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6ー48 そういえば

「はぁー」


「おいおい。どうしたんだ結?

 辛気臭い顔しやがって」


 現在、結は気絶から復帰したらしい鏡と、剛木の二人と共に、六花の決めたスケジュール通り、第一競技、【キックファントム】の練習を始めるべく、会場に集合していた。


 集合そうそう、憂鬱そうにため息をつく結に、鏡は疑問顔になっていた。


「ガハハッ。結のことだ。どうせ女関係だろっ!」


「確かにそうだなっ」


「おい。なんでそうなる?」


「なんだ?違うのか?」


「……いや、そうだけど」


 結のため息の原因はさっきまで一緒にいた楓だ。


(結局あの後フルボッコにされたからた)


 結を裁くために、エクスカリバーを取りに行った楓だったが、流石にエクスカリバーは伝説の法具、楓でも持ってくることなんて出来なかったらしく、代わりに『氷結』によって作られた大剣を振り回して来たのだ。


 【個人闘技(ファイトソロバトル)】の練習時間は、結局楓から逃げ回るだけで終わってしまった。


 次の練習があるという理由で結はそこから逃げ出したため、肝心の楓からはまだお許しを貰っていないのだ。


 結が女関連という二人の推測を肯定すると、二人はだろ?とでも言いたげな顔で、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。


「たくっ。無駄話はこれくらいにして、練習始めるぞ」


「態とらしくため息なんかついて、かまってオーラを出してたのは結なのになー」


「ガハハッそうだな鏡っ!」


「……おいっ。お前らすり潰すぞ?」


 揃って楽しそうに笑う二人に、結は少しの間俯いた後、笑顔でそう言うと同時に、合掌をした。


『ジャンクション=四人の女神=サキ』


「お、おい。結?それはシャレにならないぞ?」


「さあ?何のことかわからねえな」


 糸を使った肉体強化、肉弾戦に特化しているサキをジャンクションした結は、両拳を胸の前でぶつけ合いながら、満面の笑みを浮かべていた。


「ガハハッ。不味いなっ!」


「やべっ!」


「逃がす訳ねえだろうがっ!!」


 その後、第一会場からは二人の悲鳴が何度も響いたらしい。












「それじゃ。練習始めるぞ?」


「おう」


 結と、何故かボロボロになっている鏡と剛木の三人は、改めて練習を開始した。


 練習内容としては、練習期間のこの二日間の内、今日は三チームそれぞれで基礎を練習する。


 基礎とはつまり、パスであったり、シュートであったりと、そういうものだ。


 それから、どれくらいの威力で、どれくらいの幻力を消費させられるかの確認もする。


 それによって試合でのペース分配を測る。


 まあ、細かい計測は出来ないため、個々でなんとなく記憶して、それを後で六花に報告して、六花に作戦を練ってもらうことになる。


(本当に、六花は六芒戦に全力だな)


 なんで六花がそんなに頑張るのかはわからない。


 去年あったらしい闘技大会のミスから六芒戦を作ったってされてるけど、本当に理由はそれだけなのだろうか。


 六花はいつも、何を考え、何を思っているのだろう。


 結はいつも冷静な無表情でいる六花が、その仮面の下で何を感じているのかが、やけに気になった。








 



