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6ー33 君もアホの子なの?


 あの後、六花が剛木の全身に氷水を浴びせることで無理やり起こすと、生十会の面々は講堂へと向かった。


 講堂には既に生徒たちは全員揃っているようだ。


 生十会メンバーは来客用の席である二階のさらに上、三階にある全体を見渡すための部屋、監視席へといた。


 今回の生十会は純粋に選抜メンバーの発表を心待ちにしていることもあるが、同時に講堂全体の監視もすることになっている。


 わざわざ生十会メンバーが一般生徒のいる一階でも、イレギュラーの人員のための二階でもなく、そのさらに上の階である三階にいるのも、全ては上から生徒たちを隅々まで監視するためだ。


 どうやらこの三階は講堂のステージと繋がっているらしく、入学式の際に演説した会長も、この部屋で待機していたらしい。


 この三階は全体に広がっているわけではなく、講堂の両端にこじんまりとした空間、階というよりもどちらかといえば二階よりも少し高いところにある部屋のような場所だ。


 そのため、監視室と呼ばれることが多い。


 二つある監視室の内、片方は生十会用、もう片方は職員用となっている。


「それでは選抜メンバーを発表します!」


 今回、六芒戦出場選手選抜試験の進行を受けよっていた、進行係の生徒がステージへ上がると、ブレザーの内ポケットから紙を取り出し、それを見ながら発表を始めた。


「吉田健介」


「はいっ!」


 発表形式としては、複数の競技に出場する者がいるため、競技ごとに区切らずに、参加メンバーの名前を次々と発表した。


 呼ばれた生徒はステージへと上がって行き、ステージの上には選抜メンバーに選ばれた生徒たちが、嬉しそうに、中には思わず泣き出している少女もいるようだが、横一列に並ばされていた。


「音無結」


「はいっ!」


「おっ、ゆっち呼ばれたね」


「ああ。そうだな。先に行ってるぞ?」


 生十会メンバーの内、最初に呼ばれたのは結だった。


 結はガラス張りの奥にある、反対側の監視室にいる、職員方に、代わりに生徒たちの監視をお願いしまうという意味を込め、軽く頭を下げると、それに気付いた数人の教師たちの笑顔による返事を受け、ステージへ向かうために階段を降りた。


 生十会メンバーは監視のこともあり、名前は最後に呼ばれたため、結が名前を呼ばれ、ステージへ降りて行く時に見たのだが、選抜メンバーの中には、【個人闘技(ファイトソロバトル)】の予選で、結が第一試合に戦った渡辺綾の姿もあった。


「雨宮桜」


「はいっ!」


「桜さん呼ばれてよかったですぅー」


「当然だねっ」


 桜はそういいながらも、さっきまでは不安そうにしていたが、それは秘密だ。


 桜は元気よく返事をすると、ステップで階段を降りて行った。


 その後、結局生十会メンバーは全員が呼ばれ、ステージの上にはいつもの面々と、一般生徒の中から選ばれた生徒がならんでいた。


「ここにいるメンバーが六芒戦の選抜メンバーとなります。みなさん、惜しみない拍手をっ!」













「選抜メンバー決定を祝ってかんぱーい」


 選抜メンバー発表会も終わり、生十会メンバーはいつも通り生十会室に集まっていた。


 桜の号令で、この三日間のお疲れ様会兼選抜メンバー決定おめでとう会が始まった。


「いやー。どうなるかと思ったけど、無事に出場が決まってよかったねー」


「そういえば、美雪さんたちも選抜メンバーに入っていましたですぅー」


「そういえばそうだな」


「まあ、当然ね。あの子の実力はSランクの上位、下手したらそれ以上でしょ?」


 六花衆の実力を思い出した会長は、苦笑していた。


「そこらへんはどうなんですか?音無君?」


「まあ、双花よりも少し弱いくらいじゃないか?」


「え?そうなんですか?てっきり双花様よりも……」


「……同意」


「あなたたち?相手は一ガーデンのマスターよ?失礼よ」


「でも会長も「えっ?」て思ったでしょー?」


「……否定はしないわ」


 会長はそっぽを向いた。


「まあ、お前らが双花の力を見くびるのもわかるけどな。一つ結論からいうと、双花はまだお前らの前で全力を見せてないぞ?」


 実際に双花の力を見たのは、【R•G(ロイヤル・ガーデン)】で結と戦っている姿を実際に目の当たりしている桜だけなのだが、その桜の反応と、美雪たち六花衆のあの時の力を思い出して、他のメンバーも六花衆の方が強いと思っていた。


