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6ー12 繋がる力


「さて、挨拶もしたし、あたしはこれで帰るか」


 楓は六花衆たちとの自己紹介を終えると、そう言って席を立った。


「あら。そう?それなら、一つだれ連絡よ。生十会メンバーは毎日放課後にこの生十会室に集合よ。わかったわね?」


「わかった。じゃ、また明日な」


 楓が帰った後、生十会には転校生だったという真実が判明した六花衆と、生十会のメンバーが残っていた。


「まさかとは思ったが、お前らここに入学したのか?」


「はい。十中八九、ご主人様は戻らないと言うと思いましたので、長期戦の準備ですね」


「……本気だったのか?」


 結は思わずため息をついてしまっていた。


 どうやら美雪は、本気で結を【A•G(エンジェル・ガーデン)】の新しい神として祭り立てるつもりだったらしく、結に断られることも予期して、予めF•G(ここ)への入学手続きをしていたらしい。


(楽しそうに笑う賢一さんの表情が目に浮かぶな)


 結はこれを仕組んだのが【F•G(ファースト・ガーデン)】のマスターである賢一だと思い、思わずため息をついていた。


「それにしても、美雪って凄いんだね」


「突然どうしたんですか?桜?」


「だって、終末(エンド)をあんな簡単に起動させるなんて、相当の実力なんだなーって」


「美雪たちって天使様の中でも幹部クラスなのだから、当然と思うのだけど?」


「会長。少し用事があるので先に帰ってもよろしくですか?」


 美雪たちの強さについて話していると、珍しく六花が会長に口を挟んでいた。


「用事?珍しいわね」


「はい。そろそろ法具の調整をしたいと思いまして」


 六花は腕につけている腕輪型の法具を皆に見せた。


「珍しいわね。六花って法具の調整は自分でしてなかったかしら?」


「そうなんですが。私はプロの幻工師ではありませんので、あくまで応急処置レベルでしか調整は出来ませんので、定期的にいつも贔屓にしている幻工師に調整して貰っています」


