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6ー26 接続する者


 好戦的な笑みを浮かべた楓に、丁度その笑みを間近で見た勝は、思わず息を飲んでいた。


「ふ、ふんっ。先に待っているぞ」


 勝は楓の笑みだけで仰け反ってしまった己を誤魔化すように強い言葉を使うと、スタスタと先にステージへと向かった。


「楓?殺すなよ?」


「……わかってる」


「……おい。なんだその間は」


「大丈夫だ!死なないようにはする。だから一つ頼んでもいいか?」


 あまりにも好戦的な笑みを浮かべた楓を見て、殺してしまうのではないかと心配になった結が声を掛けると、楓は突然、結へ頼み事をした。


「頼み?なんだ?」


「ただ一言、言ってくれ」


「なにをだ?」


「『許可する』って」


 突然過ぎる楓の言葉に、結は困惑していた。


「いいではないですか」


 困惑する結にそう言葉を掛けたのは、六花だった。


「楓のお願いなんて珍しいですし、ただ一言、言えばそれでいいんですよね?」


「ああ。そうだ」


「よくわからないが、言うだけでいいんだな?」


 結が念のため確認すると、楓が無言で頷いた。


「わかった。……楓。許可する」


 楓の目があまりにも真剣だったため、結が困惑しながらもそう言うと、楓は小さく礼を言い、ステージへと向かった。


「……あいつ。本当に似てるな」


 楓は結が許可すると言った瞬間、満面の笑みを浮かべていた。


 先ほどの好戦的な笑みとはまた違う、女の子らしい笑顔。


 結は楓の笑顔に、アノ子の面影を見ていた。













「とうとう楓さんの試合ですねぇ」


 結、真冬、春樹、剛木、鏡、六花、陽菜の七人は、楓の試合を見るべく、観覧席の方に移動していた。


 生十会の中で最も実力がわからない少女である楓の試合が始まることで、真冬は興奮気味だった。


「楓さんはどんな法具を使うんでしょうかぁ」


「そういや、俺って楓の法具見たことないんだが?」


「あっ、鏡くんもですか?

それが僕も見たことないんですよ。

楓さんと仲の良い結君は見たことありますか?」


「ん?そういや俺も見たことないかもな」


「転校手続きの際には、法具持参とありましたので持っていると思うのですが」


 転校の時だけではなく、ただ普通に入学する時もそうなのだが、【F•G(ファースト・ガーデン)】の生徒は【F•G(ファースト・ガーデン)】から法具を在学中に限り借りることが出来る。


 法具は元々高価で、自分の法具を持っていない人数が多いからの処置だ。


 実習では専用の法具を使うことになるのだが、【F•G(ファースト・ガーデン)】はエリートでもあるため自主訓練をする生徒が過半数を占める。


 そのため、個人の法具を持っていない者は、自主訓練が出来なくなったしまうため、高価なものなのだが、在学中という限定付きにすることで、貸し与えることにしたのだ。


 余談だが、卒業後は本来この法具を返すことになるのだが、使い慣れている法具は術の発動スピードや、消費幻力の効率化にも繋がるため、手続きをすることによってそれを買い取ることも出来るようだ。


(そう考えると、例え人数が少なかったとしても、全員に法具を支給していた【A•Cエンジェル・キャッスル】って凄いな。

【幻工師】として高い次元いるナイト&スカイがいるから出来る芸当だがな)


「……私、見た」


「え?陽菜さんは見たんですかぁー!?」


 ぼそりと聞き取れるかギリギリの音量を拾った真冬は、元々クリッとしている大きな瞳をさらに大きく見開いていた。


「え?陽菜は見たことがあるんですか?どんなのでしたか!」


「……指輪型」


「指輪型か……」


 法具にも色々なタイプがある。


 その構造、というより仕組み関係によるものの特徴で三つのタイプに分かれているが、それとは別に、見た目で色々なタイプがある。


 まずは結や【A•Cエンジェル・キャッスル】の皆が着けているような腕輪型法具。


 会長や桜の使っているような武器搭載型の法具。


 そして、楓が使っているらしい指輪型法具などと他にも色々なタイプが存在する。


 法具とはそもそも、それを媒体にして幻操師の幻操領域を映し出し、法具を媒体にして幻操領域に幻操術を発動する銃身とも言える幻操陣のパーツである幻操式を刻むものだが、法具にはそれを法具とするために特別なパーツ、コアと呼ばれるものがある。


