6ー22 六芒戦出場選手選抜試験
桜が提案した六芒戦出場選手選抜試験はなんと、すんなり決定となり、
次の日。
「さぁーーーってっ!始まりました!
生十会が新しい風を巻き起こし、
【F•G】の恒例行事である闘技大会を無くし、その代わりに行われることになった交闘戦技大会、通称、六芒戦っ!
本日はそんな六芒戦に参加したいと集ったものたちによる、六芒戦出場を賭けた予選だぁぁぁぁあっ!!
予選実況はこの私、皆様の心のアイドル、アイリスこと、宮地愛理がお送り致しますっ!」
F•G中等部二年棟、第一コロシアムで現在、六芒戦出場選手選抜試験が絶賛行われていた。
会場は既に多くの観客で賑わっており、実況の愛理の挨拶終了と同時に、たくさんの歓声が会場一帯に鳴り響いていた。
「はぁー」
「どうしたのゆっち?」
「結さん大丈夫ですか?」
「いや、憂鬱でな」
「結。わかるぞその気持ち。あたしも憂鬱だ」
生十会メンバーは会長の独断によって、気が付けば全員六芒戦出場選手選抜試験への出場が決定していた。
そのため、生十会メンバーは全員、第一コロシアムの控え室に集まっていた。
控え室には他にも大勢の参加希望者で賑わっており、団体戦が多いためか、グループで集まっている選手が多かった。
「なあ。それにしても、さっきの実況者ってよ」
「へぇー。鏡も気付いたんだぁー。バカの子のくせにー」
「うるせえアホの子っ!」
「誰がアホの子だっ!この能無し!
」
「んだとっ!」
「あーまた始まった」
「毎回毎回、よくやるよな。あれだな。喧嘩するほどなんとやら」
「あー。そうだな」
最早恒例になっている鏡と桜の低レベルな言い争いを、結と楓の二人は控え室のベンチに座りながら、退屈そうに眺めていた。
「二人ともそろそろやめとけ」
「二人とも凍らせるぞー」
二人の喧嘩が派手になって行き、周りを巻き込みかねないと思ったため、結と楓は二人を止めに入っていた。
二人の言葉というよりも、主に楓の脅しによって桜と鏡の二人はピタッと喧嘩をやめると、ピシッと背筋を伸ばし、姿勢良くベンチに座っていた。
「あー、マジで、楓のそれは冗談に聞こえねぇ」
「あはは。本当だよ。楓ちゃん言葉ってやけに本気が伝わるんだよね」
二人は冷や汗を流しながらも、姿勢の良いまま、鏡は軽く怯え、桜は苦笑いをしていた。
「ん?冗談じゃないぞ?二人ともあのまま続けてたら氷の彫刻にしてたが?」
楓の言葉に二人は顔を真っ青にしていた。
「……なあ桜。話があるんだが」
「……奇遇だね。あたしも」
「「楓の前は休戦だね(な)」」
「そういや、二人はさっき何に気付いたんだ?」
桜と鏡が何やら約束を交わしている中、結は二人が気付いたと言っていたことに興味が向かっていた。
「ん?結は気付いてなかったのか?」
「楓は気付いてたのか?」
「そうだな。二人が言ってたのって大方あの実況者のことだろ?」
結は「実況者?」っと首を傾げていた。
「あっ、やっぱり楓も気付いてたんだー。そうそう、あの実況者って十二の光の一家、【宮地】の次女だよね?」
桜の解説に結は「ああー」っと納得顔になっていた。
【宮地】とは、幻操師の中でも特別な力を継承している【記号持ち】と呼ばれる者たちの中でも、特に強大な力を継承している十二の光と呼ばれる者たちの一家だ。
