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6ー57 無題


「さて、雰囲気も良くなったことだし、続きを始めるわ」


「さっき会長はまったくの役立たずでしたね」


「う、うるさいわねっ。とりあえず会議を再開するわ。いい?」


 六芒戦どころではない騒ぎが、結と楓、それから桜と真冬、四人のファインプレーで、なんとか収まった後、今回の騒ぎでまったく役に立たなかった会長に、六花はボソリとつぶやくと、会長は顔を赤くして話を無理やり先に進めていた。


「次の第三競技が今日最後の競技よ。競技名は【リターンフェアリー】。ルールはわかるわね?」


「……なんだっけ?」


 説得するのが面倒だったのか、ルール説明を省こうとする会長だが、先にみんなに確認せずに省くのは流石に憚れたらしく、皆に確認を取ると、先ほど会長の代わりに、逃げ出そうとしていた生徒たちを叱った時には凛々しくしていた楓が、いつものように、ぐにゃーんって感じの効果音が付きそうな感じでスライムのようになっているのだが、手だけは綺麗に真っ直ぐに上げていた。


「……楓?冗談よね?」


「いや、わからん」


「最初の会議で説明したわよね?」


「そうだったか?」


「……」


 会長が楓に無言のプレシャーを放つが、楓はそんなプレッシャーがなんだと言わんばかりに、会長に笑顔を見せた。


 そんな楓に会長は呆れるようにため息をつくと、渋々といった感じで説明を始めた。


 【リターンフェアリー】はテニスの幻操師版だ。


 しかし、従来のテニスとは大きく違い、相違点としてラケットの代わりに先端が球状のステッキを使う。


 ボールは丸い球を使うため、この時点でその難しさがわかるのだが、それに加え、時間経過と共に球が増えていくという鬼畜っぷりだ。


 相手が取れずに、外野に転がった球はそれで終わりになるのだが、コートの中には三人もいるのだ。


 試合中に球の数が凄まじいことになることは必至だろう。


「なーるほどね」


 会長が説明すると、楓は納得したようでうんうんと首を縦に振っていた。


 ……あれ?いつの間にスライムから人の姿になってるんだ?


 楓が納得したのを確認すると、会長は次の議題へと移っていた。


「さて、それじゃ次の議題よ。と言っても、最初の議題と似たようなものだけど、鏡と剛木、二人が奇襲された件についてよ」


 会長の言葉で場に緊張が走った。


 さっきはその話で六芒戦出場自体が危うくなったのだ、その話題を警戒するのも仕方がないだろう。


(だがまあ、警戒し過ぎな気もするけどな)


「さっきはみんなにそれぞれ油断しないようにだなんて曖昧なことを言っちゃったけど、具体的にどうすればいいか、この場で決めちゃいましょ」


「これから【リターンフェアリー】の予選が始まるぞ?そっちはいいのか?」


 これから【リターンフェアリー】の予選があるというのに、そっちの確認や調整をせずに、違うことについて話そうとする会長に、結がそうツッコムと、会長はふふんっとドヤ顔で言った。


「安心しなさい。【リターンフェアリー】の参加メンバーは桜に真冬ちゃんに、愛理ちゃんに、雪雪シスターズよ?それに、あたしと陽菜、それから六花のチームなんだし、試合自体に不安要素なんて皆無よ」


「……一応確認だが、雪雪シスターズって」


「美雪、小雪、雪乃の三人のことよ。ちなみに雪羽を入れても問題なちわっ!」


 そう言う会長の表情は非常に生き生きとしていた。


 会長の言う通り、今のメンバーなら試合自体は問題ないだろう。


 六花衆ならどの競技でも安心していられるし、会長のチームも不安要素なんてない。


 桜、真冬、愛理のチームだが、愛理はSランクだし、桜もこういう競技は得意だ。


 不安があるとすれば真冬の運動神経なのだが、真冬の属性は氷、コートへの術の使用は認められているため、相手コートを凍らせたりすることで妨害も出来るし、問題はないだろう。


