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6ー43 後始末は結局俺の仕事

「競技【キックファントム】、【シュート&リベンジ】、【リターンフェアリー】、【トライチャージ】、【ショットバット】、【個人闘技(ファイトソロバトル)】の六種です。

 これらの六種の競技はそれぞれ既存のスポーツを元に作られています。

 ……というより、これらの競技は私が考えたものなので良く知っているのですが、ルールはほぼ元になっているスポーツと同じです」


「先生ー、しつもーん。その競技名を考えたのは六花先生ですかー?」


「桜?ふざけないでくれますか?」


「ごめんってば……そんなに怒らないでよ。軽いジョークだよ?オーケー?」


 六花の説明に桜がちゃちゃを入れると、六花はいつの間にか起動している法具を付けた右手を桜に向けていた。


 六花の目は軽く据わっており、桜は本能的命を危機を感じ取ったのか、一瞬で鏡の後ろに身を隠していた。


「おっおっ桜っ!離れやがれ!」


「ほらほら六花の前では休戦条約結んだじゃん?てことでヘルプミー?」


「はっなっせっ!」


「六花ーそれくらいにしとけー」


 六花が割と本気で二人に術をぶちかまそうとしているため、結がすかさず声を掛けると、六花はため息とともにあげていた手を下げた。


「し、死ぬかと思ったぁー」


「巻き添えになるとこだったぜ」


 まるで銃口を向けられていたかのようになっていた二人は(法具を付けた腕をあげるということは、術の標準を合わせているのと同意なので、適当な表現だ)それが下げられたことではぁーっと安心するように深く息を吐いていた。


「それで?結局名前は誰が付けたんだ?……まさか、六花か?」


「違います。会長です」


「ちょっと六花っ!?」


 六花から避難するために席を立っていた桜が自分の席に向かう中、空気が読めない子、いや、あえて空気を読まない子(・・・・・)である楓が質問した。


 質問しながら軽く引いている楓に、六花は桜の時のような対応はせずに、一瞬でその名前を考えた人物の名前をばらした。


「そうだったんですかっ!さすがは会長ですねっ!普通の人間じゃ真似できませんよっ!」


「ぐっ……」


「そうですぅー。こんな聞くだけで恥ずかしくなる名称考えられないですぅ」


「ぐはっ……」


 別名、毒舌モブである春樹だけでなく、その妹からの追撃をクリティカルヒットしてしまった会長は、唸り声を上げるとそのまま机の上に倒れ込んでいた。


 どうやら真冬も完全な白ウサギではないようだな。


 白と黒の中間で灰色ウサギ?


 ……白黒ウサギでいいか。うん。


 わりと大切な会議であるにもかかわらず、全力でふざけている学年のエリート集団こと生十会メンバーに、深いため息をつく結だった。











「ごほん。会長がノックアウトしてしまいましたが、正直会長はいらない子なので会議を続けますね?」


 六花は雪という意味なのだが、雪と言えば白いイメージだ。


 だが、どうやら六花はイカ墨とかで真っ黒に染色されているらしいな。


「それでは各競技についての話をしますね?

