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6ー56 逃げちゃだめだよ


 鏡と剛木、二人の容体が安定したこともあって、生十会メンバーは予選へと戻っていた。


 【キックファントム】のBチームとCチームは、それぞれ、無事に勝ち進むことが出来たが、第二競技、【シュート&リベンジ】ではAチームのメンバーの一人が鏡のため、出場できるかできないかという、瀬戸際に立っていた。


「六花はまだかよ……」


 襲撃事件のことを六芒戦実行委員会に伝え、メンバー変更の許可を貰いに行った六花を、委員会の返事次第ではAチームは【シュート&リベンジ】に出場出来なくなるため、結は予選控え室でどうも落ち着かないようだ。


「ただいま戻りました」


「六花っ!どうだった!」


 六花が帰ってくると、落ち着きがなくずっと室内を行ったり来たりしていた結は、早速言い寄っていた。


「それが……」


「おいおい、まさか……」


 六花の言い辛らそうな雰囲気に、ダメだったのかと思い、焦り、落ち込みのあまり俯く結だったが、小さくだが、微かにクスクスと我慢しているかのような声が耳に届き、ハッとなって顔を上げると、そこには顔を赤くして笑いを堪える六花の姿があった。


「……お前……」


「クスクス。面白かったです」


「こんな時にふざけるなよっ!」


「こんな時だからこそですよ?

 ……少しは緊張が解けましたか?」


「……は?」


「そんなに緊張していては、勝てるものも勝てなくなってしまいますよ?

 肩に力が入り過ぎてます。リラックスしてください」


「……六花、ありがとな」


 六花に言われ、自分が平静を保っていなかったことに漸く気付かされた結は、六花に短く礼を言うと、六花は仕草で「どうってことありません」っと優しく微笑んでいた。


「それで?チームメンバーの変更が出来ることになったのはわかったが、Aチームはどんなメンバーになるんだ?」


「はい。Aチームの元々のメンバーは鏡、春樹、小雪の三人でしたが、鏡が出場不可ということですので、代わりに……」


 六花は一旦そこで言葉を切ると、結に向かって満面の笑みを向けた。


「私が出場します」


「……はっ!?」


 予想外の答えに、結はたっぷりと数秒沈黙した後に、ややタレ目のそれを大きく見開き、大声で叫んでいた。


「最初は真冬が出ようとしたのですが、真冬の体力では三競技も万全の状態で戦うことは不可能と思い、真冬と使う術の性質が似ている私が出ようと思いまして」


 真冬も六花も、氷を操る幻操師だ。


 出たいのに出られない真冬に代わって、少しでも性質が似ている自分で出ることによって、自分が役に立っているような錯覚を少しでも与えるための処置なのだろう。


 それに、例え選手として出ることが出来なくても、自分と同じ属性を使う者がいるのであれば、アドバイスぐらいは出来るだろう。


 もし、真冬が何か策戦を提供すれば、きっと六花は迷わずにそれを実行する気満々だろう。


「優しいんだな」


「……さあ?どっかの誰かさんからの好感度は上げるために言っているだけかもしれませんよ?」


「なんだそれ。どっかの誰かさんって誰だ?それに、好感度ってゲームじゃないんだから」


「ゲーム、確かに現実はゲームとは違いますね。

 ですが、それは本当にそうなのでしょうか?」


「……どういう意味だ?」


「現実はゲームではない。そう言い切れますか?あなたに限って」


 六花の言葉に結は疑問符を大量に量産していた。


 疑問顔になっている結に、意味深な視線を向けた六花は、


「なんでもありません。ただの冗談ですよ?

 このところ疲れが溜まっていまして、少し憂さ晴らしをしようと」


「俺でするなっ!」


 問題発言をする六花に、結が叫ぶと、六花は楽しそうにクスクスと控えめに笑いながらそこから立ち去った。









 襲撃の関係で、急遽メンバーが変更になったAチームは、見事予選を突破していた。


 それも三○対○という、あり得ないレベルの大差でだ。


 Aチームのメンバーは鏡と交代で入った六花、それから元々のメンバーである春樹と小雪だ。


 なんで小雪がこのチームに入っているのかと言うと、六花衆の四人でジャンケンのした結果、小雪以外の三人がチームを組むことになり、一人になった小雪を、偶然メンバーを探していた鏡が誘い、小雪がそれを了承したらしい。


