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6ー47 死刑判決!?


 六花の考えたスケジュールは見事の一言に尽きる。


「なあ。なんであたしは一人でこれなんだ?」


「お前は他の奴らと違ってソロ競技だけだからな。

 個人練習は必然じゃないか?」


 解放されている会場の一つ、第六競技、【個人闘技(ファイトソロバトル)】の会場には、結、楓の二人だけがいた。


 二人は現在、横に並んで目をつぶり、合掌をしていた。


「なあ。これなんの意味があるんだ?」


「なんで楓はそういう知識はないんだよ」


「仕方ないだろ?あたしの強さは自己流なんだ。普通なんてあたしは知らん。

 それで?これの意味は?」


「はぁー。合掌することで円が出来るだろ?その円の円周に沿って幻力を回転させ続ける。

 幻力を外に放出するわけじゃないから幻力消費はないけど、体内とはいえ、幻力の操作をしてることに変わりはないからな。

 幻力の精密なコントロールの練習になる。

 それに、幻力を回転させていると回転スピードが上がるだろ?

 このスピードは幻操陣に幻力を注ぐ時のスピードに比例するからな。

 迅速に幻操陣を幻力で満たすための訓練にもなるんだよ」


「なるほどなー。結はよく知ってるな」


 楓は片目だけ開けると、横目で結の横顔を見た後、再び目を瞑った。


「俺はお前と違って劣等生だからな。知識が必要だったんだよ」


「ん?劣等生なら知識があったところで無駄だろ?」


「確かに、いくら無能が頑張ったとしても、少しの知識じゃ無駄だな。

 でもな、いくら無能、劣等生だったとしても、蓄積した知識が少しじゃなくて、膨大になれば、その身に持つ才能を超えるための術を見つけることが出来るかもしれない。思いつくかもしれない。

 だから俺は、幻操師関連の情報を集めたんだよ」


「結果はあったのか?」


「どうだろうな。

 結果はあったのかもしれない。なかったのかもしれない。

 今の俺にはまだ結論が出せないな」


「……そうか」


 楓がそう返すのと同時に、二人は口を閉じ、自分の体内を巡る幻力に意識を集中させていた。


 自分の中を巡る力を感じ取り、それを操る。


 それは、幻操師になる時に、一番最初にすることだ。


 幻操師になるには、幻力を認識することが必要不可欠だ。


 だからこそ、自分の中の幻力に意識を集中させるという作業は、幻操師にとって、基本中の基本だ。


 六花が二人に指示したこの作業は、的確と言える。


 結の戦闘スタイルは余りにも独特で、基本を眼中に入れていない。


 だから、こうして基礎をやらせているのだ。


 楓も楓で、六花は楓が天才だということに気付いている。


 いや、気付かない方がおかしいほどの才能に満ちている。


 しかし、天才だからこそ、凡人ならば時間を掛けてゆっくり、じっくりやるような基礎を飛ばして、実戦的な応用ばかりをやっている可能性が高い。


 そういう天才は、万が一の時に、基礎が無いせいで不都合が生じる場合がある。


 楓の戦闘能力なら、正直中学生レベルの闘技大会なんて、朝飯前だろう。


 万が一の想定外が無い限り、勝ちが確定しているようなものだからこそ、六花はそれが試合中に起こらないようにするために、基礎を集中的にやらせることにしたのだ。


 ちなみに、基礎しかやらせない理由として、楓に実戦練習なんてさせたら、会場が塵になる可能性を考えたから、というものもある。


「なあ結。やっぱし、こういうの性に合わないんだけど」


 沈黙を続けていた二人だったが、結構お喋りな楓はそれに耐えられなかったようで、合掌をやめると結の正面に移動していた。


「はぁー。俺には割と重要な作業なんだがな」


 結は楓の気配が前に移動したことで、呆れながもため息をついていた。


 結が目を開けると、そこには仁王立ちをしている楓の姿がある。


「まあまあ。そんなこと言わずにさ。せっかくこんな広い会場に二人しかいない訳だし?やらないか?」


「……はぁー。一回だけだからな?」

















「あっ……。ゆ、結ぅ。いいよ、そこ……んっ……あっ……」


「楓……お前もやっぱり女の子なんだな。凄く、柔らかいよ」


 会場の中心。


 ステージの上で絡み合う男女の姿があった。


 その内の一人である楓は、息を荒立てながら、何かに耐えるように、しかし、どこか気持ち良さそうな表情を浮かべていた。


「痛いか?」


「だ、大丈夫だ。もっと強くしてくれ」


「本当に大丈夫か?無理しなくていいんだぞ?」


「む、無理なんてしてないっ。結。お願い、もっと強く……して?」


「……わかった」


 既に十分過ぎるぐらい深くしているため、楓の身を心配する結だが、楓自身が顔を真っ赤にしながらもおねだりするため、結は入れる力を少しずつあげた。


「……あっ……」


「わ、悪いっ!強くし過ぎたか?」


「だ、大丈夫」


「痛かったらすぐに言えよ?」


「……ありがと」


「当たり前だろ?」


「くすっ。そうか。でもあたしは大丈夫だ。もっと、もっと強く、深くしてくれ」


「もっと深くか?これ以上は流石に痛いと思うぞ?」


「安心しろ結。あたしは別に結のために言っているんじゃないんだ。あたしがもっと強くして欲しいだ」


「……痛くないのか?」


「……本当は痛いぞ?