「そうだったの?法具の調子はあたしたち幻操師にとっては死活問題よ。いいわ。行って来なさい」


 会長が六花の早上がりを許可すると、六花は礼を一言言うと、軽く会釈をした後に退出した。


「そういえば、天使様はどこに法具着けてんの?」


「はい。私はーー」


「六花と同じで腕輪型だよ」


 桜の敬語なんだか敬語じゃないだかよくわからない話し方に、美雪が答えようとするのを結は遮って代わりに話していた。


「腕輪型?そんなの見当たらないけど?」


「あぁ。そうだな。美雪」


 結がそう声を掛けると、美雪ははいっと返事をしながら、指をパシンッと鳴らした。


 美雪の行動に桜と会長が疑問符を浮かべていると、美雪の右手首にダイヤモンドダストのような小さな氷が漂っていた。


 ダイヤモンドダストの反射によって美雪の右手首が光り輝いていた。


 輝きが消えると、そこには結がいつも着けている銀色に輝く腕輪型法具が現れていた。


「なるほどね。氷によって光を反射させて腕輪を見えないようにしていたのね」


「……流石は会長だな」


 結は即座に原理を見抜いた会長に、感心の言葉を漏らしていた。


 結に褒められて、会長はえっへんっと年齢に相応な、まだぺったんこの胸を張った。


 桜は「あたしだってわかったし」っと頬を膨らませていた。


 法具が見えやすいように、美雪が裾をまくると、桜が何かに気付いたらしく「あっ」と声を上げた。


「どうしたの?」


「へ?あっうん。美雪が着けてる法具ってゆっちとお揃いだなーって思ってね」


「……そういえばそうね」


 会長と桜が結に意味ありげな眼差しを送っていると、雪乃が態とらしく咳払いをしていた。


「あーお二人さん?二人が考えてるようなことはないよ?ほらほらこれ見て」


 雪乃に声を掛けられた二人が振り向くと、雪乃は自分の手首を二人に見せていた。


 そこには、美雪と同じように結とお揃いと思われる銀色に輝く腕輪が着けられていた。


「これは二人がペアルックしてるんじゃなくて、【A•G(エンジェル・ガーデン)】の支給装備だもん」


「し、支給装備?……【A•G(エンジェル・ガーデン)】っていろんな意味で凄いわね」


 法具は【物理世界】での価値で例えると、一つだけでも数十万円するような高価なものだ。


 それも、見る限り法具の性能は高いものだろう。


 これだけの性能を持っている法具であれば、一つ数百万はくだらないだろう。


 それを支給していると聞いて、会長は脱力していた。


「あれ?そういえば、結が着けている法具は、あのナイト&スカイの製品じゃなかったかしら?」


「そういえばそうだね。日向兄が騒いでたもんね」


 会長はふと前に春樹が騒いでいた頃のことを思い出していた。


「伝説の幻工師。ナイト&スカイ。もしかしてだけど、ナイト&スカイって【A•G(エンジェル・ガーデン)】のメンバーだったり?」


「そういえばそうね。活動を開始したのが同じ三年前だし、活動が薄くなったのも同じ一年前。……無関係じゃなさそうね」


 桜の言う意味がわかり、会長を目をギラリと光らせていた。


 その目には誤魔化しは通用しませんという意思がはっきりと見られた。


(嘘を付くわけにはいかないか。でも、本当も出来れば言いたくないな……よし)


 結は深いため息をつくと、渋々話し出した。


「確かに、A•G(エンジェル・ガーデン)とナイト&スカイはそれなりの関係があったぞ?」


「具体的には?」


「そうだな……」


 結が曖昧に誤魔化そうとすると、会長は鋭い目付きを持ってそれを阻止した。


 会長の強い眼差しに、結は口どもってしまっていた。


「主に法具の提供と資金の提供ですね」


 結のピンチを助けたのは、時々暴走して厄介なこともあるが、それでも五人(・・)の六花衆で最も頼りになる少女、美雪だった。


「細かく言えば、ナイト&スカイの製品のモニターをしていました。

それと同時にほぼ独占的にナイト&スカイの製品を買い取らせて頂いていました。

ナイト&スカイは私たちに法具を売り、私たちはまとめ買いサービスで少し安めに法具を入荷していました。

つまり、いい取引関係とでも言いましょうか」


「ほぼ独占的にってことは、もしかして六六六の未知(イクスモデル)も?」


 桜がそんなわけないよねっという思いを込めながら聞くと、美雪は笑顔で「はい」っとそれを肯定した。


「……もしかして、【A•G(エンジェル・ガーデン)】って噂よりも凄い?」


「……そうかもな。でも、今の【A•G(エンジェル・ガーデン)】のメンバーに前ほどの力はないぞ?」


「どういうこと?」


 結の言葉に桜は疑問符を浮かべていた。


 会長は静かに話を聞く姿勢でいるようだったため、結は話し出した。


「【A•G(エンジェル・ガーデン)】ってのは普通のガーデンとは根本的に違うんだ」


「確かに色々謎が多いけど……」


「通常のガーデンが個人個人で己の能力を伸ばし、それを活かそうとするスポーツでいう個人戦であれば、A•G(エンジェル・ガーデン)は全員の力を合わせて上げることを主にしている団体戦だ」