 雪雪シスターズについてのネーミングセンスは最早なにも言うまい。


 ああ、そういえば、ちなみにだが愛理とは六芒戦出場選手選抜試験で実況をしていた、無駄にテンションの高い、自称みんなのアイドルこと、アイリスちゃんだ。


「結も納得したみたいだし、話を戻すわよ?」


「ああ、悪い」


「いいわよ。べつに。

 さて、具体的に奇襲へと対策だけどどうしようかしら?」


「二人は結が離れた後に、二人だけで周りに誰もいない場所でやられていました。

 ですので、ありきたりな方法になってしまいますが、個人行動を避け、出来るだけ人がいる場所にいればいいと思います」


「まあ、確かにありきたりだけど六花の言う通りね。みんなはどうかしら?」


 会長は皆に視線を向けた後、反論がないことを確認した後、六花の案を承認した。


「あっ、でも会長?」


「どうしたの?真冬ちゃん?」


「はいですぅ。人のいる場所と言ってたですけど、夜の寝る時は二人だけになっちゃうですよぉー?自室ではどうするですぅ?」


「そうね。みんなペアで止まってるから一人になることはないけど、二人じゃ鏡たちがやられた時とあまり変わらないわね」


「それは大丈夫だと思いますよ?」


 真冬の疑問に会長が考え込んでいると、明るい口調でそう言った六花だった。


「どうしてそう思うの?」


「奇襲の件を委員会に伝えたところ、全体は無理とのことですが、各施設に見回りの人とホテルの周囲には複数人の警備を付けるそうです」


「あら。そうだったの?ならそれも平気そうね」


「そうですね。奇襲の可能性があるのはホテル外にいる時、それも人が少なくなる試合中でしょうか?」


「そうなるわね」


 奇襲への対策を纏めた後、【リターンフェアリー】の予選が始まる時間になったため、出場者は予選会場へと向かった。












 【リターンフェアリー】の予選はつつがなく終了し、予選の結果は文句なしの全勝だ。


 とはいえ、この六芒戦に出場する六校のうち、エリート校である【F•G(ファースト・ガーデン)】に対抗出来るのは、【R•G(ロイヤル・ガーデン)】と戦闘に限ってになるが【F•G(フォース・ガーデン)】だろう。


 予選ではそのどちらともまだ当たっていない。


 つまり、言い方は悪くなるが【キックファントム】の一敗を除けば全勝をしているとはいえ、相手はもともと相手にならないレベルなのだ。


 全勝して当然ともいえる。


 今日の分の予選結果を確認したところ、【R•G(ロイヤル・ガーデン)】のチームは今のところ全競技全勝だ。


 【F•G(フォース・ガーデン)】は全勝とはいかないが、それでも多くのチームが予選を突破している。


 やはり本命は【R•G(ロイヤル・ガーデン)】。特にアリスのいるチームになるだろう。


 六芒戦三日目は夜を迎え、各自それぞれの自室へと戻っている中、ホテルの周囲に幾つかの影があった。


「隊長ダメですっ。警備が固過ぎますっ」


「隊長やめましょうっ侵入なんて無理ですよっ」


「ええいっ黙らんかっ!やらずにどうするのだ!あの小娘だけにいい顔をされて悔しくないのかっ!」


 ホテル近くの草むらに全身を覆うほどの衣を纏い、身を隠す三人組は、なにやら揉めていた。


「た、隊長っですが、あの娘は最強の暗殺者とも言われる人なんですよ?強いの当たり前じゃないですかっ」


「ええい黙れ黙れっ!朽木の名前がなんだというのだ。お前たちに暗殺者としてのプライドはないのかっ!」


「ですが……」


「へぇー。その話、詳しく聞いていいか?」


 言い争いをしている三人の背後から突然姿を現した少年は、ニヤリと笑うと即座に怒っている男の部下だと思われる二人の男との距離を縮め、手に持ったトンファーを振るい、二人の意識を飛ばした。


「ちっ」


 隊長と呼ばれていた男は部下が一瞬でやられたのを見ると、舌打ちをしながらその場から立ち退きようとするが、


「どこいくんだ?」


「ど、どけっ小娘っ!」


 ちょうど向かった先にいる少女に一瞬戸惑うが、懐から短刀を抜くと少女に向かって振るった。


「遅い」


 少女は横に振られた男の一閃を通常よりも深く踏み込み、体制を低くすることで躱すと、法具もなにも起動していない筈なのに、右拳を氷で覆い、それを男の土手っ腹に突き出した。


「ぐふっ」


 一見華奢な少女だが、アッパー気味に繰り出された右の拳には相当の威力があったらしく、自分よりも遥かに巨体である男を一撃でKOしていた。










 少し前、結と楓の二人は、夜になり皆が自室に戻る中、再びプールへと侵入し、密会をしていた。


「楓はあの鏡と剛木を襲ったやつの目的はなんだと思う?」


「……結は失われた光(ロストブレイズ)のことは知ってるか?」


「……ああ。知ってる」


「やっぱりな。なんとなくそんな気がしたよ」


「なんで楓は知ってる?」


 結は始神家(ししんけ)である【神夜】にいたため、失われた光(ロストブレイズ)についても聞かされている。


 同時に一年前の事件についても知っているのだが、どうして楓がそれを知っているのかが疑問だった。


「ん?わからないのか?」


「わからないのかって……あっ」


「結って良く忘れるよな」


「うるさい」


 楓の苗字が望月だから忘れそうになるが、どうやら楓は始神家(ししんけ)の一家、【神月(こうづき)】に名を連ねる者らしいからな。


 始神家(ししんけ)の者だけは一年前に発動されたあの幻操術から逃れているらしいからな。


 結自身は後から話を聞いたため知っているのだが、【神夜】の当主、結一からその話を聞いた時、普通ならば過去にかけられた幻操術をレジストするために違和感を覚えるらしいのだが、結は全く違和感を感じなかったらしい。


