6ー16 闘技大会
「あーあ。鏡のせいで無駄な時間過ごしちゃった」
一通り鏡をフルボッコにした桜たちは、ゴミ屑のように床に倒れる鏡を一瞥すると、皆、自分の席へと戻り、何事もなかったかのように会議を始めた。
「今日も会長が不在ですので、この三日間同様、副会長である私がまとめさせていただきます」
会議の進行はいつも会長がやっているのだが、その会長がいないため会長補佐である副会長の六花が代わりを務めることになっていた。
「さて、闘技大会までとうとう一週間をきってしまいましたが、会長不在というアクシデントのせいで、最初の予定よりもはるかに遅れてしまっています」
「あたしは正直どうでもいいけどな。あたしは約束通り陽菜と戦えればそれでいい」
転校初日から陽菜へ過大な興味を持っていた楓は、次の日、放課後の会議によって集まった陽菜を前にして、早々に詰め寄っていた。
噂は本当なのかだとか、
今、【A•G】はどこにいるのかとか、
本当に強かったのとか、
皆が集まった後も楓は陽菜を質問攻めにしていた。
そのため、会議を始めるために、一つの約束をしたのだ。
その約束が、闘技大会で陽菜と戦わせてあげるというもの。
それと、もし闘技大会で優勝すれば陽菜の知っていることを話すということだった。
前者は六花が、後者は陽菜自身が提案したのだが、陽菜がそう提案すると、楓は一瞬残念そうな表情になっているようにも見えたが、すぐに嬉しそうな、まるで次の日の遠足が待ち遠しくて眠れない子供のようになっていた。
「楓?陽菜目的とは言え、あなたは生十会の一員となったのですよ?それでいいと思っているんですか?」
「わかってる。仕事はするさ。でも、正直、会議はどうでもいい。ねえ結。後で会議内容の要点だけ教えて」
「おいおい。だからって寝ようとするな」
「いいじゃん。あたしはお疲れなんだ」
「うるさい。起きろ」
寝ようとする楓の頭を結が鷲掴みにしていると、それを見ていた生十会の皆は呆れたように苦笑いしていた。
「結。いいですよ。一度寝ようとした楓はそんなことでは起きようとしません。無駄な努力です」
「……そうだな」
「それでは、会議を再開します。
知っているとは思いますが、闘技大会はただの闘技ではありません。
幾つかの部門と幾つかの競技がある、闘技大会というよりかは、運動会や体育祭と呼んだ方が適当とも言える行事です」
「部門って確か……」
「あっそれなら真冬知ってるです!確か、技術部門、戦闘部門、戦略部門、知識部門の四つです!」
曖昧な記憶を呼び覚まそうとしている桜を抜いて、真冬がはいはーいっとでも言いたげに手をあげて発言をしていた。
「ちょっと真冬ちゃん?今あたしが言おうとしてたのにっ!」
「ふぇ?ご、ごめんなさいですー!」
「真冬。謝ることはないぞー。そのアホの子はどうせ思い出せなかっただろうしな」
顔を青くして本気で謝る真冬に、結がフォローを入れると、もはや恒例にもなっている結のアホの子発言に、桜が「誰がアホのだっ!」っと怒筋を浮かべていた。
「そこまで怒るなら、もちろん競技を言えるよな?」
「えっ……い、言えるよ?と、当然じゃん!」
「ほほー。なら言ってみろよ。ほれ」
「えーと、技術部門に幻工技術、幻操技術の二つと、
戦闘部門に、体術戦闘、幻操戦闘、戦略戦闘の三つ、
戦略部門に戦闘戦略、技術戦略の二つ、
知識部門に筆記知識に技量知識、幻操知識に、技術知識の四つで、
合計一一競技だよね?」
「わお。びっくり。本当に言えてる」
「えっへんっ。桜ちゃんを舐めるのよっ」
見事全ての競技を言い当てた桜は、両手を腰につけて、このところ成長期なのか、少しずつだか成長してきた、既にまな板とは呼べないであろう胸を張っていた。
