6ー45 人間失格だよっ!!
「あはは。許してよ。軽い冗談だろ?」
「やっていい冗談と悪い冗談があるだろ?」
楓に遊ばれた結が機嫌を悪くしていると、楓がそんな結の機嫌を治そうと四苦八苦していた。
「どうかしたのか?」
そんな二人の前に現れたのは、ずっと死んだと思っており、最近になって生存が判明した結の旧友の一人であり、彼女たち四人のリーダーこと、美雪だった。
美雪が着ているのはシンプルな白のセパレーツだった。
上は胸元が露わになっており、下は下着のような逆三角形だけでなく、超が付くほどミニサイズのスカートによって隠されている。
ーーまぁ、サイドに大きなスリットあるため中身も半分見えており、スカートがほとんど役割を果たしていないのだが。
「美雪は一人で来たのか?」
「いいえ、先ほどまでは会長さんや他の三人と来ていましたよ。
小雪が甘いものが欲しいと言い出しましたし、ちょうどご主人様が見えたので別れて来ました」
確かに離れたところにあって見えにくいが、クレープ屋だと思われる店の前に会長と、他の六花衆っぽい影が見えるな。
「まあ。お前らはいつも一緒ってわけじゃないからな」
「えぇ」
「美雪は甘いものには興味ないのか?」
クレープとか、甘いものは女子にとって好物である場合が多いのだが、美雪はどうなんだ?
幻操師としてどういう人物であるのかは知っているが、そういえば普通の趣味とかは美雪についてあまり知らないな。
他の六花衆のことは好物とかは少しわかるのだが、美雪はそういうのが一切わからないため、ちょっと気になった結は楓の質問の答えを期待して、耳を澄ましていた。
「そういう楓はどうなんですか?」
「あたしはまあ嫌いにじゃないな。人並みじゃないか?」
「なら私も人並みですね。
嫌いではありませんが、だからと言って特別好きでもありませんし」
「へぇー。女子って無条件で甘いもの好きだと思ってた」
「結?女子はそんなに単純じゃないぞ?」
「ご主人様?レディーにはそれぞれ個性という名の魅力があるのですよ?」
軽い思いで結がつぶやくと、想像以上に女子二人は食いついていた。
その食いつきぶりに結が驚いていると、女子二人の間に何やら新しい絆が出来たようだった。
「最初は嫌な奴……とは違うけど、あんま仲良くなれないタイプかと思ったが、割と普通に女の子なんだな」
「それはこちらのセリフですよ。口調が男勝りですので勘違いされやすそうですが、心は誰よりも乙女なのではないですか?」
「あはは。なんか否定も肯定どっちにしても墓穴掘りそうだからノーコメントだ」
「クスクス。そうですか?」
何やらガールズトークが始まり、結は置いてきぼりにされていた。
「美雪ぃー。ここにいたのかにゃぁー?」
「小雪ではありませんか。どうかしたのですか?」
「どうかしたのですか?じゃないわよ。急にいなくなったりして心配したじゃない」
小走りで寄ってくる小雪の後ろには、呆れ顔を浮かべた会長がゆっくりと歩いていた。
その横には雪乃と雪羽の姿もあった。
まず小雪だが、小雪は美雪が着ていたのとは少し違うタイプのようだが、グレーの俗に言うスク水を着ていた。
会長は赤のビキニの上から上着のようなラッシュガードを羽織っている。
雪乃は基本的には美雪と同じタイプの白いビキニだが、美雪とそれとは違い、ところどころフリルがついている。
最後に雪羽なのだが、雪羽としては……なんというかあれだ。
いろいろダメな気がする。
どうダメかと言うと布の表面積が少ないっ!少な過ぎるっ!
なんだその水着はっ!
言葉にすれば白のセパレーツタイプで、ビキニなのだが、ただのビキニではなく超ビキニだ。
雪羽は六花衆の中でも体の成長が早いらしく、今は結よりも一回り背が高い。
既に成長期を迎えた体は既に高校生と言われても信じてしまうぐらいの凹凸があるのだ。
そんな雪羽がそんな水着を着ていれば当然……
「おい雪羽っ!お前はとりあえず着替えて来いっ!」
「む?何故名指して私だけなのだ?」
「周りみろ周りっ!」
年齢的に中学生といえば、そういう気持ちが、盛んになる頃だ。
目の保養どころか、超回復過ぎで逆にダメージを与えてしまえような雪羽の格好のせいで、雪羽たちの通った道には、大量の鼻血を流しながら倒れる男子生徒が量産されていた。
「む?雑草如きが何人倒れようが私には関係ないのだよ」
鬼かっ!
「おや?おかしいですね。私はご主人様たちのところに行って来ますと、雪乃に言っておいたのですが?」
美雪がそういうと、皆の視線が雪乃に集中した。
「……え?そうだっけ?」
雪乃がポカンとした表情でそう呟いた途端、皆の視線がただの視線から、一気に鋭い視線に変わった。
そんな視線に晒された雪乃は、アワアワと慌てふためいていた。
「あれ?そういえば美雪たちと会長っていつの間に仲良くなったんだ?」
「……えーと、それは」
「この前ガールズトークで盛り上がりまして」
ふと気になったことを雪乃に聞くと、雪乃は目を泳がせながら頬をかいていた。
そんな雪乃の代わりに美雪が答えると、雪乃もそうそうっと首を縦に振って肯定していた。
他のメンバーにも視線を送るが、他の六花衆もそれを肯定した。
(美雪がガールズトーク?
