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6ー27 楓の実力

「白い翼?……天使?」


 それが誰の呟きかはわからなかった。


 しかし、それは、そこにいる全員の気持ちだった。


(本当に?楓、お前は……)


 純白の翼。


 【A•Cエンジェル・キャッスル】の生徒たちが本気になる際に背中から生えるもの。


 その翼は、【A•G(エンジェル・ガーデン)】の代名詞でもあった。


 天使のように美しい少女で構成されていると一団。


 しかし、これはあくまで噂であり、【A•G(エンジェル・ガーデン)】の生徒たちは外に出る際、コートと仮面の着用が義務付けられている。


 つまり、素顔なんて知るわけがないのだ。


 たまに素顔を晒すものもいるが、その時は周りに人がいないことを確認しているし、対策はしている。


 ならば、どうして天使という名前がついたのか。


 それがこの一対の翼。


 【A•G(エンジェル・ガーデン)】のリーダー。


 如月奏が直々考案し、完成させた、幻操術の中でも、習得は容易、基礎であり奥義とも言われる術『強化』を元に、より実戦的に、効率良く高い次元で発動出来るようにされた【継承術】。


 名は『天使化(エンジェルモード)』。


 元は結の能力を再現したものなのだが、奏はこれを全生徒に教え、そして習得した者だけを任務につけた。


 ちなみに、習得していない者は習得するまで自由時間は無しで、休みは週一、それもたったの三時間というスケジュールだったため、任務が嫌だからといってわざと取得しないなんてことはなく、皆は迅速にそれの取得に励んでいた。


 『天使化(エンジェルモード)』は奏が考案したものであるため、奏がそれを教えた【A•G(エンジェル・ガーデン)】の生徒以外に、それを知る者はいない。


 それを、楓が使った。


 それは、楓の余りにもアノ子に似ている外見もあいまって、結に一つの可能性を与えていた。


(お前は、記憶を無くした、奏なのか?)


 結の考えはそう至ったのも至極当然であった。


 人間、自分そっくりの人間が他にも数人はいるとよく言うが、楓と奏は、余りにも似過ぎている。


 記憶と力、二つを代価にすることによって、幻操師は何かを得ることが出来る。


 これは、あの日結があいつから教えられたこと。


 真実の一片と同時に、語られたこと。


 あいつは全てを知っているようだった。


 つまり、あの時の言葉は、今だから、この時に必要だから教えたのかもしれない。


 結の思考は、激しく混乱していた。


 結の中にある結論は、


 楓は記憶と力を無くした奏。


 そう、結論付いていた。


 しかし、あの日。


 結はその目で目撃している。


 奏が、自分の目の前で刺され、倒れる様を。


 赤く、暖かい、奏の温度を。


 結は知っている。


 覚えている。


 何故?


 どうして?


 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。


 何故っ!