 今日の二時間が終わり、出場メンバーは再び会議室へと集まっていた。


「さて、みんな予定通りにことを運べたかしら?」


 皆が集まったことを確認した会長は、皆の表情を見回すと、小さく頷き、開口一番にそう聞いた。


 会長がもう一度皆の表情を見回すと、会長の質問に答えるように、それぞれ今度は大きく頷いていた。


「そう。それはよかったわ。明日からはせっかく一校につき三チームもあるのだから、練習試合をするわ。わかっているわね?」


「なー会長ー」


 明日のスケジュールを確認していると、楓が片手を上げて質問をしていた。


「どうしたの?」


「明日から練習試合するのはいいけど、あたしのスケジュール二日目は白紙なんだけど?」


 そう言って楓は、六花に渡された資料をひらひらとさせていた。


 確かにそこには楓の言うとおり、今日の分のスケジュールは書かれているのだが、二日間の部分が綺麗に白紙になっている。


 六花が書き忘れるなんて珍しいなと、生十会メンバーのほとんどが思う中、会長と結は違うことを考えていた。


 楓に質問され、会長はアイコンタクトで六花に説明を求めていた。


 会長としては理由がわかるのだが、ここは本人に言わせるのが筋だろう。


 会長のアイコンタクトに、六花は小さく頷くと、こほんっと咳払い後、説明を始めた。


「まず言っておきますが。それはわざと書きませんでした」


「……なんで?」


「隠しても仕方がありませんので、ぶっちゃけますが、楓?」


「な、なに?」


「あなたは練習の必要ないでしょう?」


 ごもっともです。


 ここにいる全員がそう思った。


 バスでの一件で、楓の力が桁違いなのは、楓の意思に関係なく、既に周知の事実だ。


 確かに、天才だとしても、初めてやるようなスポーツなどの場合、練習は当然必要だ。


 良く、天才はしなくてもそれが出来るというが、それは誤りだ。


 正確には、凡人よりも飲み込みのスピードが早いだけなのだ。


 仮に初めてやったことで最初からうまくいったとしても、それは無意識に過去の経験に基づいたものになっているのだ。


 つまり、初めてに見えても、天才にとっては初めてにならないのだ。


 今回の六芒戦での競技は、新しいスポーツだが、元となっている競技があるため、天才である楓にとって問題ではない。


 そもそも、楓が出場するのは【個人闘技(ファイトソロバトル)】だけだ。


 戦いに修業はあれど、練習はない。


 経験は戦闘において、重要なファクターになるのだが、楓の場合今更だ。


 楓に練習なんて必要ないのだ。


「それと、理由はもう一つあります。

 どちらかといえば、こちらがメインの理由ですね」


 練習の必要がないからだなんていう、相手が楓だから納得してしまう回答をされ、沈黙し、硬直する一同だが、六花が言葉を続けたことで、皆の動きが復活していた。


「もう一つって?」


「楓の性格上、どうせスケジュールを渡してもやらないですよね?」


「うっ……」


 六花の答えが図星だからか、楓は反論に困っていた。


(まあ、いきなりスケジュール無視して戦いを挑んで来たしな)


 そんな二人のやり取りを見て、結は小さく笑っていた。


 あー、ちなみにだが、会議が始まる前に、お怒りだった楓と再会してしまった結は、コッテリと絞られたらしい。


 そんな結に、鏡は一言、


「ざまぁー」


 っとつぶやいていた。


 その後、冷静になった鏡は、その時のつぶやくが結に聞かれていなくてよかったと、心から安堵していた。








 実践練習二日目。


 つまり、六芒戦第三日目。


 他のメンバーが各競技の練習をしている中、結が参加する団体競技で、チームを組んでいる二人が別の競技の練習で不在のため、スケジュール上でも一人時間が空いている結は、【F•G(ファースト・ガーデン)南方幻城院なんとうげんじょういん】の角にある、カフェテリアで休息を取っていた。


「それにしても、結は大変だな?」


 カフェテリアのテラスに座る結の隣には、六花直々に練習する必要がないと言われ、一人で暇を持て余している楓の姿があった。


 時間になり、鏡と剛木の二人と別れた後、空いた時間で軽く食事を取ろうと、今いるカフェテリアに向かっている時に、楓と遭遇。


 そのまま二人で食事を共にすることになっていた。


「それにしても、楓は基本的にガサツな癖に、食事のマナーはいいよな」


 元々【幻理領域】にはその資格がある者しか来れないため、常に人手不足だ。


 そのため、給仕がいないカフェテリアにすることで、それをカバーしているのだが、代わりというべきなのか、料理自体は一級品だろう。


 料理内容は【物理世界】で上等なフレンチ料理を食べるのと代わりがない。


 もちろん、給仕がいないため、コース料理のようにはならないが、楓はなんと思念で操作出来る氷を使うことで、座ったまま自分と、一緒にいる結、二人分の給仕の代わりを氷にやらせていた。


 楓はいつもやっているかのような、自然な動きで指先を小さく振ると、必要なナイフとフォークを本当に上等な店に来た時に配置されるように置いていた。


 結が何気無く思ったことを言うと、綺麗にナイフとフォークを使っていた楓は、ちらりと結を見ると、一旦ナイフとフォークを置き、これまた操作弾(コントロールブレット)で持って来ていたナプキンで口元を拭くと、改めて結に視線を向けた。


「そうか?」


「もしかして、楓って結構上等な人間?」


「あたしとしてはあまり気にしたことないが、一応連ねてるしな」


「……あっ。そういえば、お前……」


 楓は【幻理世界】の三大大貴族とも呼ばれる、始神家(ししんけ)の一家、【神月(こうづき)】に名を連ねているらしいからな。


 世界は違えど、楓は正真正銘の、貴族なのだ。


 貴族ならば食事のマナーを心得ていることも納得だな


「それと、結?食事中は喋らないものだぞ?」


 楓は結にウインクすると、改めて食事を再開していた。


 そんな楓に言われ、口を閉じた結は、テーブルマナーなんて知らないため、深く考えずに、さっきから楓が操作弾(コントロールブレット)で持ってくる、魚料理や肉料理、サラダなど多彩な料理を、静かに食べ始めた。

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