 【A•G(エンジェル・ガーデン)】は元々男子禁制、

 しかし、今は事実上解散状態であるため、そんなことはお構い無しだ。


 小雪はスピードに特化した幻操師であり、春樹の嵐属性は強い突破力を持っている、そこに六花の氷による無敵の防御によって、ゴールの前に作られた氷の壁によって失点を防ぎ、小雪の三次元的な超スピードから放たれる超速シュートや、春樹の破壊力抜群の嵐を纏ったシュートによって、相手チームがゴール前に作った土の壁など容易く突き破り、何度も得点を稼いでいた。


 相手チームは【S•G(サード・ガーデン)】のチームだったのだが、運が悪かったと思い、諦めて欲しいものだ。


 残りのニチームは一つは結と会長と桜という、生十会メンバーの中でも、特に戦闘に特化しているメンバーだったため、何ポイントか失点はあったものの、トリプルスコアを余裕で超える点数差によって、予選を突破していた。


 もう一チームはわかると思うが、そのメンバーは小雪を除いた六花衆の三人だ。


 結果はあえて言うまでもないだろうが、あえて一つだけ言うのであれば、敵チームは決して弱くなかった。……うん。











 無事に第二競技は全試合終了し、【F•G(ファースト・ガーデン)】の三チームは全て本戦へと駒を進めた。


 選抜メンバー一同(いちどう)は、第三競技【リターンフェアリー】が始まるまで、一旦会議室へと戻っていた。


「さて、どうにか【シュート&リベンジ】では何事もなかったけど、だからと言ってまだ油断してはダメよ」


 【シュート&リベンジ】では何事も無かったからと言って、第三競技【リターンフェアリー】で何もないとは限らない。


 その考えには賛成なのだが、油断するなと言われても、具体的にどうすればいいのかなどの指示がなく、それ以前にどうすればいいのかわからない者が多いのだ。


 やられた二人が生十会メンバー、つまりこの選抜メンバーの中で、トップクラスの実力者がやられてるのだ、動揺しないわけがない。


 会長の言葉は、この場において逆効果だ。


「ゆ、油断しないようにってどうすればいいのよっ!」


「そうよ!生十会でもやられたのよ!それに剛木さんはAランクなのよ!?その剛木が片腕を失ってしまうほどの相手なのよっ!?」


「わ、私帰るっ!ガーデンに帰るっ!」


 会長の言葉で不安を溜めていた生徒たちは、一気にそれを爆発させていた。


 一人の女子生徒が帰ると叫んでから、それに便乗何人ものの生徒たちが帰る帰ると、帰るコールを初めていた。


 自分たちよりも強い人を倒すような相手が、今度は自分とところに来るかもしれないのだ。


 その恐怖心は計り知れないだろう。


「あ、あなたたちーー」


 三人を除いて。


「うるせぇっ!!」


 怒筋を浮かべた会長が、皆に向かって叫ぼうとした瞬間、会長の叫びを遮るようにして、怒気の混ざった叫びが響いた。


 会議室に集まっていた生徒たちは、その声の発信源に反射的に振り向いていた。


 声の発信源を辿ると、そこにいるのは腕を組み、あからさまに不機嫌そうにしている結と、その結を挟むようにして立っている、桜と真冬の三人だった。


「さっきから黙って聞いてればごちゃごちゃいいやがって、いつからお前らはそんな腰抜けになったんだ?」


「なっ、あんたに何がわかるのよっ!あんたも生十会のメンバーでしょ?あたし知ってるわよっあんた生十会に入る前に剛木さんのこと倒したんでしょ?