「落ち着いて下さい。結」


「……六花?」


 思考の渦に飲み込まれていた結を救った六花は、静かに、結へと向けていた視線を、ステージに戻した。


「な、なんだそれは……」


 楓の対戦相手である勝の言葉がきっかけとなり、会場の至る所から話し声が聞こえ始めた。


「あれって」


「もしかして天使様?」


「伝説じゃなかったのか?」


 天使の翼は【A•G(エンジェル・ガーデン)】の代名詞であり、ガーデンの名前と同じぐらいの知名度がある。


 楓の翼を皆観客たちは、天使の存在を口にしていた。


 勝の問いに、楓は面倒そうにしながらも、答え始めた。


「これか?」


 楓がそう言って翼に指を向けると、同時に会場が静まり返っていた。


 それはまるで、これから楓の話すことを一言も聞き逃さないようにするかのようだった。


「これはそうだな、天使の翼とでも言っとくか?」


「なら、お前は、もしかして、天使なのか?」


 この時に言う天使とは、天界に住むと言われる、神の使いという意味の天使ではない。


 当然、【A•G(エンジェル・ガーデン)】の生徒たちを示す、比喩だ。


 勝は最初の強気はどこにいったのか、呆然とした表情でつぶやいた。


「天使なのかって言われれば、答えはそうだな……あたしは」


 それから続くであろう言葉に、会場にいる全ての人間が耳を澄ませていた。


 しかし、楓の言葉に、会場は再び騒がしくなった。


「あたしは、パチモンだ」 


「………………は?」


 たっぷり三秒の空白の後、勝の出した声は、疑問符だった。


「まあつまりこういうことだ。

あたしはずっと【A•G(エンジェル・ガーデン)】に憧れていてな、

それで少しでも【A•G(エンジェル・ガーデン)】に近付くために、【A•G(エンジェル・ガーデン)】の代名詞とも言えると術、この天使の翼を開発したんだ。

つまり、これはあたしが開発した術で、あたし(・・・)は【A•G(エンジェル・ガーデン)】とはそんな関係ないぞ?」


 楓の言葉に、会場は静まり返っていた。


 しかし、皆同じように静まり返っているが、その内に秘める思いは大きく分けて二つあった。


 一つは、楓が【A•G(エンジェル・ガーデン)】の者ではないということからくる残念さによる静まりであり、自分で開発するという楓への呆れ。


 そして、もう一つは、楓は何者だという、さらなる疑問から来る絶句だった。


 自分で開発したということは、見ただけでその術を理解したということだ。


 もちろん、細部まで完全に同じとは思わないが、元の『天使化(エンジェルモード)』を知っているものでからすれば、その術の完成度は余りにもオリジナルと瓜二つだ。


(……くそ。こりゃ、後で問い詰めるか)


