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6ー59 予選終了


「楓、お疲れ」


 【トライチャージ】の予選を終え、戻って来た楓と、その後ろからまるで配下のように付き従うーーように見えているーー二人にも労いの言葉を掛けると、楓は小さく手を上げて返した。


「次は結の番だろ?」


「そうだけど、【ショットバット】まではまだ時間あるんだよな」


 それぞれの予選の間には一時間程度の準備時間が与えられる。


 中には連続で出場する選手もいるための処置だ。


 しかし、連続出場する選手にとっては助かるのだろうが、そうでない選手にとっては予選までのドキドキを延長させられてるみたいで、心臓に悪い。


「緊張してるのか?」


「さあな。どうだろ」


 これは緊張なのだろうか?


 結にはそれがなんだがわからなかった。


 ただ一つ確信出来ることがある。


 それは、今日という日を忘れる事が出来ないだろうという予感。


 この予感は不思議に外れる気がしない。


 そして、結の予感は、悪い意味で的中することになる。











 予選開始まで一○分を過ぎたため、結はチームを組んでいる二人と最後の確認をしていた。


「わかったわね?結がキャッチャーで、六花がシューター、あたしがバッターをやるわ」


 結がこの【ショットバット】でチームを組んでいるのはなんと生十会の中でも一番と二番の戦闘能力を誇る、会長と六花の二人だった。


 また、第六競技以外は別に純粋な戦闘能力が高いからと言って有利になるというわけではないのだが、二人の幻力量ならば一○分程度フル活動出来るだろう。


「俺はサキでいいのか?」


「ええ。サキの運動能力で全部取りなさい」


「結の様子を見ながら私は次球を速めて行きますからね?」


「あたしは出来るだけ結の手の中に打つつもりだけど、ミスした時はよろしくね」


「ミスしたと思ったら、次の数球は上に上げてくれないか?そうすれば体制も整えられるし」


「わかったわ。

 ちなみにそれは、つまり六花のスピードは変えなくていいってことかしら?」


「ああそうだな。まあ、それぞれ他の二人を見ながらってことで」


「あっ。ついでに言っておくけど、ミスした回数の三倍を全体の獲得ポイントから引くから」


「ああ。わかった…………はっ!?」


「ミスしなきゃいいのよ。ミスしなきゃね」


「は、ハードル上げるなよっ!」


 会長と六花は一緒になって結をからかうと、二人してクスクスとイタズラっぽい笑みを浮かべていた。










「さってとー、次がゆっちの出番だねぇー」


 先に予選会場へと行き、結たちの出番をまだかまだかと待っていた桜は、一緒に来ていた楓とお喋りに興じていた。


「楓はどっち勝つと思う?」


「愚問だな。結たちが勝つに決まってるだろ?」


「あはは。同感だね。あたしもそう思う。

 なんていうのかな?ゆっちって不思議と負ける気がしないんだよね」


「……信頼か?」


「んー。ちょっと違うかな?なんかこう、安心させてくれるんだよね」


「それは……まあ、わかるな」


 楓が桜の意見に同意すると、桜は嬉しそうにだよねっ!っと音符マークが付きそうなぐらい上機嫌になっていた。


「あっ、出てきたっ!ゆっちーファイト〜」


 会場入りした結たちを素早く見つけた桜は、体育館のような予選会場の二階から、結たちに大きく手を振っていた。


「……あら?あたしたちの応援はないのかしら?」


「まあまあ会長。落ち着いて下さい」


「あはは……」


 桜が結の名前しか叫ばなかったことで、会長は怒筋を浮かべ、それを横目で見た結は後が怖いと思い、乾いた笑みを浮かべていた。


「んー、なんというか流石って感じだねぇー」


「それしても、結のあの能力はまるで反則だな」


 試合が始まって早々、結は合掌をして『ジャンクション=サキ』を発動させると、会長が球を打つのを待っていた。


 【ショットバット】はシューターが投げた球をバッターがうち、打ち上がった球をキャッチャーが取ることで得点になる。


 この三つの役割りを順番にA、B、Cっと置くと、並ぶ順番はC、A、B。


 つまり、キャッチャーとバッターがシューターを挟む形になる。


 試合開始早々、シューターである六花は短いインターバルで次々と球を撃ち出していた。


 会長は手に持ったバットをまるで剣道をやるかのように中段の構えで持っていた。


「たあっ!!」


 元々愛用の法具に剣を使っているだけあって、その太刀筋は速くそして何より正確に六花の撃ち出す球の全てを結に向かって一直線、打ち返していた。