 話の順番は本戦の開始順で話ますが、まずは本戦初日の【キックファントム】についてですね」


 六花は席から立ち上がると、会議室のサイド一面にデカデカと広がるホワイトボートにカキカキと何かを書き始めた。


「先ほど、各競技には元になったスポーツがあるといいましたが、これはなんの競技だかわかりますか?」


「えーと、名前にキックとありますし、会長さんのことですから元のスポーツのイメージから名前を考えていると思うので、サッカーとかですかぁー?」


「ざっつらいと。あなたは正しい」


「えへへ。褒められちゃいましたですぅー」


 六花は無表情で淡々とした口調なのだな、真冬はほほを薄っすらとピンク色にして、照れていた。


「なぁ結?今の英語、まったく英語に聞こえなかったんだが?」


「ああ、俺もだ。ただの日本語にしか聞こえなかったな」


「もしかして、六花は英語がダメなのか?」


「いや待てっ落ち着くんだっ!。あれはきっとわざとだ、ネタだ。きっとそうなんだ」


「そうか。ネタなのか。……それなら拾ってやらないとだな」


「か、楓?やめ……」


 結の制止を無視し、楓は机を叩きながら立ち上がると、ビシッと効果音がつきそうな感じで六花を指を指した。


「もしかしてあれか?六花ちゃんは英語がダメな子なのか?」


 楓が言葉を発した瞬間。室内の温度が一気に低くなった気がする。


 ……壁についてある温度計をみたら、気がするじゃなくて、思いっきり室温が下がっていた。


「……ええ、そうですよ。英語が出来なくて悪いですかっ!」


「やべ、ネタじゃなかったぽい」


「だからやめとけって言っただろ!?」


「……えっ、言ってたか?」


「人の話を聞けぇーーっ!」


 六花は開き直るかのように大声で叫ぶと、うつむいてブツブツと何かをつぶやき始めていた。












 その後、どうにか復活した六花はそれぞれの競技の説明をした。


 【個人闘技(ファイトソロバトル)】以外の競技は全て団体戦なので、それすらも知らなかったらしい楓は、楽しそうだったのにーっと落ち込んでいたが、最初の目的である競技の確認はどうにか終えることが出来た。


 説明も終えたことで、実際の会場を使える番になるまでは確実自由と言うことになった。


 この【F•G(ファースト・ガーデン)南方幻城院なんとうげんじょういん】は、基本的に娯楽施設のないガーデンに、六芒戦という一種の祭りを開催すると同時に、日夜訓練に没頭する幻操師たちにとって、娯楽を提供する施設でもある。


 娯楽と言っても、遊園地のようなものではない。


 ただの娯楽ではなく、体を過度な負荷を掛けずに鍛えることも出来き、怪我をスポーツ選手やアスリートなどもリハビリに使っているもの、つまりはプールだ。


「いやぁー。こっちでプールに入れるなんて最高だねっ」


 プールと一括りにしても、学校にあるようなプールではなく、娯楽施設と銘打っているだけあって、それは完全にどこかのテーマパークだ。


 流れるプールに波のプール。


 もちろん訓練用でもあるため、普通のプールよりもだいぶ深く、水に何かが混ざっているのか、色がおかしいことになっているプールもある。


 【F•G(ファースト・ガーデン)】に大会施設が解放されるまで後五時間以上もあるため、各自それぞれこの時間を楽しもうとしていた。


「それにしてま、真冬ちゃんはなんというか……あざといよねぇ」


「えぇーですぅ!」


 桜はどっかのおじさんのような目で隣に立っている真冬に視線を向けた。


 プールということは、もちろんここにいるメンバーが現在着ているのは水着なのだが、真冬が着ているのは白のワンピース型水着、いわゆるスク水というやつだ。


「こ、これは中学校で使ってるものですぅっ!さ、桜ちゃんこそなんなんですかその水着わぁーっ!」


「ん?これ?」


 真冬は顔を真っ赤にしながら、桜の着ている水着を指差していた。


 桜が着ているのは布の面積があまりにも少ないものであり、上半身と下半身のバラバラのセパレーツタイプ。


 所謂ビキニであり、桜という自分の名前に合わせているのか、桜色、つまりピンク色のビキニを着ていた。


 そんな桜は真冬に向かって楽しそうにポーズなんかを取ったりして、普通は恥ずかしがると思うのだが、性格の違いなのか桜ではなく真冬のほうが顔を真っ赤にしていた。


「お前……何やってんだ?」


「……きゃぁぁぁあっ!!この変態ゴリラバカっ!」


 そんなやりとりをしている二人に鏡が声を掛けると、どうやら異性にその姿を見せるのは恥ずかしかったらしく、ポーズを取ったまま少しの沈黙の後、顔を真っ赤にしながらその場でジャンプ。


 空中で横回転をすると綺麗な横蹴りを鏡の横っ腹にヒットさせていた。


「うごっ!」


 鏡にとってはまさかの攻撃だったため、それをモロにくらってしまい、鏡は後ろに飛ばされそのままプールの中にドボンしていた。


「ごらっ!!なにしやがるっ!」


「うっさい!この変態っ!」


「俺がなにしたってんだよっ!」


「鏡やめとけ、お前の負けだ」


「な、なんだとおおおっ!!」


 プール中に落ちた鏡はすぐに顔を出すと、プールの中から桜を怒鳴りつけていた。


 正直鏡に非はないと思うのだが、女子に恥ずかしい思いをさせたのだ、だからここは鏡を静まらせるべきだと思い、鏡と一緒に来ていた結が声を掛けると、それはどうやら逆効果になったようだった。


