表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/358

6ー52 遅刻?いや、無罪だっ!


 フルジャンクションをしている状態であれば、なにをしようが相手が死ぬことがないとわかった楓は、それならばそれを使わない手は無いと考え、攻撃は結に任せ、自分は万が一の場合に備えて、捕縛している男に意識を集中させていた。


「結。一つ確認していいか?」


「なんだ?」


「あの、姿か変わってる状態なら相手を殺すことが無いってことはわかったが、痛みはあるのか?」


 結が男を斬った時、男は大声で悲鳴をあげていた。


 それはつまり、痛みを感じていたということだ。


 そのところを確認しようと思い、質問すると、


「そうだ」


 結はあっさりとそれを肯定した。


「というより、命が傷られない分、痛みを与えるっぽいな」


「……それってつまり、通常よりも痛いってこと?」


「まあ、そうだな」


 鬼畜としか言えない仕様である。


 結自身、その鬼畜っぶりに気付いているのか、どこか気まずそうにしていた。


(【固有術】ってのは、つまり心装から漏れた力のことだ。心装はその人物の心のありようから形作られると言ってもいい。つまり、結の心は……)


 出会う前の結の過去を思い、楓は心に刺すような痛みを感じていた。


「それじゃ、起こしてくれ」


「了解」


 結に言われ、楓は再び一番右の男の氷を一部分溶かし、男の意識を復活させていた。


「ぐっ、あ、悪魔め……」


「悪魔?まあ、人は悪魔の子って言うだろ?お互い様だな」


「さて、さっきの痛みはもう嫌だろう?こちらの欲しい情報を喋れば、自由にはしないものの、命は助けるぞ?」


 それはハッタリだ。


 結と楓には、幻操師として、明らかな弱点がある。


 特に、結はそれが強い。


 なぜ、結の【固有術】がゲームのようになったのか。


 それは自分人形(マリオネット)という前例もあるし、ゲームが好きだから、ゲームが得意だからなどの理由も考えられるが、何よりその能力の特徴は、相手を殺せないということだ。


