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2ー5 アリス

 特殊な力、幻操術。

 幻操術を操る者たちを幻操師と呼ぶ。ここR•Gはそんな幻操師達が集う美しく華麗な学院なのだ。


 今日はそんなR•Gに二人の転校生が来るらしい。その二人は中等部二年一組に入るらしく二年一組の皆は転校生が来るのを今か今かと心から望んではいなかった。


「皆さんおはようございます」


「おはようございます」


 このクラスの担任と思われる若く綺麗な女性が教壇に立つと同時に生徒達は皆一斉に立ち上がり朝の挨拶をした。

 その動きは全て余計な音をたてない優雅なものでありここにいる者たちの気品ある姿を表していた。


「それでは皆さんの中にすでにご存知の方もいるとは思いますが今日は我々R•Gと同盟ガーデンであるF•Gから二人も転校生が来てくださることになっています。皆さん仲良くしてくださいね。それでは入って来てください」


「はいっ」


 元気な挨拶と共に教室に入ったのは少し赤みを帯びたショートの茶髪をした少女だった。


 この子の名前は雨宮桜。

 年齢は十三歳、このガーデン特有のドレスにも似たワンピース型の制服を着た可愛らしい美少女であった。


 そして


「はい」


 桜の元気な挨拶とは対称に静かで品のある挨拶をしたのは肩にかかるほどの黒い髪をなびかせワンピース型の制服に身を包む少女だった。


「F•Gよりまいりました。音無結花(おとなしゆうか)と申します」


(……なんでこんなことになるんだよ……)


 黒髪の少女の正体はなんとF•G中等部二年生十会役員、音無結が女装した姿だった。











 こうなった経緯は結、桜、鏡、双花、春姫、火燐の六人で話をしていたところまで遡る。


「入学って確かR•Gは女子校だったと思うが?」


 相変わらず敬語を使わない結に慣れたの結が喋るたびにビクビクしていた桜と鏡は無駄にビクビクすることもなく双花の話に耳を傾けていた。


「はい、ですので男性であるそちらの土屋鏡さんにはまた違うことをしてもらいたいと思っています」


「俺も男だが?」


 男性である鏡とまるで結は男性ではないかのように話を進めようとする双花にすかさずツッコミを入れる結だったか双花の発した爆弾宣言によってここR•Gに来て初となる石化を披露することになった。


「音無さんは女装してもらおうかと思っているのですが」


「え?」


 ここR•Gはガーデンにおける女子校だ。つまり入学の最低条件として女性であることが必須になっているのでだったら結を女装させようという言葉に結は固まり、鏡は口をポカーンと開けて心ここに在らずといった具合に、桜に至っては一番早く我を取り戻して今では両手で口を抑えながら笑いを堪えていた。


「ぷっ、……ぷぷ……クスクス……アハハハハハハッ」


 前言撤回、堪えられていなかった。


「……おい、どういうことだ?」


 石化状態から元に戻った結は双花に対して説明を要求した。

 突然女装して女子校に入学しろと言われればそれは仕方が無い行動だっただろう。


「はい、それでは説明させていただきます。先程も申しましたがR•Gでは生徒達の自尊心が強くなり過ぎてしまい他園の者を見下すようになってしまいました。そこでF•Gから転校生ということで一時的にR•Gに入学してもらい各授業を受けていただきまずはクラス内で自分達のレベルが低くないことを証明してもらいます。そしてある程度クラス内で認められるようになった後はお二人とこちらが用意した二人とそれぞれ模擬試合をしてもらいそこでガーデン全体に実力を示していただこうかと」


 つまりは結と桜の二人に潜入してもらい弱くないということをまずはクラスから示した後に模擬戦で全体に示しどうにかしようということだ。


「桜だけでいいんじゃないか?」


「最初はそう思ったのですが、ここで他園の者だと判明してしまうと確実に孤立してしまうと思いまして。F•Gからの転校生ということになりますので他園の者だということを伏せることは出来ませんし、一人で出来ないこともないとは思いますがやはり一人は寂しいと思いましたので男性陣のお二人の内片方に女装していただこうと結論付けたのです」


 他園の者=ぼっちになる=寂しい。

 つまり桜のためってことらしい。

 鏡でいいんじゃないかと思った結だったが「女装には無理があるの」という春姫の一言で納得した結は桜のためということもあり渋々承諾することになった。


「今回の潜入は私達からの依頼ということになりますので鏡にはお二人が少しの間戻らないことをF•G側にお伝えください」


 鏡はR•Gからの返事の書類を受け取ったらF•Gに戻り結と桜がそのままこちらで依頼を受けた経緯を説明する係りになった。


「入学は明日からになりますので今日はお休み下さい」


 今日から転校生として潜入することは流石に出来ないため明日からということになりそれぞれ一晩世話になった部屋に戻ろうとしていた。結もまた立ち上がり戻ろうとするが双花に呼び止められていた。


