2ー7 セブン&ナイツ
二時間は数学だ。
ここでの数学は主に時間、法具を使う際に法具の核に幻力を込めてから幻操術が発動するまでの時間だ。
他にはその幻操師の現在の実力を測りランクを決定する際の資料にもなる幻力使用可能量の測定だ。
法具の発動時間が速ければ速いほど相手の先手を取ることができそれはこちらの攻撃回数を上げることにもなる、すなわちイーターを倒すまでにかかる時間を短縮することができそれは被害を抑えることにもなる。
そして自分の正確な幻力使用可能量を知ることができれば戦闘時に効率良く戦うこともできるようになりここぞという時幻力切れになる確率を減らすことができそれもまたリスクの削減になる。
二年一組の一同は第二射撃場から移動し二年一組の教室まで戻っていた。
皆それぞれが自分の席に戻りさっきの詠唱練習の際に術を発動したため消費してしまった幻力を回復するべく各々リラックスしていた。
リラックスしている中教室の一番前の教壇には担当教員が座り教壇の上には占い師の使うような水晶玉が置かれていた。
「それでは回復した人から一人ずつ前に来てくださいね」
先生の言葉と同時に席から立ち上がり堂々とした歩き方で教壇へと向かったのはなにを隠そう二年一組のまとめ役ことアリスだった。
「この水晶玉では水晶に触れ幻力を込めた者の幻力使用可能量を測定することが出来ることは知っていますね?測定結果を皆に公開するかしないかは先に申し出でくださいね」
「公開してくれていいですわよ」
アリスは偉そうな口調で言う水晶の表面に手をくっつけて幻力を込めた。
アリスの手から漏れ出した幻力が水晶に吸い込まれるように消えていくと水晶が突然光り輝き始めた。
そのあまりにも強い光量に眩しいと感じ片目を瞑ってしまった生徒達はアリスに尊敬するような視線を送っていた。
水晶玉に幻力を込めるとその者の幻力使用可能量によって光の強弱が変わりその光量が強ければ強いほど幻力使用可能量が多い事を示している。
昔はその光量からなんとなくの値しか導き出すことができなかったが今ではその光量を正確に数値化することを可能としていた。
「流石アリスさんですね。評価はSです。今の結果で満足せずに今後も精進してくださいね」
どうやら今使っている水晶玉はそこまで性能が高いものではないらしくランクにそった評価を出すことしかできず細かい数値化まではできないらしい。
「それでは次は……」
先生が次を誰にしようか考えているとアリスは目敏く結がすでに幻力の回復を終えていることに気が付くとすかさず先生に推薦をした。
「音無さん大丈夫ですか?」
「はい」
後回しにしたところでいずれ通る道早いか遅いかの違いしかなく結果が目に見えていた結は内心憂鬱になっていた。
「公開しますか?」
「そうですね、それなら……」
「公開するに決まってますわ。同じクラスの仲間ですもの互いの実力を知るのは効率的に物事を進める上で重要な事だと思いますわよ。音無さんはどう思われます?」
公開しないと言おうとした結に声を被せてきたのは当然の事ながらアリスだった。
アリスは口先だけは仲間だからとか効率的に物事を進めるためとか言っているがその心はただ結の醜態を晒し者にしたいだけだろう。
思わず何かを言い出そうとしていた桜を視線で抑えているとアリスは結にどうするかを聞いてきた。
「……公開します」
流石にこの空気で「公開しません」とは言えなかった結は心の中で盛大に涙を流しながら水晶に手を置いた。
「ふっ」
小さく気合いを入れると一気に幻力を注ぎ込んだ。
幻力使用可能量というのは大きく二つに別れている。
一つはその幻操師の体内に蓄積出来る総量である幻力総量。
そしてもう一つは一度に表に発現させることの出来る幻力の量のである幻力出量だ。
この水晶では二つの内後者を計測している。つまり今結がやったように気合いを入れてその一瞬に神経を注ぐことは幻力出量を一時的に増やすことができるのだか
「あらあら、どうしましたのかしら?まるでホタルの光ではありませんか」
技術を使い底上げしようとした結果。その光はアリスと比べるまでもなくとても小さなものになっていた。
「えぇーと、音無さん?今後も頑張ってくださいね?評価は……Fです」
先生はFという評価に公開するか躊躇うものの結自身が公開すると言っていたため躊躇いながらもFという評価を公開した。
Fという最低の評価を貰った結はクラス全体から笑いものにされてしまっていた。しかし笑われている本人である結は全く気にしている様子はなかった。
(本来ならF•Gでもこうなると思っていたし少しイラっとするが才能がないのは事実だしな)
自分に関することには割とドライな結だった。