 結がそう決心していると、楓は背筋に冷たい何かを感じたとか、感じなかったとか。


「さて、続きというか?えーと、勝だっけ?」


「ふ、ふんっ!天使でないのであれば問題はない!行くぞっ!」


 勝は再び『身体強化』を活性化させると、再びその場から消えた。


「あー、なるほどね。見えたよ」


「なっ!?」


 初撃の時は見えず、空へと逃げた楓だったが、今度は背後から現れた勝の突き出す拳を、前を向いたまま、手を背中の方に出すだけで、完璧に受け止めていた。


「な、なにがあったですぅ?」


「勝は瞬間移動しているように見えるが、それは違う。

勝はただ、高速で動いているだけなんだ」


 二人のやりとりに疑問符を浮かべている真冬や、他のメンバーのために、結は解説を始めていた。


「で、ですが、目で見えない程のスピードなんて……」


「そうだな。例え『身体強化』で身体能力を一段階も二段階も上げているとはいえ、それは出来ない」


「それなら……」


「『縮地』ですね」


「そうだ」


 六花の言った『縮地』という言葉に、真冬は「ふえ?」っと疑問符を増やながら首をちょこんと傾げていた。


「『縮地』。歩法の一つで、武道を嗜んでいる者が良く覚えようとする技術です。

本来人は動き始めるとだんだんと加速して行き、トップスピードになるためにはそれなりの助走が必要となります。

しかし、『縮地』とは体の重心移動を上手く使うことによって、動き始めの第一歩からトップスピードへとなる技術のことです。

人は無意識に相手の動きを予測しているものですから、急にトップスピードになると脳がその動きの処理に追い付けずに、まるで消えたかのように錯覚してしまうんです」


 六花の解説にほほーっとそれぞれ納得の声をあげた一同は、解説してくれた六花と結に短く礼を言うと視線をステーへと戻した。


「あれ?なら、どうして楓さんはそれに反応出来たんですぅ?」


 真冬はすぐに結へ視線を戻すと、次の疑問を口にした。


「ああ。それはあの翼の効果だな」


「……そういえば、結は知っているんでしたね」


 周りには普通の生徒もいるため、六花は【A•G(エンジェル・ガーデン)】のことをという言葉を省いていた。


 六花の省いた言葉を含めて理解した結は、「そうだ」っと短く返すと、解説を始めた。


「あの翼の効果は十中八九、『強化』だ」


「『強化』?基礎幻操の一つですよね?」


「しかし、基礎であると同時に極めるのは難しく、幻操師の奥義の一つと数えられている術ですね」


「そうだ。あの翼、つまり『天使化(エンジェルモード)』は『強化』の式が刻まれた羽を幻力によって無数に作り出し、それを一対の翼として固定する術。

利点として術者の『強化』を羽に刻まれた式が増幅装置の役割りを果たし、『強化』の効率、レベルを飛躍的上昇させる。

それと同時に、見た目通り翼だからな、有る程度の飛行能力がある。

まあ、『強化』のレベルも、飛行能力もそれを使う幻操師の元の力に依存するし、

そもそも一定以上の力がないと発動すら出来ない」


「ち、ちなみにその一定以上の力とはランクに例えるとどれくらいですぅ?」


 真冬は嫌な汗を流しながら、恐る恐るといった具合に聞いた。


「そうだな。まぁ、発動だけなら最低でもAランクぐらいか?

発動した上で有る程度の実戦に耐えうるとしたら、Aランクの上位の力はないとな」


「………………」


「ん?どうしたんだ?」


 なんでもないかのようにいう結に、それを聞いていた生十会メンバーは、心からドン引きしていた。


 この学年の生十会はレベルが高いため、余りレアには見えないが、幻操師にとってCランクですでにプロレベルなのだ。


 Bランクで一流、Aランクは超一流とまで呼ばれ、その人数もそこまで多いわけじゃない。


 それなのに、その術の最低発動条件がAランク相当の実力があることなどと聞いて、驚かない方がおかしいのだ。


 皆が結にドン引きしているなか、またしても真冬が「あっ」と何かを思い出したかのような声を出した。


 その表情は真っ青になっており、真冬自身嫌なことに気付いたらしい。


「も、もしかして、天使様方はそれを全員?」


「ん?そうだな全員は無理だったが、九割以上は習得してたぞ?」


「……そ、そうですか」


(……あれ?てことはもしかして美雪さんたちは?……考えるのやめるです)


 一瞬、そんなレベルが異次元クラスの団体の幹部をやっている六花衆たちの実力について考えた真冬だったが、すぐに顔をさらに真っ青にさせると考えることを放棄していた。


「あまり聞かないほうがいいことだと思うんだがよ。

そんな【A•G(エンジェル・ガーデン)】を纏めてたリーダーの実力ってどれくらいあったんだ?」


 そのリーダーは既に死んでおり、それが結の深いトラウマになっていることを知っているため、微妙な表情を浮かべている鏡だったが、己の好奇心には負け、思わず聞いてしまっていた。


 そして、それをすぐに公開することになる。


「そんな顔すんなよ。

もう大丈夫だ。

……それで、あいつの実力だったか?

あいつの実力をランクで例えると……そうだな……Rランクの上位……かな?」


「…………よし、みんなで楓の応援すっか」


「そうですね。ここは鏡の言う通りにしましょうか」


「フレッフレッ楓ちゃーーんですぅっ!」


「……」


 結果。


 現実逃避して楓の応援を始めた生十会であった。


「楓ーファイトー」


 結の声は、何処か悲しかった。


 生十会メンバーが話している間も、勝と楓の試合は続いていた。


 背後からの奇襲を受け止めた楓は、ニヤリと笑うと、翼をはためかせて軽く飛ぶと、その運動を途中で円運動へと変え、掴んでいた勝を空高く投げ飛ばしていた。


 空高く飛ばされた勝は、その勢いで体制を整えることも出来ずに、重力に従った地面へと向かっていた。


 体制を整えることが無理だと悟った勝が地面に視線を向けると、そこから楓の姿が消えていた。


(どこだっ)


「こっちだよ!」


 勝がそう思った瞬間、勝の背後から今まさに探していた、しかし、聞きたくなかった声が聞こえていた。


 翼をはためかせて空へと飛んでいた楓は、勝の上になった瞬間、真っ直ぐ上へと向かっていた運動を利用して、クルリと回り、身動きの取れないでいる勝の背中にかかと落としをお見舞いしていた。