「それにしても、同じ姉妹でも違うもんだねー」
「そういや、【宮地】の長女って」
「そっ。現在一五歳で既に2ndのクラスと、シルバーの称号。さらにはSのランクを持った天才」
「二つ名に確か『砂漠の魔女』だったか?」
【宮地】は代々砂を操る一族だ。
【宮地】は大量の砂を操り、全方位からの無情の攻撃と、砂を周りに展開することによる高い防御力を持った、攻撃と防御、両方の面で高い力を持つ術を操る。
【宮地】の次期当主と言われている【宮地】の長女、宮地理砂は、歴代の中でも最高の砂使いとされ、過去の歴代当主たちは砂や、砂を固めることによって作った、強大な大岩を空から無数に降らせることが出来たらしいが、どうやら彼女は砂だけでなく、他の何かも操ることができるらしいが、それはあくまで噂レベルであり、確かな目撃情報として、砂だけだ。
彼女は砂の無い大地だろうが、地中の土や岩を細かく砕くことによって、大量の砂を作り出し、彼女が戦った後はまるで砂漠のようになっていることから、『砂漠の魔女』という二つ名がついている。
十代で二つ名を貰っているものは珍しく、それだけで彼女がどれだけ強力な幻操師かがわかる。
「……なあ桜?」
「ん?どうしたのゆっち?」
「いや、さっきの紹介どっかで聞いたような……。それも割と最近」
「……あー。そういえば聞いたような……」
皆の視線はさっきからやけにおとなしくなっている楓で向かっていた。
「……なんだよ」
「……楓?顔、赤いよ?」
皆の視線が楓に集まった瞬間、楓は少し怒ったような口調になっていた。
「そういや、楓って既に2ndクラス、Sランク、シルバーの称号。全部持ってるな」
「……あっ……」
それはつまり、さっきの桜の褒め言葉は、そのまま楓へも向かうことになる。
結がぼそりと言うと、楓は俯き始めていた。
よく見ると、髪の隙間から覗く耳は真っ赤に染まっていた。
「……あれ?もしかして楓って二つ名とかある?」
既に二つ名を持っている『砂漠の魔女』よりも若く、かつ、同じクラス、ランク、称号を持っているのであれば、楓もなにか二つ名を与えられていると思ったので、桜がきくと、楓は黙りこくっていた。
どんなに楓が実力を隠そうとしても、カードに記録が書かれているということは、そこに書いてある情報、つまり、クラスやランク、称号などは幻操師委員会も把握していることになる。
カードには他にも年齢なども書かれているため、楓が『砂漠の魔女』よりも若いことは幻操師委員会も周知のはずだ。
二つ名は主にその幻操師の活躍を見た第三者たちが勝手につけるものだが、それを二つ名として登録するのは幻操師委員会だ。
そして、『砂漠の魔女』の二つ名は幻操師委員会が認めた公式の二つ名だ。
ならば、『砂漠の魔女』以上に才能があると言っても過言ではない楓にも幻操師委員会から二つ名を贈呈されている可能性は高い。
「えーと、まあ、あるぞ?」
「えーなになにっ!」
「……あんま知られたくないんだがな」
「いいじゃん楓ー。あたしたちの中じゃないかー」
「……はぁー。わかったよ。あたしの二つ名はーー」
いつからだろうか?
あたしが、あたしになったのは。
いつからだろうか?
前のあたしが、あたしを作ろうとしたのは。
いつからだろうか?
あたしの運命が決まっていたのは。
いつからだろうか?