 残ったのは結と双花の二人だけで守護者の二人もいなかった。


(マスターを一人にしていいのか守護者ってのは)


 こうも何度もマスターを他者と二人っきりにさせる守護者に仕事をしているのか疑う結だった。


「で、なんだ?」


 自分を呼び止めた理由を双花に聞く結だったが双花は再び着席するように目で言うと結の問いに答えた。


「詳細が必要かと思いまして」


「……」


 返事を返さなかったが椅子に座ったことで詳細を要求していると判断した双花は説明を始めた。


「先程の説明は本当なのですが他にも理由がありまして。中等部二年一組にはSランクが一人いるのですがその人がクラスを仕切っていますので雨宮さん一人には正直荷が重いかと思いました」


 クラスをまとめる者がSランク。

 どうやらその生徒も他園を見下しているようでSランクということもあり生徒の中でも自尊心が特に強いらしい。

 そんなクラスにAランク一人を送っても焼け石に水だと判断し結がFランクでありながらS以上の実力を持っているということを知っている双花は結にも協力を要請したということだ。


「潜入するにあたって偽名が必要ですね」


 双花はそこまで言うと突然ニコニコと笑い始めた。

 その笑みに嫌な予感がした結に対して言った偽名というのが。


「音無結花というのはどうでしょうか?」


「……わざとだろ」


「はて?なんの事だかわかりません。それに性格や話し方などはジャンクションの時を思い出していただけばスムーズに出来ると思うのですが」


 ジャンクション中性格や行動パターンは変化するがそれは別に別の人格に支配されている訳ではなく作り出した自分に自分自身の人格を塗り替えるもの、つまり記憶は共通しているためジャンクションを使わずとも戦闘さえしなければ十分女性になり切れるだろうということだ。


「ちなみにすでに書類は提出していますのでキャンセルは不可です」


「はぁー」


 こうして結は女装することになった。












「音無結花さんと雨宮桜さんですね。席はあちらになっていますお座り下さい」


「はい」


 結と桜はちょうど縦に二つあった空席に桜、結の順番で座るとホームルームが始まり今日予定を告げて担任の先生は一時的にいなくなり短い休み時間となった。


「なんか話しかけづらいねぇ」


「確かにそうですね」


 結と桜の二人は転校してきて早々孤立していた。正確に言うと注目は浴びているのだが他園の者だということがバレているため双花の予測道理完全に嫌な目で見られていた。


 結は結花というキャラのために言葉遣いが敬語ではないがとても丁寧なものになっていた。


「平民風情がなぜ選ばれた女性しか入ることの許されない崇高なるR•Gにいるのかしら?」


 早速結達に声を掛けたのは数人の取り巻きを従えた金髪碧眼の長い髪をした少女だった。


「あなたは?」


「やはり平民ね。わたくしのことも知らないなんて。無知な平民のために教えてあげますわ。私の名前はアリス、Sランクの幻操師ですわ」


 双花の言っていたこのクラスをまとめる他園を嫌うSランク、それがこのアリスという少女らしい。


 長い金髪縦巻ロールにした身長百五十程度の少女でドレスの似合うお嬢様学校とも言えるこのR•Gに似合う貴族のような美しい子だった。


「なるほど、あなたが……」


「あら、平民風情でも名前だけは聞いていらっしゃったようですわね」


 やけに平民という言葉を使うのは結に対しての挑発なのか素なのかはわからないがアリスの結に対する嫌な心が伝わってきてすでに帰りたい気持ちになっていた結だった。


「アリスさん、出会い頭から初対面の人間のことを平民、平民と罵るその姿はまるで……いえ、失言でしたね」


「まるでなんなのかしら?」


 結のあえて言わないという小さな嫌がらせに反応したアリスはその表情を少し歪ませながら聞いた。


(精神のほうはまだ子供か、素質だけでSランクになった天才か)


 幻操師にとって精神力はその者の実力に直結すると言ってもいい。本来ならば幻操術の鍛錬と精神的強化を目指し身と心の二つを鍛えて行くのが基本だ。

 しかしアリスの精神はまるで子供、小さな挑発に隠しきれないほどの怒りを覚えている。


 子供のような精神力でSランクということはその素質があまりにも高いということだ。素質のない結からしたらその姿は宝の持ち腐れとても歯痒い思いになっていた。


「いえいえ、ただそのお姿がとても滑稽に見えただけですよ」


「っ!?……そうですの、平民風情が生意気ですね。この仮は近いうちに返しますわ」


 アリスはそう言い残すと取り巻きの少女達と一緒に自分達の席へと戻っていった。


「ゆっち大丈夫?」


 途中会話に割り込もうとしていた桜を目で止めていた結は桜の心配そうな顔を見ると小さく微笑み優しく頭を撫でた。


「えぇ、大丈夫ですよ」


 結に頭を撫でられつつも大丈夫という言葉に安心した桜は「あたしが必要になったら言ってね」と心強い事を言ってくれていた。


 こうしてR•Gでの生活が始まった。


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