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6ー25 ほら吹き

 桜を一旦自室に送った後、結は皆の待つ控え室へと向かっていた。


「お、ゆ、結。桜は大丈夫だったか?」


「ああ。始終ずっと赤くなってたけどな」


 控え室に戻ると、開口一番で鏡が桜の様子を聞いてきた。


 心配そうにしている鏡がいい奴に見えるのだが、軽く赤くなっている表情が台無しにしていた。


「桜は大丈夫なの?」


「怪我は特に問題なかったけど、最後のあれで精神を使い過ぎてるな。

もう今日は戦えないだろうな」


「それじゃあ桜ちゃんは……」


「棄権だろうな」


 真冬は「そんなぁー」っと悲しそうにしていた。


 今日の試合はまだまだ残っているのだ。


 羞恥の余り、体が思うように動かなくなっている桜を試合に出すのは危険だ。


 試合中は一応審判と救護班が控えられているが、それでもアマチュア同士の戦いだ。


 片方の力が極端に落ちていれば、万が一の事故も十分にあり得る。


 そうなれば体と心、その両方に傷を負ってしまうのは両者だ。


「仕方がないわよ。進行係にはあたしから連絡しておくわ」


 この六芒戦出場選手選抜試験は生十会主催だが、生十会メンバーも試合に出場するため、試合に参加しない者たちから生十会が信用出来ると思った人物を選抜し、運営や進行を任せているのだ。


「そうか?なら会長、よろしく」


「ちょっと行ってくるわね」


「いってらっしゃいですぅー」



 会長は皆に軽く手を振ると、桜の棄権を知らせるために、進行係のいる、本部へ向かった。


「そういや、会長の試合はいつなんだ?本部まで割と距離あるだろ?」


「それなら大丈夫だと思いますよ?」


「なんで?」


「そりゃ、ついさっきだったからな、会長の試合は」


 本部はコロシアムの観覧席の一部にテントを張って作られているのだが、控え室からだと、一度コロシアムを出てからでしか行けないため、時間が掛かるのだ。


 控え室からコロシアム中央のステージに向かう道はあるのだが、それは試合に出る者が使うため、他の目的では利用できない。


 どっちにせよ、ステージと観覧席の間にはそれなりの高さの段差があり、尚且つ階段なんてないため、無駄だ。


 会長が次の試合までに戻って来られるのかを心配した結だったが、どうやら桜を運んでいる最中に会長の試合は終わったようで、杞憂に終わった。


「お前が桜を運んでる間に、俺、会長、六花、陽菜、剛木、真冬、春樹の試合は終わったぞ?」


「まじか?やけに早いな」


「……まあな」


 鏡はそういうと気まずそうに視線を逸らしていた。


「今の中で勝ったのは?」


「んぁ?あー、それはな」


「僕と真冬。陽菜さんと、六花さん、それから会長とですね」


「……おい鏡。お前と剛木は?」


 結が鏡にジト目を向けていると、鏡はやはり気まずそうに頬を掻いた。


「あはは。それが剛木くんと鏡くんの対戦相手が……」


「私と会長でした」


 春樹が言いづらそうにしているのを見て、六花が代わりに答えていた。


(初戦で会長と六花が相手か……まぁ、うん。運も実力の内ってか?)


「がはは。会長の強さは流石だったな」


「……負けたのに元気だな、剛木は……」


「あはは。それが剛木くんの良さじゃないですか?」


「まあ、通称筋肉ダルマだしな……」


 中学生でありながら、大人顔負けの体格をしており、筋肉に至ってはプロのボクサーなどの格闘技をやっている者たちですら涙目になるレベルだ。


 剛木は昔から体格が良かったらしく、趣味が筋トレだったこともあり、今では力を入れれば服が弾け飛ぶレベルまでなっている。


 どうやら会長との試合中に力んだらしく、剛木の服は上半身弾け飛んでいた。


「がはは。会長には勝ち進んで貰いたいものだな!」


「……まあ、ぶっちゃけ他の競技は違うとして、純粋に幻操師としての実力がものを言う【個人闘技(ファイトソロバトル)】じゃ、俺たち生十会メンバーはほぼ出場決定だろ?」


「あはは。確かに音無君の言う通りですよね」


「……そういや、六花と鏡の試合はどうだったんだ?」


 剛木の相手が会長だったと言うことは、鏡の相手は六花ということになる。


 結が軽い気持ちで鏡に聞くと、鏡は突然ガクガクブルブルと怯え始めていた。


「……きょ、鏡?」


「結。あまりに鏡にその時のことは思い出させないであげて下さい」


「……何故?」


 結が恐る恐る六花に聞くと、六花はニコリと微笑んだ。


「手加減しませんでしたから」


(鏡。ドンマイ)


 心の中で鏡に念仏を唱える結であった。


「生十会メンバー同士で当たると、どうしても生十会メンバーが一人脱落してしまうんですよね」


「鏡と剛木、それに桜。今んところ三人だろ?大丈夫か?」


 生十会は元々十人。


 それが三人減って七人。


 【個人闘技(ファイトソロバトル)】の出場選手は九名だ。


 つまり、あと二人、生十会メンバーについて来られる実力の者が欲しいのだが、そんなに上手くいくものだろうか?