「あっ、結さんっ!」


「おっゆっち。さっきぶりぃー」


「よう。真冬、桜」


「おいごら結っ!裏切りやがって!」


「裏切っちゃいないだろ?故意ではないにしろ、女子を辱めたんだ。謝っとけ」


「はっはっ。桜はそんなんで恥ずかしがるような奴じゃねえだろ?それじゃあまるで桜が乙女みたいじゃねえか」


「あたしは正真正銘の乙女だっ!」


 鏡が謝るどころか、余計なことを言ったため、桜はその表情にありありと怒りを浮かべると、大笑いしている鏡に綺麗に両足が揃った飛び蹴りをお見舞いしていた。


「あはは。桜ちゃんと鏡君は変わらないですねぇー」


 プールの中で喧嘩を始めた二人を眺めながら、真冬と結は苦笑いを浮かべていた。


「たしかにそうだが、そろそろ止めなきゃマズイかもな」


「そうですか?お二人が喧嘩するのはいつものことですよぉ?水の中にいますので打撃の威力は大分落ちますし、鏡君が誤って天に召されちゃうことはないと思うですぅ?」


「真冬が言うことはもっともだが、そうじゃないんだ。もしあの光景はあいつに見られたらどうなると思う?」


「あいつとは一体誰のことでしょうか?」


 結の言葉に真冬が首を傾げて疑問符を浮かべていると、それとほぼ同時に結は後ろから肩を掴まれていた。


「さ、さぁー。誰のことだったかなー」


 結が恐る恐る後ろに振り返ると、そこには銀髪美少女こと、如月六花が満面の笑みで立っていた。


 まさかそのあいつに聞かれていたとは思わず、結が焦っていると、そんな結の様子に気付いた真冬はすぐにそれに思い至り、結同様に顔色を悪くしていた。


「……はぁー。まあいいでしょう。それよりも、問題はあの二人ですね」


 結と数秒間見つめ合った後、結が自分から逸らしたら負けだと思い、六花の瞳を見つめ続けたおかげで、六花から目を逸らすと、疲れたようにため息をついた。


 すぐに顔を起こした六花は、視線を結からプールで騒いでいる二人に向けていた。


 そんな二人は周りの人たちが迷惑そうにしていることにも、六花にジーっと見られていることにも気付かずに、そのまま喧嘩を続けていた。


「……さて」


「待て待て待て待てっ!」


「……止めないで下さい」


 六花が当然のように二人に向かって右手を向けたことで、結は慌ててそれを止めていた。


 プールにはもちろんのこと法具を持ち込んでいないが、六花のことが、きっと法具無しでもいつも使っている十八番(おはこ)の術、『氷結』くらいは使えてしまえるだろう。


 対象物を凍らせる術である『氷結』を、プールなんかて使えば、わかりやすく言えばプール全体が凍る可能性だってあるし、それがなくてもプールに巨大な氷の塊を突っ込むことになるのだ。


