6ー44 平和な日常
状況から考えて、何かしらの理由でいつもの喧嘩以上に力を出した桜によって、哀れにも気絶させられてしまい、プカプカと小舟の如く浮かんでいた鏡を、集まっていた野次馬たちをどけながら回収した結は、プールのある建物から一旦出て、その隣にある施設、わかりやすく言うと病院に鏡を預けると、結は再びプールへと足を運んでいた。
「おっ結。さっき鏡を運んでいたみたいだが、なんかあったのか?」
結が入り口から入ると、早速知っている声を掛けられていた。
「いや、桜が鏡を気絶させて、そのままどっか行きやがったからな。
代わりに横の病棟まで運んできたところだ」
「そりゃ災難だったな」
そう言って励ましてくれる楓は、いつもはそのまま流している黒髪を後ろで一つに纏め、所謂ポニーテールにしていた。
楓の着ている水着は、可愛らしいが、控えめなフリルの着いた黒のビキニだった。
楓自身の素肌は六花や真冬同様に、雪のように真っ白で綺麗な肌、つまり美白だ。
髪色が綺麗な黒であることもあり、髪の黒と水着の黒、そして素肌の白によって言葉にできないバランスが生まれ、そんなことよりも、ただただ綺麗、その一言に尽きる。
「えーと、楓?」
「なんだ?」
「それはなんだ?」
何故か楓が相手だと弱くなる結だが、今の楓を見ても正気を保っていられているのは、近付いてきた楓の後ろに山のようになっている、男たちを視界に入れた、入れてしまったからだ。
「ん?なんかしつこかったからついな」
「……生きてるよな?」
「当然だろ?加減はした」
「……ちなみに術は使ったのか?」
「こんな雑魚相手に使うわけないだろ?」
そこで山になっている男たちは正真正銘他校の生徒だ。
試合に出る生徒以外の過半数以上の生徒たちは、本戦のある六日目から来るため、ここにいるということはつまり選抜メンバーだということだ。
その学校の選ばれた生徒である彼らを雑魚と言い、術も使わずに、軽くあしらったらしい楓は、どうやら術だけでなく、体術とかそういうのも規格外らしい。
そんなことを当然のように言う楓に、結はため息をつくしかなかった。
「結は泳いだのか?」
「……いや、まだ泳いでないな」
「泳がないのか?」
「今は気分が乗らん」
「じゃあなんでここに来たんだよ。しっかり水着着てさー」
結が着ている水着は黒のサーフタイプの水着だ。
……まあ、いらない紹介だな。
「外は暑いからな」
「……とかいいつつ、目当ては女子の水着か?」
「……はっ!?」
楓からの予測外の言葉に、結はたっぷり三秒間停止していた。
「泳ぐ気のない男子がプールに来る理由なんて、それしかないだろ?」
淡々とした口調でいう楓だが、楓は結に思いっきり避難の目を向けていた。
「そんなこと……ないこともなくはないのかもしれませんが、多分」
「随分と曖昧な表現したな」
楓は呆れたようにため息をついた。
「いや、ぶっちゃけ男なんてそんなもんだからな」
「へぇー。結もか?」
「そりゃ……俺も男だしな」
「ふぅーん。じゃあこんなのはどうだ?」
「ん?なんだ……ってお前なんつう格好してんだよっ!!」
楓に言われ、結が振り向くと、そこには軽く屈んで、腕を組むようにして胸元を寄せる楓の姿があった。
元々楓のその部分は中学生にしては中々に実っている。
何がとは言わないが、既にCはあるだろう、そんな美少女がそんなポーズを取ればそれはあまりにも……。
「……へぇー。あたしに発情したんだ」
「バカかお前はっ!」
「あはは。冗談冗談。でも意外だな。結はあたしのことをちゃんと女子として認識してくれてるってことか」
「……何でそう判断した?」
「気付いてないのか?顔、真っ赤だぞ?」
「自分で気付けるかっ!!」
楓は始終ずっと楽しそうに笑っていた。
対して、結は始終恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
結はまともに楓のことを見られなかったため気付いていなかったが、楓もまた顔を真っ赤にしていた。
そんな二人のやりとりを遠くから眺める三人の少女がいた。
入り口近くで話している二人を、その三人の少女たちは、二ブロック離れたプールの中から、ずっと眺めていた。
「ねえ。あれ……」
「桜。あえて口にしないでください」
「……あれ?六花も引っかかってるってことは、もしかして六花も?」
「……安心してください。私にその資格はありませんので」
「んー。よくわかんないけど、一人ライバル減ったってことでいいのかな?」
「……やはり二人もそうでしたか」
