6ー20 更生した二人
「みんな。心配をかけたようね」
「会長さーんっ」
無事に交闘戦技大会の説明会も終わり、生徒たちが教室に戻る中、生十会の面々は生十会室に集合していた。
帰ってきた会長がどこか偉そうに仁王立ちしていると、生十会の中でも純粋レベルの高い日向妹こと、真冬ちゃんが泣きながら会長のそこそこある胸に飛び込んでいた。
「全く、会長はホント人騒がせだよなー」
「安心しなさい。あんたほどじゃないよっ」
「んだど桜っ!」
「あらあら。バカはこれだから」
「お前もアホの子じゃねえかっ!」
「誰がアホの子だっ!」
生十会室の中でも、もはや恒例ともなっている、桜と鏡のあまりにもレベルの低い口喧嘩が始まっていた。
(というより、鏡はバカって認めちゃってるよ)
バカと呼ばれたことを一切否定しない鏡に、結は苦笑いを浮かべていた。
「おかえりなさい。会長」
「六花。あの話はどう?ちゃんと上手く言っているかしら?」
「はい。その件は順調に進んでいます。この度はご協力ありがとうございます」
「いいのよ。これも悲願ってやつでしょ?」
会長はそういうと六花にウインクをした。
「協力?なんのこと?」
二人の会話を聞いていた桜が首を傾げていると、一瞬、二人の顔が強張っていた。
「交闘戦技大会のことです。これは元々、会長と私、二人で提案したものですので」
「へぇー。あれって六花の独断じゃなかったんだ」
「私が上官の意思に逆らうとでも?」
「わーお。すごい忠誠心だことで」
すぐに元に戻った六花がそういうと、桜な六花の忠誠心に呆れていた。
「私が考えたものが通るように、会長がマスターと話をしてくれました」
「協力って、すごいことしてるな」
「そ、そうかしら?そうでもないわよ」
いつも嫌味や意地悪ばかり言う結が素直に褒めたためか、会長は珍しく声を吃らせていた。
「そうでもなくないだろ。マスターに意見するなんてな……」
マスターとはその領域を作った存在。
そこで今生活している結たちからすれば、その存在は神にも近い。
そんな存在相手に意見するなんて、並の度胸じゃない。
(まぁ。賢一さんは優しいからな。自分の生徒なら多少無礼をしても、笑って許してくれそうだが)
結は昔お世話になった時の賢一を思い出し、懐かしく感じていた。
「まぁいいわ。それと、皆に朗報よ」
「朗報ってこれのことか?」
結は自分の定位置の席に置いておいた紙を取り出すと、それを会長に見せた。
「あら、もう知ってたの?」
「あはは、会長さん。知ってるもなにも、これ、朝のガーデン通信ですぅ。みんな知ってるですぅ」
ガーデン通信とは、通常の学校よりも規模が大きいため、全体をそう何度も招集出来ないような時に発行される、いわゆる学校新聞だ。
ガーデン通信には色々と知らせることが書いてあるのは、見出しにもなっているこの記事だ。
『新闘技大会、交闘戦技大会に、S•GS•GF•G参戦決定っ!!そして、あのお嬢様ガーデン、R•Gも参戦っ!さらにさらにもう一校っ!』
「あらそうなの?まあいいわ。でも記事の内容は本当よ」
「つまりなんだ?今年の交闘戦技大会は六校対抗ってことか?」
「その通りよ。この四日間、ついでに他のガーデンに交闘戦技大会のことを話してみたのだけど、そうしたら、是非参加させて欲しいってところが多かったのよ」
「……これだと参加メンバーが少なくなりますね」
時間の関係上、参加可能人数を増やすことは出来ない。
しかし、参加可能人数を六校でわければ、一校あたりの参加可能人数は前よりもはるかに少なくなるだろう。
「それって問題じゃねえか?ほとんど参加したいって奴ばっかりだろ?」
「それは大丈夫よ」
鏡の言葉に思わず黙ってしまった一同だったが、会長の明るい言葉が響いていた。
「大丈夫……しょうか?」
大丈夫だと言い張る会長に、六花が不安を隠せぬ眼差しを向けていた。
「問題ないわ。六花、去年のアンケート覚えてるかしら?」
「去年のアンケート?……あっ」
「去年のアンケート?なんだそれは?」
「結と楓は知らないよね。去年の闘技大会の後に、生十会でアンケートをやったんだよ。今年闘技大会の感想みたいな感じでね」
「そのアンケートがどうかしたのか?」
「そういえば、アンケートの中に、参加志望理由というのがありまして、その回答の多くが……」
「見てるだけじゃつまらないから……だっけ?」
六花の言葉に、桜が紡いだ。
二人の言葉に、楓は小さく「なるほどな」っとつぶやいていた。
「楓?なにがなるほどなんだ?」
そんな楓に気付いた結が、すかさず質問すると、楓は面倒そうにため息をついた。
「いや。普通わかるだろ?
