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6ー38 面影


 R•G(ロイヤル・ガーデン)代表のアリスから、宣戦布告をされた後も、パーティーは続いている。


 アリスがいなくなった後、結と少し言葉を交わした後に、桜もまた離れて行った。


 結は開始時同様に、一人、壁際で新しく持ってきたドリンクを飲んでいた。


「あなた、一人なの?」


「そういう会長も一人だな」


 桜の次に現れたのは、我らが生十会会長こと、神崎美花会長だった。


「他校から逃げて来たのよ」


「……それでいいのか?」


「いいのよ。交流はちゃんとしてるから問題なしよ」


 【F•G(ファースト・ガーデン)】という、エリート校の生十会会長ともなると、【R•G(ロイヤル・ガーデン)】はわからないが、【S•G(セカンド・ガーデン)】や【S•G(サード・ガーデン)】などの、生徒からすれば、憧れの的なのだ。


 それだけでなく、会長は文句無しの美少女だ。


 会長はなんだか疲れているようだし、きっと他校の男に言い寄られたのだろう。


「……大変だったな」


「あら。結があたしを労うなんて明日は雨かしら?」


「失礼だな。会長程の美少女はいろいろ言い寄られたりして大変だと思ったから、善意で言ったんだけどな」


「なっ!?」


 会長の顔はみるみるうちに赤くなって行く、少し嫌味を言っただけで怒るなんて、やっぱり会長は子供だな。


 まあ、年相応の態度もまた、会長の魅力かもしれないけとだ。


「会長、六花が呼んでるぞ?」


「へ?そ、そうね。ま、またね結」


 ふと少し離れた場所で、六花がこちらを意味ありげな目で見つめていたため、会長に用があるんだと思い、会長を六花の所に向かわせると、六花は驚いたような表情を浮かべていた。


「あっ、次の飲み物取ってくるか」


「結、ほらこれ」


「おっ。サンキュー」


 手持ちの飲み物がなくなったため、代わりの飲み物を取りに行こうとしたら、ちょうど現れた楓が、何故か二つ持っていたグラスの内、一つを結に渡しながら、結の隣で壁に寄り掛かった。


「楓も大変だったんじゃないか?」


「ん?何がだ?」


「楓は可愛いからな。いや、綺麗のほうが適当か?

まあ、どっちにせよ、他校の男に言い寄られたりして大変だったんじゃないかと思ってない」


「……結。もしかしてそれ、わざとか?」


「何がだ?」


 結の隣で、顔をほんのり赤くしながら、ジト目を向ける楓に、結は首を傾げて答えると、楓は次の瞬間、絶望するような顔になると、深い、海のように深いため息をついた。


「なんか、お前は高校は共学やめた方が良さそうだな」


「なんでだよ」


「いや。刺されそうだなーっと」


「なんだその不吉な予言」


 呆れたような表情で言う楓に、結もまた呆れたような表情で返すと、楓は持っている飲み物を飲んだ。


「まあそれはいいとして、いろいろ気をつけろよ?」


 飲み物を一口飲んだ後、楓は真剣な表情で結にそう伝えた。


「……例えば?」


 真剣な表情になった楓に、結も真剣に返すと、楓は真剣な表情を一変させ、ニヤリと笑った。


「後ろから刺されないようにとかな」


「結局それかよっ!」


 結の返しに、楓は楽しそうに笑った。













「はぁー。それにしても、鈍感にしても限度があると思うのですが」


 楽しそうに会話をしている結と楓の様子を少し離れた場所で眺める、二人の少女の姿があった。


「それで?用はなにかしら?」


「……会長?どうしたんですか?顔が真っ赤ですよ?」


「なんのことだかわからないわ」


「ですが、その顔が……」


「なんのことだかわからないわっ」


「……そうですね」


 顔が赤くなっていることを、なにやら必死に隠そうとしている会長を見て、追求をやめる六花だった。


「それにしても、とうとう明日からね」


「そうですね」


「六花は楽しみ?」


「そうですね。それにしても、今回は伝統を変えてしまうという私のワガママをきいて下さり、ありがとうございました」


「い、いいのや。頭を上げなさい」


 今回の六芒戦は六花が言い出したことだ。


 しかし、それを実現するには会長の手助けがどうしても必要性だったのだ。


 今までの伝統を変えてしまうという無理なお願いに、嫌な顔を一切せずに協力してくれた会長に、六花は改めてお礼の気持ちと共に頭を下げると、会長は顔をさらに赤くし、恥ずかしいそうに六花の頭を上げさせた。