 でも、なんだか少しずつ、気持ち良くなったきたんだ」


「なんだそれ。マゾにでも目覚めたか?」


「なんだ?それなら結はサドにでも目覚めるのか?」


「なんだそれ」


「そうすればバランスが取れるだろ?」


「……そうだな」


「それに、次はもっと激しく交わすんだろ?

 こんなんで痛いなんて言ってられないんだよ」


「我慢する必要ないだろ?」


「どうせ手加減なんてしてくれないだろ?思いっきり激しくするつもりだろ?」


「それはこっちのセリフだ。

 手加減なんてしたら怒るだろ?」


「……まあな。せっかくの初めてなんだ。思いっきりやりたいからな」


「……わかった。それじゃ、そろそろいいな?」


「……うん」


 結は、行動を次に移るために、力を入れていた両手から(・・・・)、力を抜くと、楓の背中から(・・・・)手をどけた。


 準備運動として、結に背中を押して貰っていた楓は、体を起こすと、両手を組んで思いっきり伸びをしていた。


「んんー。気持ちよかった。次は結だな。ほれ、背中を貸せ」


「いや、俺はいいよ」


 気持ち良さそうに伸びをした楓は、立ち上がると後ろにいる結に振り向きながらそう言った。


 ずっと膝立ちしていた結は、楓の背中から手を退けた時に床に座り込んでいた。


 楓に背中を押してくれると言われ、体が硬い結としては、柔軟なんて痛いだけだから断ろうと顔を上げると、結は硬直した。


 さて、ここで一旦状況を整理してみよう。


 六花に言われ、体内で幻力を回転させる訓練をしていた結と楓の二人だったが、楓の提案によって、軽く(楓の思いっきりやりたいみたいだが)模擬戦をすることになった。


 それで、戦う前に軽くでも柔軟運動をした方がいいと結が提案したため、先に結が楓の背中を押してあげていたのだが、楓の柔軟が終わったと同時に、楓は立ち上がり、結は座った。


 楓に問い掛けられた結は座っているため、自然と上を向くことになった。


 今の楓が着ているのは【F•G(ファースト・ガーデン)】指定のセーラー服だ。


 セーラー服というものは、スカートなのだが、それまた【F•G(ファースト・ガーデン)】のセーラー服は短い。


 そう、本当に短い。


 ここまで言えば、いや、割と前から察しはついていると思うが、そんな短いスカートの下で、上を見上げれば当然。


(水色と白のストライプか)


 中身の布、つまりパンツが丸見えになっていた。


「……結?」


「な、なんでしょうか?」


 名前を呼ばれただけなのだが、その言葉には不吉が含まれており、結は思わず敬語になってしまっていた。


 結は視線を楓のスカートの中から、カクカクとした動きで楓の顔に移すと、そこには満面の笑みを浮かべる楓の姿があった。


「……見た?」


「……な、何をでしょうか?」


「あたしの下着」


「……不可抗力です」


「……ふーん。不可抗力ねぇー」


 楓の目は完全に据わっている。


(あっ、これはやばいな)


 結は本能的にそれを悟るも、逃げることは叶わない。


 結は刑を言い渡される犯罪者の気持ちで、楓の言葉を待った。


「まぁ。結も男の子だし?そういう気持ちがあるのも仕方がないとは思うのだが。

 それに、あたしとしても結になら見られたところで別に困らないのだが……」


 見られてもいいだと?


 一部、楓が何を言っているのかわからないが、楓の口振りから結は安堵していた。


 結に悪気がないことを悟ってくれているようだし、執行猶予、または減刑を期待するが、


「言い訳したし?

 ちょっとエクスカリバー持って来るから待ってろ」


 死刑判決だった。


 いやいやいやいや、それだけじゃないだろっ!


 何が、ちょっと買い物に行って来るみたいな軽いノリで伝説の剣持ってこようとしてるんだっ!?


 結に執行猶予も、減刑も無しに、死刑判決を下した楓は、その場から颯爽に立ち去ると、ただ一人、嫌な汗を大量に流している結だけが取り残されていた。

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