前の闘技大会は昔の研究発表の延長。
見るものを楽しませようとする意図はない。
だか、新しい交闘戦技大会はやる側も見る側も楽しめるように意図されている。
見る側も楽しいなら、参加せずに観客として参加したいやつも大勢いるだろうって話だろ?」
「ええ。その通りよ楓」
流石ね。っと褒める会長に、楓は小さく「ん」っと返すと、また机の上にとろけていた。
「それでだけど、これから口頭アンケートを取るわ」
「口頭アンケート?」
「放課後でも残ってる生徒は大勢いるわ。そういった子たちに口頭でアンケートを取るの、参加人数がたくさん減っちゃいますが、不満はありますか?ってね」
「明日の朝にアンケート取るのはダメなのか?」
「それじゃ間に合わないわ。思ったよりも準備に時間が掛かったせいで、時間に余裕がないのよ」
「おっけー、よしっ結!楓!行こうっ!」
「おい待ってっ」
「ちょっ」
桜は両手で敬礼をするという、独特な敬礼をすると、結と机の上にとろけている楓の手を取って、無理矢理二人を引っ張って行った。
【F•G中等部二年棟、南校舎】
「ねえねえっ!今回一新された交闘戦技大会について一言っ!」
桜は東西南北、合計四つに分かれている中等部二年用の校舎のうち、中心部にある生十会室から南校舎に突撃すると、出会った生徒全員に聞く勢いで、口頭アンケートを実施していた。
「あっ雨宮さん!」
結たち三人がまとまって口頭アンケートを実施していると、後ろから声を掛けられていた。
「えーと君は?」
後ろから声を掛けたのは、中等部二年だと思われる二人組少年だった。
「あっ。思い出した。この二人、法具使って喧嘩してた二人組だ」
この二人組は前、結が生十会に入る前に、六花のせいで生十会の会議に参加した帰り、青春に見せかけて、法具を使った喧嘩をおっ始めようとした二人組だった。
「あー、あの時っ。もう喧嘩しちゃだめだよ?」
「はいっ!」
「今は仲良さそうだな」
おの後二人はすっかり更生したらしく、まとっている幻力からあの時とは違っているようだ。
「あっ、あの。僕は服部万蔵ですっ」
「お、僕は風魔禅太郎ですっ」
(二人ともキャラ変わり過ぎじゃないか?)
結はそう思ったのだが、どうやらあの時桜の強さを前にして、更生するだけでなく、幻操師としても、心身共に一皮剥けたらしい。
「ん?服部?風魔?」
桜に無理矢理連れて来られた楓は、ずっと眠たそうに二人の後を追っていたのだが、珍しく考えるような仕草をとっていた。
「楓、どうかしたのか?」
手を顎に当てて、考え込む楓に結が声を掛けると、楓は頭をあげて、こくりと首を振った。
「うん。なんか、二人の名字に聞き覚えがある気がするのだが……思い出せなくてな」
「そうか?服部に風魔……わからん」
「むー、ダメだっ。あたしもわからん」
楓と一緒になって、結も考えるが、二人ともわからず頭の上から湯気を吹き出していた。
「ん?って二人ともどうかしたの!?」
二人組と話ていた桜は、後ろで二人が頭から湯気を吹き出しているという、まるで漫画のようになっていることで、目をまん丸に広げていた。
「いや、二人の名前が引っかかってな」
「うん。服部、風魔……なんだったか」
「あっ、それってあれだよ。二人とも忍者の家系」
桜の解答に、結と楓は湯気は消えたものの、今だに首を傾げていた。
「だーかーらー。服部半蔵と風魔小太郎の子孫だよ。二人とも」
「「あーなる。……はっ!?」」
服部半蔵と風魔小太郎といえば、知ってる人は知ってる、知らない人も聞き覚えがあるような、超級の有名人だ。
まぁ、風魔小太郎にしては本当に実在したのか不明とも言われているが、それでも、二人とも忍者として有名な人物たちだ。
この二人は有名過ぎて、とある作品ではライバル関係として描かれたこともあるような人物だ。
(……なんか、リアルで凄いやつに会ったな)
「あたしも結に同感だな。びっくりした」
「そうだな……あれ?俺口に出てたか?」
「うんん。違うぞ?あたしが勝手に読んだだけだ」
(人の思考が読めるのかっ!?)