 五分とは言え、これだけの連射をすれば消費幻力は相当なものになる。


 疲労もかなりのスピードで溜まっていく筈なのだが、六花はそれを一切顔に出さずに、無表情に撃ち続けていた。


 六花は最初に言っていた通り、球と球のインターバルをどんどん短くして行き、既にインターバルは○、二秒くらいだ。


 それで止まらずに、今もインターバルが短くなっている中、会長は涼しい顔でその全てを正確無比の斬撃によって全て打ち返していた。


 そして、それを取るキャッチャーである結は、なんと片手を正面に翳しただけで地面に座り、もう一方の手は肘をついていた。


 その場から一切動く気配のない結だが、驚くべきことに、会長の打ったたまは全て綺麗に結の翳したその手に吸い込まれていた。


「ねえ。あれって」


「結はなにもしてないな。全部会長の技量だな」


「でもさ、会長の球、凄い勢いだよね?」


「攻撃に使えるレベルだな」


「具体的には?」


「頭に当たったら頭蓋が砕けるレベル?」


「……うわー。それを片手でそれもあんな短い感覚で受け続けてるゆっちって……」


「まあ、サキだったけか?それの防御力アップだろうな」


「本当にゆっちの能力凄いよねー」


「だな」


 一発一発が岩をも砕く威力がある会長の打った球を、その勢いを足を使って和らげることもせずに、むしよ眠たそうに受け続けている結に、桜と楓の両名は、完全に呆れていた。







 【ショットバット】の予選もまた無事に完了し、結たちのチームはなんと一八あるチームの中で、最多得点になっていた。


 他の二チームは残念ながら予選落ちという結果になってしまったが、二チームの内、片方は春樹に真冬に陽菜というメンバーだったのだが、なんと相手が【R•G(ロイヤル・ガーデン)】、それもアリスのいるチームだった。


 決勝に駒を進めることが出来るのは一位だけじゃなく、二位もなのだが、二チーム共に二位になることも出来ずに、両方【F•G(フォース・ガーデン)】が二位になっていた。


「うぅー。負けちゃったですぅー」


 【ショットバット】の予選も終わり、代表選手の面々は再び何度目になるのかわからない会議室へと集合していた。


 会議が始まる前から、先ほどの【ショットバット】で予選落ちという結果になってしまった真冬が、泣いているのを、会長が慌てた様子で慰めていた。


「遅れましたー」


 結が遅れて会議室に入ると、そこに映るのは泣いている真冬を慈愛の満ちた目で抱き締める会長の姿だった。


「えーと。部屋間違えました」


「ちょっと待ったぁぁぁぁあっ!!」


 そのままUターンした引き返そうとする結を、会長を凄まじいスピードで近付き、肩をガシッと掴んだ。


「あっ、えーとそんなに慌てなくてもいいですよ?

 その、はい。いろいろありますよね?」


「その大丈夫、俺は引いたりしないよ的な顔やめなさいっ!」


 会長のためと思い笑顔を作った結に、なんだか失礼なことを言いつつ会長は結の腕を引っ張って半ば無理やり着席させると、今のやりとりがなかったかのように、咳払いをした後、会議を開始した。


「みんな第一競技【キックファントム】から第五競技【ショットバット】までお疲れ様。

 団体戦の予選はこれで終わりよ。

 最後の【ショットバット】では一勝二敗っていう、ちょっと残念な結果になっちゃったけど、どちらもナイスファイトだったわよ。

 後は【個人闘技(ファイトソロバトル)】だけなんだけど、どうやらこれだけは予選をしないらしいわ」


「え?なんでーなんでー」


 子供のように手を上げて椅子に座りながらもピョンピョンと飛んでいる桜を、軽く睨んだ会長は、桜がおとなしくなったのを見て、ため息をついていた。


「理由は簡単よ。メインイベントを省略しゃダメでしょ?」


 実に分かりやすい回答だな。


 六芒戦は忘れそうになるが、闘技大会の延長した場所にあるものなのだ。


 つまりこの【個人闘技(ファイトソロバトル)】こそメインイベントなのだ。


 各校から選ばれた九人の戦士によるトーナメント戦。


 戦いを生業とする幻操師にとって、これ程気になるものはない。


「じゃあ、今日はもうおしまい?」


「そうなるわね」


「……早くない?」


「明日から本戦があるのよ?

 今日の予選を早めに終わらせて残りを選手の休息に当てるつもりなんでしょ?」


「あーなる」


 納得したらしく、桜は手の平をポンっと叩いていた。


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