「それじゃいきますっ!」
結が自分の席に戻ると次に測定をしたのは桜だった。桜が幻力を注ぐとアリスほどとはいかなかったがそれでも十分すぎるぐらいの光が輝いていた。
「雨宮さんも凄い成績ですね。一時間目の詠唱授業の時も強力な術を扱っていましたね。評価は文句無しのAです」
桜がA評価を貰うと同時にまたしても盛大な歓声が沸き起こっていた。その姿はまるでクラスメイトが突然アイドルになったかのような複雑な気持ちに結をさせていた。
(もともと桜は才能があるからな……嫉妬しないとは言えないけどな)
才能を持つ桜を羨ましく思う結だった。
測定は次々と終わっていき気が付けばすでに全員の測定が終了していた。
「全員終わりましたね、これで二時間目の授業を終了します」
先生は礼をすると次の授業の準備のために一時的に教室からいなくなった。
「ふぅ」
「あらあら、F評価の音無さん溜め息などついてどうかなされたのかしら?」
授業が終わり思わず溜め息をついた結に絡んできたのはやはりと言うべきか取り巻きを引き連れたアリスだった。
「……慣れないことをして少し疲れただけです。ご心配をかけてしまい申し訳ございません」
慣れないこととはつまりジャンクション無しでの女装のことなのだがそんな事情を知るはずもないアリスはそれが測定であると判断していた。
「そうですわね。F評価だなんて醜態を晒したくないですわよね」
何度もF、F、F、Fとしつこいアリスに苛立ちを覚えてきた結は今日の授業予定を知っていたためまだここで暴れるわけにはいかないと我慢していた。
「そうですね、F評価は恥ずかしいですので」
結がまったくそう思っていない顔で言うとアリスはこめかみをピクピクさせながらもできるだけ表情に出ないように「そうですわね」とだけ返すと取り巻きと一緒に席に戻っていった。
(……疲れた、しんどい)
すでにギブアップ気味の結だった。
三時間目は理科の幻理だ。
幻理とは物理世界で言うところの物理のことだ。
「それでは幻理の授業を始めます」
この幻理領域は基本的に物理世界と同じ理の上に成り立っている。ただ一つ違うのは幻力などの特殊なエネルギーの存在だ。
幻力を使うことによって物理の法則を無視した身体能力や武器、現象などを引き起こすことができるが基本はやはり物理世界と変わりがない。
生十会メンバーは幻操師の平均からみたら上位に君臨する者たちの集団だ。結果物理を完全に無視した剛木の身体強化や桜の糸剣の技術、一瞬で対象を凍らせる六花や真冬。あんな芸当ができるのは彼、彼女達だからであって普通の幻操師は一般人よりも少し身体が頑丈だったり膂力が強かったり弾丸の代わりに火の玉や水の玉を撃つぐらいであり経験豊富なプロの兵士が武装すれば同じ程度の戦闘能力を所有することができる程度でしかない。
ちなみに通常状態の結は武装もしていない一般人にさえ負ける程度の戦闘能力しかもっていなかったりするがジャンクションを発動すれば一人で武装したプロの兵士が百人相手でも勝つことができるだろう。
つまり結も例外だ。
幻理の授業では物理と幻理の相違点について話し早々に終わりとなった。
四時間目は社会だ。
幻理領域でならう社会つまり歴史と言えばそれはセブン&ナイツの話だろう。
七つの大型ガーデンが手を結び同盟を組むことによって抑止力になったセブン&ナイツの初代マスター達は昔から今まで幻操師にとってはヒーローのような存在だ。
とはいえセブン&ナイツの初代達が戦争を止めたのは第二次幻界大戦であり第一次幻界大戦が終わった理由は今だに不明になっている。
噂によるとセブン&ナイツがやったようにとあるとんでもない戦力を所有したガーデンが抑止力になったという話もあるが実際のことは今だに不明となっている。
四時間目社会ではセブン&ナイツと第二次幻界大戦についてや今のセブン&ナイツのマスターについてなどの話が中心になっており今のセブン&ナイツのマスター達は情報が隠されており名前が判明しているのは
F•Gマスター、夜月賢一。
R•Gマスター、夜月双花。
W•Gマスター、白夜
K•Gマスター、王神心夜H•Gマスター、麒麟の五人だけで他の二つはガーデンの名前さえも不明になっており知っているのはガーデン上層部だけだ。
社会授業は席に座ったままたんたんと先生の説明を聞くだけだったので特になにもなく四時間目は終了した。
そして結が待っていた五時間目が始まろうとしていた。
「それではこれより休憩時間になりますので自由にしてくださいね」
……五時間目、体育の授業はまだまだ始まらなかった。
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