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6ー24 赤いお姫様


 自分の番が来てしまったため、桜は疲労を訴える体を半ば無理やりに動かし、まるでゾンビを思わせる歩き方でコロシアムへと向かった。


「ねえ。あの子大丈夫かしら?」


「今回の相手って誰だっけ?」


「確かBランクの生徒だったと思いますが」


「……B組の生徒。名前は吉野亜美(よしのあみ)


 陽菜がボソリと名前を言うと、皆が驚いた表情を向けていた。


「なんで陽菜知ってんだ?」


 みんなが思っていることを、代表するかのように鏡が聞いた。


「……友達」


 陽菜は短くそれだけ言うと、ベンチから立ち上がり、観客席へと向かった。


「そういえば、陽菜はB組だったな」


「そういやそうだったな」


「さて、あたしたちも桜の応援に行こうかしら?」


「そうですね。私は着いて行きます」


「あー、俺は無理だぁー。体が動かん」


「会長さんも疲れてたはずなのに凄いですぅ」


「あれ?望月さんは行かないんですか?」


「ん?あたしはパスで、たとえ疲れてても桜なら負けないだろ?」


 残ったメンバーでまだ余力を残している楓がベンチの背凭れに体重を乗せてグダーっとしていたため、春樹が質問すると、楓は顔を上げないまま答えていた。


 その言葉には信頼が色濃く映されており、生十会の一同は思わず笑みを漏らしていた。


「楓って結構俺らのこと信頼してるよなー」


「……鏡が言うと台無しだな」


「なんでだよ!」


 いつも鏡を弄る桜がいないため、代わりに結が弄ると、鏡はすぐに反論をするが、その表情は微かに嬉しそうな笑みを漏らしていた。


(桜がいないから張り合いがないのか?)


 いつも桜とくだらない言い争いをしている鏡にとって、桜がいない今は少し寂しいのかもしれない。


 結が反応したことで、嬉しかったのか?


(まさか、鏡ってMなのか?)


 結はその考えに至ると、嫌そうに表情を歪め、その考えを振り払うように首を振った。


「久し振りだな」


 突然現れたのは、楓が入る前の生十会メンバー。


 相川始だった。


「おっ、久し振りだな始」


「久し振りだな結。……今では完全に生十会メンバーだな」


「うるせー」


 始が軽く結に嫌味を言うと、結の反応に満足したのか、笑みをこぼしていた。


「相川さんお久しぶりですぅ」


 始は【F•G(ファースト・ガーデン)】の兄弟校、【S•G(サード・ガーデン)】への転校が決まっているのだが、今は細かい手続きをしている最中らしい。


 そのため、今はまだ【S•G(サード・ガーデン)】の生徒ではなく、【F•G(ファースト・ガーデン)】の生徒だ。


「始は六芒戦どうすんだ?」


「俺は【S•G(サード・ガーデン)】の選手として出場するぞ」


「マジかよっ!」


 軽い気持ちで質問した鏡だったが、返ってしたのは予想外の答えだった。


「ああ。どうやら【S•G(サード・ガーデン)】は六芒戦にそこまで乗り気の生徒が少ないらしくてな。

是非参加してほしいそうだ」


「第三校は法具の研究が熱心ですからね。六芒戦に出るよりも、研究がしたいんじゃないですか?」


「その通りだ。

そもそも【S•G(サード・ガーデン)】は幻操師ではなく、幻工師を育成する機関だからな。

幻操師としての技量を競う六芒戦には不利だからな。

勝利出来ない試合よりも、目前の実験をしているほうがいいらしい」


 【S•G(サード・ガーデン)】もいろいろ大変そうだな。


 そもそも、【F•G(ファースト・ガーデン)】に着いて来られない幻操師のために作られた【S•G(セカンド・ガーデン)】や、

幻操師ではなく、幻工師を育てる【S•G(サード・ガーデン)】が幻操師の能力を【F•G(ファースト・ガーデン)】や他のガーデンと競うには無理がある。


「結。何を思っている?」


「……いや。なんでもない」


 そんな結の考えを見通すかのような始の言葉に、結は口どもっていた。


「結。お前ならわかるんじゃないか?」


「……何をだ?」


「確かに【S•G(サード・ガーデン)】の奴らは幻操師としては【F•G(ファースト・ガーデン)】ーの奴らと比べ、遥かに劣る。

そう、劣等生かもしれない」


「……」


 始の言葉に、結は何も言うことが出来なかった。


 それは、始の声から溢れ出すほどの真剣さが感じられたこともあるが、何よりも、始の言葉が、結の心へ染み込んでいたからだ。


「劣等生を舐めるなよ?」


 劣等生を舐めるなよ?


 始の言葉に、結はハッとする思いだった。


(劣等生を舐めるなよ?)


