6ー50 暗躍する二人
今回は少し残酷描写が入ります。
すごく残酷というわけではありませんが、一応ご注意を
不安そうに表情を揺らしている楓が今、一番欲しがっている言葉を言い当て、楓の心を救った結は、次の練習の時間が来てしまったため、次の会場へと向かっていた。
二日目の練習は、実践的な練習試合を中心にして行われた。
それぞれの団体競技には、各校三チーム出場出来る。
だかれ三チームの内、二チームが練習試合を行い、残りの一チームはパスや連携などの基本的なチームワーク向上を励んでいた。
六花コーチのおかげで、それぞれ効率的に各スポーツの特徴をつかむことが出来た選抜メンバーは、明日から行われる予選に向け、気を引き締めていた。
余談になるが、この六競技は六花が考えたものだ。
つまり、六花は他の学校よりもこの競技について知っていることになり、フェアでないのではないかという話になったことがある。
その時の六花の回答は、
「それは問題ありませんよ。確かに六競技を考えたとは私ですが、基本的には元になっているスポーツの存在が大きいですし、私が案を提出したのが半年前、それから間も無く返って来た返事には、私が考えたものを元に、別のものになったもの。つまり現在行われようとしている六競技になりました。
つまり、私はきっかけでしかありませんよ?
それに、各校にはブレインがいますので、そういう反論が来ることもないでしょう」
らしい。
つまり、六花の提出をそのまま使うと、六花のいるガーデンが有利だから、いろいろと調節が加えられているらしい。
まあ、それなら問題ないだろう。
六芒戦。第三日。
夜となり、自由時間となった生徒たちは、この時間、プールは閉鎖されているものの、その隣の娯楽館は解放されているため、多くの生徒が出入りをしていた。
娯楽館とは、プールとは別の娯楽を提供する場所であり、所謂ゲームセンターのような場所と思って貰えればいい。
しかし、ここは【幻理領域】であり、【物理世界】ではない。
【物理世界】のゲームセンターにあるようなゲームは無く、あるのはエアホッケーや、ピンボール。バスケットボールを使ったシュートゲームなどの、ちょっと昔の娯楽だ。
それでも、娯楽のない【幻理領域】ではそれは最高のおもちゃになり、たくさんの生徒に賑わっていた。
多くの生徒がその娯楽館、通称ゲーセンに行っている中。
閉鎖しれているはずのプール館には、二人の男女が密会をしていた。
密会をしている二人の男女の内、女子の背後には大きな氷の塊が鎮座しており、独特の雰囲気を醸し出していた。
二人の表情は固く、そしてなによりも真剣そのものであり、二人の密会が、恋愛などの浮ついたものが理由ではないことをありありと物語っていた。
「それが例のか?」
男子は女子の背後にある巨大な氷の塊を指差しながら言った。
「そうだ」
可愛らしい声とは裏腹に、凛々しく、男勝りな口調で、彼女は頷いた。
「中に四人ともいるのか?」
「ああ。これの中に四部屋作ってそれぞれに隔離してる。
あたしが解除しない限りは意識もないままだ」
巨大な氷の塊には、よく見れば扉のようなものがついている。
彼女がそう言うと、少年は満足気に頷いた。
「入るか?」
「ああ」
少年がそう言って頷くのを確認した少女は、氷の塊についている扉を開くと、中を少年に見せた。
「これは……」
氷の中には、まるで牢獄のように、氷の格子で隔離された四つの部屋があり、その中には一部屋につき一人ずつ、十字架に張り付けにされ、そのまま全身を厚い氷の層で覆われている、合計四人の男性がいた。
普通の牢獄よりも、はるかに扱いが酷いことになっている四人の男性は、裸にはされていないようだが、元々着ていたであろう服はズタズタになっており、上半身、下半身共に、少ない布が覆われているだけになっていた。
「念のために法具が持ってないことは確認しといたぞ。
でも、体内に隠し持ってたらお手上げだ。
……どうする、結?」
二人の男女。
【F•G】生十会メンバー、音無結と望月楓の両名は、張り付けの状態で氷漬けにされている彼らに冷たい視線を向けながら、相談をしていた。
楓のどうする?という質問は、つまりこの捕獲した彼らの意識を戻すかのかどうかという意味だ。
「少し待て」
結は楓に待つように指示をすると、目を瞑り、合掌をした。
合掌した結を見て、楓は小さくわかったと返すと、結が目を瞑っている分、見張りは自分の役割と言わんばかりに、捕獲した四人へと意識を集中させた。
「お待たせ」
「へぇー。それは?」
「『フルジャンクション=結花』。私の戦闘モードだと思って?」
「んー。わかった」
結の姿が突然変わった事で、微妙にだが、表情に驚きを浮かべた楓に、とりあえずの説明を済ませると、楓は完全には納得していないものの、今はそのことを気にする余裕はないと考え、それを思考の外に追いやっていた。
「誰から起こす?」
「一番右からでいい」
「りょーかい」
楓は結に言われた通り、一番右の牢獄にいる男に片手を翳すと、ふっという、小さな掛け声と同時に、翳した手に幻力を込めていた。
楓が手に幻力を込めると、手を翳していた男を覆っている氷が溶けるように消えていき、最後には十字架のような台と、その十字架に男の両手両足を押さえつけるための拘束具のような氷だけが残っていた。
「うっうぅ」
氷が解けたことで、冷凍仮死状態から蘇生された男は、小さく呻きながらも、徐々に目を開けた。
「……俺は、一体……」
「とりあえずおはようでいいのか?」
「お、お前はっ!」
目が覚め、寝起きのように頭が霞んでいるらしい男に、楓が笑顔で挨拶をすると、楓の顔を見て驚いていた。
「くっ……そういうことかっ!」
驚いたショックで、頭が回転してきたらしいその男は、今の状況をほぼ正確に把握すると、即座に自分の舌を噛みちぎろうとしていた。
「甘い」
男の突然の行動に楓は眉一本動かさずに、ただ小さくそうつぶやくと、再び男を氷の彫刻へと変えていた。
「ががっ!」
しかし、最初とは違い、男の意識は無くなっておらず、全身は完全に氷に覆われているが、頭は呼吸が出来るようにと鼻、それから目の二つだけは凍らされておらず、その姿はまるでマスクをしているように見える。
「自害なんてしようとしないでくれるか?