 時期的には夏とはいえ、流石に氷水のプールはキツイ。


 そんな大惨事なんた起こさせるわけにはいかないと、結は動きは早かった。


「落ち着け六花っ。ここはプールだぞ?死人が出るぞ?」


「……それもそうですね。落ち着きました」


 結は押さえつけている六花の手から力が抜けたことで、安心のあまりため息をついていた。


「それにしても、まさか六花もここに来てるとはな」


「来てはいけませんか?」


「いや、そうじゃなくて、意外だな」


 六花みたいな静かなタイプはあまりプールに行くイメージがないからな。


「それにしても、六花さんの水着姿可愛いですぅ」


「……そうですか?」


 六花が着ているのはオレンジ色のチェック模様になっているセパレーツタイプの水着だ。


 セパレーツタイプとは言え、桜よりは布の面積ははるかに広く、それでも胸元の布は少なく、白く綺麗な谷間がチラついている。


「そうだな。うん。よくにあってるぞ?」


「……あ、ありがとうございます」


 結が素直に褒めると、六花は突然俯いていた。


 銀髪からチラリと覗いている耳は真っ赤になっており、怒らせたかと思い焦っていると、隣から何やら鋭い視線を感じた。


「えーと、真冬さん?」


 視線を辿ると、そこにはジト目を向ける真冬の姿があった。


 いつもは保護欲のそそられる真冬だが、今の真冬はなんというか、妙な威圧感を放っていた。


「真冬たちにはなにも言ってくれなかったですぅー」


 真冬がプクーっと口を膨らませながらつぶやいた言葉を聞き、結は自分のミスに気付いていた。


 確かに、水着という学校から決められている制服と違い、個人のセンスが反映される衣服を着用している女子に対して、先に会った二人にはなにも言わず、後に会った子だけ褒めれば、特に深い意味がなくても不快感が生まれるだろう。


「おう。真冬もその水着にあってるよ」


「う、あぅぅ」


 そう思い、今更ながらも結は真冬を褒めていた。


 もちろん言った言葉は六花へも真冬へも嘘ではなく、事実だ。


 銀髪という月の光を思わせる髪に、太陽を思わせるオレンジの水着はよく似合っており、真冬も六花と同じ銀髪だが、こっちは色を変えてそれぞれの色を映えさせている六花と違い、全てを白で統一することで、元々雪のように綺麗な素肌をしていることも相俟って、統一感のあるそれまた素晴らしいものとなっている。


 結が褒めると、真冬は雪のようだった肌を、夕焼けのように赤く染めていた。


「おい、二人ともどうしたんだ?」


「ねーねーゆっちぃー?なんで二人は顔を真っ赤にしてプルプルと俯いてるのかなー」


 様子がおかしくなった二人に結が声を掛けようとすると、結は後ろから肩を掴まれていた。


 なんか、デジャブだ。


「桜か?鏡はどうし……たんだ……?」


 後ろに振り返りながら聞くと、そこには何故かこれ以上ないくらいに、最大級の笑みを見せている桜の姿があった。


 結はその笑みにこれまたデジャブを感じてしまい、思わずセリフから勢いを無くしていた。


 満面の笑みを浮かべると桜の後ろには、仰向けでプカプカと水の上に浮かんでいる鏡の姿が見えた。


(おいおいっなんで鏡気絶してんだよ!)


 鏡が気絶しているということも相俟って、結の緊張はピークに達していた。


「ねえゆっち?なんで黙ってるの?」


(これはやばい。言うセリフを間違えたら速攻で殺られる気がするっ!)


「えーと、桜の水着姿似合ってるな」


「……へっ?」


 結の意識が圧縮され、通常の一○倍以上の長さに感じられる一秒の中、結の至った答えはズバリ、桜も二人どうように褒めることだった。


 もちろん、言ったことは嘘ではない。


 桜は元々美少女なんだ、桜の元気さが明るい茶髪で増幅され、明るい子供のイメージがある桜だが、ピンク色のビキニという、一見子供っぽいが、中々とスタイルの持ち主である桜がそれを着ることによって、体の凹凸が色気を感じさせ、子供らしい可愛らしさと、大人の色気という、ダブル攻撃によって、その魅力は計り知れない。


 ……って、一体俺は何を熱く語ってんだ?


「も、もうっやめてよっ!不意打ちとか反則だよっ!」


 二人と違い、桜は動きが停止することはなかったものの、二人同様に顔を真っ赤にしていた。


「……それで二人とも恥ずかしそうにしてるんだ」


「ん?なんか言ったか?」


「なんも言ってないよっ!

 ほらっ二人ともこんなところに突っ立ってないで、泳ぎに行こっ!」


「っ!そ、そうですねっ!六花さんもいきましょうですぅっ!」


「そ、そうですねっ!」


 桜は二人にそう声を掛けると、桜は二人の手を引いて、その場からスタコラサッサと立ち去った。


「……おいおい。あれはどうすんだよ」


 結は立ち去る三人の後ろ姿を見送ると、横目で人が集まり出したすぐそこのプールを確認すると、憂鬱そうに深いため息をついた。


「……はぁー。やれやれだな」



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