「……ふえ?」


 結の説明に桜は頭から蒸気のようなものを噴出し、頭をパンクさせているようだった。


「……ご主人様は相変わらず説明が苦手みたいですね」


 美雪は呆れる反面、クスクスと楽しそうにしていた。


「それでは、代わりまして、美雪が説明いたします」


 美雪は司会者のようにお辞儀をすると、【A•G(エンジェル・ガーデン)】についての説明をはじめた。


「いきなりで申し訳ありませんが、桜。あなたの実力が上がることによって会長の実力が上がることはあり得ますか?」


「え?なんであたしのレベルアップに会長のレベルアップが関係するの?」


「なぞなぞではありませんので、難しく考えようとせずに、思ったままをお答え下さい」


「じゃーしない?」


 桜が自信なさげに答えると、美雪は態とらしく両の手をパンッと叩いた。


「その通りです。ガーデンに所属する幻操師の実力は謂わば点。一つの点が大きくなることによって、他の点が大きくなることはありえません」


「そりゃ、そうだよね?」


 美雪の言いたいことがわからない桜は最初よりもたくさんの疑問符を浮かべ、首を傾げていた。


 美雪はチラリと結を尻目に見ると、結は何かに答えるかのように首を縦に振った。


 美雪はそれを見ると微笑み、口を動かすだけで、言葉にせずに「ありがとうございます」っと言った。


「意図のわからない質問をしてしまい申し訳ありませんでした。それではこれからが本題です。本来であれば先ほど桜が言ったように、一つの点が大きくなっても、他の点には影響がありません。

ですが、私たちは違います」


「それって、どういうこと?」


 さらにもう一つ疑問符を増やした桜に、美雪は優しく微笑み掛けると、子供に教える先生のような眼差しで説明を続けた。


「私たちの力は点ではなく、線として存在しているからです」


 美雪の言葉に桜はさらに三つ、疑問符を追加した。


 会長は何かに気付いたように、目を大きく見開き、ただ一点、結を見つめていた。


「とある人の力によって、私たちの力は接続され、一本の大きな線になっています。

そのため、一つが実力を上げると、それは個人の点が大きく、強くなるではなく、全員の力が接続されている一本の線がより太く、大きく、力強くなることになります」


「ちょ、ちょっと待って!それって実力を【A•G(エンジェル・ガーデン)】の全員でシェアしてるってこと?うんん、そもそもそんなことって出来るの!?」


「それはですね……」


 美雪は再び何かの許可を取るかのように結に視線を向けていた。


 結が小さく頷くことによって、美雪は再び話を再開した。


「シェアしているものを具体的に言うと、それは幻力です」


 幻力とは幻操師にとって力の源だ。


 確かに幻力を操る技術などによって能力は大きく変わるが、それでも力の源である幻力が増えれば、無意識下で行われる身体強化もより強く、強靭なものとなり、扱う術もより消費幻力が高く、強力なものを使うことが出来るだろう。


「げ、幻力のシェアって。そもそも、そのとある人って何者!?幻力をシェアしてるってつまり、個人の使用可能幻力量を繋げてるってことでしょ?それは無意識領域にあるスペースなんだよ?普通、そこにアクセスすることなんてできないでしょ!?」


 桜の混乱は最もだ。


 幻力をシェアするということは、体力を皆で共有しているようなものとあまり変わりがない。


 【物理世界】で体力を共有しているようなもの、そう思えばどれだけあり得ないことを言っているかわかっていただけるだろうか?


 幻力をシェアするということは、それぞれの幻操師が使用できる幻力が溜まっているプールである使用可能幻力量を繋げていることになる。


 それは無意識領域にあるものであり、人は、いや生き物は無意識領域にアクセスすることなんて出来ないのだ。


 無意識領域とはその生物が意識せずに行われる行動や、遺伝子情報なども含めて刻まれていると言われている架空の空間だ。


「確かに、無意識領域にアクセスすることは通常ならば不可能です。ですが、私たち幻操師は、それをほぼ日常的に行っていますよ?」


「え?」


「……法具のことね」


「会長。その通りです」


「……あっ、そっか」


 幻操法具の原理は、法具の核になっている、コアというパーツの力を使って、コア内部に幻操領域を映し出し、コアを通すことによって、幻操師の幻操領域に間接的に式を書き込んでいるのだ。


 そう、幻操師は法具というアイテムを使うことによって無意識領域の一つである幻操領域を自在に扱っているのだ。

こらからも応援のほどよろしくお願いします。

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