「ぐあっ」


 受け身も取れない空中で楓とかかと落としをまともに食らった勝は、更に加速して地面へと向かっていた。


 勝はあともう少しで地面にぶつかるという所で、全身の『身体強化』を更に活性化させ、来るであろう衝撃に耐えようとするが、その時、自分の下、自分がまさに向かっている方向より、悪魔の声を聞いた。


「それだけ『身体強化』してるし、大丈夫だよな?」


 翼による加速で、勝よりも早く地面に降り立っていた楓は、勝の落下地点に先回りすると、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、落ちてくる勝を再び上空に蹴り飛ばした。


「ぶぼぁっ」


 勝を再び空高く飛ばした楓は、今度はそれを追い掛けずに、両の手を重ね、空の勝へと向けた。


 勝は飛ばされる中、そんな楓をはっきりと見た。


 そして、先ほどの会話を思い出し、これでもかというくらい、滝のように冷や汗を流していた。


(大規模幻操連発して、その後に息切れ一つしなければそれも問題ないだろ?)


「や、やめ……」


「ないっ!」


 思わずやめてと言おうとした勝の声が聞こえていたのか、勝の言葉に被せるようにして叫んだ楓は、さらに好戦的な笑みを浮かべると、全身から莫大な量の幻力を溢れさせていた。


 その余りにも強い幻力の放出に、放出の圧力だけで楓の立っている場所を中心に、小さなクレーターが作られていた。


「死ぬなよー!」


 楓は最後に勝にそう声を掛けると、溢れさせた幻力の全てを重ねた掌に収束させた。


終末大砲(エンドブラスト)・七連』


 楓が術を発動させると、前に美雪が発動させようとした術の亜種であり、あれが爆弾だとすると、ビーム砲のような終末(エンド)が重ねている楓の掌と、それと、楓を覆うように六ケ所から、合計七本のビームが空を舞う勝へと向かって発射された。


「ぎゃゃゃゃゃゃぁぁぁぁぁあっ!」


 迫り来る死のビーム、それも七本もの量を見て、勝は心からの悲鳴をあげていた。


 そんな勝の悲鳴を満足気な顔になって聞いた楓は、うんうんっとその場で頷くと「はいっ」という可愛らしい掛け声と同時に、指を鳴らした。


 その瞬間、勝へと向かっていた七本のビームは完全に凍り付き、七本の氷の柱へとなっていた。


 楓がリズムを取るかのように、つま先でぽんっと地面を叩くと、七本の氷の柱は崩れていき、氷の欠片が残ることもなく、氷の柱は全て綺麗な光を振りまいていた。


 その光景は余りにも幻想的で、綺麗で、思わず観客たちはそれに見惚れていた。


 楓も満足気にうんうんと何度も頷いていた。


「あっ」


 それは観客の誰かの言葉だった。


 その観客は今だ空から落ちている途中である勝を指差していた。


 その観客につられ、観客たちは今の勝を見て、顔を真っ青にしていた。


 勝は、既に気絶していた。


 そりゃ七本ものの死のビームが自分に向かって飛んできたらそれも仕方がないだろう。


 観客席の至る所から再び悲鳴が聞こえてきたせいで、満足気にしていた楓はその表情に軽く怒気を含ませつつあった。


 楓は落ちてくる勝を一瞥すると、はぁーっとため息を一つ。


 その場で腰を落とし、右拳を体の反対側、つまり左側に向けた楓は、拳を強く握ると、落ちてくる勝に再び視線を合わせた。


 そして、勝が自分の目の前に落ちてきた瞬間、


 ゴツッ


 全力で右手を振るい、裏拳によって勝を自分から見て右側にサイドから叩きつけた。


 死んだのではないか?


 わざわざとどめを刺した?


 瞬間、観客席がザワザワと騒ぎ始めていた。


 落ちてくる勝をさらに殴りつけた楓は、観客たちから見ればとどめを刺したようにしか見えなかった。


 観客の一人が立ち上がり、楓に向かって「このっ人殺しっ!」っと言いかけた瞬間、


「……ん、ああ?なんだこれ?」


 死んでいると思われた勝が立ち上がっていた。


 

 これからもよろしくお願いします。

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