いつからだろうか……
いつからだろうか…………
自分が人間だと、信じられなくなったのは。
六芒戦出場選手選抜試験は、なんと一日で終わることはなく、三日に渡って行われた。
一日二競技の代表選手が決まって行き、とうとう三日目。
六競技の中で、唯一の個人戦。
元の名前、闘技大会の名に相応しい競技。
競技名、【個人闘技】が始まった。
今回の六芒戦出場選手選抜試験だが、その試験によって選抜する選手の人数は、なんと、一競技につき、たったの九名だ。
一競技に九名、それが六競技に六校分で、総勢三ニ四名にもなってしまうのだ。
団体戦は三人で一チームのため、団体戦には各校三チームずつ出場する。
個人戦は九名がそれぞれ一対一で戦う。
他の団体競技は全く新しい試みであるため、そこまで練習をしていない生徒たちにとって、六芒戦出場選手選抜試験とは仲間とのチームワークを競うものになりつつあった。
純粋な幻操師としての実力だけでなく、チームワークや機転、作戦などが大きく関わるため、団体戦の五競技には、ランクの高い幻操師だけでなく、ランクの低い幻操師までも本戦出場が決定していた。
しかし、この個人戦は違う。
あまりにも、あまりにも純粋てわかりやすい。
ただただ、幻操師として強いものが出場でき、そして勝つことが出来る。
つまり、この六芒戦出場選手選抜試験において、この個人戦だけはただの予選などではなく、【F•G】中等部二年最強を決めるバトルでもあるのだ。
「さーーーーーーてっ!!!
とうとうこれで最後の競技になってしまったぁぁぁぁあっ!!
最後の競技は今までの競技とは違い、ただ純粋に力と力のぶつかり合う熱血バトルだぁぁぁぁっ!!
実況は引き続き、みんなの永遠のアイドル、アイリスこと、宮地愛理がお送りしますっ!」
三日間続いた六芒戦出場選手選抜試験だったが、これで最後ということで実況はいつもよりも熱がこもっていた。
熱にとらわれているのは実況の愛理だけではなく、観客たちもおおいに賑わっているようだ。
正直、賑わい過ぎて耳が痛いほどだ。
「いやー。これで最後かー」
「最後だなー」
「最後ですぅー」
「最後ですねー」
「おいおいお前らっ!?なんでそんなにテンション低いんだよっ!?」
最後の競技、【個人闘技】の控え室では、いつもの生十会メンバーがいつものように気の抜けた会話を繰り広げていた。
「……ねえ鏡?空気読むか死ぬかどっちかにしてくれない?」
「うぉぉぉぉおいっ!お前は相変わらずの毒舌だな桜っ!」
皆のテンションが目に余るほどに低いことが気になって仕方がなかった鏡が思わず叫ぶと、鋭利な心のナイフによって鏡の心は風穴を開けられていた。
「まあまあ。落ち着きなさい鏡くん。みんなの元気が無い理由なんてわかりきってるでしょ?」
「……そうだな。……って、その原因が言うなよっ!」
生十会メンバー全員、会長の独断によって全競技の六芒戦出場選手選抜試験に出場することになったのだ。
そして、会長はみんなにこう言ったのだ。
「本戦での習得点数が最も低い人たちは、罰ゲームよ」
あえて最も低い人ではなく、最も低い人たちと言ったということは、もし最下位が同点で二人以上いた場合も、その場合も構わず二人とも罰ゲームになることを示している。
そして、会長の性格を考えれば、生十会メンバーの気持ちは一つになっていた。
絶対に最下位にはならないっ!
会長から全競技を出ることを強制され、それならば適当にこなせばいいと思っていたところの罰ゲーム宣言だ。
生十会メンバーはこの数日間、ずっと全力だったのだ。
今日はその最終日、それも後半だ。
生十会メンバーたちの疲れは既に限界だった。
…………二人を除いて。
「全く。みんなだらしないな」
「全くです。楓の言うとおりですね」
楓と六花の二人はバテているみんなに嫌な笑みを向けていた。
鏡は一見大丈夫そうに見えるのだが、完全に空元気だ。
おそらくは軽くでも突けば転けてしまうだろう。
「なんであなたたちは大丈夫なのよ!」
生十会メンバーは全競技強制参加を言い出した会長でさえも、皆よりかはまだ元気そうだが、それでも疲れが溜まっているのは一目瞭然だった。
会長が半ばキレ気味に叫ぶと、楓と六花はアイコンタクトを交わすかのように、互いの視線を合わせていた。
そして次の瞬間、さっき以上に嫌な笑みを浮かべ、
「そりゃほら?あたしたち」
「優等生だから」
これからもよろしくお願いしますっ!