「まあ、名を連ねていると言っても、あたしは家を飛び出してから帰ってないしな。もうあたしのことなんて忘れてるよ」


「……なんて家を飛び出したんだ?」


「んー。長いぞ?」


「言いたくないならいいぞ?」


「いや、そういう訳じゃないが。まあいい。話すよ。

 あたしには一つ上の姉がいた」


「姉がいたのか?」


 楓に姉がいたという話なんて今まで聞いたことがなかったため、結は目を大きく見開き、驚いていた。


 そんな結に楓は苦笑しながらも話を続けた。


「うん。あたしの姉は優秀でさ、両親の興味は姉にしかなかったんだ。その結果、育児放棄とまではいかないが、あたしはずっと放置されていた」


「楓……」


 想像していなかった楓の過去に、結はなんと言えばいいのか分からず、固まっていた。


「あはは。そんなに暗い顔するなよ。両親があたしに興味を示さなかったのは最初だけなんだ」


「……どういうことだ?」


 さっきまでの暗い雰囲気から一転して、明るい雰囲気になった楓に、結はさっきとは別の意味で驚いた。


「簡単な話だ。ただあたしが心装に目覚めた」


「……それいくつの話だ?」


「んーと、三歳だったかな?」


「……三歳で心装使い?」


「姉が優秀だったからな。両親に自分のことも認め貰いたくて、隠れて……って言ってもいつも一人だったから隠れてないんだが、毎日のように幻操術の訓練をしたんだ。

 そしたらなんか目覚めた」


「やっぱり規格外だな」


 結が呆れた表情を浮かべると、楓はあははっと愛想笑いをしていた。


「あたしが心装に目覚めたたら途端に親の興味があたしに向いた。

 親に始めて構って貰えて嬉しかったあたしはそれからもっとがんばった。そしたらどうなったと思う?」


「……」


 最初は明るい口調だったのに、突然暗い口調になった楓に、結はなんとも言えない緊張感に蝕まれ、なにも返すことが出来なかった。


「心装を覚醒させ、その先を覚醒させたあたしを見て、急に化け物を見たような態度になったんだ」


 化け物。


 違うっ!    俺は人間だっ!


     化け物なんかじゃないっ!


 やめろっ!  やめてくれっ!


 化け物という言葉を聞いた瞬間、結の頭にたくさんの言葉が流れた。


「そしてあたしは捨てられた。いや、違うな。自分から家を飛び出したんだら。あそこにいたら、あたしはあたしじゃいられなくなる。そう思ってな。それが六歳の話だったかな?」


 結は楓の話を頭に過る言葉たちに苛まれながらも、静かに聞いていた。


「それから二人で一人の子に会ってな……って結どうしたんだ?」


 話を静かに聞いていた結だったのだが、言葉が頭を過る度に起こる激しい痛みによって、いつしか無意識のうちに両手で頭を押さえ、その場にうずくまっていた。


「結っ大丈夫かっ!?」


「あ、ああ。どうにか治まった」


「突然どうしたんだ?」


「俺にもわからないんだ。急に頭をたくさんの言葉が過ってな」


「……いつ聞いたのかはわからないが、結って昔の記憶が無かったんじゃないっけ?」


「そうだが?」


 頭痛は治まり、立ち上がったものの、片手で頭を押さえる結に、楓は真剣な表情を浮かべていた。


「その言葉って、もしかしたら過去の記憶の断片なんじゃないか?」


「……そうかもな」


 楓の言う通り、あれが過去の記憶の断片だとしたら、昔の俺はいったい、なんだったんだろうな。


「……結」


 結の表情から、頭に流れたという言葉があまり良くないことだったことを読み取った楓は、過去の自分を考え、暗くなっている結と揃って、二人暗い雰囲気になっていた。


 そんな時だった、場が暗くなり、静かになったことで二人は遠くにある三つの気配に気付く。


「結、感じるか?」


「ああ。気配が三つ。どれも動きが普通じゃない」


「昼間の襲撃と関係がありそうだな」


「楓、行くぞ」


「もちっ!」


 そうして二人は感じ取った気配へと向かい、ホテルの近くに隠れていた三人組を倒し、三人をバスの襲撃犯と同じように楓の氷で一旦仮死状態にすると、氷の塊となった三人と共に、再びプールへと向かった。

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