 それは、結の信念とも言える思いだった。


 劣等生だったにもかかわらず、努力とアイデア。


 そして、何よりも仲間の力によって今の力を手にした結。


 それは、あいつ(・・。)から話を聞いてから、どこか、ブレていた結の心を、元に戻した。


(……結の感じが変わった)


 そんか結の些細な変化に、ただ一人、楓は気付いていた。


「始。その通りだ。劣等生を舐めるなよ?」


「結。俺は【個人闘技(ファイトソロバトル)】に出るつもりだ。

そういえば、まだお前とは戦ったことがないな。

楽しみにしている」


「……俺も楽しみにしてるよ」


 始はそう言い残すと、控え室を出て行った。


「ねえ。さっき始がいたけど、なんかあったの?」


 始がいなくなった後、入れ替わるかのようして試合から桜が帰ってきた。


(表情が明るいな。勝ったっぽいな)


「おっ。桜じゃねえか。試合は終わったのか?」


「あれっ?桜さんどうしてずぶ濡れなんですかぁ?」


「うん。なんか相手水使いでさー」


 嫌そうな表情をしている桜を、鏡は桜の全身を舐め回すかのように見ると、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


「な、なによ」


 鏡の妙な態度に気付いた桜は、思わず手で自分の体を隠していた。


「いや、やけにボロボロだなーと思ってな。……お前、負けたのか?」


「負けてないよっ!勝ったよ!」


「確かに、桜ボロボロだな」


「なんかエロいぞ?」


「……ふえ?」


 楓の言葉に桜が改めて自分の姿を見ると、確かに制服は至る所が破けており、たとえ破けてなくても、全身ずぶ濡れで、至る所が透けていることもあり、その姿は余りにも官能的だった。


「……きゃーーーーっ!!」


 桜は数秒の硬直の後、これでもかと言うくらい、過去最大の音量で叫び声をあげていた。


 桜は手で全身を隠すようにしゃがむと、プルプルとその場で震えていた。


 ほぼ全裸と変わらないその姿を自覚した桜は、羞恥のあまり、ボロボロの制服から覗く白い柔肌、その全てが赤く染まり上がっていた。


 いつもの強気で、自由で、お転婆な桜のいつもとは対照的的その姿は、ギャップという極上のスパイスもあり、そこにいる全ての異性を、いや、同性さえも等しく、その表情を赤らめさせていた。


「えーと、これはどういう状況かしら?」


「さあ?私に聞かれてもわかり兼ねますね」


「……同意」


 桜の応援に行っていたため、今この場にやってきた会長、六花、陽菜の三人は、生十会役員を含め、周りにいた他の生徒たち全員が、顔を真っ赤にしているのを見て、困惑していた。


「楓まで赤くなっていますね」


「……珍しい」


 いつも一人だけは他と違う反応を見せることの多い楓までも、他の皆と同様の態度を取っていることが、六花と陽菜の二人をさらに困惑させた。


「おや?よく見れば、不自然ですね」


 六花は部屋の中を見回すと、不自然なことに気付いていた。


 それは、部屋の中央、生十会役員のいる場所から、皆が視線を逸らすかのようにしているのだ。


 さらに目を凝らせば、生十会のメンバーがなにやら真ん中にいる誰かを周りの視線から隠すようにしていることにも気付く。


 原因はその人物ってことね。


 会長はすぐにそう結論付けると、固まっている生十会役員を退けた。


「なっ!?」


「これは……」


「……官能的」


 瞬間、三人は他の皆と同じ反応を示した。


 つまり、硬直と赤面だ。


「あっ、か、会長ぉー」


 プルプルと震えたまま、俯いていた桜は会長の気配に気付いて顔を上げると、その表情はやはり真っ赤になっており、そして羞恥の余り、大粒の涙が零れていた。


 桜は甘えるような声を漏らすと、会長に助けを求めるような視線を送った。


「はぁ。全く、これでも来てろ」


 そんな中、結はそう言って着ていたブレザーを桜の肩にかけていた。


「とりあえずそれ着て着替えてこい」


「う、うん」


 桜は結に渡されたブレザーを羽織るかのように纏うと、ゆっくりとその場を立ち上がった。


(あっ、これはこれでミスったな)


 結がそう思うのも仕方がない。


 ブレザーさえなければ、桜の今の格好はほぼ全裸に等しい。


 そんな桜に、桜より少し背が高く、大きめのブレザーを着ている結のその服を着た桜は、まるで、裸ブレザーという、新しい何かを開いてしまうかのような格好にしか見えなくなっていた。


「え、えーと」


「……ん?どうした?」


「それが……」


 そう言う桜はとても気まずそうな表情を浮かべていた。


 よく見ると、桜の足がプルプルと震えていた。


(恥ずかしさのあまり、腰が抜けたのか?)


「はぁー。とりあえず女子寮の前までおぶってやるから、その後は自分で歩けよ?」


「わ、わかった。……その、ありがと」


「構わん」


 結はそう言うと、ほらっと言いつつ桜に背中を向けた。


「……きゃっ!」


 桜は動かない足を引きずるようにして動かすと、桜はその場に転びそうになっていた。


「おっと、大丈夫か?」


 桜が転び切る前に、結が少しバックして、背中で桜を受け止めると、そのまま小さな掛け声と共に立ち上がった。


「ゆ、結っ。あ、あたしがいくわ」


 行こうとする結に会長がそう声を掛けるものの、会長はまだ体がまともに動きそうになかった。


「会長。無理すんなって。それに、会長はいつ試合が呼ばれるかわからないだろ?

俺は少なくとももっと先だからな。

まともに動ける俺がパパーット行ってくるさ」


「そ、そう?なら頼むわ」


「了解。

ほらっ、桜、いくぞ?」


「う、うん。お願い」


 結は桜に確認をすると、背負った桜の位置を少しずらし、背負っていて楽なように調節すると、小さな掛け声と同時に走り出した。



これからもよろしくお願いします

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