 法具はその性能にかかわらず、その全てが高価なのだが、それはこのコアに関係している。


 このコアとは特殊な力を秘めていると言われている、特別な石に多量の幻力を注ぎ込み、それを定着させることで作られている。


 特別な石とはつまり、宝石と呼ばれるものであり、法具に必須のパーツであるコアが、この高価な宝石から作られるために、全ての法具が高いのだ。


 法具(ほうぐ)とは、幻操術という()を扱うための道()であるが、

同時に、()石で作られた道()宝具(ほうぐ)とも言われている。


 法具の優劣は大きく分けて二つの要因によって決まる。


 一つはコアとして使われている宝石の大きさ。


 もう一つはコアの中に込められている幻力の量と純度だ。


 宝石の大きさが関係するのは、宝石が大きければそれだけ多くの幻力を込めることが出来るからだ。


 法具の多くが、腕輪型や剣などへの一体型など、それなりの大きさを持っているのは、この宝石の大きさが関係している。


 楓が使っていると言う指輪型では、戦闘の邪魔にならない程度の大きさになると、本当に小型の宝石、つまりコアしか取り付けることが出来ない。


 小さなコアでは、それだけその法具の性能は劣ってしまうはずだ。


 幻操師の実力は大まかに言えば、幻操師の実力掛ける法具の性能と言っても過言ではない程に、法具の性能差が勝負に大きく関係するのだ。


 そのせいか、指輪型の法具はあるにはあるが、それを使う者なんて少ない。


 一時期、小さな指輪型はファッションにもなると思われ、それなりの量の指輪型が生産されたことがあったのだが、口コミなどで指輪型の性能の低くさが目立ち、多くの在庫を残してしまった幻工師がいるらしい。


 そういった幻工師は言葉巧みに駆け出しの幻操師を騙し、多くの在庫を消化したらしい。


 その幻工師は既に逮捕されたのだが、その一件もあり指輪型を使っている者は駆け出しだと思われるようになったのだ。


(実際。コアの大きさなんて対した問題じゃないんだけどな)


「つまり、楓さんの実力は法具による恩恵が少ないってことですよね?」


 幻操師の実力は、元々の力と法具の性能が合わさったものだ。


 指輪型なんていうレベルの低い法具を使っているということは、前に六花衆の結末(エンド)を止めた時の力は、ほぼ楓自身の力ということになる。


「……そうなるな」


 それは違うぞ。


 結はそう言いたい自分をどうにか抑え込むことに成功していた。


 重要なのはコアの大きさではなく、中に詰まった幻力の質だということは、極秘の情報なのだ。


 コアにそれなりの大きさを必要とするために、結果的に法具の大きさもそれなりの大きさが必要になっている。


 しかし、もしも、もしも、コアを小さくしても良いことがわかってしまえば、ほぼ全ての法具が指輪型のように小さなものになってしまった場合、それは最高の暗殺道具になってしまう。


 法具の可能性を大きく増させてしまう。


 それはマズイ。


 便利になり過ぎた技術は、後に破滅を呼んでしまう。


 それが、人間の運命なのだ。


「あはは。どこまで楓さんは規格外なんですかぁー」


 終末(エンド)を自分の力だけで封じ込めたということに、真冬は乾いた笑みを浮かべていた。


「さぁーーーって!

