、頷くことで返事をした。


「今じゃあたしたちは全員幻操師って呼ばれてるけど、幻操術が開発される前までは違う呼ばれ方してたんだ。それが『操術師』」


「操術師?剣操師じゃなくて?」


 剣操師とやらについて質問していたはずなのに、操術師とやらの説明を始めた七実に、九実は表情を薄っすらとだが顰めていた。


「まあまあ、物事には順序ってものがあるでしょ?」


「……わかった。続きお願い」


 順序なんていつも気にしない七実とは思えない言葉に、九実はなんとも言えない気分になるが、黙っていた方がいいと思い、九実は頷くと説明の続きを促した。


「操術ってのは幻力を使って全部の技術の総称みたいなもので、この世界、【幻理世界】の技術はほぼ全てこれに属するのはわかる?」


 【物理世界】では科学が発展し、生活の様々なところでその発展した科学とやらが使われている。

 冷蔵庫とか、テレビとか、電話とか、諸々だ。


 対して、幻力という概念がある【幻理世界】では、科学の代わりに幻力というものが【物理世界】での科学に代わって普及している。


 科学というよりも、【物理世界】の科学の結晶たる機器にエネルギーを供給するのが電気に対して、【幻理世界】では幻力という感じなのだが。


 とりあえず、【物理世界】で電気がなかったたくさんの不便が生まれるように、この【幻理世界】でも幻力がそれだけ普及している。


「操術ってとは技術だけじゃなくて、武術としても属するの。拳とか、脚など肉体を幻力によって活性化、強化して、それを武器や防具として操るのが『人操術』。そして、剣と幻力を複合した技術が『剣操術』ってこと」


 つまり、わかりやすい例を出すとするのであれば、幻力を魔力と例えると、魔法剣士のようなものだろう。


「つまり、この世界での剣士?」


「そうなるね」


 七実の説明で納得した九実は首を縦に振っていた。


「どうして今では操術って言葉を聞かないの?」


 会話の途中で七実が言っていたことを思い出し、九実はどうせ退屈だし、ついでに質問していた。


 七実も暇だったのか九実の質問に嬉しそうに笑うと、快く答えていた。


「操術って言葉は昔からあったんだけど、幻操術が生まれたことで操術の技術としての注目点がそっちに集中しちゃったらしいよ?

 それだけじゃなくて、剣操師は剣だけ、人操師は己の肉体だけを武器にして、剣操術と人操術の二つをおさめようとする人はいなかったんだ。

 だけど、幻操術の登場で剣操師も人操師もこれを身につけたの、それで結局大半が幻操術を使うようになったから、それならもう全部まとめて幻操師でいいんじゃないかってことになって、通称として幻操師が定着したんだ」


「へえ。七実物知り」


「あはは。そんなことないよ」


 七実は当然のように話しているが、これは決して常識なんかじゃない。それどころか操術師だなんて言葉は今の時代では死語と言ってもいい。


 そんなことを子供でありながら知っており、このパーティに出席していることもあり、地位の高い者だと思われる七実に興味を抱く輩が生まれることは、至極当然のことだった。

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 これにて第6章は終了となります。

 次章は明日からすぐに連載となりますので、 休載ということはありません。

 この物語の骨は既にありますが、肉付け作業はまだ終わっていません、ですのである程度は物語の進行を変える余裕は十分にあります。

 最終的なものは変わりませんが、例えばあのキャラをもっと出して欲しいっなどとありましたら、お気軽にコメントをよろしくお願いします。全てのリクエストにお応えすることは出来ませんが、骨の部分に影響がない範囲であればお応えしていきますので、どうぞよろしくお願いします。

 それから、この天使達の策略交差点の修正版である、天使達の策略交差点IIですが、こちらも要望があれば書き進める予定ですので、そちらもどうぞです。


長くなりましたが、これからも天使達の策略交差点の応援のほどよろしくお願いします。

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