……なんか想像できない)
これは偏見かもしれないが、ガールズトークといえば恋バナのイメージがある。
恋バナに話を咲かせる美雪を想像しようとして、それが想像出来ない結だった。
楽しい時間は過ぎるのが早いとよく言うが、確かにその通りだ。
結は会長たちにせがまれ、結局泳ぐことになったのだが、結はあまり泳ぎが得意ではなく、レースでは相当の差をつけられてしまったり、勝負では結が落ち込むからと、ただ平和に泳いでいたり、途中で他の生十会メンバーが合流したりと、いろいろあったが、気が付けば大会設備を【F•G】が使えるようになるまで、既に残り一五分を過ぎていた。
「みんなちゃんと集まってるかしら?」
遊びを開始する前に、集合時間と集合場所を決めていた【F•G】一同は、待ち合わせ場所がプール外であるため、当然水着から制服に着替え、徐々に集合場所に集まりつつあった。
「会長ー。鏡がいませーん」
移動時間も考えると、そろそろここから出発しなくてはならないのだが、手を上げて、まるで先生に報告する生徒のように桜が鏡の不在を伝えた。
「鏡君がまだなの?」
「あぁ。そういえば、鏡なら今頃病棟で寝てると思うぞ?」
「……一応聞いておくけれど、どうしてかしら?……桜?」
「な、なんであたしっ!?」
結の報告を聞いた会長は、はぁーっとため息をつくと、桜にギラリとした視線を送った。
突然会長から睨まれた桜が避難の声をあげると、周りの目は桜に哀れみを向けていた。
「病棟にいるってことは、怪我か気絶でしょ?
鏡君の性格上、ちょっとくらいの怪我なら無視して出てきそうだから、自然と気絶してるってことになるわね。
それで、鏡君を気絶させるような人物と言えば」
みんなの視線には「言えば楽になれるよ?」って感じの念が込められていた。
「うぅー。あたしじゃーー」
「桜だぞ?」
「う、裏切ったなゆっちっ!」
桜は両手を上げて、上半身だけの荒ぶる鷹のポーズをやると、シャーっと鷹というよりかは、蛇っぽい声を出していた。
「裏切るもなにも、お前だろ?」
「ま、まあ。そうなんだけどさー」
「隠す意味全くなかったですぅー」
「無駄な努力って奴ですねっ!」
「ちょっ!二人とも!?」
日向兄妹の投げた心のナイフが見事桜の心臓へとグサリと刺さっていた。
……やっぱり日向兄妹は黒いな。
「はぁー。鏡君が出る競技ってなんだったかしら?」
「えーと、確か。……ありました。資料によればどうやら鏡君の出場競技は【キックファントム】と【シュート&リベンジ】、それから【トライチャージ】の三つですね」
「へぇー。鏡三つって頑張るねー」
「そういう桜ちゃんは四つじゃなかったですかぁー?」
「ありゃ?そうだっけ?」
「桜は……はい。真冬の言う通り四つですね。
競技名は、【キックファントム】、【シュート&リベンジ】、【リターンフェアリー】、【個人闘技】の四つですね」
見事的中させて真冬は、小さく「やったですっ!」っとガッツポーズをしていた。
「鏡君の出る三競技って、全部団体戦ね。チームは誰だかわかる?」
会長が問い掛けているのはもちろん六花だ。
六花は「ちょっと待って下さい」っと時間を貰うと、持っている資料をパラパラとめくり始めた。
「なあ。前から思ってたんだけど、六花のあの資料っていつもどこから出てくんだ?」
「それあたしも気になってた。不思議だよな」
六花がいつも会長に質問されると、どこからかあの資料、というか資料集のような小さな本を取り出しているのだが、結と楓はいつもそれがどこから出て来ているのかが気になっていた。
「あれ?二人は知らないんですか?
あれは六花さんの持っているボックスリングの中にいつもはしまってあるみたいですよ?」
ボックスリングを使うことによって、リングの中に物を入れたり、出したりが自由になる。
リングという名所からわかるとおもうが、その形状はリング、つまり指輪がほとんどだ。
だから使い方としてはリュックのように、中に物を入れるものなのだが、それがあまりにも小さく、そして中に入る容量はその外見の大きさをはるかに超える。
ーーまあ、そもそもリングに物をしまうって時点でおかしいのだがーー
つまり、ボックスリングとは、異空間アイテムボックスのようなものだ。
「ああ。ボックスリングか……」
「結君はボックスリングを持っているんですし、その便利性は知っていますよね?」
「……あぁ」
楓は結のことを見つめていた。
「どうかしたか?」
「いやなんでもない」
結が楓に問うと、楓は何事もなかったかのように視線を正面に戻していた。
「ありました。
鏡君の第一チームメイトは……結じゃないですか」
「ああそうだが?」
「なんで名乗り出てくれなかったんですか?」
「特に理由は無い」
楓たちと話していたから言うのを忘れた、なんていうことも出来ないため、結はジト目で質問する六花にこう返すと、六花は目で相手を凍らせてしまいそうな、冷たい目になっていた。
「六芒戦が終わったら覚えておいてください」
「……断る」
結は視線を逸らすと、短くそう返した。
「……はぁー。それと、もう一人は剛木ではないですか」
「がはっはっ。すまない。手間をとらせたなっ!」
今度は剛木に凍えるような視線をぶつけると、剛木は怯んだりはしないのだが、悪気はなかったらしく、素直に謝っていた。
まあ、笑いながらだから誠意なんて全く感じられないが。
「……はぁー」
いろいろ人としてダメな二人に、六花は深い深いため息をついていた。
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