闘技大会とは名ばかりであり、実際の闘技大会には真冬の言った通り、四種類の部門、
技術部門、
戦闘部門、
戦略部門、
知識部門、
の四つがある。
それぞれの部門には、幾つかの競技があり、技術部門には、
幻工師としての技量を競う、
幻工技量。
幻操師としての技量を競う、
幻操技術。
戦闘部門には、
他幻術無しの、互いに法具ではない武器を使って戦う、
体術戦闘。
殺傷能力が一定化ならば、全ての幻操術の使用が可能になる、幻操師として、実戦的な戦闘能力を競う、
幻操戦闘。
一対一が基本の上記二つの戦闘部門とは違い、複数対複数による団体戦であり、幻操戦闘のチーム戦のようなものである、
戦略戦闘。
戦略部門には、
戦闘時の戦略であり、既にある幻操術を使った作戦や、戦略の複雑さやその実用性などを、論議によって競う、
戦闘戦略。
既にある幻操術などを工夫することによって作り上げる戦略ではなく、新たな技術、新たな幻操術を考案し、今の技術では机上の空論だとしても、いつかは可能になる可能性がある戦略を論議によって競う、
技術戦略。
知識部門には、
幻操師としての知識をペーパーテストによって競う、
筆記知識。
幻操術を使う上で、知っているかないかで差が生まれるようなコツの知識を競う、
技量知識。
幻操術についての知識を競う、
幻操知識。
幻工師についての知識を競う、
技術知識。
合計一一種類がある。
「さて、桜が無い頭を使って答えてくれましたがーー」
「無い頭ってなに!?」
「ーー今年は闘技大会の伝統を覆すことになりました」
さらっと桜を貶した六花に、桜が噛み付くが、六花は当然のようにそれをスルーし、なにやらただ事ではないことを言っていた。
桜もスルーされたことでいじけそうになったが、六花の言葉でそれどころでは無くなっていた。
「それってどういうこと!?」
「今年から競技を全て一新しようと思っています」
「そんなこと出来るんですか!?」
当然とも言えることを真冬が質問すると、六花は小さく、しかし確かに首を縦に振った。
「既に【F•G】マスター、夜月賢一様からは許可を頂きました」
「……行動が早いな」
皆に言う前に、既に【F•G】のトップと話し、さらにはそのトップから許可を貰うという六花の行動力に結は呆れた、ため息をついていた。
六花の行動力に呆れたのは結だけではなく、その場にいる全員が深いため息をついた。
「六花っておとなしい子だと思ったが、想像以上にお転婆娘だったな」
楓は呆れ顔でつぶやくと、チラリと床に倒れている鏡を見た。
すぐに視線を元に戻すと、楓はため息をもう一つ。
「別にいいではありませんか」
「……まぁ。その気持ちはわかるけどさー」
「なんだ桜?前になんかあったのか?」
桜の意味深な言葉に、結が反応すると、桜は「まぁ、うん」っと小さく頷いた。
「結とか楓は今年からだから知らないと思うけど、あたしたちは去年にやってるからさ」
「あっ……そういえば、その時、六花さんーー」
「い、今はそんなことはどうでもいいじゃないですか!」
珍しく大声を出す六花に、みんなは「そ、そうだな」っと六花の望み通り、話を流すことしか出来なかった。
「……ねえ結。あたしだけか?めちゃくちゃ気になるんだか?」
「……奇遇だな。俺もめちゃくちゃ気になる」
「……だよな」
「結に楓!なにをコソコソ話しているんですか!会議を再開しますよ!」
叫ぶ六花は、珍しいことに耳まで真っ赤に染め上げていた。
(六花にも子供っぽいところはあるんだな)
いつも冷静で、他のみんなよりも一回りもニ回りも大人びている六花にも、心のままに大声を出す子供らしさがあることを知って、結は心の中で嬉しそうにしていた。
これからもよろしくお願いします。