「そもそも、なんでトーナメント形式なんだよ。まずそれが悪手だろ」


 トーナメント形式では強い者同士で当たってしまった場合、どうしても片方がそこで脱落してしまう。


 それでは本当に強い者を選出ための予選なのに、本末転倒だ。


 結が思わずブーイングすると、六花は呆れるようにため息をついた。


「トーナメント形式にした理由は時間の問題です。それに、誰もトーナメントで優勝した者が出場選手に確定するなんて言ってませんよ?」


「……は?」


「そもそも、トーナメント形式では頂点は一人。

どうやって九名を選出するんですか?」


「……確かに」


「トーナメントはあくまで個々の強さを見る者です。

例え試合数が少なくとも、その人物を負かした相手がどれほど勝ったか、そしてその者相手にどこまで戦えたかで、大まかな戦力は計算できますので」


「つまりあれか?このトーナメントは選出のためのアピールタイムってことか?」


「そうとも言いますね。

それに、トーナメント形式にすれば上に行くほど次の試合までの時間は短くなります。

いかに効率良く、消耗を少なくして、尚且つ確実に勝つことが出来るか。

それを見ることも出来ますし、大勢同士の戦い、そう戦争などの連戦への練習、訓練にもなりますので」


 参加人数の多い最初は一回自分の試合が終われば、次の試合が回るまでそれなりの時間がある。


 しかし、後半になると参加人数が極端に少なくなるため試合と試合のインターバルが少なくなるのだ。


 つまり、試合後に回復がままならないまま次の試合に出ることになる。


 それは連戦への練習へとなり、自分と相手の戦力を計り、いかに効率的に、消費体力、幻力共に少なくできるかが肝になる。


 それは幻操師として、戦略的なスタミナとなる。


 本番では試合と試合のインターバルはそこまで短くないが、だか空から完全回復する程の時間はない。


 戦略的スタミナの確保が重要になるのだ。


 そういう意味でこのトーナメント形式は最適だった。


「そういえば、楓は試合まだなんだな」


「それは結もだろ?あたしは早く終わらせたいんだかな」


「なんだ?もしかして速攻退場するつもりなのか?

六芒戦での習得ポイント最下位の奴は会長からの罰ゲームあるんだぞ?」


「そんなことするわけないだろ?

トーナメントって聞いてトーナメントにした意図はわかったからな。

それなら第一試合で圧倒的に勝てばいい。

それで第二試合は棄権する」


「……それだとスタミナが考慮されないんじゃないか?」


「大規模幻操連発して、その後に息切れ一つしなければそれも問題ないだろ?」


「……なぁ。今自分がどれだけ規格外なこと言ってるかわかってるか?」


 大規模幻操は本来戦争などで複数人の幻操師が集まってやっと発動するような術だ。


 それを一人で連発。


 それも息切れもしないなんて、あまりにも規格外なことを言っている楓に、生十会メンバーは引いていた。


「おいおい。いつから生十会はほら吹き集団になったんだ?」


 そんな楓の話が聞こえたのか、近くにいた男子生徒が嫌な笑みを浮かべながら近付いた。


「なんだお前?」


「ああ?俺はAランク幻操師。篠田勝(しのだまさる)だ」


(こんな奴がAランクか。男でAランクは正直珍しいが……世も末だな)


 篠田勝と名乗った男子生徒は、黒い髪を短髪にしており、顔付きは目付きが鋭く、全体的に少々怖いイメージがある。


「本来プロの幻操師が数人集まってやっと発動出来る様な大規模幻操を連発で発動するだと?

ほらも大概にするんだな」


「うるさい奴だなー。

別にいいだろ?あんたに関係ない」


「俺たち生徒の代表である生十会の奴がそんなほら吹きだと俺たちまでほら吹きだも思われるんだよっ」


 興味なさそうに、軽くあしらおうとする楓の態度に苛立ちを覚えたのか、勝はその表情にありありと怒りを出していた。


 勝はAランクと言うだけあって、体から漏れる幻力の純度は高い。


 それだけでなく、剛木程ではないにしろ、着ているブレザーの上からでもわかる程に、体格も人並外れて優れているようだ。


「あっそ。あたしには関係ないな」


「なんだとっ!!」


 楓の挑発に、勝が思わず片手を振り上げると、丁度次の対戦を知らせる校内放送が流れた。


『次の試合はC組、望月楓。A組、篠田勝。呼ばれた生徒は今すぐコロシアムの中央に集まって下さい』


 勝は放送を聞いた瞬間に振り上げた手を降ろすと、「ほう」っと嫌な笑みを浮かべた。


(この二人が次の試合か。なんとまあ、可哀想なことで)


 結は内心、勝に同情していた。


 何故なら、


「へぇ。あんだが相手か。なら、遠慮なく出来るな」


「ふんっ。ほざけ。貴様がただのほら吹きだということ、この試合で証明してやろう」


「へえ。それゃ楽しみだ」


 楓は楽しそうに好戦的な笑みを浮かべていた。


 


 これからもよろしくお願いします。

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