 そんな強い人にあたしたちの気持ちなんてわからないわよっ!」


 怒気を混ぜた結の言葉に怯えることも無く、反論を飛ばす生徒がいることにも驚いたが、何より結と剛木の戦いについて知っている生徒がいることについて会長は驚いていた。


「俺が強い?あんた、ランクは?」


「それがなんの関係があるのよ!」


「いいから答えろ。ランクは?」


「くっ……Cランクよっ!」


「そうか」


「なにがそうかよっ!どうせCランクなんて低いと思ってるんでしょ!?そうよねっ今の生十会はみんなBランク以上のエリートだもんねっ!」


 女子生徒はヒステリックに叫び続けていた。


 そんな女子生徒に、結は悲しそうな表情を向けていた。


「そうか。なら俺のランクを教えてやろうか?」


「そんなの聞きたくないわよっ!」


「俺のランクはーー」


「だから聞きたくないって言ってるでしょっ!!」


「ーーFランクだ」


「だからっ…………えっ?」


 結が自らのランクを公言すると同時に、会議室一帯が静まり返っていた。


 帰ろうとしている生徒も、それらを止めようとしている生徒も、結の予想外の言葉に動きを止めていた。


 結のランクのことを知っている生十会の面々は、それを静かに見守っていた。


「もう一度言う。俺のランクはFランクだ」


「う、嘘よっ!FランクがAランクの剛木さんに勝てるわけないじゃないっ!」


 女子生徒が叫ぶと、結の言葉を聞いて固まっていた他の生徒たちも、そうだよ、嘘に決まってるなどと、ざわざわとしていた。


「嘘じゃないさ」


「嘘よっ!あたしは騙されないわっ!本当だというなら証拠を見せなさいよっ!」


「証拠があればいいのか?ほらっ」


 結はそう言うと、ブレザーのポケットから幻操師の詳細が書かれている【カード】を取り出し、それを女子生徒に投げた。


「ちょっとっ」


 女子生徒は慌てながらも結の投げた【カード】を見事にキャッチすると、結が促すままにそのカードに視線を落とし、そしてその目を大きく見開いた。


「……本当に……」


「俺は正真正銘のFランク。つまり、あんたたちよりも劣る、そう、劣等生だ」


「で、でもそれでも剛木さんを倒したじゃないっ!これは何かの間違い、そう、間違いに決まってるわっ!」


「間違い?俺が剛木を倒したことは事実だし、俺がFランクだってことも事実だ」


「そんなのあり得ないわよっ!幻操師のランクは式を刻むための幻操領域の規模とそれを発動するために必要となる幻力の総量で決まるのよ!?幻操領域はつまり火力、幻力の総量は使用回数よ。

その両方が圧倒的に勝る相手になんて勝てるわけないじゃないっ!」


「現に俺は勝ってるが?」


「だからっーー」


「うっさいなーっ!」


 結と女子生徒の言い合いに口を挟んだのは、会議が始まってからいつもの通りに机の上でとろけていた楓だった。


 とろけているだけでなく、今回は寝ていたらしく、騒ぎによって起こされた楓はあからさまに不機嫌だった。


「途中から話聞いてたが、つまりあれか?お前らは剛木がやられた理由がわからないと?」


「……楓」


「結も、結で言うことが回りくどいぞ。結はつまり、格上だろうが工夫次第で十分に勝つことができるって言ってるんだろ?

 それに、そもそも鏡と剛木がやられた理由をなんだと思ってるんだ?」


 楓はそういうと厳しい視線をその女子生徒に向けた。


「そ、そんなの知るわけ……」


「そんなの、後ろから急にやられたらどんな強者でも無理だろ」


「……えっ」


「結の言いたかったことには二つの意味がある。

 一つは本当に相手は鏡や剛木よりも強いのか?

 確かに勝ち負けで見れば二人は負けた。でも、工夫次第では強者に勝つこともできる、この場合その工夫とは不意打ちのことだ。

 つまり、そもそも相手はそんなに強いのかも怪しい。

 仮に相手の方が強いとしても、逃げずに工夫で勝てばいいだろう?」


「で、でも」


「なんだ?ここまで言われても意見は変わらないのか?だから結に腰抜けって言われるんだ。桜や真冬を見てみろ」


「え?」


 楓はそういうと、結の両サイドで厳しい表情をしている桜と真冬に視線を向けた。女子生徒もつられ視線を向けると、女子生徒はあることに気付く。


 二人とも、震えてる?


 そして、女子生徒は理解した。この二人はAランクとBランクのはずだ、つまり、自分と同ランクの二人がやられてるいる。つまり、気持ち的には自分たちと同じのはずなのだ。


 それなのに、二人は逃げ出すなんて考えていない。それは二人の表情から良く伝わってくる。


「わかったか?」


「う、うん」


「俺から最後に一ついいか?」


 女子生徒の表情からは逃げ出すなんてことは無くなり、立ち向かう覚悟が出来たように見えた。


 この子だけでなく、他の生徒たちも楓の言葉を聞き、意見を変えたように見える。


 楓がうまく女子生徒の説得を終えると、結がそう言った。


「その表情。いい覚悟だな」


「あ、ありがとう。その、さっきはごめんなさい」


「いいって。お前らの気持ちはわかるからな」


「そ、そうですか。一つ聞いてもいいですか?」


「ん?なんだ?」


「どうして音無さんは逃げようと思わないんですか?」


「ああ、そんなの決まってるだろ?」


 女子生徒は結の言葉を待ち、思わず唾を飲み込んでいた。


「もう、自分が何もしないで仲間を失いたくないからだ」


 そう言った時の結の表情は、いつものそれとは違い、とても男らしく、自分たちと同い年のはずなのに、自分たちよりも遥か先を見ているような、そんな不思議な気持ちをそれを見た者全員に抱かせていた。


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