「えぇっ!六花さん気付いてたですぅ!?」
「……えーと真冬ちゃん?とりあえず真冬ちゃんのそれはバレバレだよ?」
桜が若干呆れた口調と表情で言うと、真冬は両手を頬に当てて、恥ずかしそうにえぇーっ!っと叫んでいた。
「それにしても、ライバル多いなー」
「……そうなんですか?」
「あれ?六花は何人くらいいるか知らないの?」
「……さあ?私は桜と真冬、それとまだ自覚はないみたいですが、楓の三人だけですね」
「へぇー。
じゃあ、それにあの六花衆だっけ?あの子たちと会長の名前追加で」
「……六花衆はそうではないかと思っていましたが、会長もですか?」
「あれは一○○パーそうだね」
自信がありそうに言う桜に、六花は考え込むような形でそうなんですかっと一人でうんうんっと、小さく首を振って、何かに納得しているようだった。
「正直真冬は自信がないですぅ」
「大丈夫だってっ!真冬ちゃんこんなに可愛いもんっ!」
「わぁっあぅぅぅぅ、やめてくださいですぅーっ」
桜は自信喪失している真冬に後ろから抱きつくと、真冬の前進を弄くり回していた。
「……はぁー。桜?いい加減にしてください。そういう戯れは部屋でしてください」
「おっけー。じゃあ続きは部屋でな、まっふっゆっ」
「六花さんっ!?部屋でも認めないでくださいですぅー……あ、あぅぅぅぅ」
遠回しに部屋の中ではそういったセクハラ行為も同性なら許可すると言っている六花に、真冬がすかさず反論するも、言葉を重ねてきた桜が、自分の名前を若干声真似をした上に、耳元で語り掛けるように、優しく囁くために、恥ずかしそうに変な声をあげていた。
「……二人とも部屋に戻ったらどうですか?」
「り、六花さんっ!?見捨てないでくださいですぅー」
「かっかっかっー。それじゃ真冬ちゃん?ちょっとベットに行こっかっ」
「にゃ、にゃぁぁぁぁあっ!六花さーんっ!カムバァァァァァァック」
六花は最後にため息交じりに二人にそう言い残すと、綺麗なフォームで泳ぎ出していた。
六花は後ろから聞こえてくる悲鳴?を無視して、泳ぐことで何かを洗い流そうとしているかの如く、ずっと泳ぎ続けていた。
「あの子は本当に真面目ね」
ちょうど六花が泳ぎ始めたところから様子を見始めた会長は、他の少女たちと違い、布面積の少ないビキニの上からラッシュガード、つまり上着のようなものを羽織っていた。
会長としては男から注目されるのが嫌でラッシュガードを着ているのだが、上着を着ているようなその姿は、下に着ている水着がビキニであり、上はラッシュガードで覆われていて見えないが、下はそのままであるために、会長の羽織っているラッシュガードが少し大きいこともあって、その姿は裸Tシャツとか、それに違い雰囲気を出していた。
そして会長が元々持っている美しさも合わさり、既に多くの男子が会長に声を掛けていた。
会長はその全員をまったく相手にせずに、無視し続けるという暴挙に出ていたが。
「どうやらそのようですね」
会長はプールサイドの一角にあるちょっとしたカフェで冷たい飲み物を飲んでいるのだが、一人で居るわけではなく、その隣には結の旧友こと、美雪たち六花衆の姿があった。
「……ねえ。二人とも本気で言ってんの?」
実は六花は真面目に水泳をしているのではなく、恥ずかしさを誤魔化すためにそうしていることに気付いている雪乃は、呆れ顔をしていた。
「やめておくのだよ。藪蛇なのだよ」
「そうにゃそうにゃ。勘違いしてても問題ないにゃぁ」
「……それもそっかっ」
テラスにあるようなオシャレなテーブルとイスに腰掛ける五人だが、会長と美雪で一テーブル、その隣のテーブルに雪乃と雪羽と小雪の三人が座っていた。
「それにしても平和ね」
「そうですね」
「こんな平和がずっと続けばいいのに。そう思わないかしら?」
「ふふ。私も同感です。ですが、この世というものはそう上手くはいかないものですよね」
「……そうね。いつの世の戦。誰かがそんなことを言ってたわね」
「ですが、いつかは世界が平和になってくださる。私はそう信じています。信じる心。それこそ未来に希望をもたらす光になるのですから」
「それ、いいわね」
平和についてなにやら語っている女子中学生二名は、希望に溢れたような表情で楽しそうに笑っていた。
「……はぁー」
そんな二人の隣のテーブルにいる三人は、若干キャラ崩壊を始めている六花衆のリーダーに、思わずため息をついていた。
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