「いいのよこのくらい。あの時は知らなかったけど、今は知ってるからわかるわ。

このぐらい、あなたがしようとしていることに比べればなんでもないわよ」


「……ありがとうございます」


「あの子との約束もあるから、黙っててあげるけど、もしそれがあたしやあたしの仲間たちに危害を加えることになったら、その時はわかるわね?」


「わかっています。

生十会の皆さんは、私にとっても大切な友人です。皆さんに危害を加えるつもりはありません」


「……信じていいのかしら?」


「……私は信じてくださいとしか言えませんね」


 会長と六花は、真剣な眼差しを互いに向けていた。


「……わかったわ。信じる」


 見つめ合うこと数秒、先に目を逸らしたのは会長だった。


「ありがとうございます」


「けど、もし」


「その時は、止めてください」


 会長の言葉を遮るように、六花は言葉を重ねた。


 その声には、強い覚悟が込められていた。


「……わかったわ」


 それがわかった会長は、それ以上なにも言わず、ただ短くそう返した。


 会長と六花、二人のの目には、それぞれ強い決意の色が見えた。










 そんな会長と六花を遠くから眺める影があった。


「いいのぉ?美雪ぃー?」


「問題ありませんよ、雪乃」


 なにやら慌てている様子の雪乃に、美雪は優しい笑みを浮かべながらそう言った。


「なんでそう言い切れるのさぁー?」


「女王がそう予知していますので」


「そういえばそうだけど。でも、女王の予知だって一○○%じゃないんだよ?」


「確かに、女王もそう仰っていましたが、実際女王が予知を外したのはあの一件だけですよ?」


「まあ、そうだけど」


「雪乃は心配性過ぎるのだよ」


「そうだにゃそうだにゃっ。雪乃は小心者だにゃぁ」


 六花衆の四人もまた、六芒戦の選抜メンバーの一員として、この交流パーティーに参加していた。


 美雪はいつも標準装備している、優しい笑顔を浮かべ、雪乃はなにやら思い詰めるような表情を浮かべ、雪羽も雪羽でいつも通りのなにを考えているのか読めないポーカーフェイスを決め込み、小雪は楽しそうに雪乃をバカにしていた。


「ちょっと誰が小心者だってっ!」


「雪乃だにゃぁーっ!プププゥーだにゃぁ」


「二人とも喧嘩はやめてください。そろそろご主人様と元に行きますよ」


 喧嘩を始めた雪乃と小雪を軽く叱った美雪は、美雪に言われ、喧嘩をやめた二人と、そんな二人を楽しそうに見ていた雪羽を連れて、楓と楽しそうに話している、彼女たちのご主人様こと、結の元へ向かった。










「パーティーは楽しんでいらっしゃいますか?」


 楓とたわいもない話をしていた結のところ、美雪たち六花衆の四人が姿を見せた。


「……美雪……」


 そんな六花衆に、結はジト目を向けていた。


「なんでバスの時手伝わなかった?」


 突然のバス襲撃。


 あの時、六花衆も選抜メンバーであるがために、バスの中にいたのだ。


 にもかかわらず、彼女たちは一切なにもしなかった。


 最初は彼女たちに手伝ってもらおうとしていたのだが、彼女たちが協力の態度を全く見せなかったため、会長も彼女たちへの救援を求めなかったのだ。


「理由はいろいろとありますが、主な理由は二つですね。

一つは生十会の皆様の実力をこの目で見ておきたかったからです。

それと、もう一つの理由は、手伝う必要を感じなかったからですね」


 もちろん、もしもの時はお手伝いするために、準備はしていましたよ?っと続けた美雪の言葉は、確かな信憑性があった。


 結がルナとなり、車の一両を切り刻んだ時、結は致命的な隙を見せてしまっていた。


 本来の結であればそんなことはあり得ない。


 しかし、あの時は六花衆がいることもあり、気が抜けていたのだ。


 その六花衆が、他のものではわからないほどに、小さく準備をしているのを見て、結のそれはより顕著になってしまったのだ。


 結が自分のミスを自覚した時、結は正直あまりそれを問題として捉えていなかった。


 死ぬなんて、全く思わなかったのだ。


 何故なら、かすかにたが、美雪たち六花衆が動こうとしたのが見えたからだ。


 そして、楓が現れる寸前、彼女たちは驚いた表情を浮かべ、動きを止めた。


 彼女たちは自分が大丈夫だと判断したのだ。


 彼女たちがそう判断したのであれば、絶対に大丈夫だ。


 結と六花衆の間には、一年経っても変わらない強い信頼で結ばれていた。


「そうか」


 わかっていたにもかかわらず、聞いてしまった自分が嫌になり、結は罰の悪そうな表情を浮かべていた。


 そんな結の隣で、今のやり取りが理解出来ない第三者の楓は、首を傾げて疑問符を浮かべていた。


「それにしても、随分とお親しそうですね」


 美雪はニコニコとした笑顔を浮かべたまま、結と楓の顔を交互に見たを


「悪いかよ」


「いいえ。悪いだなんて私は思っておりません。ただ一つ言わせて頂きたいことがあるとすれば、今のご主人様は、彼女のことを、望月楓様のことを、本当に楓様として認識した上で親しくしているのですか?」


「……何がいいたい」


「わからないのですか?」


 わかっている。


「言葉にして、お聞きしてよろしいですか?」


 やめてくれ。


「ご主人様は」


 やめてくれ。


「楓様に、奏様の面影を重ねているだけではないのですか?」


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