それではそれではー、これより生十会に新しく入った期待の星こと、望月楓とぉーーー、この年でAランクっ!期待の少年っ、篠田勝のぉーーー、試合を始めまぁぁぁぁぁあーっすぅーーーっ!」


「なあ。なんかどんどう実況がおかしくなってないか?」


「……き、気のせいじゃないですかぁー?」


 明らかにテンションがやばいことになっている実況に、結が苦笑いを浮かべていると、真冬はあんな変な子が幻操師の英雄、十二の光(ブレイズ)の一員だなんて認めたくないのか、遠い目で現実逃避を始めていた。


「ふんっ!このほら吹き娘がっ!俺が粛清してやろうっ!」


「うっさいなぁー。あたしは眠いんだ。早く終わらせるぞ?」


「ふんっ!いいだろっ!」


 試合が開始した後、両者は術を交わす前に、言葉を交わすと、次の瞬間、勝がその場から消えた。


「終わりだっ!」


 楓の背後に姿を現した勝は、法具と中でもポピュラーな腕輪型法具を既に起動させており、『身体強化』によって強化された拳を楓の背中に振り下ろした。


 勝が拳を振り下ろすと、同時に粉塵が辺りにばら撒かれていた。


「す、凄い威力ですぅー」


 粉塵が消えると、そこには長さ一メートルにも及ぶ、大きな切れ目のついた床があった。


(拳の一振りで幻操術で硬度の上がってるコロシアムの床にあんな大きなヒビを作るなんてな。

あれは、もろに食らったら楓でもやばいぞ)


「あれ?楓さんはどこですか?」


「あっ!本当ですぅ!楓さんの姿がないですぅ!」


 粉塵が消えた後、そこにあるのは例のひび割れた床に拳を突き出している格好でいる勝だけであり、その場から楓の姿は綺麗に消えていた。


「……っ!上です!」


 六花の言葉に上を向くと、そこには空中で氷の上に立っている楓の姿があった。


 空中の水分を凍らせて足場にしたのか。


 それだけじゃない、足場の座標を固定することで、重力に逆らっているようだな。


 人が乗れる程の強度を持った氷をこうも早く作り出すとは、さらにそれを結界術を応用した座標固定。


 座標固定は高等技術だ。


 これが、Sランク、シルバーの実力か。


「あーあ。雲はいいなー。どこまでも自由な浮雲。そんなあたしにあたしは戻りたいな」


 楓は空を漂う雲を見つめながら、なにやら感傷に浸っているようだった。


「くそっ!降りてこい!」


 楓がはるかに上にいることに気付いた勝が、楓にそう叫んでいると、楓は刹那げにしていた表情を一気に変えた。


「うるさいな。せっかくの心が台無しだ」


 楓は不機嫌そうにそうつぶやくと、指を鳴らした。


 指を鳴らすと同時に足場となっていた氷が姿を消していた。


 足場を無くした楓は、重力に従い、まっすぐと地面に向かって落ちて行った。


「あわわ。ど、どうすんですかぁ!楓さん死んじゃいますよぉ!」


「大丈夫だ真冬。あれはミスじゃない。自分で足場を消したんだ」


 会場は真冬と同じように、楓がミスで足場を消してしまったんだと思い、至る所から悲鳴が聞こえていた。


 そんな悲鳴を聞きながら、楓は目を瞑りながらも落下を続けていた。


 そして、楓が地面にぶつかる瞬間、会場から突如として、声が消えた。


「……え?な、なにがあったのですぅ?」


 ミスではないということをわかっていても、思わず目を閉じてしまった真冬は会場全体が奇妙な程に突然静まり返ったことで、困惑しながらも、恐る恐る目を開けた。


 真冬が最初に見たのは、隣にいる結の横顔だった。


「ゆ、結さん、なにが……」


 なにがあったんですか?


 真冬は、それを最後まで言うことが出来なかった。


 何故なら、結が固まっていたからだ。


 目を大きく見開き、極度の驚愕によって、結はまるで時間が止まってしまったかのように、静止していた。


「な、なにが……」


 結がこんなになってしまうようなことがあった。


 真冬はそう思い、視線をステージに戻すと、結程ではないにしろ、真冬も結同様に固まった。


 その光景を一言で表すなら。


 白い翼。


「ジャンクション=孤独の女神」


 背中から、一対の純白の翼を生やした、楓の姿がそこにあった。


 これからもよろしくお願いします。

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