楓は無言で笑顔になり、結に向かってピースをしていた。
(本気で読んでいやがるのか?この……ダルデレ)
「誰がダルデレだっ!!」
「ちょっと、楓どうしたの!?」
桜からしたら、突然妙なことを叫び出したように見えるため、桜は全力で心配しているようだった。
(……ふっ。ざまぁ)
「おい結。後で覚えてろよ?」
(……げっ)
「ちょっと結?楓?」
片方は考えるだけという、妙な意思疎通をしている二人を見て、全く状況が掴めない桜は不満そうに頬を膨らませていた。
「ああ悪い。それで、二人は忍者の子孫ってことでいいのか?」
結が二人組にそう問うと、二人組は黙って首を縦に振った。
「まあ、でも、あれだ。物理世界では有名でも、ここではそんなの関係ないからな?」
「はいっ!わかっています!えっと……音無さんっ!」
たまにいるからな。
物理世界で有名人の子孫だったり、有名人だからといって【幻理領域】で威張るやつ。
そういう奴らは大抵、心が過信や傲慢で一杯になるため、こっちでは対した実力になれないことが多い。
(多分。それが前のこいつらだったんだろうな)
あの時は己の実力を過信し、その学年のトップ集団である生十会メンバーにまで喧嘩を売ったのだろう。
それが結果、一方的に負けることで、いい薬になったのだろう。
「それにしても、生十会の人は凄いですねっ」
「……何がだ?」
結たちは三人とも生十会メンバーなのだが、明らかに結へ視線が集中していたため、結が返事をすると、二人組は目を輝かせて言った。
「だって、こんなに綺麗な彼女が二人もいるなんて凄いです!」
「…………はっ!?」
「…………ふぇ!?」
驚きのあまり結たちは数秒固まってしまっていた。
数秒の硬直の後、結は驚きの声を、桜はどこか可愛らしい悲鳴を、楓に至っては、声にならない絶叫をしていた。
「なななななな何いいいい言ってるのののののおおおぉっ!?!?!?」
硬直から最初に解放された桜は、凄まじく呂律をおかしくしながら顔を真っ赤に染め上げていた。
(……そこまで怒ることないだろう)
そんな桜を見て、結は急に冷静さを取り戻し、それどころ顔を真っ赤にしてまで怒る桜に、軽くショックを受けていた。
(……はぁー。楓は……なっ!?)
結がため息をつつ、楓はどうなっているかを確かめるべく、そちらに視線を向けると、瞬間、結は二度目の絶叫。
「う……うぅ……」
楓は俯き、両手を強く握ってプルプルと震えているようだった。
楓の前髪に隠れ、表情はわからないが、髪の間から覗く耳は真っ赤になっていた。
それだけならまだ良かったのだが、楓は感情を荒ぶらせ過ぎて、楓の全身から迸るように白い冷気が溢れていた。
「寒っ!?」
「楓、落ち着けっ!冷気、冷気っ!」
「……うぅー…………あっ」
楓はパッと顔を上げると、既に赤みを抜けており、冷気も収まっていた。
「す、すまん」
「式も使わずに冷気が漏れるって、凄いね」
「……すまん」
他に慌てる人がいると落ち着く。
桜は楓の慌てっぷりを見て、既に落ち着いているようだった。
とはいえ、まだ顔には赤みがさしていたが。
これからもよろしくお願いします!