ここは一応プールなんだ。
赤いプールなんて嫌だろ?」
楓の淡々とした言葉に男は何かを言い返そうとしているようだが、鼻から下は、口を含めて凍らされているため、もがもがと呻くだけだった。
「聞きたいことがある。答えて?」
「言っておくが、これは拷問だ。……この意味、あんたならわかるよな?」
つまり、答えるまで楽にはしない。
死よりも恐ろしい苦しみを与えようとしているのだ。
この男の突然の行動も、その苦しみから逃げるためであり、気が狂ったわけでもなんでもない。
バスを襲撃したこの男たちならば、おそらく、その正体は裏の仕事を担う者だろう。
それならば、敵から受ける容赦のない拷問というものがどれだけ恐ろしいものか知っているはずだ。
男が自害を試みた時点で、結と楓、二人は覚悟をしていた。
拷問とは、主に相手から自分の知りたい情報を聞き出すためのものだ。
つまり、相手がすぐに情報を話せば拷問の意味は無くなる。
しかし、この男は自害を試みた。それはつまり、拷問され続けることに恐怖しているということ。
それは絶対に話さないという、固い意思の現れなのだ。
だからこそ、二人はこの拷問がどれだけ難儀なものかを悟っていた。
「今から口の氷を消してやるが、また自害なんて考えるなよ?
あんたが自分の舌を噛み切る前に、あんたを凍らせることができることは、もうわかっただろ?
無駄なことはせずに、質問に答えたほうがいいぞ?」
楓は男にわかったな?っと念押しすると、口元の氷を消した。
口元の氷が消えたことで、話せるようになった男の口から最初に出てきた言葉は、
「こ、この、化け物めっ!」
その瞬間、一瞬で刀を発現させた結は、その男を深く袈裟斬りに斬っていた。
「ぎゃぁぁぁぁぁあっ!!」
「ゆ、結っ!?」
突然深く斬られ、その痛みに耐えられずに大声で叫ぶ男の声をBGMに、楓は突然の行動を取った結に、慌てていた。
そんな楓をお構いなしに、結は今度は男をさっきとは逆に袈裟斬りにした。
「ゆ、結っ!やめろ!他にも三人いるとは言え、まだ殺すなっ!」
楓の制止をもお構いなしに、結はさらに二度三度、さらに斬撃を加えていた。
「ゆ、結っ!」
「大丈夫」
「な、なにが大丈夫なんだ!これ以上はこいつが死ぬぞ!」
男の悲鳴をBGMに、冷たい目をして、刀を振るい続ける結にそう言いながら、楓は違和感を感じる。
(なんで、この男はまだ悲鳴をあげられているんだ?)
楓はその違和感に気付くと、さらに幾つかの違和感に辿り着き、そして思考が停止した。
一つ目の違和感、それは男が未だに悲鳴をあげ続けていること。
斬られれば痛い、いや、痛いなんてレベルではないが、その痛みに声をあげてしまうのは当然だ。
だから、気にしなくてもいいように思えるが、それはありえないことだ。
一度目の悲鳴はわかる。
しかし、結がその後も二度三度と、さらに斬り続ける中、この男はずっと叫び続けている。
しかし、結の斬撃はさっきからこの男に致命傷を与え続けているのだ。
つまり、悲鳴をあげることも叶わずに、本来であればすでに事切れてるはずなのだ。
他にも違和感がある。
結は男の全身を覆っている楓の氷をも斬り裂き、男に斬りかかっているのだ。
楓の氷は楓が意図的に止めない限り、欠けてもすぐに再生する。
つまり、結が楓の氷を斬り裂き、男本体に斬撃を加えたとしても、次の斬撃を放つ時には、すでに氷は完全な状態に戻る。
しかし、それでも再生までに一瞬とはいえ、時間が掛かることに変わりはない。
結の斬撃はその全てが致命傷レベル。
何故さっきから、一滴も返り血が飛ばない?
それだけじゃない、何故、こんなにも男を斬り裂いているあの刀にさえ、全く汚れがないんだ?
楓にとって、男を覆っている氷は第三の手と言っても過言ではない。
だから気付けることなのだが、
どうしてこの男には傷が出来てないんだ?
「私は人を殺せない」
ありえないその状況に、思わず思考が停止してしまっている楓に、結はそう手を止めないまま、そう語りかけた。
「……どういうことだ?」
やっとのことで絞りでたのは、そんな疑問だった。
「……説明は凍らせてから」
そんな楓に、結は手を止めると、これから話す内容を他の誰かに聞かれたくないのか、この男を再び冷凍仮死状態にするように言った。
「わかった」
楓は結の言葉に頷くと、未だに痛みで悲鳴を上げる男を、一瞬で凍らせていた。
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