「どうせ、楓もSランクなら知ってるだろうし、お前らも知ってると思うから言うけど、たしかに心装無しの戦いじゃ美雪たちの方が実力は上かもな。

でも、心装ありの場合、双花の実力は心装をした美雪たちよりもはるかに上だ。

美雪たちの実力は、まだまだSランクの上位が関の山だ。

Rの壁はまだあいつらじゃ無理だな」


「……Sランクの上位が関の山って、凄いよね」


「……あれ?てことは、そんな美雪たちを軽くあしらった楓は……」


 桜のつぶやきに反応して、皆の視線は自然と楓へと向かっていた。


「ん?なんだ?」


「……なんか、納得出来ないんだけど……」


「……また。楓だしな」


「はぁー」


 楓の規格外っぷりを知っている生十会の皆は、心からのため息をついた。












 六芒戦の会場は【F•G(ファースト・ガーデン)】なのだが、【F•G(ファースト・ガーデン)】という名称は【物理世界】でいう学校というよりも、国に近い。


 一つの【幻理領域】のことを国と例えることもあってか、中心部の学校のことを、首都と呼んでいる。


 六芒戦の会場は首都からそれなりに離れた場所にあるところだ。


 【物理世界】の感覚で言えば、東京から長野の軽井沢ぐらいだろうか。


 さすがに幻操師とは言え、幻力が無くてはただの人である彼、彼女らに、むやみに疲労を与えるのは良くないため、会場までは幻力で動く車、幻動(げんどう)バスでの移動だ。


「……遅いわ」


 参加選手を置いていってしまったら大問題になるため、会長自ら出席確認をしているのだが、今だに一人、来る気配が見られなかった。


「もうっ!楓はなにしてるのよっ!」


 まだ出発時間の一分前なのだが、すでに他の生徒たちは三○分以上も前から揃っていたため、会長が我慢出来ずに叫んでいると、結の持っている【幻理領域】での携帯電話である、【幻送受機(げんそうじゅき)】に着信が入っていた。


「もしもし」


「あ?結か?あたしだ」


「……楓か」


「そうそう。それで悪いんだけどみんなに知らせてくれる?」


「……後何分待てばいい?」


「あっ、違う違う。先に行っててくれって伝えて欲しいんだ」


「……は?」


 遅刻するから後何分待ってほしい。


 そういう内容だと思っていた結は、それとは真逆ともいえる内容に、そんな声を漏らしていた。


「ちょっと用事があって後なら合流するからさ。てことでよろよろー」


「お、おいっ!……切りやがった」


 一方的に要件を伝えるだけ伝えて、こちらからの質問に一切答えようとしなかった楓に、結は電話越しにジト目を向けると、ため息と共に、イライラしている会長へと声を掛けた。


「会長ー」


「なによっ!楓はまだなのっ!?」


「さっきその楓から連絡がーー」


「代わりなさいっ!」


 結が【幻送受機(げんそうじゅき)】を片手に持ったまま話し掛けたために、現在楓と通話中と勘違いした会長は、凄まじい勢いで結の【幻送受機(げんそうじゅき)】を奪い取ると、それを耳に当てた。


「こら楓っ!!早く来なさいっ!!……って通話終わってるじゃないっ!!」


「だから、楓からの伝言板伝えようとーー」


「……何分待てばいいのよ」


「いや、だから」


「なんなのっ!もしかして分じゃなくて時間とか言わないわよねっ!!」


「こっちのセリフだっ!人の話を聞けっ!」


 話が全く進まないため、結が合掌を必要としない代わりに、対象者を目視すること、短時間、能力上昇弱の効力を持っている、『セミジャンクション』をして、それによって得た幻力を一点集中で乗せて、怒気として会長に向けながら叫んでいた。


「ひっ。な、なによ!いきなり大声出して……」


「なあ会長?人の話を聞くって知ってるか?」


「……はい。ごめんなさい」


 先ほどの怒りの表情から一変して、笑顔で言った結を恐れたのか、会長はしおらしくなっていた。


「楓は用事で後から一人で来るらしい」


「……?つまり?何分待てばいいの?」


 もしかして会長もアホの子なのか?


 鋭い時もある会長だが、本質としては桜と同じアホの子なのかもしれない。


 結は一瞬、すでにバスの中で座っている桜に視線を向けると、すぐに会長に視線を戻し、ため息をついた。


「もう出発していいってことだよ」


「……あっ。……わ、わかってたわよ?ほらっ結も早く乗って乗ってっ!」


 会長は誤魔化すように結の背中を押すと、結と共にバスに乗り込んだ。


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