 つまり、結は心の中で、人を殺すことを拒絶している。


 もちろん、この【幻理領域】であれば、たとえ殺しても、それは厳密には死にはならない。


 しかし、それでも、結にはそれができない。


 そして、楓もまた、そうだった。


 二人の波長がどうして合うのか、それは、幻操師の力を得た者としては珍しく、本物の死ではない、偽物の死であろうが、自分の手でそれを下すことができないという。


 共通点があったからに他ならない。


 だから楓も、この四人を殺さずに、捕獲しているのだ。


 襲撃について聞きたいというのは嘘ではないだろう。


 しかし、一番の理由はただ単純に、人を殺したくないという、殺しへの拒絶だ。


 かりそめの死とは言え、命のやりとりをしている幻操師にとって、相手を殺したくないだなんてことは、考えていられない。


 しかし、結と楓、この両名は、なまじ力を持っているため、その覚悟を持たずに、今で生きていられているのだ。


 それが正しいのか、間違っているのか、それは誰にもわからない。















「はぁー。結局、あまり成果は無かったな」


 四人の男を起こし、順番に拷問をした二人は、再び四人を冷凍仮死状態にすると、彼らを閉じ込めている巨大な氷の塊から出て、話し合っていた。


「そうだな。そいつらはどうするんだ?」


 結は巨大な氷の塊をチラシと横目で見ると、すぐに視線を楓へと戻した。


「そうだな。冷凍仮死状態で生きるエネルギーも使ってないし、この状態のままどこかに隠しとくよ」


「……それがいいだろうな」


 結局、欲しい情報を得ることが出来なかった二人は、暗い顔のまま、その日の密会を終えた。












 六芒戦第四日目。


 今日は第一競技から、第三競技までの、三競技の予選がある。


 そして、最初に行われるのは第一競技、【キックファントム】だ。


 第一競技で第一試合に出場するのは、なんと、【F•G(ファースト・ガーデン)】のAチームこと、結、鏡、剛木チームだ。


「ほら。二人とも早く行くぞ」


「お、おいっ。待てよ結!」


「グハハ。慌て過ぎだぞ結っ!」


 試合開始一○分前。


 これから試合だというのに、結たちAチームの三人は、今だホテルにいた。


「アホかっ!もう一○分前だぞ!?走らなきゃ間に合わないだろ!」


「なに言ってんだよ結。予選の開始時刻は一○時からだろ?」


「ガハハ。そうだぞ結。ほれ、スケジュール表にも書いているではないか」


 自信満々に六芒戦のスケジュールが書いてある用紙を見せる剛木だが、一日別に書かれているスケジュールには、確かに予選開始時刻、一○時と書いてある。


「よく見ろバカっ!それは明日のだそ!」


 そのページの一番上には、デカデカと五日目と書かれていた。


「なっ!?マジじゃねえかっ!」


 結に言われ、やっと気がついた鏡は、剛木からそれを奪い取ると、ページをめくり、今日のスケジュールを出していた。


 そこに書いてある時間は、


「予選開始時刻、九時……だと……?」


 現時刻。


 八時五三分。


「あと七分しかねぇじゃねえかっ!」


「だからさっきからそう言ってるだろっ!」


 第四日目開始早々、騒がしい結たち三人であった。














「全くっ!結たちは何をやってるのよっ!」


 場面は変わり、第一競技、【キックファントム】の試合会場には、バタバタとしている結たち三人を除いた、生十会の面々がすでに揃っていた。


「春樹っ!あんたは確か剛木と同室でしょう?剛木は何をやってるのよっ!」


「そ、それなんですが、剛木君は昨日は明日の作戦会議をするとかで、部屋に戻ってないんですよっ」


「んー。ゆっちのところに三人でいるってところかな?」


「あの三人は何をしてるのよぉーっ!!」


 現時刻、八時五五分。


 試合開始五分前になったというのに、まだ姿を現さない三人へのストレスで、会長はヒステリック気味に叫んでいた。


「おそらくですが。今日と明日の開始時刻を勘違いしているのではないでしょうか?」


「鏡さんや剛木さんが勘違いするのはなんとなくわかるのですが、結さんまでそんなミスをするとは思えないですぅー」


「勘違いしていることにも気付かずに、まだまだ時間があると思い込んでいる二人を動かすのに、時間が掛かっている。……そんなところじゃないですか?」


「あ、ありえますですぅー」


 六花の推理はまさに的中だった。


 六芒戦第四日目は、六日目から始まる本戦に向けての予選なのだが、予選は各校から一チームずつ出した合計六チームによるトーナメントだ。


 各校から出るチームは三チームあるため、予選で同じガーデンのチーム同士が潰し合わない様に、三つのトーナメントに分かれる。


 そして、予選では各チーム一試合だけ行い、そこで勝てば本戦へと上がる。


 第一競技から第三競技まではこの

方式で予選が行われるのだが、第四競技から第六競技はまた変わるのだが、それは明日で良いだろう。


 本戦はそれぞれ一日掛けてやるのだが、第一競技から第三競技までは、三つのトーナメントでそれぞれ勝ち上がった三名で総当り戦を行い、そこで一位になった三名で再び総当り戦を行う。


 【キックファントム】の本戦は六日目だが、その時は総当り戦のため、例え一敗したとしても、残り二チームの結果によってはもう一度競うことになるが、この予選は一発勝負なのだ。


 予選は観客がいないため、最初に遅れたからといって、いきなり不戦勝になることはないという、親切設計なのだが、開始時刻を過ぎれば例え相手チームがいなくても、ゲームは開始される。


 つまり、相手チームの一方的な得点になってしまうのだ。


 そして、


「か、会長ぉー、もう三点も取られちゃいましたですぅ」


 既に時刻は九時五分。


 この五分で、既に相手チームに三点の先取を許してしまっていた。


 キーパーどころか、相手選手が一人もいないフィールドで、相手チームである【F•G(フォース・ガーデン)】のチームは、ゴールしたボールを拾いに行き、中央にボールを置くと、作戦もなにもなしに、その場で大きく右足を振り上げた。


「あぁーっ!またゴールしちゃうですぅーっ!」


 キーパーもいないため、相手チームはさっきからこの方法で三点を先取していた。


 今までの三点同様、四点目が入ると思い、思わず真冬が目を瞑ると、


「まったく。あのバカ。遅いわよ」


「ふぇ?」


 不機嫌そうな、だけど、嬉しそうにしている会長の声をきき、恐る恐る目を開けた真冬の目の前に広がるのは、


「あーあ。言わんこっちない。もう三点も取られてるじゃねえか」


 ゴールの目の前で、ボールを足で受け止める、結の姿があった。




アンケートの回答、まだまだお待ちしております。


ご協力のほど、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